取材&写真:鍋 潤太郎

はじめに

先月の本欄で紹介した「VES主催 VES Summit 2017」の中で、パネラーの1人として登壇したIMAXのジェイソン・ブレニック氏が、今年ロサンゼルスにオープンした「IMAX VRセンター」を紹介していた。IMAXがVR?これは何だかおもしろそうだ。そこで今回はIMAX VRセンターを訪問し、その突撃レポートをご紹介しよう。

IMAX VRとは

VES Summit 2017で講演したIMAXのジェイソン・ブレニック氏は、次のようにスピーチしていた。

ブレニック氏:ここ数年VRがブームとなりましたが、何種類ものヘッドセットが発売されユーザーが混乱したり、市販のハードウェアがまだまだ高価だったりと、さまざまな事情があります。そういった状況の中で、特定の場所に行けば手軽にVRが体感できて楽しめる「ローケーション・ベース」のVRが注目されているのです。

そのプレゼンテーションを見て、ここロサンゼルスにVRに特化した施設「IMAX VRセンター」がオープンしたことに、筆者は興味を抱いた。確かに、IMAXが今年4月20日に発表したプレスリリースの中にも、IMAX VRについて言及が見られる。

  • ロサンゼルスに”旗艦”となるIMAX VRセンターを立ち上げ、世界初のハリウッドVRコンテンツとしてワーナー・ブラザースとの提携を発表、それ以外にもマーベルとABC Studiosとのプロダクションを開始
  • ワーナー・ブラザースとの提携作品には映画「ジャスティス・リーグ」(11月23日より公開中)、映画「アクアマン」(2018年12月公開予定)が含まれている
  • パイロット(市場の動向を見極める為にテスト的に開設)のVRセンターとして、ロサンゼルス以外にもニューヨーク、マンチェスター(イギリス)、上海、日本を予定している

IMAX VRセンターロサンゼルス

ここIMAX VRセンターロサンゼルスは、その先駆けとして今年1月6日にオープンした第1号施設のようだ。IMAX VRセンターは、現時点ではニューヨーク、上海、トロントにもオープンしており、東京も現在準備中だという。

IMAX VRセンターロサンゼルスは、複合エンターテインメント施設The Groveの正面に位置し、Fairfax Avenueの道路を挟んだ反対側にある。The Groveは映画館・レストラン・ブティックなどが並ぶ、地元でも人気スポットである。そのすぐ近くというロケーションは、多くの集客が期待できるだろう。また施設の地下には駐車場(8ドル)もあるので、車でのアクセスも便利である。さて、さっそく現地を訪問してみた。

ロビーは近未来的な映画館のようなデザインで、フロントでは各VRコンテンツの開始時刻が表示されている。まずはロビーに設置されたタブレットからユーザー登録とレジストレーションを行う。

それから体感してみたい作品を選んで、チケットを購入する。チケットの価格とプレイ時間はVRコンテンツによって異なりチケット価格12~25ドル、プレイ時間も15分~1時間とさまざま。ロビーの奥にはウェイティング・スペースも設けられており、開始予定まで時間があるときはそこで待つことができる。

開始時刻が近づくと、いよいよVRシアターの中へと案内される。筆者は映画館のシアターのような内装を想像していたのだが、内部の雰囲気はどちらかと言えば「各キュービクルで区分けされたお洒落なモーション・キャプチャ・スタジオ」のような感じだ。しかし、シアター内は近未来的なデザインに統一されている。

我々VFX屋の目には、モーション・キャプチャ・スタジオに見えなくもない(笑)VRポッドの様子

このキュービクルは「ポッド」と呼ばれ、4メートル四方ほどの大きさで、全部で14のVRポッドで構成されている。各ポッド毎に異なるVRコンテンツがインストールされており、それぞれにHTC Vive、StarVR、Oculus Riftなどのヘッドセットを使用したVRシステムが設置されている。VRコンテンツによっては、Subpac Rumbleバックパックを背負ってプレイするものもあった。

