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取材&写真:鍋 潤太郎
VES Summit 2017
2017年11月4日、VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ/米視覚効果協会)主催による「VES Summit 2017」というカンファレンスが、ビバリーヒルズにあるソフィテルロサンゼルスホテルにて開催された。
VESは、ハリウッドのVFX業界に従事するテレビ・映画・ゲームなどの映像系プロフェッショナルを対象とした協会で、ハリウッドの数ある映画ギルドの1つでもある。VESは会員を対象とした各種セミナーやカンファレンスを積極的に実施している。テーマは毎回異なり、最新作の試写会&スーパーバイザーによる質疑応答だったり、VFX現場寄りのメイキング・セミナーだったり、最新のテクノロジーを紹介したテクニカルな内容だったりと、ジャンルは幅広い。
VES Summitは2009年から毎年秋に開催されており、今年で9回目を迎える。元々はVEXスタジオのエグゼクティブ、プロデューサー、マネージャーなどを対象とした「先進VFXスタジオ首脳会議」のような位置づけで、プロダクション経営やマネージメントに携わる人々を対象としたカンファレンスだった。それゆえ、第1回開催当時の参加費は1人495ドル(VES会員は395ドル)と、かなり高額だった。
しかし、近年は現場のアーティストやエンジニアも参加しやすいように、1人299ドル(VES会員は199ドル)と、依然として安くはないものの(笑)、多少リーズナブルな値段に設定されている。テーマも初期のスタジオ運営に関するお題目から、最近では業界のトレンドやテクノロジーの最新動向をシェアする内容へと変革を遂げているようだ。
会場のソフィテルロサンゼルスホテルのボール・ルームはほぼ満席。各セクションでは活気に満ちたパネルディスカッションが繰り広げられた。この日のカンファレンスは以下のスケジュールで開催され、朝早くから夕方まで休憩を挟みながら行われた。
■スケジュール
8:30 レジストレーション、コーヒーと軽食で親睦タイム
9:30 ラウンドテーブル・ディスカッションその1
10:25 基調講演:エイヴァ・デュヴァーネイ氏
11:10 休憩
11:25 講演:イヴァン・アサートン氏(Autodesk)
11:50 講演:ダグラス・トランブル氏(VES)
12:15 昼食
13:45 講演:ジェイソン・ブレニック氏(IMAX)
14:10 講演:ゲビン・ミラー氏(Adobe)
14:30 講演:ヘマンシュ・ニーガム氏(SSP BLUE)
15:00 休憩
15:10 ラウンドテーブル・ディスカッションその2
16:05 講演:ノニー・デラ・ペーニャ氏(EMBLEMATIC GROUP)
16:30 特別講演:シド・ミード氏
17:30 VES特別賞&VES殿堂授賞式
18:30 親睦会
この模様を、要約してフォトレポートの形でお届けすることにしよう。
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VES Summit 2017のスポンサー企業
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冠スポーンサーはHoudiniでお馴染みのSideFX社。ハリウッドのエフェクト・アニメーション分野で広いシェアを持つ
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協賛メディアの映像雑誌も、無料でお持ち帰りできる
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冒頭で開会の挨拶を行う、VES代表のエリック・ロス氏
ラウンドテーブル・ディスカッション1&2
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「ラウンドテーブル・ディスカッション」では、各テーブル毎に13種類の異なるテーマが設定されており、レジストレーションの際に興味のある分野を選択できる。ラウンドテーブル・ディスカッションは午前と午後の2度に分けて行われ、参加者は2つのテーマを選んで参加した。
各テーブルでは、テーマに沿って議論や情報交換などが行われる。ラウンドテーブル各テーブル毎の議題は以下の通り。
- 韓国と中国におけるVFXプロデュース:そのプロセスとチャレンジとは
- VFXスーパービジョンそのチャレンジと成功の鍵
- 脚本が来た、さて次にどうすべきか
- ゲームエンジン:リアルタイム・レンダリングの未来
- バーチャル・プロダクションの未来
- VR:さまざまなアプローチ事例
- クラウド・ベース:レンダリングやワークフロー最新事情
- 完成度の高い街並みの表現とは 映画・TV・ゲーム
- デジタル・ヒューマンの表現について
- AIがパイプラインに及ぼす影響は
- 無限の可能性が広がる、テレビにおけるVFX表現
- アニメーションにおけるハイエンドVFXとは
- 撮影時に行うプラクティカルなエフェクトVS後処理で行うデジタルなエフェクト
基調講演:エイヴァ・デュヴァーネイ氏
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アフリカ系アメリカ人の女性監督として近年注目を浴びているエイヴァ・デュヴァーネイ氏による基調講演。
デュヴァーネイ氏:フィルム・メイカーとして、VFXをストーリー・テリングの中で効果的に使用していくことは、大変エキサイティングで興味深いことです。最初は“デジタル・ダブル”という言葉すら知りませんでしたが、群衆シーンで初めてVFXを使用した時、その映像効果や可能性に開眼しました。現在制作中の映画「A Wrinkle in Time」(2018)でもVFXを駆使していますが、今日はこの会場の中にも、携わって下さっているVFXチームのみなさんの姿が見られ、大変嬉しいです。
講演1:イヴァン・アサートン氏/Autodesk
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Autodesk社からイヴァン・アサートン氏が登壇し、以下のようにアピールした。
アサートン氏:テクノロジーの進歩で、手書きからコンピューターへとツールが移り変わり、クリエイティブの表現の幅は大きく広がりました。その中でAutodeskのプロダクトは、エンターテイメント、工業ロボット、VRなどのさまざまな幅広い分野で貢献しているのです。
※筆者は、前半は後方のテーブルに座っていたのだが、場内を後ろから見渡すと白髪やハゲ頭も目立ち、ハリウッドのVFX業界における層の厚さを「思わぬ形」で再認識させられた
講演2:ダグラス・トランブル氏/VES
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「2001年宇宙の旅」(1968)、「ブレードランナー」(1982)などの視覚効果で知られる「特撮の神様」ダグラス・トランブル氏による講演。
トランブル氏:映画館という場所は、観客が特別な体験が出来る重要な場所です。ジェームズ・キャメロン監督やピーター・ジャクソン監督が秒48コマに着目したように、次はFPS(1秒あたりのコマ数)に議論の余地があります。私個人は、”解像度よりもFPSを上げた方が、映像のクオリティが高くなる”と考えています。今後、映画製作者+映画館+映写機器関連企業の3者と、積極的に議論を重ねていきたいと思います。この3者が同じ土俵で一緒に考える、ということがとても大切なのです。
ランチ休憩
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ソフィテルロサンゼルスホテルのレストランとテラスで、バフェ形式ランチが無料提供された。参加者同士で談笑しながらのランチ。開催日はハロウィン直前という季節柄もあり、レストラン内にはハロウィンらしいデコレーションも。
講演3:ジェイソン・ブレニック氏/IMAX
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ブレニック氏:VR分野では、ヘッドマウントディスプレイなどの様々なハードが開発されていますが、最近はVRCADEやVR Game Cafeのように、特定の場所へ行ってVRを体感できる「ロケーション・ベースド・VR」も増えてきています。最近、IMAXはVR分野にも力を入れ始めました。ロサンゼルスに今年オープンしたIMAX VRでは、映画館のように、時間ごとに複数のVRコンテンツが楽しめます。ぜひともご来場頂き、体感してください!
