txt:鈴木佑介 構成:編集部

「Back to Basics」

本コラムでも触れているが、一眼動画によってもたらされた映像制作者人口の増加と機材の進化と共に、求められる映像が「テイク(写す)」から「メイク(創り出す)」へと著しく変化している昨今、話題の中心はグレーディングやRAW動画となっている。最近ではいろいろな方に「この後はどうなりますかね?」とよく聞かれる。答えは明快で「Back to Basics–基本に帰る-」ですよと答えるようにしている。

簡単に言えば「表現したいイメージ」があって「どう表現するか」を考えて「カメラで描き」「編集で紡ぎ」「演色で世界を創る」そして「聞かせたい音を正確に表現・伝達する」ということ。ここで、ドキっとした人、正解。

今回、ビデオグラファーと呼ばれる方達へ提案したいのは「もっと音に気を使いませんか?」ということ。最近では録音機材も所持し、自分で録音を行い、音声レベルを揃える、ホワイトノイズを減少させるなどの整音作業も自分で行っている人も少なくはないが、正直「音」に対して何もできていない人が多い気がする。

実際、YouTubeなどに上がっている映像を見ればわかるだろう。何かの映像を見る際、出だしの喋り声に音量を合わせて視聴しているPCのボリュームを調整したらBGMが入った途端、耳をつんざくような大音量で慌ててボリュームを下げるなど、日常茶飯事ではないだろうか。

もちろん、しっかりと映像制作を行っている方達の作品は、きちんと公開するフォーマットに合わせたラウドネスになっていて聴きやすい。聴きやすいということは、見やすいということだ。というのも、昔のようにテレビや映画だけではなくインターネットベースでの映像公開が中心となっている今、映像制作を行っている人でも「MA」自体を知らない人がいてもおかしくないし、仕方がないかもしれない。

MA=Multi Audio

Avid Pro Tools

MAとはMulti Audioの略で、簡単に言えば音の編集である。画の編集が完了し、ピクチャーロック(画完パケ)が済んだ後、最後に行う作業だ。MAを終えて1本の音声ファイルにMIXしたものと画を合わせて初めて映像が完成する。MAで主に使われている代表的なものが「Avid Pro Tools」というソフトで、楽曲制作やミキシングまで様々な音楽シーンで使用されている。

通常はMAスタジオに持ち込んで作業する。編集音声のデータはPro Toolsで編集シーケンスを再現できるOMFやAAFなどのフォーマットに書き出し、スタジオに持ち込んでMA作業を行う。

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2017/09/suzuki_04_ma004.jpg Pro Toolsタイムライン写真
※画像をクリックすると拡大します

先に言っておくと、筆者はMAに関しては「できること」を知っているだけで全く音に対して専門的な知識はない。さすがにRODEアンバサダーを務めているので、音声収録に関して多少の知識はあるが、整音に関しては専門外だ。興味があるとかないとかよりも「餅は餅屋」で、手を出さないと決めている。

MAスタジオでの作業の様子

映像編集のソフトでも音のレベルを合わせたり、音素材のINやOUTを丸めたり、フィルタやエフェクトをかけるなど、使い方が分かればある程度はできるが、MAでは専門のミキサーが我々が気づかないような、もっと細かい音の編集を行ってくれる。

MAは音のカラーグレーディングのようなもの

MAは「ダイアログ」「効果音」「BGM」「環境音」「ジングル」など映像で使用する様々な音の要素を映像に合わせて整音をする作業だ。例えば、収録された人の声の周波数を調整してノイズを減らし、録音時よりも聞き取りやすく調整して、音のフェードインやフェードアウトを映像編集ソフトで行うよりも正確に、自然に丸めてくれる。また他の環境で収録された音も、類似した状態に合わせてくれる。映像で言えば「カラーコレクション(色補正)」に近い。

その上で音声にリバーブなどの演出効果を加えたり、音の聞かせ方をL(左)からR(右)ヘ振ったり、ストーリーに合わせて音の音量を変えていったり、「聞かせる音」を明確に「どう聞かせるか」、様々な音響効果をつけていく。これは映像でいえばまさに「カラーグレーディング(演色)」だ。そう、MAもカラーグレーディングと同じ「演出」なのだ。

MA=Sound correct&Adding Sound Imageである。

今回は筆者の過去作品でMAの前後がわかるよう比較動画を作ってみた。同じ音量、同じ環境で聴き比べて欲しい。

見て欲しいポイントは、

  1. MA前後での聞き取りやすさの変化
  2. 違う環境で収録した音のバランス調整
    (オンカメラマイク、ラベリアマイク、アフレコなど)
  3. 環境音とのバランスと、整ったラウドネス

音が整うことで、明らかに映像の質が向上していると感じてもらえるだろう(一部映像内でリップシンクがずれている箇所があるが、諸事情でアフレコしたもの)。

MAを人に任せる理由

過去のコラムにも書いたが、DaVinci Resolve14が編集、カラーグレーディングの他にFairlightでのMA作業(ミキシング作業)ができるようになった。ビデオグラファーの中でも「音を勉強しなきゃ!」と意気込む方や、できる限り編集ソフトの中で整音やミックスをしている方もたくさんいるが、筆者はそこで「待て」と言いたい。