各VRコンテンツは定期的に変更されているようで、筆者がネット見掛けて興味を持っていた「Star Wars:Trials on Tatooine」は、残念ながらすでに「Star Trek:Bridge Crew,Rescue at Perseph」に差し替わっていた。また、VRコンテンツによっては「最低プレイ人数」が決まっている作品もあり、今回の取材にたった1人で斬り込んだ筆者は、体感したくともチケットを購入できない作品もあった(爆)。ここを訪問する際は2~3人以上で行ったほうが楽しめる選択肢が増えそうである。まぁそんなわけで、今回はおひとり様でもプレイが可能な「(Batman,Superman,Aquaman):Justice League」のチケットを12ドルで購入。

現在全米公開中の映画「ジャスティス・リーグ」(センチュリーシティのAMCシアターにて)。映画を見た後にVRで体感するとタイムリーだ

これは現在全米公開中の映画「ジャスティス・リーグ」をベースにしており、タイムリーな内容である。バットマン、スーパーマン、アクアマンのうち、好きなキャラクターになって体感できるという設定。筆者はバットマンとスーパーマンの2つのキャラクターに挑戦。ヘッドセットをつけ、映像に合わせて動く椅子に座り体感するのだが、なかなか迫力がある。スーパーマンは空を飛ぶので上下動が激しく、普段はほとんど乗り物酔をしない筆者でも少し酔ってしまい、終わった後も30分ほど気持ちが悪かった(笑)。

現在公開中のVRコンテンツはコチラで紹介されている。人気のあるコンテンツは、特に週末はすぐにSold outになるそうで、事前にネット予約しておいた方が良いだろう。ちなみに11月末現在、ここで公開されているVRコンテンツの一例を「さっくり」と筆者の意訳でご紹介しておくと…。

■Justice League(Batman,Superman,Aquaman)

概要:DCスーパーヒーローズ(バットマン、スーパーマン、アクアマン)になって、“映画バーチャルリアリティー”で「ジャスティス・リーグ」の世界を体感

カテゴリ:激しいアクション

あなたのミッションには次のものが含まれる:

  • バットマンになって敵を倒す
  • スーパーマンになって陸と海を飛び敵をやっつける
  • アクアマンになって深海生物と対決

■Justice League(Wonder Woman,The Flash,Cyborg)

概要:映画「ジャスティス・リーグ」に参加して、スリリングな映画バーチャルリアリティを体験。DCスーパーヒーロー:ワンダーウーマン、フラッシュ、サイボーグ

カテゴリ:激しいアクション

ミッションには次の驚異的な体験が含まれる:

  • ワンダーウーマンになってパラデーションと戦う
  • フラッシュになって刻々と変化する爆弾を止める
  • サイボーグになって敵のドローンと戦う

■Eagle Flight

カテゴリー:カジュアル体験

ミニ・アドバイス:チーム・プレイ、軽度の暴力、極端な高度(高所恐怖症の方は注意)、模擬動作

概要:このマルチプレイヤーVRでは、ワシの視点によるパリ上空の旅、旗を捉えるゲーム等で最大6人が楽しめる。個別にプレイするか、最大6枚のチケットを購入して、3対3チームのVR体験も可能。チーム・プレイの場合はショータイムに合わせてチケットを購入する。


■John Wick Chronicles

対象:17歳以上

カテゴリー:激しい

おはなし:ジョン・ウィックの武器を拾うと犯罪者の世界に飛び込み、戦う。VR体験はコンチネンタル・ホテルの頂上から始まり、あなたに向かって大勢の敵が押し寄せてきて、さぁ大変。


