txt:鈴木佑介 構成:編集部
α9を動画軸で読み解く
パっと見、α7シリーズと変わらない大きさ
ソニーからα9が登場し、約1ヶ月が過ぎた。ハイエンドのフルサイズミラーレス一眼として世界中のフォトグラファーから注目を浴びている。筆者の周りのフォトグラファーもα9をきっかけにソニーへと乗り換える人が増えてきた。同時に様々な現場でαを使うフォトグラファーを見かける事も最近では珍しく無い。ビデオグラファーがこぞってα7S IIに乗り換えた時のここ最近のムーブメントと似ている印象を受ける。
さて、注目のα9だが、写真機能に特化しているモデルなので動画軸での情報がスペック以外手に入らないので最近α7シリーズを導入したビデオグラファーやフォトグラファーから「鈴木さんα9って動画はどうなの?」と質問される事が多い。
先日行われたPHOTONEXT2017でのソニーブース内でセミナー登壇という機会があったので事前にソニーさんにα9をお借りして、動画軸での機能を検証してみた。
1.α9を動画軸で触ってみる
ボタンやダイヤル類が増え、ジョイスティックが搭載された
まず既存のα7シリーズと比べて変化した場所を挙げてみる。
- ボタン、スイッチ類の変更
- ジョイスティックの追加
- カスタムボタンにアサインできるメニューが増えた
- メニュー画面の並びが使いやすくなった
- フォーカスモードの切り替えがダイヤルに変更
- α6500のようなオートフォーカス
- デュアルSDカードスロット
- 6Kオーバーサンプリングでの高解像度4k24p
- 新しいバッテリー
カメラ本体最初の感触として、α7よりも操作がしやすくなった印象だ。
メニューの構成もα6500を軸に1ページ目が写真に関する設定、2ページ目が動画に関する設定と、選べるメニューがひときわ多いソニーのカメラとしては頑張った印象だ。もちろん、まだまだ発展させる事はできそうだが、素直に評価したい。
従来のαシリーズからの一番の変化は動画の録画ボタンが押しにくい「側面」から「普通の位置」になり、カスタマイズでシャッターボタンでも動画記録ができるようになった。そのおかげでカスタムボタンに録画を割り当てなくてすむのでボタンカスタマイズの幅が広がった。
また、従来のα7シリーズと比較してカスタムボタンにアサインできるメニューの幅が広がった。個人的に嬉しいのは「フルフレームモードとSuper35mmモードの切り替え」だ。これをカスタムボタンに入れておけば望遠域が欲しい場合にSuper35mmモードに切り替えて焦点距離を稼ぐ事ができる。筆者が大好きな超解像ズーム、という手段でも一緒なのだが、Super35mmモードで1.5倍。そこから超解像ズームを2倍かけてもα9の2420万画素のセンサーならば800万画素の4K映像に対してさほど問題は無い。あくまで理論値だが、24-70mmのレンズで最大210mmまでの望遠域を稼ぐ事ができるのだ。
ダイヤルが増えた事によって操作性が上がった
なにより動画撮影で嬉しい一番のアップデートはS&Qモードの切り替えが上部ダイヤルで可能になった事だ。ハイスピード撮影をする時、今まではメニュー画面やカスタマイズしたボタンからしかモードの切り替えができなかったものが、ダイヤル一つ回すだけで撮影可能になった。ちなみにHDで120fpsの撮影が可能。オートフォーカスも効き、撮影の時間制限も無いので、大変使い易い。設定でクイックモーションも選択できる。
デュアルSDカードスロット(AスロットはSDXC II対応)
デュアルSDカードスロットの搭載も喜ばしい。動画でもバックアップ記録ができる(同容量、同じ速度のカードが必要)。ただし、少しクセがあり、リレー記録ができない事やメニューで録画・再生の対象のスロットを任意で選択しないと対象外のカードにアクセスできない(例えばAスロットを選択している場合、メニューからカードを切り替えないとBスロットにアクセスできないのだ。片方のカードを抜いても自動で切り替わらない)。これは早い段階での解決を望む。
動画撮影でもバックアップ録画が可能
α7シリーズはバッテリー容量が少なく、多くのバッテリーを現場に持ち込まないと不安だったがα9は新設計のバッテリーが採用されている。使った感じ、一本でかなり持つ。体感で2倍以上。例えばウェディングの動画撮影なら3~4本あれば大丈夫ではないだろうか。
あと覚えておいて欲しいのが4K30pでの撮影時、画角が1.2倍になる。これは仕様なのだが、4K24pの高解像度4K映像がノンクロップで撮影でき、画質も美しいだけあって、少し残念だ。
2.オートフォーカスと高感度性能
選べるオートフォーカスの速度
α9のオートフォーカス性能は「すごい」の一言だ。α6500で感じた「最強のオートフォーカス」がフルサイズに移植された印象である。フォーカスが迷う事がほとんどなく、的確に欲しいところに合ってくれる。そして合焦スピードが速い。写真軸で「スポーツ撮影」に対して売り出しているのも納得だ。
またフォーカスモードを切り替える事で様々な使い方ができる。例えばフォーカスエリアをマニュアルにしてジョイスティックで任意で追従させる事もできるしタッチパネルでのフォーカシングも可能だ。純正のEマウントレンズとの組み合わせ、というのも影響していると思うが一眼動画でこんなにもオートフォーカスが使えるようになるとは思わなかった。またAFの速度はメニュー画面から任意で設定できる。
