取材:鍋 潤太郎
ハロウィンに合わせて「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス3D」の特別上映が行われた、ハリウッドのエル・キャピタン・シアター

はじめに

エンターテインメントの中心地であるハリウッドでは、年間を通じてさまざまなイベントが開催されているが、季節にちなんだ企画も多い。10月はハロウィン・シーズン到来という事もあり、映画館ではホラー映画がこぞって公開されたり、カボチャが飛ぶように売れたり、アメリカの街はハロウィン・カラー一色に染まっていた。

そこで今月のコラムでは、ハリウッドの秋の風物詩とも言える、毎年恒例の「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス3D」特別上映の話題をお届けしよう。

エル・キャピタン・シアターとは

ハリウッド・ブルーバードのアカデミー賞授賞式でもお馴染みドルビー・シアターのほぼ正面に、ディズニー直営の映画館エル・キャピタン・シアター(El Capitan Theater)という劇場がある。ここは、ディズニー作品だけを上映するというアメリカでも珍しい映画館&劇場である。ディズニーが制作した新作映画がリリースされると、ここでプレミアが行われる事も多く、その後に一般公開が行われる。

ディズニーの新作映画が公開されていない時期は、過去の名作の特別上映などが行われ、これまでにも「白雪姫」(1937)のデジタル・リマスター版、「眠れる森の美女」(1959)、そして「トロン」(1982)等がリバイバル上映されている。ごく最近では「塔の上のラプンツェル」「アナと雪の女王」等が期間限定で再公開されていた。

日本のスタジオジブリ作品がディズニーの配給によってロサンゼルスで公開される際にも、このエル・キャピタン・シアターで上映される事が多く、筆者も「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」等をここで鑑賞した事がある。

このエル・キャピタン・シアターは、単なる映画館ではなく、まるでミュージカル・シアターのように、その演出にもさまざまな趣向を凝らしてあるのが特徴だ。例えば、映画の上映前にはオルガンの生演奏によって、ディズニーの名曲が披露される。

また、公開される映画によっては、上映が始まる前のステージ上で、ディズニー・キャラクターや映画に登場するキャラクター達によるミュージカルが上演される事もある。このショーの上演がある時期にエル・キャピタン・シアターで映画を鑑賞すると、ハリウッドに居ながらにして、ディズニーランドを訪れているかのような楽しい気分に浸る事が出来るのも魅力の1つだろう。

さて、そんなエル・キャピタン・シアターにおいて、今回はどんな特別上映が行われたのか?を現地からのレポートとしてお届けしよう。

「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス3D」特別上映

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さっそく、現地へ向かってみると、シアターの入り口では長蛇の列が

皆さんもよくご存知の「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」。オリジナル作品は1993年制作で、ハロウィンに合わせた10月29日に全米公開されている。監督はヘンリー・セリック、ストーリー&キャラクターはティム・バートンが手掛けた。当時のハリウッドはデジタル革命前。職人的な、丹念な手作業によって1コマ1コマ、人形を撮影していく「パペット・アニメーション」によって制作された作品だが、その完成度は今見ても全く遜色なく、我々の目にはとても新鮮に映る。

この、ハロウィン・シーズンに合わせての「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス3D」特別上映は、今年でなんと21回目を迎え、今回は10月24日から11月2日という10日間の期間限定で開催された。ハリウッドでは、もはやハロウィンの恒例行事として定着しているこのイベントだが、毎年、さまざまな趣向を凝らしての開催なので、この特別上映を楽しみにしている人も多い。

これだけ大勢の人が毎年、「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス3D」を観る事を楽しみに、エル・キャピタン・シアターに怒涛の如く押し寄せたのである。チケットを買い求めて中に入ったら、まずは大きなプラスティックのバケツに入ったポップコーンを手に入れたい。このバケツには、現在公開中の映画のキャラクターが印刷されている事が多く、鑑賞の記念や、お土産としても便利である。今回も映画のロゴとジャックが印刷されていた。

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売店に並ぶ、大きなバケツ入りポップコーン。直径は16センチもある

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ポップコーンと、RealDの3Dグラス

中に入ると、場内では既にオルガン演奏が始まっており、会場は軽快なムードで包まれていた。ちなみに、このオルガンは電子オルガンではなく、1920年にサンフランシスコのミュージカル・シアターで使用する為に制作された本物のパイプ・オルガンで、その音色も格別だ。4段鍵盤と、シアター両脇に設置された2,500本以上のパイプから成るパイプ・オルガンを、専属オルガン奏者のロブ・リチャーズ氏が奏で上げる。この日は、日本でもお馴染み「レット・イット・ゴー~ありのままで~」の演奏も披露され、観客を喜ばせていた。

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パイプ・オルガン生演奏の様子。演奏は専属奏者のロブ・リチャーズ氏

また、劇場内部は今回の特別上映に合わせてハロウィンのデコレーションが施され、その徹底された演出ぶりには思わず目を奪われずにはいられない。

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この「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス3D」自体はご覧になられた方も多いと思うが、ちなみにこの3D版は2006年に日本でも公開されたデジタル・リマスター&3Dコンバージョン版で、全編で770ショットに及ぶ2D→3DコンバージョンはILMが手掛けた事でも知られている。

映画が始まると、スクリーンに映し出される映画のストーリー展開に合わせて、劇場の中では様々な“4D演出”が展開された。劇場に設置されたデコレーションの色が映画のシーンによって変化し、電飾は光り輝き、壁や天井をゴーストが飛び回り、スモークが焚かれ、あげくの果てには観客席に雪が降り、豪華絢爛な演出である。

これらが映画自体の雰囲気を壊す事なく、3Dメガネを通して見える立体映像と、見事にマッチしているのである。演出が変わる毎に、客席からは歓声が上がっていた。また、映画が終わると、場内は拍手で埋め尽くされていた。これが、毎年同じ映画が繰り返し上映されながらも、リピーターが押し寄せる秘密なのである。

今回の特別上映では、地下の展示ホールで制作当時の設定資料やデザイン、撮影で実際に使用されたミニチュア・セット等も展示されており、正にマニアにとっては「垂涎もの」のイベントだったかもしれない。

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地下展示ホールでは、制作当時の設定資料やデザインの展示も

「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」ファンの諸兄は、ぜひ来年のハロウィン・シーズンは、このエル・キャピタン・シアターを訪れてみては如何だろうか?このシアターで上映されている作品群は、下記オフィシャルサイトからチェックする事が可能だ。ロサンゼルスを訪問される際は、ぜひチェックしてみると楽しいかもしれない。

■エル・キャピタン・シアター オフィシャル・サイト
http://elcapitantheatre.disney.com/

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。