ダウンタウンLAにあるアート系シアターDowntown Independent
取材:鍋 潤太郎

はじめに

日本でもスマッシュヒットを放っているアニメーション映画「楽園追放 -Expelled from Paradise-」が、2014年12月に全米15箇所のアート系シアターで限定公開された。ここロサンゼルスでは、ダウンタウンLAにあるアート系シアター「Downtown Independent」での単館上映が行われたが、チケットがSOLD OUTになる程の盛況ぶりだった。この上映で舞台挨拶をされる為にロサンゼルスを訪問された、東映アニメーションの野口光一プロデューサーにお話を伺ってみた。

アメリカにおける日本のアニメーション作品の公開に関する話題は、興味を持つ読者の方も多いのではないだろうか。「楽園追放 -Expelled from Paradise-」は日本でもまだ公開されており、タイムリーな話題でもあるので、VFXネタも織り交ぜながら、現地からのロサンゼルス上映レポートをお届けしよう。

チケットはSOLD OUT

アート系シアターDowntown Independentは、リトルトーキョーからほど近い、ダウンタウンLAにある。ここは過去にJapan Film Festivalの会場として使用された事もあり、筆者もここで「ALWAYS 続・三丁目の夕日」等の邦画を何度か鑑賞した事がある。

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シアター前で入場を待つ人々

上映当日、筆者は取材もあるので早目にシアターに到着したが、チケットが完売しているだけあって、場内はすでに多くの観客で埋め尽くされていた。客層を見ると、日本人の観客は少なく、その殆どがアメリカ人である。

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上映前に舞台挨拶を行う、プロデューサーの野口光一氏

上映前には、司会者がプロデューサーの野口光一氏を紹介し、舞台挨拶が行われた。野口氏は「アメリカ人のアニメ・オタクの皆さんに、日本のオタク同様、この映画を楽しんで頂ければと思います」と挨拶、場内を盛り上げていた。

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満席の会場で、観客と一緒に記念写真に納まる、野口光一氏(野口氏提供)

さて、映画が始まった。いつもの事ではあるが、アメリカ人観客のリアクションは大袈裟である(笑)。上映中は笑い声、歓声、悲鳴、そして叫び声が場内に響き渡り、観客がこの映画を心から楽しんでいる事が伝わってきた。敵キャラがやっつけられた瞬間、大きくガッツポーズを取っている観客さえ見受けられた。映画が終わると、場内は拍手で埋め尽くされ、ものすごい盛り上がりであった。

そして上映後、筆者は野口光一プロデューサーにお時間を頂き、単独インタビューを敢行した。以下は、その要約である。

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単独インタビューに応じて頂いた、野口光一氏

――今回はチケットがSOLD OUTだそうで、おめでとうございます。

野口氏:ありがとうございます。アメリカ人の観客にどの位受け入れられるか興味を持っていましたが、今日は予想以上のお客さんに来て頂き、驚くと同時に大変嬉しく思っています。

――制作中から、海外マーケットは意識して作られていたのでしょうか?

野口氏:水島精二監督、そして脚本の虚淵玄さんの作品はアジアでも人気があり、月刊ニュータイプの韓国版で「楽園追放」を取り上げて頂いた事があるので、アジア・マーケットでの展開については元々考えていました。

アメリカでの公開については、「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」をアメリカで配給した実績を持つAniplex USAから、制作中の段階で先方から打診を頂きました。当初は日米同時公開をしたいというお話も頂いたのですが、アメリカ向けの字幕や宣伝準備が必要な事などから、この時期の公開に落ち着きました。現在、欧州での公開も決まりつつあります。

――英語字幕で苦労をされた部分はありますか?

