PRONEWS読者の皆様。明けましたので、おめでとうございました(過去完了形)。今年もどうかよろしくお願い致します。

ロサンゼルスでは、映像のメッカにふさわしく様々な映像イベントが開催されています。毎年2月から3月に掛けては『賞レース』のシーズンであり、我々VFX業界の人間にとって非常にエキサイティングな時期でもあります。皆さんは、毎年ハリウッドにて開催される『VESアワード受賞式』をご存じでしょうか?

VFXの未来に光を当てるVESアワードの季節始まる

VES(Visual Effects Society/米視覚効果協会)は米国映画芸術科学アカデミー、全米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの数ある映画ギルドの1つです。設立は97年で現在の会員数は2000人強という大規模な協会です。ハリウッドを中心に成長を遂げてきたVFX業界ですが、VESが設立された当時のVFXに関する権威ある賞と言えば、アカデミー賞やエミー賞ぐらいのもの。審査対象とされるカテゴリーも、ごくごく限られていました。そこで、より多くの優れた作品にチャンスを与える場を、業界全体で設けられないだろうか?そんな趣旨により、2003年よりVES主催によるVESアワード受賞式が毎年1回、開催されるようになったのです。

英語圏を中心とする世界中からVFX作品が応募され、その中からまず、受賞作品の候補として絞り込まれた”ノミネート作品”が選出されます。そして、このノミネート作品の中から、オンラインによる会員投票によって受賞作品が決定され、VESアワード受賞式の場でハデハデに表彰される訳であります。1月8日(土)、ロサンゼルスはバーバンクにある総合ポストプロダクションFOTOKEMにおいて、VESアワードの応募作品の中からノミネート作品を絞り込む選考会が開催されました。

今回は、その模様を特別に皆さんにご紹介する事にしましょう。VESアワードのノミネート選考会は、ロサンゼルス、サンフランシスコ、バンクーバー(カナダ)、ロンドン(イギリス)、シドニー(オーストラリア)の世界5箇所で開催され、その結果が集計され、ノミネート作品が決定されます。ロサンゼルスにおける選考会は、バーバンクにある総合ポストプロダクションFOTOKEMで開催されました。筆者は毎年、VESアワードのノミネート作品審査員を務めており、今年も審査に参加してきました。いつもの事ですが、ハリウッドの業界は朝型です。

集合時刻は朝8時

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FOTOKEMに到着すると、まずは受付で登録を済ませ、「自分がどのチームで審査を行うのか」が通知されます。FOTOKEMにはDIルーム2つ、試写室が4つあり、計6チームで各部屋10~15人程度に分かれて審査を行うのです。応募カテゴリーが24種類もあるので、各チームは3~4カテゴリを分担して審査します。審査には時間が掛かる為、午前と午後にそれぞれ2カテゴリづつを審査します。

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お昼にはランチ休憩があり、美味しいサンドイッチが食べ放題。同じテーブルに座った人と親睦を深めたり情報交換をしながら、楽しく頂く

各審査員は事前に履歴書による経歴審査があり。例えばコンポジターの人は、コンポジット部門の審査に加わるというように、自分の専門分野に近いジャンルを審査出来るように最大限の配慮が成されています。もちろん人数が多いので、全員が必ずしもそうなる訳ではありませんが、”多くの場合”自分の専門分野を審査出来るように配慮されています。

但し、「自分が関係した作品の審査には参加出来ない」という規定がある為、最近公開された話題映画を担当した人は、公平を期す為、テレビドラマのVFX作品の審査を行なうチームに配属されたりもします。

審査では、2~3分程度に編集された審査用のクリップと、BEFORE&AFTERをまとめた参考用のクリップを観た上で、手元に配られた投票用紙にノミネート作品にふさわしい作品を選定します。選定する数は、各カテゴリによって異なりますが、4or5作品をノミネート作品として記入します。投票用紙が回収されると、即座に集計が行われます。もしノミネート作品4本を選定する審査で、同点により6作品が残ってしまった場合は、この6作品の中から再投票を行って4作品に絞り込んでいきます。

VESアワード受賞式は、2月に開催

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審査では、日頃なかなか目にする機会がない作品や、有名な作品のメーキング映像等を観る事が出来て楽しい半面、アワードの審査員という大役を担っている責任と、一定時間内に自分の意見を決めなければならず、なかなか神経を使います。

例えば、あるカテゴリーで12本の応募作品の中から自分の選定した4作品を選ぶ場合、投票の際は12作品を見渡して、自分の中でひととおり消化した上で、4作品を選ばなければなりません。あまり迷っている時間も無いので、緊張しつつも慎重に冷静に投票用紙に選定結果を書き込こんでいきます。筆者はこの日4つのカテゴリーを担当しましたが、午後3時すぎに終わった時は、もうグッタリでした(笑)

こうして、同じようにロサンゼルス、サンフランシスコ、バンクーバー、ロンドン、シドニーでも審査が行われ、この全ての集計の結果、週明けにノミネート作品が発表されるのです。ノミネート作品は、アワード審査専用サイトにアップロードされ、世界中の全会員によるオンライン審査と投票が行われ、その受賞作品が2月1日(火)にビバリーヒルトン・ホテルにて華々しく開催されるVESアワード受賞式にて表彰されるのです。

この受賞式には、筆者もタキシードを着込んで参加する予定です。会場となるビバリーヒルトン・ホテルは、グラミー賞の会場にも使用される由緒あるホテルで、VESアワード史上この場所では初めての開催となります。今から授賞式がとっても楽しみですね。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。