順調な3D映画の興行成績

8月中旬の日本映画製作者連盟の発表によれば、今年上半期の映画興行収入が昨年より39億円増の1,027億円だったという。しかしこのうちで邦画の興行収入は約464億円で、去年より98億円余り減っている。その反面、洋画の興行成績は、昨年より137億円増えて563億円となった。この要因としては「アバター」を始めとする3D大作映画の興行が好調だったということだ。

今後も3D3映像などのデジタルテクノロジーを駆使した映画コンテンツが、その一翼を担っていくであろう映画制作の世界で、今後の日本映画界は一体どんな作品を生み出せるのか?また、それを支え世界に通用するプロダクション施設はあるのか?

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東映東京撮影所の敷地の一角に、大きく居を構える東映デジタルセンター

そんな課題に応えた最新テクノロジーを配備したポストプロダクション施設がついに誕生した。練馬区大泉の東映東京撮影所内に新しく出来たデジタルコンテンツ制作用の最新ポストプロダクション施設『東映デジタルセンター』だ。その公開日に内部見学してきたので、その模様から今後の邦画の映像プロダクションを考えてみたい。

4Kシアターや3D/グレーディングルームを備えた最新設備

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デモには多くの来場者が訪れていた

東映デジタルセンターとは、今年6月に竣工した、東映株式会社と東映ラボ・テック株式会社が共同運営するポストプロダクションサービスの総称。東映東京撮影所と東映ラボ・テックのデジタルポストプロダクション機能が一体化した、まさに映画やTVのプロプロダクションからポストまでをここだけで一貫作業できる、これまでの日本の映画施設にはない拠点ができたことになる。

その施設内容は、最大135席(他車いす用2席)を配するフィルム&4Kシアターを配備する1階から、2K対応のスクリーニングルーム(最大33席)、編集室(18室)、3Dや最新のDIワークフローに対応するグレーディングルーム(2室)、ADR/FOLEY/MA/SOUND EDITまで完備したハイクオリティなサウンド編集環境(10室)、その他エンコード、オーサリング、エミュレーションなどの各種パッケージングに対応した施設など、4階まで総合的な映像制作体制を完備した、まさに新時代のポストプロダクション棟と言える内容だ。

さらに公開日には関連メーカーなどの機材展示が行われていたが、今回新たに導入されたモーションキャプチャーシステムとして、VICON社の「T-160」カメラ+Xsens社の慣性センサー式モーションキャプチャーシステム(MVNモーキャプスーツ)のデモが行われていた。また今後同所にも導入されるであろう、RED ROCKETとBlackMagicDesignのda Vinci Resolve for Macのコラボレートなども初公開されるなど、最新の機材設備も随所にあふれていた。

注目される3Dリメイク作品

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仮面ライダーダブルと3D撮影機材も展示公開された

ここで近年制作された映画は、現在公開中でテレビシリーズとしても常に不動のポジションを確立しているテレビ朝日系の「平成仮面ライダー」シリーズと「戦隊モノ」シリーズの劇場用最新作「仮面ライダーダブル FOREVER/AtoZ 運命のガイアメモリ」と「天装戦隊ゴセイジャー エピックON THE ムービー」。ともに3D映画として制作され、どちらも好調な観客動員数を示しているようで、RED ONEによる3Dリグを使った3D映像の撮影現場紹介は、PRONEWSでも先日取り上げた通りだ。

それとは別に今年公開の映画作品として、ここで制作中のいま最も注目されている作品が、11月20日に公開予定の「バトル・ロワイヤル 3D」だ。この作品は、2000年に公開された故深作欣二監督の遺作であり、過激な暴力シーンなどのバイオレンスアクションが海外でも話題となった、あの「バトル・ロワイヤル」の3Dリメイク版であり、10年の時を経て3D映画として復活する。

「東映デジタルセンター」では、日本ビクターの2D→3D変換プロセッサーIF-2D3DIも導入されていることから、これにより約2.500カットにおよぶ前作品から多くのシーンを2D→3D変換していると思われ、さらに3D空間として再構築するため、CGで付加された血しぶきや弾丸などの効果をアップ、さらにオーディオも最新設備のものに対応するようにリメイクされているという。

日本初の完全3Dリメイク映画として、この作品には大いに期待する部分がある。かつて2006年頃に米ロサンゼルスのRealD社を訪問したとき、その3Dテクノロジーの結実として一番驚かされたのが、ジーン・ケリー主演のあの名作「雨に唄えば」の3D化映像だった。まさにそれは「見た記憶はあるが、やはり初めて観る映像!」だったのである。それはまさしく新たな体験であった。

そもそも3D映像には、みな体感イベントに近い何かを期待していると思う。イベントとして成立できるコンテンツこそ、いまの3D映像に求められる素性なのではないだろうか?

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初のRED ROCKETとResolve for Macのコラボレーション展示も行われた

今後、東映デジタルセンターでは、”Zukun(ツークン)研究所”なる3D/VFX/CGI/モーションキャプチャーなどを駆使した新たな映像制作技術やワークフローを研究する共同研究/開発の部門も設置された。そこで、視聴者側のコンテンツへの期待と欲求に対して、最新の制作テクノロジーがスムーズに結実するような、凄い作品が次々と生まれるようなプロダクションとなることを大いに期待したい。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。