写真:山下 奈津子 (写真はiPhone5で撮影)
取材協力:ウォルト・ディズニー・ジャパン
はじめに
「オズ はじまりの戦い(原題 Oz:the Great and Powerful)」©2013 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
ここ明るく楽しいロサンゼルス地方には、ACM SIGGRAPHの地方分科会である「LA SIGGRAPH」というものが存在する。日本にもお馴染み「シーグラフ東京」があるが、そのLA版と言えばご理解頂ける事と思う。LA SIGGRAPHでは毎月、月例会を開催している。内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。
この月例会には誰でも参加出来、会員になって年会費$40.00を納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。会員でなくても、会場入り口で参加費20ドルを支払えば入場する事が可能だ。さて、前置きが長くなったが、3月の月例会は、ディズニーの新作映画「オズ はじまりの戦い(原題 Oz:the Great and Powerful)」の特別試写会と、VFXスーパーバイザーによるQ&Aセッションが行われた。今回は、その模様をご紹介する事にしよう。
LA SIGGRAPH/Oz The Great and Powerful-Screening
シアターの外観 ©2013 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
3月の月例会は3月12日夜に開催された。会場はなんと!!LAはバーバンクに鎮座する、かの有名なウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの試写室だった。
車でハリウッド・サインの山を越え、バーバンクにあるディズニー・スタジオへ。この日の試写会は予約制で、ディズニー・スタジオのメイン・ゲートに乗り入れるとセキュリティー(警備員)から名前を訪ねられる。名前がリストに載っていれば、中に入る事が出来る訳だ。ディズニー・スタジオに車で乗り付け、しかも訪問者リストに自分の名前が入っているなんて、なんだかエラくなった気分である。そんな、つかの間の妄想に浸って半笑いになりながら、地下パーキングに車を停める。そして、エレベーターで上に上がれば、そこには7人の小人が屋根を支える巨大な建物がドド~~ンとそびえ、そして中庭にはウォルト・ディズニー氏の銅像が立っている。……生きててよかった(笑)
そして、ディズニー・スタジオ敷地内にある、由緒正しき試写室へ。
ロビーの壁には、「アニメ・セルのプロセスを発明した、偉大なるアール・ハード(EARL O. HURD)に捧ぐ/ディズニー・スタジオ従業員一同/1941年5月30日」という金属製のパネルが掲げられており、同スタジオの歴史が感じられた。
さて、7時半になると、いよいよ開演である。まずは映画本編の試写が行われ、その後にVFXスーパーバイザーの スコット・ストクダイク(Scott Stokdyk)氏によるQ&Aセッションが行われた。
ストクダイク氏は、メトロライト・スタジオやデジタル・ドメインを経て97年にソニー・ピクチャーズ・イメージワークス(以降、イメージワークスと表記)に移籍。現在はイメージワークスにてVFXスーパーバイザーを務めている。過去の参加作品には「Godzilla」(1998)「スチュアート・リトル」(1999)「スパイダーマン」シリーズ等がある。
では、この日のQ&Aセッションの模様をさっくりとご紹介する事にしよう。
Q:この作品には、どのような試みがありましたか。
2年半前、この作品のVFXのプロダクションがスタートする際、”3つの掟”を定めました。それは、
- すべてステージで撮影する。
- RED EPICを使用して、3Dで撮影する。
- すべてのデジタル・キャラクターは、モーション・キャプチャーではなく手付けでアニメーションをつける。
というものでした。作業は膨大となり、VFXは1,800ショット以上に及びました。
Q:ポスプロでの、立体視のアライメントは必要でしたか。
殆どすべてのショットで、アライメントが行われました。
Q:複雑なシーンが多いですが、撮影はどのように行ったのでしょう。
撮影はミシガン州のデトロイトで行われました。ステージでの撮影時、ジョー・ルイスのEncodaCamシステムを使用した、セット・ビジュアライゼーションが行われました。
