スーパーハイビジョン試験放送開始直前、最新の放送技術を展示
5月26~29日までの4日間、東京・世田谷区砧の放送技術研究所おいて「進化が続く放送技術をご体感ください」をテーマにNHK技研公開2016が開催された。今年で70回を迎える技研公開は、進化が続く「スーパーハイビジョン」、新しい放送サービスを提案する「インターネット活用技術」、人と社会をつなぐコンテンツ制作技術「スマートプロダクション」、自然な立体映像の実現に向けた「立体テレビ」、最新の研究を支える「次世代デバイス」の5つの技術を中心に、新たな可能性を開く放送やサービスの創造に向けた27項目の研究開発成果が発表された。昨年はスーパーハイビジョン関連が大半を占めていたが、今年はだいぶ落ち着いてきたようだ。
スーパーハイビジョンは今年の8月から衛星による試験放送開始され、2018年から実用放送、2020年から本格普及というロードマップとなっており、すでに技術研究というステージから実用化へ向けての取り組みにシフトしており、制作現場からのフィードバックを元に規格化や実際に放送を行う上で必要な技術、実際に家庭で視聴するためのディスプレイなどに展示の内容も変わってきたようだ。
技研ではその先のスーパーハイビジョンが広く普及するであろう20年以降のメディア環境を見据え、高齢者や障害のある方を含む誰もが人に優しい放送技術の発表が昨年に増してより具体的になってきたといえる。スーパーハイビジョンまでは、従来のテレビを高精細にして発展させた形だが、その後のテレビというかメディアはどうあるべきかを技術的側面から研究していこうというものだ。そこにはインテグラルディスプレイによる立体視や実際にモノに触っている感触を伝えられる触覚提示装置などがあり、今までのテレビという概念ではなくなってきている。
エントランスホールでは、技研が力を入れているスーパーハイビジョン、インターネット活用技術、スマートプロダクション、立体テレビの4つのコーナーがあり、ここをスタートにそれぞれの技術についてより詳しい展示が展開されている。今年は前述した5つのカテゴリーにフォーカスした展開になっており、昨年までは主に基礎的な技術を紹介するパネル展示をまとめたコーナーはほとんどなくなり、それぞれ関連のあるコーナーの中で紹介するようになっていた。
最新技術の展示会場から
進化が続くスーパーハイビジョン。今年の8月から試験放送が開始される8Kスーパーハイビジョン。地上波放送や家庭でのディスプレイなど実用化へ向けての取り組みを紹介
シート型ディスプレイ。8Kスーパーハイビジョン用のディスプレイの大型化へ応えるべく試作された、プロジェクターのスクリーンのようなディスプレイ
インターネット活用技術。放送とインターネットの連携による様々なサービスを紹介
技研が描くこれからの放送局のネットサービスとして、放送とネットの同時配信やVOD、小型端末との連携などを提案
スマートプロダクション。障害がある方や外国人などすべての視聴者に情報を配信するための仕組みを紹介
立体テレビ。メガネ無し立体視を実現し、2030年には実用化システムを目標としているという
8Kディスプレイを採用したインテグラル立体視ディスプレイ
8Kフルスペックスーパーハイビジョン体感コーナー
8K HDRライブ制作コーナーではカメラやスイッチャーなどが披露された
フルスペック8Kシアターカメラ
フル解像度8K単板式カメラ
フル解像度8K単板式カメラ用CCU
8Kカメラ用CMOS撮像素子
スイッチャー、波形モニター、カメコンなどが設置されたコンソール
フレーム周波数120Hz化へのスムーズな移行を目指して、8Kスーパーハイビジョンのフルスペック化に向けた圧縮記録装置やディスプレイ、波形モニター、タイムコード表示装置などが披露された
7680×4320、RGB4:4:4、120Hzの画像を45分(6.4TB)収録可能
8K120Hz対応の17型ディスプレイ
8K対応波形モニターと色域変換装置、ダウンコンバーター
アーカイブ用ホログラムメモリー。レーザーや光学部品、ディスク媒体をひとつの筐体のホログラムメモリードライブとすることで、安定した記録・再生が可能。8K圧縮画像を再生してディスプレイしていた
ケーブルテレビ局で受信したスーパーハイビジョン衛星放送の信号を、複数のチャンネルに分割して伝送し、家庭側で正しく合成することで、既存の伝送路のままで家庭に配信。展示では、試験放送で採用されるMMT・TLV形式の8K信号を実際のケーブルテレビ局で衛星受信して再放送し、展示会場で復調・合成して再生していた
マルチキャスト技術とベースバンド伝送技術を使った8K多チャンネル伝送技術を開発。これにより、ケーブルテレビやインターネット回線で映像・音声やデータ放送などの多重化に対応
高速伝送を実現するミリ波帯FPU広帯域を利用できる42GHz帯(ミリ波帯)の電波を用いた200Mbpsを超える伝送レートを実現するFPU
メディア統合技術として、放送・ネット同時配信VOD(ビデオオンデマンド)などの違いを問わずに番組を楽しむために、番組提供側の配信方法(伝送路、配信形式など)やユーザー側の視聴環境(利用機器、接続環境など)を考慮して視聴方法を自動的に選択する技術を研究開発
ハイブリッドキャストのさらなる進化に向け、ネットのコンテンツを放送と同期して提示する技術。競技中の選手などのトラッキングデーターを使って、さまざまな情報を放送と合わせて表示する、スポーツ中継のサービス例を紹介
画面内に写っている看板や建物名などを自動的に抽出し、メタデータ化することが可能
出演者とCGの自然な映像合成を目指したCG共演スタジオロボット。センサーを利用してスタジオの照明や出演者の行動を検知してCGキャラクターと息のあった掛け合いが可能
シート型ディスプレイ。通常の有機EL素子とは逆の構造にするとともに、酸素や水分の影響を受けにくい材料を用いた有機EL素子を開発により、フィルム基板を用いたシート型ディスプレイの長寿命化と動きぼやけの改善を目的に、ライン単位でパネルの発光時間率を制御する駆動技術を開発
気象電文を用いて、気象警報を伝える手話CGを自動で生成するシステム。通常の天気予報に加え、地域ごとに随時発令される気象警報も自動で更新し、手話で表現できるシステム
スポーツグラフィックスのための空間情報取得技術。多視点カメラからの映像とCGを融合したもので、ボールなど動体の軌跡をCGで表示することが可能
ハイブリッドセンサーM-PIVを使った高機能バーチャルスタジオシステム。カメラ側のセンサーにより、CGとの合成を行えるシステム
誘導機能を備えた実用型触覚提示システム。触覚ディスプレイ上で指を機械的に誘導することにより、全体の構図やグラフの軌跡などを伝えることができる
NHK放送技術研究所入り口横に設けられたIEEEマイルストーン。IEEEマイルストーンは電気・電子・情報の分野において、地域社会や産業の発展に多大な貢献をし、国際的に高い評価を受けてきた歴史的業績を表彰する制度として1983年に創設されたも。NHKでは2011年に認定された直接衛星放送のほか、ハイビジョンと緊急警報放送の3つが認定されている