知識を入れるのは良い。演出も編集もするビデオグラファーが音の知識を知っていることで現場でできること、注意すべきことが変わる。実際、知ることは楽しい。知っていれば現場でできる判断が増えるし、ミキサーへ指示、要望を具体的に出すことができるだろう。好きなら構わないし、できるなら是非とも自分でやれた方が良い。

ただ正直、片手間で録音やらMIXやらに下手に手を出すのは危険だと思っている。そんな時間や余裕があるなら映像に注力した方が良いと思うのだ。これは筆者だけかもしれないが、カラーグレーディングするための高級なマスターモニターなどの「映像に直接的に関わるもの」の購入は考えられる。しかし、さほど音響に興味のない人間がMIX卓やモニタリングのためのスピーカーを導入できるだろうか?そして、大きな音を出せる編集環境を持つ人が何人いるだろうか?

自宅MA環境

しかも視聴環境は人によってバラバラだ。スマートフォンでイヤホンをつけて視聴する人、ラップトップの内蔵スピーカーで視聴する人、デスクトップで高級スピーカーにつないで視聴する人。

そんな中で、映像もそうだが、音に対してどこまで自分でできるのだろうか。極論だが結局は下手に手を出したところで、対応できる仕事は限られてくる。だったら専門に任せて他に時間と予算を費やした方がいいという考えだ。

実際の現場の録音に関しても、インタビュー以上の現場は録音部を呼ぶことにしている。単純に言えば、4ch以上必要とする現場で演出、撮影しながら一人で録音まで気を配ることはできない。一緒に仕事をする録音技師にも「これ以上の機材を所持して、勉強するくらいなら素直に技師を呼んだ方がコスパいいです」とまで言われる。実際その通りだ。「メイク」する映像の時代がやってきて、最近皆が揃えて口をするのが「一体、どこまで自分でやらなければいけないのか?」ということだ。

筆者は音素材をきちんと録るまでにしている

前述だが、筆者は「MAは人に任せる」という線引きをしている。プロジェクトの内容によってスタッフ構成を変え、録音に関して自分でどこまで行うかを決めている。簡単に言えば、自分は良い録音機材(マイクなど)を使って綺麗に録るまでを行い、あとはプロに任せることにしているのだ。

少し前まではMAが必要な作品を仕上げる際はポスプロへ出向き、MAルームでナレーション録りやミックス作業を行なったものだが、ここ4年くらいは、なじみのエンジニア(ミキサー)にMAを任せている(もちろん現場に録音技師が入っていた時はMIXまで録音技師に任せる)。

自宅にスタジオを構える

三島元樹氏の自宅スタジオの写真

ミキサーの三島元樹氏は自宅にスタジオを構えている。やれる作業はスタジオとなんら変わりはない。強いて言えばナレーションブースの防音設備が違うくらいであろう。映像制作が手軽になったように、音声の世界もだいぶ手軽になったのだ。

筆者はここ数年、クライアントから立ち会いたいなどの要望がない限り、基本オンラインでデータを渡し、要望を伝えておまかせでMAを行っている。上がってきたMIXデータに対して要望があれば伝え、その繰り返し。よほどのことがなければ数回のやりとりで完了する。おまかせMAで仕上げた映像でもクライアントからクレームが来たことはない。

「おまかせMA」サービスが開始

今日はそんな音声に悩めるビデオグラファーの皆さんに朗報。私が普段行っている「おまかせMA」を、前述した三島元樹氏がオンラインサービスとして8月30日から開始したのだ。

三島元樹の「おまかせMA

三島氏は映画やWeb CMの音楽、企業または個人作家の映像作品への楽曲提供など映像に関わる音楽を作る傍ら、レコーディング/ミキシングエンジニアとしてアーティストのレコード制作に参加したり、映像コンテンツのMAなども手掛けている。

三島元樹氏

音楽を担当した映画「紲~庵治石の味~」は、International Movie Awards 2013(IMA)で最優秀賞を受賞し、自身も最優秀音楽監督賞を受賞。筆者の映像の数多くは三島氏がMAを担当してくれている。

気になる料金だが、基本3分程度の映像で税別18,000円~25,000円と良心的だ。MAのスタジオでも1時間1万円前後するので、足を運ぶ手間を考えてもだいぶ使いやすいサービスとなっている。やりとりのシステムも簡単で、問い合わせ→入稿→納品→決済と全てオンラインで完結できる。支払いもペイパルでの決済が可能なのでお手軽だ。納期は最短でデータ受領の翌日。オプション扱いだが、ナレーション録音や作曲も依頼できる。

特に作曲はこれからの映像制作戦国時代において差別化を図る上でも必要不可欠になる。著作権フリー音源に「映像を合わせる」のではなく映像に「音楽を合わせてもらう」のは、当たり前のようでいて、僕たちに新しい体験を与えてくれるだろう。検索ワードは「おまかせMA 三島」覚えておいて損はない。何より初回利用は15%オフなので、是非一度使ってみて欲しい。

WRITER PROFILE

鈴木佑介

鈴木佑介

日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒のおしゃべり得意な映像作家。専門分野は「人を描く」事。広告の仕事がメイン。セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。