取材・撮影:鍋 潤太郎

はじめに

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ホテルのエントランスに続々と到着するリムジン

2月4日(水)夜、今年も第13回VESアワード授賞式が華々しく開催された。会場となったビバリー・ヒルトン・ホテルは、かの有名なゴールデングローブ賞授賞式の会場としてもお馴染みの場所でもあり、ビバリーヒルズの中心に鎮座している。筆者がホテルに到着すると、エントランスにはレッドカーペットが敷かれ、報道陣がフラッシュをたき、タキシードやドレスに身を包んだVFX業界関係者がリムジンで乗り付け、ハリウッドの受賞式らしい華やかな雰囲気に包まれていた。今回はそのスペシャル・レポートを現地からの速報でお届けしよう。

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これだけ大勢の人材がハリウッドのVFX業界を支えている

当夜集まったゲストの数は1,000人以上。これだけ大勢の人材が、共にハリウッドのVFX業界を支えているのだという事を実感した瞬間であった。

VESとは何か

まずVESについてお馴染みでない諸兄の為に、VESとは何ぞや?を簡単にご説明させて頂こう。VESは「Visual Effects Society(米視覚効果協会)」の略で、米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの数ある映画ギルドの1つだ。ハリウッドを中心とする映画&テレビ等の映像業界におけるVFX業界に従事するプロフェッショナル達で構成される、「VFXのプロの、プロによる、プロの為の協会」である。

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授賞式の前にはディナーが提供される

VESの設立は97年で、米国および33ケ国に約3,000人という会員数を誇る。会員は年々増え続けており、文字通り世界最大規模のエフェクト業界のギルドである。会員になるには、最低5年間の現場経験を有する事が条件とされている。現役会員2名の推薦が必要とされ、最終的には年2回だけ行われる理事会の承認が必要となる。ちなみに、このVESは、日本では稀に「ベス」と誤読される事があるようだが、アルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。

VESアワードとは

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VESアワード受賞式の模様

VESアワードは「VFX界のアカデミー賞」とも呼ばれ、世界中から応募されたVFX作品の中から、映画、放送(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全23カテゴリに及ぶ最優秀作品がVES会員の投票によって選ばれる。そして授賞式では、 その受賞作品の発表及び表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られた。

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これがVESアワード名物の「月顔トロフィー」

特別賞

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ビジョナリー賞を受賞した、J・J・エイブラムス監督。日本のメディアである事を監督に伝えると、「日本は大好きですよ。久しく行っていないので、是非また訪問したいですね」と語ってくれた

VESは毎年、優れた功績を残した人物に特別賞を贈っており、その受賞セレモニーもハイライト・イベントとして行われた。今年は「スター・トレック」や「スター・ウォーズ」の新シリーズでおなじみ、VFX業界に多大な功績を打ち立てているJ・J・エイブラムス監督にビジョナリー賞(Visionary Award)が贈られた。

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ステージ上で受賞の喜びを語る、J・J・エイブラムス監督。左は、プレゼンターとしてサプライズ登場した、「スター・トレック」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」等でお馴染みのハリウッド女優ゾーイ・サルダナ

このビジョナリー賞は2011年から制定された新しい賞で、先見的&革新的な功績を残したと認められる人物に贈られ、過去数年では「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督(2011)、「ライフ・オブ・パイ」のアン・リー監督(2012)、そして昨年は「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督が受賞している。

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5冠という圧倒的な強さを見せた長編アニメ「ベイマックス」のディズニー・アニメーション・スタジオのクルー

さて、今年の話題をさらったのは何と言っても「ベイマックス」と「猿の惑星:新世紀」だろう。「ベイマックス」はトータル5部門で圧勝、「猿の惑星:新世紀」は3部門で受賞を果たした。また、TVコマーシャル「ESS」も3部門で受賞した。

今年の著名ゲスト

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軽快な話術で場内を爆笑の渦に巻き込む、司会のパットン・オズワルト

VESアワード受賞式は、毎年豪華なゲストが登場する事でも話題だ。司会は今年もピクサー作品「レミーのおいしいレストラン」でレミーの声を演じたコメディ俳優、パットン・オズワルトが、2011年以来3回目となる司会を務めた。

