2013年は何が動くのか?

年初に米ラスベガスで開催された International CESでは、いよいよ次のステージであるSHV(もしくはUHD)といったキーワードが並び、コンシューマの世界でも次の高解像度ステージへの最初の段階として、4Kテレビなどの製品が次々に登場、いわゆる”ポストHDへのスタート”が切られた2013年。

制作面においては高画質化に伴うデータ拡張と戦うという運命を背負わされたいま、これからフォーカスすべき技術ポイントは、まさに高画質でありながらデータを極力縮小でき、効率的かつ実用的な圧縮コーデックとそのフォーマットであろう。製品選択肢が多岐にわたり、低価格化も進み、デザインの自由度も高くなった制作ワークフローの中で、その”OS”とも言うべきキーテクノロジーである『効率的な実用フォーマット』の存在は最重要である。

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コンパクトで様々なシーンで使いやすいモジュールデザインが特徴のPMW-F55。XAVC/4Kまでを収録出来るPMW-F55/F5は、撮影からワークフローに至るまでをコンパクトに出来る次代のOVER HDソリューション・パッケージと言える

そこで年明け最初の話題は、ソニーの新しいシネマカメラ「PMW-F55/F5」に搭載された最新フォーマット、”XAVC”について触れてみたい。XAVCは周知の通り、昨年11月にソニーから発表されたシネマカメラ「PMW-F55/F5」に最初に搭載されるHD、そして4Kまで対応する新たなフォーマットだ。詳細なスペック等は下記にあるソニーCineAltaサイトやXAVCサイトを参照頂きたいが、XAVCは『H.264/MPEG-4 Part 10』の標準仕様に準拠した新フォーマットである。現在、HDフォーマットは標準化されているが、4KはPMW-F55/F5には発売当初から搭載されるものの、現在SMPTEでの標準化の策定を進めているという(2012年12月現在)。

XAVCが生まれるまで…

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ソニー株式会社 プロフェッショナル・ソリューション事業本部 コンテンツクリエーション・ソリューション事業部 (左)商品企画部アライアンス課統括課長 鎌田 創 氏、(右)商品企画部シニアプロダクトプランナー 山下 仁 氏

今回は、実際に開発を行ったソニー厚木テクノロジーセンターに赴き、PMW-F55/F5とXAVCの開発担当者に詳しい話を伺った。

―まずはXAVCの開発経緯について…

山下:XAVCの開発発想は、2年前にリリースしたPMW-F3の頃からすでにありました。次のカメラは4K仕様で、カメラ内でもビデオコーデックで記録ができるカメラ、という事を開発コンセプトに掲げていたのです。もちろんRAW記録も大事であることはわかっていたので、そこは外部記録で対応して、内部ではSxSメモリーカードで、MPEG2 HD 4:2:2、MPEG4 SStP、そしてこのXAVCという3つのコーデックでの記録が可能なものにしました。XAVCは4:2:2サンプリング、10bit諧調、イントラフレーム圧縮を採用しており、HDで約100Mbps、4Kで約300Mbps(ともに29.97p時)というビットレートで運用可能な新しいコーデックです。

鎌田:XAVCの”X”とは、いままでを超える、これまでに無かったモノという象徴として採用しており、意味的には『eXtra』『eXtended』というところから由来しています。ソニーの業務用で取り扱っているフォーマットとして、いわゆるハイエンドではHDCAM SRのコーデックであるMPEG4の『SStP(Simple Studio Profile)』があり、これまでハイエンドではこれで撮影からマスタリングまでをしてきました。また放送局のENGや制作ではMPEG2 LongGOPのフォーマットによりXDCAMシリーズで導入、4:2:2では50Mbps、4:2:0では35MbpsのXDCAM EXで対応してきました。

今回のXAVCは、ちょうどこの2つのコーデックの真ん中に位置するもので、さらにこれまでソニーとして足りていなかった部分を補うフォーマットとして開発されたものです。今後ソニーとしてはこのXAVCをメインとして推して行く考えで、ソニーの”Beyond HD”を実現するためのフォーマットがXAVCになります。

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撮影中のモニターには、4K(4096×2160)、23.98P、XAVC記録、S-log2記録の表示も明確に表示される

ところで、ソニーのこれまでのフォーマットでは何が足りていなかったのか?

