6月下旬に開催されたケーブルテレビショー2010を取材した折に、気になる展示があった。パイオニア・ブース内に展示されていた2D-3D変換に関する技術展示だ。CATVに3Dステレオスコピック(3DS)?…と、その普及に疑問を持っていた筆者であったが、ここに展示された技術が少し他の3DS技術とは大きく視点が違っていたために、大変興味を持った。

展示されていた3DS技術とは、2D液晶テレビを3Dディスプレイに変換する「3D TVコンバーター・テクノロジー」と、2Dのゲームを3Dに進化させる「3Dゲーム・コンバーター・テクノロジー」だ。

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「3D TVコンバーター・テクノロジー」は、既存のテレビに専用STBやBlu-rayなどのプレーヤー機器に搭載した2D-3Dコンバーターを通じてリアルタイムにデータ変換。専用の3D対応テレビを購入しなくても、3Dコンテンツ映像を楽しむ事ができるものだ。さらに独自技術の視差バリア・フィルムをテレビの画面に直接貼り付けることで、わずらわしい3D専用グラスを装着しなくとも、裸眼で3D映像を楽しむ事ができる。

「3D ゲーム・コンバーター・テクノロジー」は、既存に市販されている普通(2D)のゲームソフトを専用コンバーターで3D変換、3D対応テレビで3D映像としてプレイを楽しめるものだ。こちらは既存のゲーム機やPCなどへの搭載を予定しているという。

これらは新たな3DSホームエンターテインメントを構築するものとしての参考展示だったが、この技術開発元の企業に大きく注目したい。これらは全てハリウッド映画にこれまで多くの3DSテクノロジーを提供している、あのILMで3D映像の研究開発を進めてきた技術者がスピンオフして設立された、パララックス(pllx3)社という企業の技術であり、まさに3D精鋭チームによる技術なのである。

「THIS IS IT」に採用予定だった最新の3DS技術

米カリフォルニアに本社を持つパララックス(pllx3)社は、3DS映像=3Dステレオスコピックのトータルソリューションプロバイダーとして2009年10月に設立された新しい会社だ。しかし、3Dに関する研究開発歴は過去25年間以上に渡る長いものだ。その沿革は、あのジョージ・ルーカス率いるILM(Industrial Light & Magic)のVFX部門の研究者たちが、それまでの成果を存続させるために2006年8月に「Kerner Optical(カーナー・オプチカル)」社として独立。同社はVFX界においても数々の成功を収めているが、さらに昨年9月、同社内の3Dテクノロジー開発とそのビジネスモデルをベースに3D映像ソリューション専門のサービスプロバイダーの会社組織としてパララックス社が設立された。

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その3DSに関するテクノロジーはこれまで常にハリウッドを牽引する3D業界のパイオニア的な技術として培われてきたもので、当然ながらカメラ機材や関連機器なども開発してきており、すでに3D映像テクノロジーに関する多くの特許を有している。その一つが3D撮影用のカメラリグだ。最先端のターンキー・デザインによる軽量コンパクトで既存のパナソニックやソニーのHDカメラに対応。また3D化への問題として重視されているポストプロダクション作業においても、撮影時点で修正補正することで軽減化でき、また既存の撮影機器、編集ソフトなどでの対応が可能なため、特別なシステムアップグレードなどは不必要だ。同機はすでにパナソニックがパートナーシップを締結しており、4月のNAB2010会場でも、パナソニックブースにおいて参考展示されていた。

また特筆すべきものとして注目なのは、このパララックス社が誇る3Dスクリーンパネルの技術。なんとあの、故マイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」コンサートのために専用に開発された、ステージ後方の縦10m×横30m(最大サイズ)の巨大な3D対応LEDディスプレイも、実はパララックス社の製品なのである。残念ながら本人の突然の不幸によりセンセーショナルな本製品デビューも幻となってしまったが、現在世界中の多くの大規模コンサートやイベントなどから引き合いが来ているという。本パネルはカスタマイズも容易で、既存の大型LED(2D)ディスプレイに、独自の3D技術によるトリートメント(3Dパネル処理)を行って、3D対応にすることも可能だ。また現行である他社の同タイプ製品と大きく異なる点として、屋内だけでなく日中屋外でも優れた視認性があり、140度の視野を持っている。

その他同社では多くの3DSテクノロジーを有しており、今後、国内では株式会社ブリッジ・ジャパンを通じて、各方面への展開を行っていく予定だ。今回、ケーブルテレビショーに展示されていた2つの技術もまだ参考展示であり、今後発売されるCATVのSTBをはじめ、Blu-reyプレーヤーやゲーム機などへ技術のみを供給していくという。これらは展示ブースのあったパイオニアを始めとして、日本の各メーカーなどと現在、協議を進めているという。

このように、各メーカーに対して3DSのノウハウを含めたコア技術を、各社製品にエンベデッド・テクノロジーとして供給、あるいはオプション製品としてトータルに提供してく、というビジネスモデルは、この業界においてはこれまでになく斬新であり、ある意味で今後の映像技術の試金石となるかもしれない。いずれにせよ、実用的な業務用3Dソリューション・プロバイダーとして、今後のパララックス社の動向から目が離せない。

株式会社 ブリッジ・ジャパン
http://pllx3.com
  • TEL:03-6447-0280
  • FAX:03-6447-0281
  • Eメール:pllx3@bridgejapan.com

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。