■Life of Us

カテゴリー:VR初心者向け、チーム・プレイ

ミニ・アドバイス:コミック・レベルの軽~いイタズラ、マイルドな暴力、模擬運動、大型生物、高所(高いの苦手な人、ご注意)、模擬浸水

概要:爆発、水中、氷河期の生存競争、火山への飛び込みなど、さまざまな生き物や10億年の進化を体感。複数の人数でVRの冒険を楽しむことができる。ファレル・ウィリアムスの音楽に合わせて未知の世界を体験する。


■Raw Data

カテゴリ:チーム・プレイ、激しい

概要:2271年のネオ・新宿が舞台。ビショップ(Bishop)、ガン・クレリック(Gun Cleric)の3人のヒーローの1人としてプレイ。各ヒーローが独自の武器と技術力を持つ。ホルスターを上げ、物理的な負荷をかけて武器を身体から引き出し、ゲーム内のディスプレイでコントロール。


■Star Trek:Bridge Crew,Rescue at Perseph

カテゴリー:カジュアル体験

アドバイス:配役はゲームの開始前に選択可能。最低2人のプレイヤーが必要。

ミニ・アドバイス:ファンタジー暴力、模擬動作、戦闘状況

概要:かつてないほど、スタートレックの世界に足を踏み入れることができる。キャプテンを含む4人の登場人物の役割を担い、最大4人のプレイヤーが、宇宙船のブリッジ(艦橋)で一緒にプレイする。実際にフェイザーを発射したりシールドを張ったり、航行コースをプロットしたり、船をワープさせたりできる。

あなたの使命:損傷した宇宙ステーションから脱出したバルカン人の科学者を救助するために皆で協力する。本物のスタートレックのように、チームワークとコーディネーションが成功の鍵。クリンゴンの潜在的な干渉行動を目の当たりにするだろう。では諸君、ブリッジで会おう。


■The Unspoken

対象:13歳以上

ミニ・アドバイス:戦闘状況、大型クリーチャー、極限の高さ(高いのダメな人、注意)

おはなし:ベテランのゲーム・デベロッパーが、極秘対応のVRアクションゲームを発表。各プレイヤーを呪文と魔法使いによる謎の戦闘空間へと引き込む。さあ、秘密の力で周りの環境をコントロールし、怪物を集め、魔法の戦いに挑んでみよう。

Oculus Riftのヘッドセットでプレイする参加者。Facebookのロゴも見える

StarVRヘッドセットは、片目2.5K、両目で計5Kの解像度、さらに210°の視野を実現しているという。赤く光るのは頭部の動きをトラッキングするLED。まさにモーション・キャプチャを彷彿させる

HTC ViveヘッドセットとD-BoxのMotion Seatsの併用。これで「スーパーマン」に挑戦したら、普段は滅多に乗り物酔いをしない筆者でも、少々気持ち悪くなるほどの臨場感(笑)

「Star Trek:Bridge Crew,Rescue at Perseph」を楽しむ参加者。エンタープライズ号のクルーになれる、トレッキー垂涎の内容である。コントローラーを手にしてプレイするが、操作方法がわからなくても、インストラクターが親切にアドバイスしてくれる

最低プレイ人数は3名様から、プレイ時間は1時間という人気コンテンツの「Deadwood Mansion」。週末はすぐSold outになるそう

ストーリー展開に合わせて風を起こす設備も。これで“4D”感が楽しめる

おわりに

これまで一貫して、70mm15Pフィルムや大型映像、巨大スクリーンでの高画質映像をウリにしてきたIMAXがVR分野に参入したという今回の展開は、80年代後半からIMAXを知る筆者にとっては、興味を持つと同時に、正直、意外であった。IMAXが得意とする大型映像と直接関連性がある分野ではないため、IMAXにとっては全く新しい試みと言えるだろう。

しかし、VRに興味を持つコンシューマー層が、個人や家庭で高い出費をしなくても、特定の場所に行けば、最新のVRコンテンツを映画1本分の価格で楽しめるという着目点は、大変ユニークで面白いアイデアではないだろうか。IMAX VRセンター東京を含めた今後の展開が楽しみな、今日この頃である。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。