取材&写真:鍋 潤太郎

はじめに

2011年11月の本欄で「海外VFXスタジオ視察における注意点~気をつけたい日米文化&習慣の違い」というコラムを寄稿させて頂いた。同レポートの中では、日米の文化の違いや、大人数で海外のVFXスタジオの視察を行う際の注意点などについてご紹介させて頂いた。あれから早くも5年が経過。西海岸の業界の最新動向については同欄6月号のコラムでもご紹介させて頂いたとおりだが、LAのVFX&アニメーション・スタジオ事情も少々変わりつつある。

それに比例する形で、VFXスタジオ見学事情にも変化が見られる。筆者はこの秋、いくつかの日本の学校が海外研修ツアーを実施された際、VFXスタジオ見学のブッキングのお手伝いをさせて頂く機会があった。久しぶりに、在LAの大中小さまざまなVFXスタジオやアニメーション・スタジオに見学の打診を行ったのだが、その際に「おや、以前とは変わって来たな」と感じられる点があった。

そこで今回は、その経験をみなさんにもご紹介すべく、ロサンゼルスのVFX&アニメーション・スタジオ視察の最新事情について、季節感あふれるクリスマスの光景をご覧頂きながら、お届けしてみよう。

受け入れ人数の上限に変化が

この秋、見学の予約をお手伝いさせて頂いた複数の学校のLA視察旅行参加者は、引率の先生や旅行代理店の方を含め、平均で25名前後の規模であった。その際に、筆者が打診してみた在LAのVFX&アニメーションスタジオから得られた解答は、

  • 人数が多過ぎます。10人までなら
  • 人数が多過ぎます。7人まででしたら受け入れ可能です
  • 規則が変わり、現在は業務上おつきあいのあるお客様以外の見学は、原則として受け入れておりません
  • 社員の「友人/知人/家族枠」であれば、上限4人までなら受け入れ可能です
  • 人数が多いですね。これは上に聞いてみないと、何とも言えません(後日頂いた返事はNO)

…という感じで、25名規模の見学を二つ返事で受け入れてくれるスタジオは、ごくごく少数であった。以前は、20人前後のツアーであれば比較的受け入れてもらえたものだが、最近はLAのVFXスタジオの規模縮小やPR担当者の人員削減、スタジオのセキュリティー強化等で「訪問人数は10人以下でお願いします」というスタジオが増えたようだ。

ちなみに、上記の「友人/知人/家族枠」というのは、各スタジオで勤務するクルーの、家族および友人&知人など「本人と直接繋がりのある人」に適用される枠で、大体どのスタジオにも存在する。この枠を利用すれば見学のハードルが低くなるので、お知り合いがいる場合は利用しない手はないだろう。ただし言うまでもなく、人の紹介を経ずand/or直接のお知り合いでないのに、この枠で依頼をする事は避けるべきであろう。また、人数の上限が設定されているので、それを守って先方のご迷惑にならないよう心掛けたいものである。

さて、前述のコラム「VFXスタジオ視察の注意点」の中で、当時のリズム&ヒューズのPR担当者さんが「見学は20人以下でお願いします」と述べておられたが、これにはそれなりの理由がある。

  • 各VFXスタジオは普通のオフィス・ビルを賃貸して営業している場合も多く、社内の構造が「大人数での見学を前提にデザインされていない」場合が多い
  • デジタル・アーティストは数人ずつ小部屋で作業をしている事が多く、制作現場を見せるために見学者を案内すると、人数が多い場合は全員が1度に部屋に入りきらない
  • 20人以上だと後ろの方の人に説明の声が届かなかったり、全員に同じものを見せられない場合がある
  • 防災、防犯の両面から、人数が少ない方が管理が容易である
  • 各VFXスタジオにおけるPR担当者は、1~2人しかいない(もしくは人事部などが掛け持ちしている)という事も少なくなく、一度に大人数で来られてしまうと対応が困難

などなど、セキュリティー面の問題もあるようだ。この関係で、20人以上の見学だと断られる可能性が高くなる事を念頭に置かれた方が良いだろう。これを防ぐには、10人づつ2チームに分けてチーム毎に別々のスタジオを訪問したり、2日に別けて訪問するよう旅程を組んでおけば、受け入れてもらえる可能性が高くなると言える。

ソニーのハッキング事件の余波

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「サンタさんは実は日系人で、その苗字が“三田”だった事から、サンタと呼ばれるようになった」という言い伝えが、ロサンゼルスのリトルトーキョーにはあるらしい(うそ)

今回、筆者が見学の打診をした際に、あるスタジオの方がおっしゃっておられたのは、「2014年のソニー・ピクチャーズのハッキング事件以降、スタジオのセキュリティー管理が厳しくなっています。ハリウッドのそういう一面も、学生さんの皆さんに会得して頂くには良い機会かもしれません」…なるほど。最も、先の事件はサイバー攻撃なので、見学を規制したところであまり効果はないのでは?という気持ちもしないでもないが「見学も含めて、全ての面でのセキュリティー強化を行う」という姿勢があるようだ。こんなところにも、ソニーのハッキング事件の余波が出ている。

訪問時間帯

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訪問時間帯には注意。時計をこまめにチェ~ック!