それはハイフレームレート撮影とOVER HDへの対応である。XAVCではHDサイズでフレームレート180fps収録までをサポート(※)している。4K対応についてはSStPならば技術的に開発は可能なのだが、HDサイズでも440Mbpsのビットレートが必要なSStPの場合、4Kならば単純にその4倍=約1.8Gbps程度のビットレートが必要になり、またSR lite(220Mbps)でも880Mbpsとなってしまうため、実用にはかなり障壁があるのだ。またそもそもHDCAM SRのコーデック部分だけをテープから引き剥がして独立させたSStPは、ファイルベースとしての有用性は4:4:4という点の優位性があるが、運用面では現況の制作環境を考えたとき、様々な場面での運用性は低い。

(※)PMW-F55で2K/RAW記録の場合は、240fpsまで対応

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暗部に強いPMW-F5は、標準感度ISO2000を実現(PMW-F55は標準感度 ISO1250)。夜間撮影はもちろん、舞台やライブ会場などでの撮影にも威力を発揮

そこで、いまの技術=信号のプロセス、記録ビットレート、メディアのコスト等を考えたとき、このXAVCが実現する4K/30p/300Mbpsというのは、これからのファイルベースのワークフローにおける適正値として活きてくる良い塩梅のフォーマットと言えるだろう。

山下:ちなみにXAVCで4K収録される場合は、1フレームあたり10Mbpsという換算なので、例えば24pならば240Mbps、30pなら300Mbps、60pなら600Mbpsととても解りやすくなっています。

鎌田:さらに”Beyond HD”とは違った方向性として、これまで放送用に使われてきたMPEG2 LongGOPは8bitですが、これを10bitにしたいといったご要望も多数承っています。またそのほとんどがインターレースですが、これを1080/60pなどプログレッシブで運用したいという要望も多くなっています。XAVCはこうしたご要望を実現するためのフォーマットでもあります。

XAVCアライアンスと操作環境

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S-log2で収録したPMW-F55での撮影コンテンツ。暗部からハイキーまでの広いダイナミックレンジを実現。カラーグレーディング時に自在な色調整を実現する。XAVC収録であれば、さらにワークフロー作業効率も向上(画像提供:マリモレコーズ)

昨年のPMW-F55/F5の発表時、すでに16社がXAVCのアライアンスに参加表明している。

鎌田:今回のアライアンスに関しては、編集機を中心とした最初の段階=”フェーズ1″と位置づけています。詳細な方向性はまだ未確定ですが、今後はXAVCを撮影の部分でも垂直的に展開したいという意志もあるので、今後はレコーダー等のメーカーさんでの採用・参入にも期待してしています。こうした新しいフォーマットというのは、やはりユーザーから見たときに1メーカー独自のものになってしまうのでは?といった、リスクを考えます。

事実、HDCAMはテープテクノロジーの上で成立していた、ソニー独自の閉じたフォーマットでしたが、現在の映像制作における水平分業の世界では、もう1メーカーだけしか扱わない閉じたフォーマットというのは成立しませんし、ユーザーの方々にも選んで頂けません。

このXAVCのフォーマットオーナーはソニーですが、オープンなフォーマットですのでXAVC対応の機器を作りたいというベンダーには、どんなメーカーでもライセンス提供していく予定です。ソニーはこのXAVCで他社のカメラやレコーダーでも採用されるような、ユニバーサルな世界を創ろうと考えています。

アライアンスの部分でもXAVCは、非常に整理されたフォーマットであると言える。過去にファイルベースの黎明期であった2、3年前、例えばXDCAM EXとキヤノンのXFシリーズのファイルなど、メーカーが違うカメラ製品でも似たようなコーデックが現れ、実際に同形式でデータ処理が可能であっても、各メーカーからは正式に互換があるとも明言されず、ユーザー側が戸惑うという経緯もあった。その経験に学び、XAVCではオープンコーデックでありながら、アライアンスの定義、基準などの策定にもソニーは非常に決め細やかな整備を行っている。この部分はユーザーにとっても非常に有益に働く部分であり、多いに評価したいところだ。

さらに、ソニーの他のカメラ製品、またコンスーマ製品へのXAVC普及の展開も期待するところだ。そこにはまた新しいワークフローデザインのカタチが見えてくる。

山下:(XAVCの)他の機種への展開ですが、PMW-F55・F5が発売になっても、当面PMW-F3はこれまで通り販売を続けて行きます。特に中国や新興国等では人気も高く、まだまだ4:2:0、HDという需要がある地域は多いです。今後は他の業務用ショルダータイプカメラやハンディカメラにも、次第にXAVCフォーマットを搭載していくことになるでしょう。

鎌田:実はコンスーマ製品にもXAVCを展開する計画があります。これまでコンスーマカメラと業務用カメラでは、AVCHDとMPEG2といった具合に搭載されていたフォーマットが違うことでその後のワークフローも別なものになっていました。しかし今後はそこも同じフォーマットでワークフローも統合したいと考えています。機種のランク別に記録のビットレートは変えようと思っていますが、将来的にはNXCAMで撮ってもCineAltaで撮っても、収録後のワークフローは変わらないということになれば理想的だと考えています。

発売を2月に控えたPMW-F55/F5。新たなCineAltaカメラの登場という以上に、ソニーの進化した、次世代ファイルベースソリューションの新たな展開に大いに期待したい。

ソニーCineAlta
http://www.sony.jp/products/Professional/c_c/CineAlta_Camera/
XAVCのウェブサイト(英語版のみ)
http://www.xavc-info.org/

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。