足並みが揃ってきたDSLRムービー対応機種/ビデオ市場との同化変革?

5月11日、ソニーはデジタル一眼レフカメラシリーズ”α(アルファ)”の新ラインナップ、「NEX-3」「NEX-5」を発表した。これで、キヤノン、パナソニック、ニコン、オリンパス、カシオ…etcと相次いでDSLR市場に動画撮影モードを搭載してきた各社メーカーの足並みが揃った感じだ。

pronews_columucho02_01.jpg NEX-3を持つ、イメージキャラクターの北川景子さん(右)と、ソニー(株)業務執行役員SVP パーソナルイメージング&サウンド事業本部 本部長 今村昌志氏(中央)、NEX-5イメージキャラクターの浅野忠信さん(左)

新ラインアップの「NEX」は、ソニーのDSLR機「α」シリーズと、コンパクトデジカメの「サイバーショット」の中間に位置する製品で、コンパクトデジカメサイズながら一眼レフと同等の機能を持ち、さらにフルHD動画撮影にも対応した新コンセプトのカメラだ。

他社の小型一眼カメラに採用されているマイクロフォーサーズ(m4/3)センサー(17mm×13mm)よりも、約1.6倍大きな撮像素子サイズを持つAPS-C(23.4mm×15.6mm)新型CMOSセンサーを搭載、また感度もm4/3の最大ISO 6400に比べて、最大ISO 12800なので暗いところにも強く、さらに画像処理エンジン「BIONZ(ビオンズ)」を搭載。新しいミラーレス構造によりフランジバック長を18mmまで短くし、最薄部24.2mm、本体質量(本体のみ約229g)と、現状のレンズ交換式カメラでは世界最小/最軽量を実現し、交換レンズも新たに開発したレンズマウント「Eマウント」に対応するなど、デジタル一眼レフの高機能、高画質とコンパクトデジタルカメラの簡便性、機能性を小型軽量に同化したものになっている。

フルHD:AVCHD/1920×1080/60i)の動画撮影は「NEX-5」しか対応していないが、「NEX-3」でもMP4のハイビジョンサイズ(1440×1080、640×480/30p)ならば撮影可能だ。

また注目すべき機能として、これまでサイバーショットシリーズに搭載されていた「スイングパノラマ」機能の技術を応用し、3D画像(静止画のみ)を撮影できる「3Dスイングパノラマ」機能を新たに開発したことだ。静止画のみだが、これで自宅の家庭用テレビでも3D画像のスライドショーが楽しめる。プレス発表会場では、実際のデモが行われたが、動画の3Dよりも身近に楽しめるコンテンツとしての面白みが感じられた。6月初旬の実機発売時期には実装しないが、7月中旬にリリースされる本体ソフトウェアのアップデートで対応を予定しているという。

pronews_columucho02_03.jpg ソニーが考える今後のデジタルイメージング機器のマトリックス

そもそもメーカー各社がこのジャンルのカメラ開発を進めている背景として、2007年以降のデジタルカメラ市場全体の売上減という現況がある。デジタルカメラがすでに一般家庭に普及し尽くし、買替え/買増し層が市場の約8割を占めている状況で、新たな活性化が求められる中、ここに来て動画撮影や3Dステレオスコピックなど、映像とデジタル一眼レフの新たな可能性とブレンドされた、新たな市場創造を目指しているものだ。

APS-HDという新ジャンルと、要求されるデザインに着目

pronews_columucho02_02.jpg 18-200mm F3.5-6.3 OSSのEマウントレンズを組み合わせた新開発中のAPS-HDビデオカメラ

こうした民生機の動きは、今の時代背景も含めて、少なからずプロ市場への影響も少なくないだろう。フルHD動画を収録できるDSLR機としては、すでにキヤノンのEOS 7Dが先駆的にイノベーションを起したが、実際の動画撮影スタイルには不向きな難点も多かった。こうしたユーザー不満に対し、パナソニックはNAB2010でAG-AF100を発表したが、今回ソニーの回答として新たに「NEX-5/3」で実装したAPS-Cサイズのセンサーを使った、レンズ交換式ビデオカメラを発表、正式には「α」シリーズのDSLRとハンディカムの中間に位置する、新ジャンルの”APS-HDビデオカメラ”とも言える新ジャンルカムコーダーを、今年秋の商品化に向けて開発していることも同時発表した。

モックアップのみがプレス発表会場に展示してあったが、4月のNAB2010の動向を見ても、今後このジャンルのカメラに対するプロユーザーの期待値は、益々重要なポストを占めてくると思われ、現場でもその需要はかなり増えるだろう。

その製品化にあたっての当面の問題はデザインだ。今回出てきたモックアップはこれまでのハンディカムに交換レンズが取り付けられるような仕様になっていたが、DSLRムービーが隆盛になっている市場が求めるものは、単にビデオスタイルにすればイイ、というだけでは物足りないだろう。

大きな撮像素子から得られる映像のルックの良さ、様々な撮影スタイルやデータ・トランス・フローに対応出来るフレキシビリティ。静止画でも動画でも対応出来る入出力環境などを考えると、現存するところではREDの製品群が一番理想型に近いのかもしれないが、日本メーカーには、さらに操作性や汎用性という意味で、ぜひイノベーションを起してもらいたい。

今まで全く異なる文化を一体化しなければならないので、そこはインダストリアルデザイナーの真価が問われるところだが、これから最も期待するべき市場が待っているとも言えるのだ。

NAB2003でパナソニック(当時の松下電器産業)が、昔の8mmカメラ(フジカシングル8など)のようなプロポーションを持ったデジタルビデオカメラを、モックアップのみで発表したことがあったが、まさしくあのスタイルはこのジャンルこそ理想型のデザインかもしれない。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。