野口氏:英語字幕に関しては、東映アニメーションが監修する形で、Aniplex USAが全てを担当してくれましたが、お客さんの反応を見ると、大変うまくいったと思いますね。特に、この作品は長いセリフが多く、それが虚淵玄さんが持つ「味」だったりもするのですが、そのテイストをうまく英語字幕にするのは、大変だった事と思います。

――今日の上映では、随所で観客から笑い声が上がっていました。

野口氏:今日は、意外なシーンで笑いが起こっていましたよね。例えば野球帽を被るシーン、「仁義」のポーズ、サンドワームの肉を食べるシーン等など…。海外のお客さんは、日本のお客さんとウケるポイントが全然異なるのです。そういう意味では、今日アメリカのお客さんのリアクションを肌で感じて、なんだか「違う映画」を観ているような、不思議な錯覚に陥る程でした(笑)。後半の戦闘シーンでも、拍手や歓声が沢山起こっていましたし、海外のお客さんはリアクションが大きいですよね。

――“セルルック”の3DCGが売りという事ですが。

野口氏:セルルック3DCGを得意とするグラフィニカにお願いしました。制作期間は1年半程で、総勢100人位のチームで制作しました。映像のクオリティが非常に高く、素晴らしい完成度になりました。絵づくりの部分では、撮影さんが最後の仕上げ部分を担当しているのですが、髪の毛にグラデーションを入れたり、光のフレアを入れたり、VFXで言うコンポジットのパートですよね、この工程で絵のクオリティを高めているのです。この作業をAEで行っているのも、日本ならではですね。

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会場前にて。左から、野口光一氏、東映アニメーションの白崎啓介氏(海外ライセンス)、田代成美氏(アシスタント・プロデューサー)

――後半のバトルシーンは圧巻でした。

野口氏:やはり、アクションに定評があるグラフィニカのアニメーターの貢献が大きいと思います。「ブラスレイター」(板野一郎監督)にも参加していたメンバーは非常に優秀です。彼らはジェネラリストで、ほぼ1人で最初から最後まで仕上げてしまいます。バトルシーンの仕上がりは期待以上で、とても良くやってくれたと思っています。

――これまで一貫してVFXスーパーバイザーとして数々の作品に携わってこられた野口さんが、今回プロデューサーとしてこの作品を手掛ける事になられたキッカケは?

野口氏:2009年に映画を企画・製作していくことを目的とした映像企画部という部署が出来ました。そこでCGアニメの企画があり(「アシュラ」「キャプテンハーロック」「聖闘士星矢」など)、私は企画側で参加しました。最初は担当プロデューサーにCG的なサポートをしていたのですが、「楽園追放」は私にとって初めて企画し、プロデュースした作品になります。本作品はCG/VFXの魅力を伝えるために企画したものでした。もっとCG/VFXを使った作品が増えればと願い、SFのオリジナル作品に取り組みました。

――最後に、これから映画をご覧になる読者の方にコメントをどうぞ。

野口氏:水島精二監督、虚淵玄さんのコラボレーションとして興味を持って頂いてもいいですし、セルルックのCGアニメーションとして現時点での最高の表現力になっていると思いますので、そこから興味を持ってもらってもいいですし、アンジェラというキャラクターの可愛らしさを楽しんでもらってもいいと思います。また日本のSFアニメ、ロボットアニメとして観てもらっても十分に楽しめます。入り口はいろいろ用意出来たと思いますので、(この記事が掲載される1月には)上映館数は少なくなっていますが、是非映画館で楽しんで頂ければと思います。

おわりに

今回、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」のロサンゼルス上映を、アメリカの一般観客と一緒に鑑賞してみて、感じた事がある。それは、良いエンターテインメント作品には、国境は無いという事だ。

今回の上映は日本語音声+英語字幕の上映で行われたが、このスタイルは「通」のアメリカ人アニメ・オタクに好まれる方法である。彼らは、「通」であればある程、英語吹き替え版を嫌い、オリジナル作品のテイストをそのまま楽しみたいと考えるのだそう。中には、それが高じて、本格的に日本語を勉強し始めるアニメ・ファンも少なくない。

言葉と文化の壁を越え、英語字幕を介して意味を理解しながら、アメリカ人観客が「楽園追放」を楽しんでいるのを目の当たりにして、日本の映像作品やアニメーション作品が今後も海外で評価されていく可能性を見たような気がした。

今後も、このようなイベントがあれば、鋭意取材し、皆さんにご紹介していきたいと思う今日この頃である。

■楽園追放公式サイト
http://rakuen-tsuiho.com/
http://www.aniplexusa.com/expelledfromparadise/(英語サイト)

■劇場情報
http://rakuen-tsuiho.com/#THEATER

■BD/DVD情報
http://www.aniplex.co.jp/efp/

■アート系シアターDowntown Independent公式サイト
http://www.downtownindependent.com/

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。