取材・撮影:鍋 潤太郎、取材協力:Visual Effects Society

ハリウッドに拠点を置くVES(ビジュアルエフェクト・ソサエティ/米視覚効果協会)は、会員や関連映画ギルドのメンバーを対象に、さまざまなイベントやセミナーを開催している。これらのイベントは新作映画の試写会であったり、著名人を招いての講演会であったり、会員のスキルUPの勉強会的なレクチャーだったり、その守備範囲の広さは「映画の本場ならでは」かもしれない。7月20日(土)、カルバーシティのSony Pictures Imageworksにおいて、VES主催による「就活対策セミナー」が開催された。

現在、アメリカ西海岸のVFX業界は、カナダが実施しているTAXクレジットの影響により受注が激減しており、仕事を失った人々で溢れている。中には、長い間安定したポジションで仕事をしてきて失職した人も少なくなく、そう言ったベテランの方々はどうしても最新の就活戦線動向に疎くなりがちだ。そこで、VESのエデュケーション・コミッティーは、すぐに役立つ就活準備のTIPS、レゾメやデモリール等の「マーケティング・パッケージ」の効果的な準備方法、そしてデモリールのアドバイス等を総合的に含めたセミナーを企画、それがこの程実施された形だ。

この日のセミナーは「業界で3年以上の経験を持つ」会員が対象とされ、ある程度の現場経験を持っている人が、どのように就活を進めるべきかを指南する内容となった。また終演後には、希望者を対象に、採用の第一線で活躍するリクルーター達によるレゾメ&デモリールのアドバイス・セッションも行われた。今回は、この模様をさっくりと要約してご紹介する事にしよう。

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会場のハリー・ハウゼン・シアター

「Job Search Prep&Demo Reel/Resume Review」
日時:7月20日(土)朝10時より
場所:Sony Pictures Imageworks-Ray Harryhausen Theater
講師:スコット・ウィラー氏/リーダーシップ・トレーニング、社員研修トレーナー
    パム・ホガース女史/VFXマーケティング・コンサルタント

基調講演 スコット・ウィラー氏

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身振り手振りを踏まえ面接の心得を説明

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スコット・ウィラー氏

私は長年、リーダーシップ・トレーニング、社員研修等の人材育成教育に携わってきました。顧客にはドリームワークス、FOXエンターテインメント、NBCユニバーサルやマイクロソフト等が含まれています。俳優の経歴がありますので、今回のように広い場所で声を張り上げるような講演は得意分野だと思っています。さて、新しいポジションを目指すにあたり重要な事は、「計画的に行動する」というのが挙げられます。その中で、まずは3つの要素にフォーカスして、考えてみましょう。

思考→影響→コントロール

これを就職戦線に置き換えてみると、下記のようになります。

■自分自身について、一歩引いて客観的に考えてみる。[思考]

自分が今、何処に立っているのか、現在の立ち位置を把握し、自分が持つスキルやリソースを如何に活かしていくかを考えましょう。また、自分が「どうありたいか」を明確にします。

■ネットワーキングを開拓しておく[影響]

ネットワーキングは、「水面に広がる波紋」に似ています。水面に石を投じると、波が広がり、回りにあるものが影響を受けます。ネットワーキングは、会話から始まる事が多いです。会話が会話を呼び、ネットワークへと繋がっていくのです。ここで必要な情報を得たり、相手に情報を提供したり、お互いに良い影響を与え合う環境が構築されていきます。

■インタビュー(面接)でのプレゼン[コントロール]
インタビューで面接官が第一に考えるのは「この人が、果たして正しい人材かどうか。このポジションの適任者かどうか」という事です。ここで大切な事は、「自分に何が出来るのか、何をしたいのか」を面接官に対して明確にプレゼンテーション出来る必要があります。この点にフォーカスし、準備をしておくと面接では効果的です。