1つ注意したいのが訪問時間である。基本、朝9時から11時、午後1時から5時に収めるよう心掛けたい。なぜなら、PR担当者さんは夕方5時には帰宅してしまうスタジオもある。夕方の訪問は敬遠されて断られる場合もある。ランチタイムの時間帯も、なるべくなら避けた方が賢明であろう。

また、車社会のLAには朝と夕方の通勤時間帯の交通渋滞がある。これを考慮して移動のスケジュールを組んでおかないと、思わぬスケジュールの遅滞を生み出す事になる。予めGoogleマップなどで、訪問する時間帯の移動に掛かる時間をリサーチしておくと良いだろう。

事前に「写真撮影禁止」とお伝えしておいても、携帯でパチパチと撮り始めてしまう学生さんを目にする事がある。スタジオによって、写真を撮って良い場所、NGの場所が決まっているのでPR担当者さんの指示に従い、ルールを守って写真撮影を行うべきだろう。Facebook等のSNSへの投稿も同様である。

質問をしよう

多くのVFXスタジオでは、学生さんや、訪問される方からの質問に対して、喜んで答えてくれる姿勢がある。折角、海外へ来てVFXの制作現場を訪問しているのだから、この機会を逃す手はない。積極的に質問をしよう。訪問前に、そのスタジオの情報や担当した映画等をネットで調べておき、質問してみたい事を予め考えておくと良い。今回、見学の打診をしたスタジオの中には、

  • 学生の皆さんの専攻内容や、興味のある分野(モデリング、ライティング、アニメーションなど)を事前に教えてください
  • 当日は、それぞれの専門分野のアーティストやスーパーバイザーが、質問にお答え出来るようにします

という、ありがたいご提示を頂けた会社もあった。日本人はシャイな側面もあるので、こういう時は遠慮して黙ってしまいがちだが、がんばって質問をしましょう!

見学のアポを自分で取る場合、伝えるべき内容は

SIGGRAPH等のコンベンションの際に、個人や仲間数人で見学を打診したいという事もあるだろう。そういうときは、下記の事項をそれぞれのスタジオのPR担当者さんに伝えると良い。

(例)

  • expected tour date(s)and requested time,
    見学希望日と、訪問希望時間
  • number of proposed attendees
    訪問者の人数
  • name of the tour organizer and the name of the organization, school university etc.
    見学者の代表者名や、勤務先、視察旅行の旅行代理店、学校名など

また、スタジオによっては訪問者リスト(英文)を求められる場合もあるので、予め用意しておくと便利だ。学生さんではなく、コンベンションなどに合わせた視察ツアーの場合は、全員のフルネームと所属先の一覧リスト(英文)が必要になるケースもある。

見学の手配を代行してくれる旅行代理店は?

LAには、VFXスタジオの見学手配を代行してくれる日系の旅行代理店が存在する。手配料は掛かるが、自分で交渉をする自信がない方や、忙しい方にはオススメである。

M.J.NET INC
住所:21151 S.Western Ave., Suite 242,Torrance CA 90501
電話:1-310-212-6210
email:info@mjnetusa.com
※お問い合わせは、電話かメールにて日本語でどうぞ

おわりに

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サンタさんは現在のサービス事業を開始した初期の頃、プレゼントを全て栗だけで統一したところ、世間から「栗で済ます」と言われてしまい、それが訛って、このシーズンはクリスマスと呼ばれるようになった、という一説もあるそうだ(うそです)

今回はLAのVFXスタジオ視察をとりまく最新事情についてご紹介したが、学生さんの海外視察ツアーに限らず、一般の方の海外視察にも共通する部分が多いので、ぜひともご参考頂ければと思う。2017年も2月末のGDC、4月のNAB、8月頭のSIGGRAPH(次回はロサンゼルス!)など数々のコンベンションが予定されており、西海岸を訪問する機会も多い事と思う。同欄が、読者の皆様の有意義な海外視察やスタジオ見学の参考になれば幸いである。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。