また、ハリウッド・スター達が賞のプレゼンターとして登場。ドラマ「バイキング」でプリンセスを演じたアリッサ・サザーランド、そしてゲストとして「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」等のマーベル作品でお馴染みクラーク・グレッグ、「ベイマックス」で声を担当したスコット・アドキンスとジェイミー・チャン等が登場、ハリウッドの授賞式らしい華やかな雰囲気に包まれていた。

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ハリウッド女優のジェイミー・チャン。可憐な笑顔を振りまいていた © Visual Effects Society

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マーベル作品でお馴染み、俳優のクラーク・グレッグもプレゼンターとして登場

また、「スター・トレック」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」等の大作でお馴染み、ハリウッド女優ゾーイ・サルダナがJ・J・エイブラムス監督のプレゼンターとしてサプライズ登場し、場内を沸かせた。

海外で活躍する日本人のノミネート

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「オール・ユー・ニード・イズ・キル」で「映画部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」にノミネートされた五十嵐敦史氏はご夫妻で出席

また、VESアワードの話題として外せないのが、海外で活躍している日本人のノミネートである。今年は、五十嵐敦史氏がソニーピクチャーズ・イメージワークス在籍中に担当した「オール・ユー・ニード・イズ・キル」が「映画部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」に、ILMの行弘進氏が「ノア 約束の舟」で「映画部門:最優秀デジタル背景賞」に、それぞれ実名入りでノミネートされていた。受賞には至らなかったものの、世界的にも権威あるVESアワードでノミネートされた功績は非常に大きいと言えるだろう。

さて、今年も日本からの作品が1本もノミネートされなかったのが大変残念だ。過去には日本の作品がノミネートを果たしており、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分にあるのだ。来年のVESアワードでも、奮って日本からの作品応募を期待したいものである。

第12回VESアワードの受賞作品一覧は下記のとおり(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。

映画部門:最優秀VFX賞

(Outstanding Visual Effects in a Visual Effects-Driven Photoreal/Live Action Feature Motion Picture)

「Dawn of the Planet of the Apes」

  • Joe Letteri
  • Ryan Stafford
  • Matt Kutcher
  • Dan Lemmon
  • Hannah Bianchini
映画部門:最優秀助演VFX賞

(Outstanding Supporting Visual Effects in a Photoreal/Live Action Feature Motion Picture)

「Birdman」

  • Ara Khanikian
  • Ivy Agregan
  • Jake Braver
  • Isabelle Langlois
長編アニメーション部門:最優秀アニメーション賞

(Outstanding Animation in an Animated Feature Motion Picture)

「Big Hero 6」

  • Don Hall
  • Chris Williams
  • Roy Conli
  • Zach Parrish
放送部門:最優秀VFX賞

(Outstanding Visual Effects in a Visual Effects-Driven Photoreal/Live Action Broadcast Program)

「Game of Thrones; The Children」

  • Joe Bauer
  • Steve Kullback
  • Stuart Brisdon
  • Thomas Schelesny
  • Sven Martin
放送部門:最優秀助演VFX賞

(Outstanding Supporting Visual Effects in a Visual Effects-Driven Photoreal/Live Action Broadcast Program)

「American Horror Story; Freak Show; Edward Mordrake, Part 2」

  • Jason Piccioni
  • Jason Spratt
  • Mike Kirylo
  • Justin Ball
  • Eric Roberts
ゲーム部門:最優秀リアルタイムVFX賞

(Outstanding Real-Time Visuals in a Video Game)

「Call of Duty: Advanced Warfare」

  • Yi-chao Sandy Lin-Chiang
  • Joseph Salud
  • Demetrius Leal
  • Dave Blizard
コマーシャル部門:最優秀VFX賞

(Outstanding Visual Effects in a Commercial)

「SSE; Maya」

  • Neil Davies
  • Alex Hammond
  • Jorge Montiel
  • Beth Vander
博展部門:最優秀VFX賞

(Outstanding Visual Effects in a Special Venue Project)

「Ratatouille: L’Aventure Totalement Toquee de Remy」

  • Tony Apodaca
  • Marianne McLean
  • Gilles Martin
  • Edwin Chang
  • Mark Mine
映画部門:最優秀キャラクター・アニメーション賞