これら3つの要素を着実にこなす事で、成功の鍵が見えてくる事でしょう。

レゾメとデモリールのTIPS パム・ホガース女史

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パム・ホガース女史

私はVFX業界のキャリアの中で、特にマーケティング、教育、キャリア・ガイダンスの分野において25年間の経験を持っています。現在はVFXマーケティング会社を経営しています。以前はLOOK Effectsのマーケティング・ディレクターを担当し、更にその前はGnomon School of Visual Effectsで12年間、学校の運営にも携わってきました。現在LAの状況は大きく変わりつつあります。会場の皆さんは3年以上の経験をお持ちだと思いますが、みなさんが以前就活をされていた時期は、LAにVFXの会社が沢山ありましたし、かつて仕事を探すのにLAは最適の場所でした。しかし、業界の状況は変わってしまいました。そんな中で、効率良く仕事を見つけていく為のTIPについて、今日はお話したいと思います。

■デモリール
デモリールには、すべてを入れるのではなく、短く編集する事が大切です。担当作品が沢山あっても、自分のベストワークだけを入れるようにします。また、自分の専門分野に絞った内容にするなど、何を見せたいのかを明確にします。

■レゾメ
まず、レゾメは「あなた自身」を代弁するという事をお忘れなく。文面が整理されていれば好印象を受けますし、ダラダラと長く羅列したレゾメはマイナス印象となります。レゾメは最大2ページまで。読み易くまとめる事がポイントです。

■ショット・ブレイクダウン
ショット・ブレイクダウンは、画像を入れておくと、読む人が理解し易く、レビューの際の助けになります。自分が何を担当したのか、わかり易くしておきます。また、どんなツールを使ったのかも忘れずに明記しておきましょう。

■カバー・レター
カバー・レターは、長くなり過ぎないように注意します。1ページにまとめると良いでしょう。複数社に応募する場合は、全ての会社に同じ内容を送るのは避け、応募する会社についてリサーチをして、それを少し盛り込む事が大切です。

■WEB
オンライン応募が主流になった昨今、WEBはマーケティング・パッケージの1つとして欠かせません。ポイントは、シンプルに、見易くする事。そしてデモリール、レゾメ、ブレイクダウンをUPしておきます。連絡先はわかり易く明記しておきます。

■その他
その他、必要であろう事項をリストにしてみました。

  • 名刺を作っておく
  • 有効なパスポートを用意しておく(重要)
  • フレキシブルな姿勢
  • VFX業界で標準とされるツールを習得しておく
  • シーグラフへ行き、なるべく多くの事を学ぶ
  • ネットワークを増やす

これらのガイドラインは基本ですが、意外と多くの人がきちんと網羅出来ていないのが現実です。この点を抑えておけば、マーケティング・パッケージとしての準備は出来ていると言えるでしょう。

リクルーターによる、レゾメ&デモリール アドバイス・セッション

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パラソルの下で、デモリールレビュー

終演後は、受付にて事前登録した希望者に対して、レゾメ&デモリールのアドバイス・セッションが実施された。このセッションはSony Pictures Imageworksの中庭にあるパラソル・テーブルの下で行われた。日頃VFXスタジオで人材採用に関わっているリクルーターや識者6名が、各2人ずつの3テーブルに分かれて、レゾメ&デモリールのレビューとアドバイスをするという試みであった。

アドバイザーの顔ぶれは、エリック・プレス、ブラッド・ラインケ、カミール・エデン、アート・デュリンスキー、スーザン・オニール、パム・ホガースという、そうそうたるメンバー。デモリールのレビュー方法については、事前に「当日は、無線LANが使用出来ません」という通達が行われていた為、レビュー希望者はムービーを入れたUSBかタブレットを持参。人数が多い為、持ち時間は1人10分という枠の中でアドバイスを受けた。参加者の中には、「レゾメやデモリールの準備から、しばらく遠ざかっていた」というベテランも。リクルーターから、長い経歴の人が簡潔に履歴書をまとめる方法や、デモリールに入れる作品のバランスや見せ方などについて的確なアドバイスを受け、一言一言に大きくうなずく姿も見られた。

以上、駆け足でご紹介したVES主催の「就活対策セミナー」だが、その概要はご理解頂けた事と思う。今後も、VES主催のイベントで興味深いものがあれば、本欄では積極的にレポートしていく予定である。手前味噌な話題で恐縮だが、筆者は将来海外のVFX業界を目指す方の為に、書籍「ハリウッドVFX業界就職の手引き」という教育書を発行している。この書籍では、レゾメ、デモリール、ブレイクダウンのガイドラインを詳しくご紹介しているので、もしご興味をお持ちの方は、是非ともご一読頂ければと思う。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。