講演4:ゲビン・ミラー氏/Adobe
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ゲビン・ミラー氏は、Adobeプロダクツが持つ可能性を映画に例えて分かり易く、楽しくアピールした。
ミラー氏:今の子供達の世代では、スマートフォンやタブレットなど、我々が幼少の頃にSF作品で見たような光景が現実のものになって来ています。さて、果たして未来の我々の日常はどのように変化するでしょうか。スタートレック風でしょうか?それともハリーポッター風?テクノロジーが未来に与える可能性は無限です。
講演5:ヘマンシュ・ニーガム氏/SSP BLUE
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MPAAのインターネット・セキュリティー責任者を務めた経歴を持つ同氏による“ハッカーに攻撃された場合、ハリウッドはどう応戦すべきか”の講演。
ニーガム氏:私達には、日々フィッシング・メールが送り付けられてきます。銀行から口座情報のアップデートを求めるメールなど、“敵”はありとあらゆる方法でみなさんを狙ってきます。クライアントのメールアドレスがハックされ、「今すぐ、ここをクリック」と求めてくるケースもあります。相手が一流企業にも関わらず文面の英語が微妙だったり、リンクやドメイン名が怪しかったら、まず疑う。そして相手が取引先やクライアントであれば、まずは確認の電話を入れるなど、そういう小まめな対応や警戒が情報漏洩を防ぐ盾になるのです。
と、身振り手振りを踏まえて解説した。
ノニー・デラ・ペーニャ氏/EMBLEMATIC GROUP
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近年、VRを駆使したドキュメンタリー作品で注目を浴びているノニー・デラ・ペーニャ氏による講演。
ペーニャ氏:私が制作しているのはVRによるドキュメンタリー作品です。実話に基づいたシリアスな内容のストーリーを題材にしており、映像を見た人がショックのあまり泣き出すこともあります。ドキュメンタリー作品を、360°のVRで表現しています。フォトグラメタリーによってセットを3Dに変換し、リアリティを高めることもあります。
著者注:こちらのリンクを見ると、より詳しい情報がご覧頂けることと思う
特別講演:シド・ミード氏
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今年84歳になられるという、インダストリアル・デザイン&コンセプト・アートの巨匠、シド・ミード氏による講演。
ミード氏:絵は3才の時から描いています。思えば子供の頃から、未来のデザインをいつも考えていました。私のデザインやアイデアは、リサーチによる蓄積がベースになっていると思います。もちろん昔はネット検索なんてありませんから、図書館へ通っては書籍や写真をたくさん見てリサーチを重ねたものです。59年にアートセンターを卒業後、「US Steel Book」で未来のデザインを描いたのが初仕事でした。
その後「エイリアン」(1979)、「トロン」(1982)や「ブレードランナー」(1982)などで映画の仕事が増えていきました。現在公開中の「ブレードランナー2049」でも、ラスベガスのシークエンスでデザインを担当してます。私の今後の展望ですか?まずは、健康でいること(笑)。そして自分より高いスキルを持つ優れた人々と親交を持ち、常に自分を高めていく姿勢が大切だと考えています。
VES特別賞&VES殿堂授賞式
VES Summit 2017の締め括りとして、ESの特別賞、そして新設された「VES殿堂」に殿堂入りした人物の発表および表彰式が行われた。特にVES殿堂(VES Hall of Fame)では今回21人が選定され、その中からこの日の表彰式に出席可能な人物が来場、表彰が行われた。
上記リンクをご覧になればご理解頂けると思うが、全員がハリウッドのVFX業界の巨匠ばかりで、この日の表彰式でもビッグネームが総揃い。この場にいられたことは、極めて貴重な体験となったのは言うまでもない。
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おわりに
VES Summit 2017のレポート、いかがだったであろうか。あまりにも盛り沢山の内容で、その全てをご紹介することができないのが残念ではあるが、少なくともその一端をお伝えする事は出来たのではないだろうか。今後もこのようなイベンドがあれば、鋭意ご紹介していきたいと思う今日この頃である。
WRITER PROFILE
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