txt:小寺信良 構成:編集部
4K/8K制作に向けたポストプロダクションの課題
2018年12月の新4K8K衛星放送開始を目前に控え、放送業界も大きく動いている。5月には「ファイルによる4Kテレビ番組交換暫定規準」と「テレビCM 4K素材搬入基準」が制定され、「ファイルベースメディア4K CM搬入暫定規準(案)」も公開された。すでに4K放送局ではカメラからマスターに至るまで、一連の4K化は完了しているが、ポストプロダクションのほうでも4K番組制作拡大へ向けて、設備更新を急いでいるところであろう。
テレビ番組制作においては、編集やMAなど、ポストプロダクション作業の比重が重い。番組交換基準の制定によりアウトプットは決ったが、そこへ向けてどのようなシステムで臨むのか、予算感も含めて多種多様な選択肢があり、設備投資としてもバランスが悩ましいところである。
すでに4K編集をスタートした現場からは、4K編集の課題として、
- ファイルが重く、素材のプレビューもままならない
- 編集システムへのインジェストに時間がかかる
- 編集用中間コーデックへの変換で膨大なストレージが必要
- レンダリングに一晩かかる
といった話が漏れ聞えてくるところだ。今回はこれらの課題を一気に解決した、さくら映機の「4K Prunus」を試用する機会に恵まれたので、実際の使用感をレポートしてみたい。
4K HDRリアルタイム編集システム「4K Prunus」
すぐ編集に着手できるシステム
さくら映機の4K Prunusは、編集用ワークステーションと専用I/Oボード、編集ソフトウェアをオールインワンにしたターンキーシステムだ。
DELLのPrecision Tower 7000シリーズをベースにしたオリジナル仕様のマシンで、CPUはXeon 12Core×2、メモリ96GB、グラフィックスにNVIDIA Quadro P4000を採用する。加えてさくら映機が新開発したI/Oボード「SKR-12GIO/EXP3」は、XAVCハードウェアエンコーダ搭載の12G-SDI入力×1、出力×2、外部同期×1となっている。
本体となるワークステーションはDELL製のワークステーションを採用
4K Prunusは、XAVC(Intra/Long)やAVC-Ultra、MP4、XF-AVCなど、撮影時のネイティブフォーマットのままで編集可能なシステムとなっており、編集用中間コーデックは不要。しかもメタデータを読取り、素材ごとに正確な色域とガンマカーブが自動的にセットされ、プロジェクト単位で指定した出力仕様に合せて自動的に演算処理される。もちろん、HDRとSDRのサイマル制作にも対応する。
4K HDRのために新設計されたUI※画像をクリックすると拡大します
素材の色域とガンマはメタデータから自動的にセットされる
HDRのテレビ番組制作においては、こうした色域とガンマカーブの自動サポート機能は、単純なヒューマンエラーを削減する上で強力な味方となる。じゃあこの機能があれば何も気にしなくていいのか、というと、そういう話でもない。実際の編集時には、そのカットがHDRディスプレイ上でどのような印象になるのか、編集マンが自分の目で確認しなければ、どのカットを採用すべきか、あるいはどの順番で見せるべきかを決められないという事も起りうる。
4K Prunusには12G-SDI出力が2系統あり、1系統は回線やレコーダに繋ぐとして、もう1系統をマスターモニターに直結できるため、別マシンのスルー出力やコンバータに頼らない、正確なプレビューが可能になる。
マスターモニターで常に色域・ガンマを見ながら編集
加えて、HDR対応のカラーコレクタも搭載している。もちろん波形モニターもHDR対応だ。その点でも、編集マンの作業をよく考えているシステムだと言える。
HDR対応カラーコレクション機能搭載※画像をクリックすると拡大します
4K Prunusが面白いのは、素材ファイルの取込み自体もバックグラウンドに回せる構造になっているところである。多くのノンリニアツールは、ファイル取込み中はほかのことが何もできないものが多いが、4K Prunusでは取込みが始まったカットからすぐに手が付けられる。大量の素材コピーが終るのを待っている必要がないのだ。もちろんこの思想は、12G-SDIからのリアルタイムキャプチャでも同じだ。取込み中のファイルをタイムラインに載せて、どんどん編集していける。
素材取込みもバックグラウンドに回せる
録画中でも編集作業に移れる
特筆すべきは、クリップ操作のレスポンスだろう。キーを叩いてから再生がスタートするまでのタイムラグは、テープ編集に近い。ベテランエディタはHDCAM時代のレスポンスをご記憶かと思うが、だいたいあれぐらいの感覚である。
ジョグ・シャトルコントローラを組合わせれば、テープ編集並の操作性とレスポンスが実現
今回は別途ジョグ・シャトルコントローラを繋いで操作してみたが、こちらのレスポンスも十分だ。音声のジョグ再生にも対応しており、インタビュー素材の細かい音編集にも十分対応できる。すでに多くの編集マンは、ノンリニア特有のガリガリしたジョグ音声に慣れてしまったかもしれないが、音の切れ目が確実に探せると、編集の手間が大幅に削減できる。
脅威の書き出し、差替え機能
民放連が公式サイトで公開している「ファイルベースメディア4K CM搬入暫定規準(案)」によれば、搬入可能なファイルベースメディアとしてXDCAM用プロフェッショナルディスク、HDD、SSD、S×Sの4種類が定義されている。また搬入ファイルフォーマットとしては、原則はXAVC(XAVC QFHD Long422 200 OP-1a)200Mbpsとするが、当該者間の合意があれば、当面はXAVC(XAVC QFHD Intra Class300 OP-1a)600Mbpsも可能となっている。
