アナログ停波後のコンテンツ枯渇時代を救うIPTV/モバイルTV

いよいよ日本でもテレビが新時代を迎えるまで1年を切った。来年2011年7月のアナログ停波/地上デジタル放送への完全移行は、未だに『本当に全て停波するのか?』などの憶測も飛んでいるが、新たなテレビ時代が到来することは間違いなさそうだ。その中で地デジ時代のコンテンツ不足への懸念は、未だ明確な解決方法などがないことから、完全には払拭されていないのが現状だ。

結局地デジ化したところで、肝心のコンテンツが面白くなければ放送というビジネス自体に暗雲が立ちこめることは、関係者なら誰もが懸念しているところだろう。9月に開催されたIBC2010では、放送局の配信拡張のひとつの方策として、IPTVやモバイルTVといった新たな配信チャネルへ、その注目が大きく向けられていた。

実際にIBC2010のカンファレンス講演におけるテーマも、これらを取り上げた話題は多く、放送苦境に喘ぐ状況は先進各国とも同様、どこの国の放送局もIPベースの映像配信というキーワードに敏感になっているという印象が強い。そんなニーズに応えるべく、IBC2010のホール9はこれらの展示に特化した『Connected World』と名付けられた専門展示ホールとなっており、IPTV、モバイルTV、そしてデジタルサイネージなどの新興技術を模索するベンチャー企業と、インテル、日立、サムソンといったビッグメーカー内でもこのジャンルへの専門チームが集められ、およそ100社からなる専門展示が展開されていた。

小さなブースがひしめくこのホールは、まさに次世代テクノロジーの『屋台村』といった感じで、随所で熱心なビジネスブリーフィングが行われるなど、その関心の高さを物語っていた。欧州ではとくにIPTVやモバイルTVなどの通信ベースの映像制作者に対して、放送局側が新たなコンテンツリソースとして着目しているようだ。これら映像界の『第三の波』と言える、IPTVに端を発する『パーソナル・IP・ニュース・ギャザリング(=P.I.N.G.)』とも言える動きに着目したい。

変化する放送コンテンツのリソース

例えばお隣の国、韓国ではここ近年、これまで加入率85%以上と言われたCATVから、IPTVに乗り換える人が急増。2012年12月の地上波デジタル化に向けて様々な動きがあるなかで、2008年後半からKBSなどの地上波がIPTVオンデマンド放送開始を発端に、過激な通信業者のサービス攻勢により、CATVから続々と人が離れIPTVへの移行加入が増えているという。

日本でもアクトビラなどのIP映像サービスがあるが、今ひとつ発足当初の勢いが失速しているように窺える。しかしこれらも地デジ化完全移行後にどう動いてくるか興味のあるところだが、これからは同じ液晶ディスプレイで画質も同レベルということになれば、CATVだろうがIPTVだろうが、視聴の選択はその金額とコンテンツ勝負ということになってくるだろう。いま国内の放送局は視聴率低下の苦境の打開策として、インターネットとの連動等、配信サービスの見直し策を打ち出しているが、困窮する現況を考えるといまの放送局体制から新たなコンテンツ開発は、これ以上拡げられないのではないだろうか?

その一方でIPTVの世界では、技術的にはすでに個人レベルで公共放送と同等のクオリティで収録/放送できる仕組みが確立されてきている。日本でもUSTREAMで個人配信はすでにPCユーザーでは当たり前のことになってきているし、iPhoneやスマートフォンと連動したモバイルと動画文化の親和性は日に日に高まっている。

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IBC2010でもドイツのminiCASTER、イスラエルのLIVE U、アメリカのTVUPackなどの新しいIPTVツールの紹介ブースが目立っていた。これらは小型カメラとバックパックマシン一つでニュースを配信できる、いわゆる『個人放送局/中継局』セットだ。これらは現状ではIPTV用の映像配信機材だが、今後はメジャーな放送機材として機能してくるとも考えられる。

機材的にはすでに放送レベルをクリアするところまで来ているわけで、例えばMPEG 4:2:2 50Mbpsといった放送用素材としても充分なデータで収録/アーカイブしてあれば、彼らは立派な番組制作会社として機能できる。その後は個人の機動力と取材の着眼点、制作のアイディアがあれば、時としてそれは地上波を超える大きなコンテンツ力となる。

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諸外国ではすでにこうしたIPTVの中継者、報道者たちが、大手放送局を凌ぐコンテンツ/ニュースリソースとなるべく行動を起こしていて、これを目的にある分野に専門性を持って取材/映像アーカイブする会社など、ベンチャーとして起業する者も少なくないようだ。放送局側も彼らを新たなコンテンツリソーサーとして認知するところも出て来ており、IPTVを基軸においた『新時代のビデオジャーナリスト』たちに熱い視線が注がれている。

11月17日から開催されるInterBEE2010(幕張メッセ)でも、『IPTV・モバイルTVクロスメディアゾーン』という特別展示エリアが設けられるようだ。日本でどのような動きが出てくるのかも楽しみだが、すでに個人レベルでもハイクオリティな放送技術が持てるこの時代、この『第三の波』が今後の放送業界の辿る未来を握っているのかもしれない。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。