そして動画軸だと高感度性能について気になる方が多いと思う。α9はISO8000くらいまでならノイズは気にならない。α7S IIは別格として、α9は普通に暗所でも使えるレベルだ。オートフォーカスも迷わなかった。また、ローリングシャッターの歪みも改善されていて速い動体でも歪みが少なくなったのも特徴のひとつである。
ISO3200
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ISO6400
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ISO8000
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改善されたローリングシャッターの歪み
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3.スゴイのは連写機能
筆者は写真を撮らない。iPhoneで撮る程度だ。それくらい一眼で写真を撮る事は無い。悪気なく言うと、写真にほとんど興味が無いのだ。強いて言えば、昔に「高解像度の写真の連写で動画が作れたらどれだけキレイだろうか」と思った程度だ。
そこで、このα9。なんと1秒間に20コマ撮影ができる。そして最大362コマの連続撮影が可能なのだ。しかもブラックアウトフリー。もう、ここでピンと来た方もいるだろう。動画は最低24コマあれば成立する。362コマといえば、1秒30コマ換算でも12秒撮影ができるという事だ。
4.α9の連写で撮影した写真素材で動画を作る
せっかくの連写機能を持ったα9なら、普通に動画を撮るより連写した写真素材で動画を制作してみる事にした。そうして出来上がった作品がこちら「恋写」だ。
1分40秒の映像なので、まずはご覧になってもらいたい。モデルはウェディング撮影のお客さんだった新婦さんに依頼した(笑)。元々芸能活動をされていた方というのもあり、楽しんで参加して頂きました。
※以前SIGMAのシネレンズの記事に登場した新婦さんです
使ったのは被写体とα9とレンズ数本だけ
ご覧になってどうでしょう?途中から「写真」という事を忘れませんでしたか?
1秒18コマのスーパー8を彷彿させるような懐かしい雰囲気を感じませんか?これ、全部写真なんです。本当に。撮影素材は6500枚のjpeg(容量45GB程度)、オートフォーカスで手持ちで撮影。色も少しいじった程度で、ほぼ撮って出し状態。
約6500枚のjpeg素材
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恋人の主観で誰でも憧れる、経験のある、懐かしい雰囲気の中で関係性やストーリーを感じてもらえるような構成を作っていったのだが、普通に動画撮影よりも1コマ1コマが記憶に残る印象となる。何よりこんな事が実現できるようになった事に感動した。
Final Cut Pro Xで編集
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編集作業が大変そうに感じるかもしれないが、実は思いの他、そうでもない。Final Cut Pro Xを使ったのだが手順は以下の通り。
- タイムライン(プロジェクト)に写真素材を全部置く
- 全てのクリップを選択して「継続時間の変更」(control + D)
- 任意のフレーム数を選択する(筆者は1クリップ2フレームに設定)
※2フレームがポイント- 全てのクリップを選択し、コンパウンド化(複合クリップ化)する
- 1つの動画クリップになるので動画のように普通に編集
これだけなので1時間程度で編集が終わった。多少ストレージの速度やPCのスペックに依存するかと思うが、難しくはない。
連写撮影のマストアイテム
連写撮影時は速い速度のSDカードが必要なので注意。筆者は日頃から愛用しているSanDiskの300MB/SのSDXC IIカードを使用をした。
5.新しい映像表現の手段としてのα9
α9の映し出す画像は「撮って出しの映像、写真がキレイ」という印象だ。ご存知の方も多いと思うがα9にはS-Logはおろか、PP(ピクチャープロファイル)自体が無い。もしマルチカムで他のαシリーズと一緒に撮影する際は他のカメラをα9の画に近づける必要がある。正直なところ、α9にもピクチャープロファイル設定が後から追加される事を心から望む。
そういう事を考えるとα9は「写真撮影メインで動画も撮る方」に最適なカメラである。ビデオグラファーが慌てて買い換える必要は無いが、前述のように写真撮影を多くやられる方には最高のカメラなのでは無いだろうか。他メーカーと機能的に同じような事ができるなら軽くて、設計が新しいものを使った方が、様々な面でアドバンテージを感じる。α9はそんなカメラだ。
ただ、筆者はα9の連写機能に映像表現の可能性と、映像にあるべき本質を感じた。
写真撮影で行う動画制作は音も無く、画とアイデアだけで勝負する事になる。これから「テイク(あるものを撮る)」から「メイク(無いものを創り出す)」する映像へと向かう時代、ひとつの表現手段としてα9は面白い。
本作の「恋写」は機能説明の側面からあまり複雑な事をしなかったが、1枚2420万画素の情報を持つ写真素材を800万画素の4Kのシークエンスで編集するという事はさまざまな表現が可能になる。
「人」を撮る事を専門としている筆者としては、いろいろなシチュエーションや年代の方を起用してこの「恋写」をシリーズ化していつか映像展を行いたいな、と思っている(そのためだけにα9を買うのか?自問自答の日々を送っている)。