▶Joe Lewis’s EncodaCam systemこれは古くは「アイロボット」(2004)で初めて使用されたシステムで、撮影現場でリアルタイムにデジタル背景を合成して、仕上がり具合をラフに確認出来るものです。
▶「アイロボット」での使用例また、RED EPICのカメラ・リグには、3D Element Technica Atomを使用しました。
▶3D Element Technica Atom
Q:チャイナ・ガール(陶器の少女)、モンキー(フィンリー)が印象に残りましたが、撮影やポスプロの舞台裏はどのような感じだったのでしょう。
チャイナ・ガールは、18インチの人形を撮影し、後でデジタルに差し替えました。撮影時の映像が、ライティング時の良いリファレンスになりました。モンキーは操作棒がついた3フィート長のパペットを操作し、撮影したものを後でデジタルに差し替えています。アニメーションでは顔面の表情を出す事に細心の注意を払いました。特に、今回はモーション・キャプチャーを使用していないので、全てアニメーターの技量に掛かってきます。
Q:作業量も膨大だったと思いますが、どのようにマネージメントしましたか。
VFXはイメージワークスが担当しました。イメージワークスには、これまでに沢山の作品を手掛けて来ましたので、長年の蓄積と経験があります。それがマネージメントや制作パイプラインにも生かされているのです。
Q:”蓄積”に関してお尋ねします。これまで、どのような流れがあったのでしょう。
例えば、「スチュアート・リトル」 (1999) ではリアルなデジタル・キャラクターを多くのショットで登場させる必要があり、非常に大きなチャレンジでしたが、この頃からイメージワークスのノウハウの蓄積が始まりました。
「スパイダーマン」のシリーズでは、リアリティが要求されるスーパーヒーロー作品でしたし、「モンスターハウス」(2006)はアーノルドが初めて採用された作品として記憶に新しいです。
また、ご存知のように社内ではライティングとレンダリングのパッケージ・ツール、Katanaも自社開発されました。このように、さまざまなチャレンジがあり、現在のイメージワークスへと繋がっているのです。
Q:今回の作品で、レンダリングが最もヘビーだったのは、どの部分でしたか。
“Magic Fog”と呼ばれるフォグのボリューム・レンダリングが、最も大変でした。レンダリング時間が膨大な上、RAMのマキシマムに余裕でヒットしてしまうので、データのマネージメントやオプティマイズが大変でした。
Q:テクノロジーの観点では、今後VFXのトレンドはどうなると思いますか?
多岐に渡るので一言では言い尽くませんが、すぐ念頭に浮かぶのはリアリティの向上、そして作業のインタラクティブ性の向上でしょう。今後はテクノロジーとデザインの隔たりが、より薄れていくのではないでしょうか。また、解像度も進化していくでしょう。
現在、劇場へのデジタル配給は2KのDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)リリースが主流です。しかし、アーカイブでは今後4Kが増えてくる事でしょう。個人的には、4Kでのポスプロが好きです。RED EPICは5Kで撮影出来ますしね。
Q:それではお時間になりましたので、さようなら。みなさん、お帰り運転、気をつけて。
質疑応答の様子 ©2013 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
…と、このような内容であった。
今月の月例会は、普段なかなか足を踏み入れる機会が無い、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオを訪問出来るという、極めて貴重な体験となった。今回に限らず、業界の中で情報をシェアし、共に学んで行こうという姿勢が、ハリウッドでは定着しており、いつも関心させられる。
また、このような企画を、LA SIGGRAPHの月例会が採り上げてくれるところに、「エンターテインメントのメッカならでは」の勉強会的な面白さがある。今後も興味深いトピックスがあれば、本欄で積極的にご紹介していきたいと思う今日この頃である。さて、「オズ はじまりの戦い」であるが、お、おおおおおおおお面白い! 筆者自身、取材である事を忘れて、画面に引き込まれてしまった。VFXの見所も多く、超おススメの1本である。
さぁみんな!映画館へGO!!!
「オズ はじまりの戦い」3D・2D絶賛上映中