4K番組の搬入基準についても、当面はCMバンクとの共用となるため、これに準じる事となるはずだ。したがってデフォルトはXAVC LongGOP 200Mbpsで、合意があればXAVC Intra 600Mbpsでの納品が可能ということになる。
4K Prunusも当然この両フォーマットで最終レンダリングが可能だ。特にXAVC Intraに関しては、オンボードのハードウェアエンコーダが使えるので、4K HDRコンテンツのレンダリングはリアルタイムで完了する。従来1時間番組の出力にほぼ1晩かかってきたことを考えれば、驚異的なスピードだと言える。一方XAVC LongGOPの場合はソフトウェアレンダリングとなるためリアルタイムとはいかないが、それでも実時間の2倍程度で出力可能だ。
しかし長尺の番組になればなるほど、一部分の「直し」に対する負荷が大きくなる。実際テレビ番組では、局内プレビューでミスが見つかり、修正するケースは多い。しかしテロップ1枚直すために、数時間かけてレンダリングし直すというのでは、コストも時間も割に合わない。
その点4K Prunusでは、XAVCファイルのうち、差替えたい部分だけをはめ換える「部分差替え」機能がある。つまり、全編をレンダリングし直すことなく、その部分だけインサート編集で差替えるイメージだ。HDバージョンのPrunusに搭載されて人気を博した機能だが、これにより4K HDR番組の修正が短時間で可能になる。
完パケファイルに対して手直し部分だけを部分差替え可能※画像をクリックすると拡大します
XAVC Intraの場合、フレーム単位での差替えが可能になるため、本当に修正部分だけをスポッと差替えるだけである。一方XAVC LongGOP(Closedに限る)の場合は、GOP単位での差替えとなり、差替え部分の前後が非可逆の再圧縮となる。このため、元ファイルに対してそのまま入替えを行うわけではなく、コピーファイルが作られ、それに対して差替え編集が行われる。
実際にLong GOPによる差替えもテストしてみたが、前後のカットに非可逆再圧縮が行われているものの、筆者の目では見てわかるような劣化は感じられなかった。映像だけでなく、音声の部分差替えにも対応する。
完パケファイルに対してこうした部分差替え機能が使えることは、日々スケジュールが詰りがちなポストプロダクションにとっては、大きなアドバンテージとなるはずだ。
ライブ中継+編集機能「4K Prunus Live」
4K Prunusにライブオペレーション機能を追加したのが、4K Prunus Liveだ。元々4K Prunusでもライブ収録は可能だが、ライブ向けにリプレイやスロー再生などを行なう為の専用UIが搭載されているのが特徴である。
Liveオペレーション向けの機能を追加した4K Prunus Live
UIはご覧のようにボタン類が大きなアイコンで示されており、狭いオペレーションスペースでもミスが起らないように設計されている。加えてタッチスクリーン対応モニタを使えば、画面タッチでの操作も可能だ。
大きな操作アイコンがポイントのUI※画像をクリックすると拡大します
収録中にマーキングすることで、ポイントとなるシーンが右側にクリップされていく。リプレイ時にはこれらのクリップを呼出し、スローコントローラでコントロール可能だ。
また抜出したクリップに対して、カラータグを付けることも可能だ。カラータグには、文字でコメントを付けることもできる。これらのカラータグは、フィルター機能により、特定のカラーだけを集めることもできる。ゴールシーンのみ、あるいは特定の選手のみといったシーンの抽出が、瞬時に可能になる。
カラータグは文字によるコメントも付けられる※画像をクリックすると拡大します
こうして抽出されたクリップは、エディターである4K Prunusを呼び出し、並行して編集することができる。エンディング用やスポーツニュース用ダイジェストシーンの編集も、4K Prunus Liveを1台持っていくだけで、すべて完結するわけだ。
Live機能を使わなければ通常の4K Prunusと同じなので、編集業務にもそのまま使う事ができる。4K Prunus Liveは、2018年11月発売予定だ。
通常の番組編集でこそ活きる高速編集機
4K Prunusは、4K HDR素材に対して2ストリーム+テロップ4枚をリアルタイム再生可能なパフォーマンスを持つ。筆者がテストしたところ、先読みバッファが足りていれば、それ以上のレイヤー再生も可能だった。
CMや映画レベルのハイエンド合成機能こそ持たないが、Sapphire 11やBoris Continuumといったエフェクトプラグインに対応しており、一般的な番組であれば過不足なく使えるはずである。
現実問題として、4K番組には様々な素性のファイルが持込まれることが想定されるが、メタデータによる自動対応やマスターモニター直結といった機能により、各カットの整合性をその場で確認できる。加えてファイル操作レスポンスの良さ、編集マンがすぐに見たい、やりたいことの優先順位を考え抜かれたプライオリティ設計思想など、人を待たせない作りとなっている。これがHDではなく、4K HDRで実現できていることに、正直驚きを隠せない。
8K編集で鍛えられた分散処理技術を惜しげもなく投入した4K Prunusは、スピード重視の現場に、ストレスフリーの4K HDR編集環境を提供することだろう。