取材/文:鍋 潤太郎

はじめに

ハリウッドでは、エンターテインメントのメッカだけあって、映画関連の様々なイベントが開催されている。特に6月から9月に掛けてのシーズンは、映画音楽に関連した素晴らしいコンサートを鑑賞出来る機会に恵まれる事も少なくない。今回は、芸術の秋到来という事もあるので、ちょっと趣向を変えて、ハリウッドのナイト・エンターテインメントの話題を皆さんにお届けする事にしよう。

ハリウッド・ボウルとは

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これぞ、ハリウッド・ボウル。大観衆が音楽を楽しめる場である

ハリウッドに、「ハリウッド・ボウル」という超デカイ野外音楽堂がある。オープンは1922年とその歴史は古く、ハリウッド・サインに近い山の中腹の、広大な地形を利用して作られた野外音楽堂。なんと17,376席という規模を誇っている

毎年6月から9月までがシーズンで、シーズン中は、クラシックやジャズ、ロックまで幅広いジャンルのコンサートが、連日連夜開催される。特に6月に開催される「プレイボーイ・ジャズ・フェスティバル」は有名だ。筆者にとって、ハリウッド・ボウルのコンサートは「夏の風物詩」とも言える。ここに来ないと”夏を迎えた”気がしない。

この夏はプロダクション業務が忙しかった為、7月~8月にここで開催された様々なコンサートに行く事が出来ず、歯痒い思いをしていた。特に今シーズンは「バック・トゥ・ザ・フューチャー30周年記念コンサート」など、興味深いコンサートが幾つかあったのだが…仕事があると、なかなか思うように時間が取れず。しかし、シーズン最後の9月に、こうして今回のコンサートに来る事ができ、遅い「夏気分」をかろうじて満喫できた筆者であった。

E.T. THE EXTRA-TERRESTRIAL IN CONCERT

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ハリウッド・ボウルの今シーズンのプログラムの一環として、「E.T. THE EXTRA-TERRESTRIAL IN CONCERT」というコンサートが、9月3日から5日までの3夜連続で行われた。筆者は、最終日の9月5日(日)夜、このコンサートに足を運んでみた。

ひとたびハリウッド・ボウルの会場内に足を踏み入れると、まずはその広大さと、2万人近い大観衆のパワーに圧倒される。これだけ広い野外音楽堂はアメリカでも珍しいのではないだろうか。

さて、この「E.T. THE EXTRA-TERRESTRIAL IN CONCERT」。どのような形式のコンサートなのだろうと楽しみにしていたが、その期待を裏切らない、素晴らしいコンサートだった。ハリウッド・ボウルのステージ上には、ロサンゼルス交響楽団のフル・オーケストラが陣取っていた。その上には巨大なモニターが設置されており、ここで映画「E.T.」の全編が上映され、その画面に合わせてオーケストラが生演奏を行うという、非常に贅沢な内容であった。最初に、アメリカ国家の演奏。これは「おやくそく」で、ほぼ毎回行われ、観客は全員起立して国家を斉唱。

続いて、作曲者のジョン・ウィリアムズ氏が、事前に収録されたビデオ映像の形でごあいさつ。例年であれば、ジョン・ウィリアムズ氏は自らがオーケストラの指揮を振っての「映画音楽コンサート」を、ここハリウッド・ボウルで開催するのが恒例だが、今年は年末公開予定の「スター・ウォーズ / フォースの覚醒」の作曲の追い込み作業で大忙しという事情もあり、ビデオ映像での「ご出演」となった。

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作曲者のジョン・ウィリアムズ氏が、ビデオ・レターの形でごあいさつ

この中でジョン・ウィリアムズ氏は、

ウィリアムズ氏:映画「E.T.」が1982年に公開されて30年余りが経過しました。私個人は、この作品はスティーブン・スピルバーグ監督の「マスター・ピース」であると考えています。公開当時と現代を比較しますと、時代は変化ました。しかし、今、改めてこの映画を観ると、その魅力が全く色褪せていない事に驚かされます。それでは、本日のコンサートをお楽しみください。

というコメントを述べていた。

さて、映画が始まった。大画面に「ユニバーサル」のロゴが映ると、場内からは拍手が沸き起こっていた。オーケストラは画面に合わせて、おごそかに演奏をスタートさせた。やはり、生演奏は臨場感が全然違う。特に低音楽器の音圧、打楽器は迫力がある。しかも、映画の画面のタイミングと「ピッタリ合わせて」生演奏が行われているのである。筆者は映画に没頭しつつも、「オーケストラや指揮者は、いったい、どうやってタイミングを合わせているのだろう?」等と、ついつい余計な事を考えてしまった(笑)。

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上映中の模様。オーケストラの生演奏入りで映画を鑑賞すると、また格別の感動がある

映画の後半、自転車に乗った子供達が空を飛ぶ「あの」有名なシークエンスで、観客席の興奮はピークを迎える。そして感動のクライマックス。これに生演奏が加わる事で、感激もひとしおであった。

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おなじみのシーン

こういう時、アメリカ人のリアクションは、良い意味で、すごく大袈裟である。映画が終わると、観客はスタンディング・オベーション。そして拍手と奇声(笑)ものすごい盛り上がりであった。当日の様子をご覧になりたい方は、今年のコンサートのフィナーレの模様をYouTubeにアップしている人がいたので、下記を是非ご参照あれ。

おわりに

さて、ハリウッド・ボウルで行われた「E.T. THE EXTRA-TERRESTRIAL IN CONCERT」の模様を簡単にご紹介させて頂いたが、その魅力が少しでもお伝え出来れば幸いである。来年の夏にSIGGRAPH等でロサンゼルスをご訪問予定の方は、是非、このハリウッド・ボウルでのコンサートを体感される事をおススメしたい。スケジュール確認やチケット購入は、コチラのサイトから行う事が出来る。本場ハリウッドでの野外コンサート。きっと素晴らしい思い出になるはずである。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。