(Outstanding Performance of an Animated Character in a Photoreal/Live Action Feature Motion Picture)

「Dawn of the Planet of the Apes; Caesar」

  • Paul Story
  • Eteuati Tema
  • Andrea Merlo
  • Emiliano Padovani
長編アニメーション部門:最優秀キャラクター・アニメーション賞

(Outstanding Performance of an Animated Character in an Animated Feature Motion Picture)

「Big Hero 6; Baymax」

  • Colin Eckart
  • John Kahwaty
  • Zach Parrish
  • Zack Petroc
放送&ゲーム部門:最優秀キャラクター・アニメーション賞

(Outstanding Performance of an Animated Character in a Commercial, Broadcast Program, or Video Game)

「SSE; Maya」

  • Jorge Montiel
  • Alex Hammond
  • Daniel Kmet
  • Philippe Moine
映画部門:最優秀デジタル背景賞

(Outstanding Created Environment in a Photoreal/Live Action Feature Motion Picture)

「Interstellar; Tesseract」

  • Tom Bracht
  • Graham Page
  • Thomas Døhlen
  • Kirsty Clark
長編アニメーション部門:最優秀デジタル背景賞

(Outstanding Created Environment in an Animated Feature Motion Picture)

「Big Hero 6; Into the Portal」

  • Ralf Habel
  • David Hutchins
  • Michael Kaschalk
  • Olun Riley
放送&ゲーム部門:最優秀デジタル背景賞

(Outstanding Created Environment in a Commercial, Broadcast Program, or Video Game)

「Game of Thrones; Braavos Establisher」

  • Rene Borst
  • Christian Zilliken
  • Jan Burda
  • Steffen Metzner
実写部門共通:最優秀バーチャル撮影賞

(Outstanding Virtual Cinematography in a Photoreal/Live Action Motion Media Project)

「X-Men: Days of Future Past; Kitchen Scene」

  • Austin Bonang
  • Casey Schatz
  • Dennis Jones
  • Newton Thomas Sigel
全部門共通:最優秀モデリング賞

(Outstanding Models in any Motion Media Project)

「Big Hero 6; City of San Fransokyo」

  • Brett Achorn
  • Minh Duong
  • Scott Watanabe
  • Larry Wu
映画部門:最優秀エフェクト&シミュレーション賞

(Outstanding Effects Simulations in a Photoreal/Live Action Feature Motion Picture)

「X-Men: Days of Future Past; Quicksilver Pentagon Kitchen」

  • Adam Paschke
  • Premamurti Paetsch
  • Sam Hancock
  • Timmy Lundin
長編アニメーション部門:最優秀エフェクト&シミュレーション賞

(Outstanding Effects Simulations in an Animated Feature Motion Picture)

「Big Hero 6」

  • Henrik Falt
  • David Hutchins
  • Michael Kaschalk
  • John Kosnik
放送&ゲーム部門:最優秀エフェクト&シミュレーション賞

(Outstanding Effects Simulations in a Commercial, Broadcast Program, or Video Game)

「Cosmos: A Spacetime Odyssey」

  • Dominique Vidal
  • Isabelle Perin-Leduc
  • Sandrine Lurde
  • Alexandre Lerouge
映画部門:最優秀コンポジット賞

(Outstanding Compositing in a Photoreal/Live Action Feature Motion Picture)

「Dawn of the Planet of the Apes」

  • Christoph Salzmann
  • Florian Schroeder
  • Quentin Hema
  • Simone Riginelli
放送部門:最優秀コンポジット賞

(Outstanding Compositing in a Photoreal/Live Action Broadcast Program)

「Game of Thrones; The Watchers on the Wall」

  • Dan Breckwoldt
  • Martin Furman
  • Sophie Marfleet
  • Eric Andrusyszyn
コマーシャル部門:最優秀コンポジット賞

(Outstanding Compositing in a in a Photoreal/Live Action Commercial)

「SSE」

  • Neil Davies
  • Leonardo Costa
  • Gianluca DiMarco
学生部門:最優秀VFX賞

(Outstanding Visual Effects in a Student Project)

「Wrapped」

  • Roman Kaelin
  • Falko Paeper
  • Florian Wittmann
  • Paolo Tamburrino

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。