Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

txt:ふるいちやすし 構成:編集部

実は中国製機材に優秀な製品が多い

新年明けましておめでとうございます。今年も東京Petit-Cine協会をよろしくお願いします。今年はプチシネの世界が、機材、製作環境、上映環境、そして何より私を含めてクリエイター達の意識や技術がどう向上していくのか、提言をしながら楽しみに見守っていきたいと思う。

そんな中で確実に進歩を見せているのはやはり機材だろう。最先端技術というよりは、いろんな機材の安くて良い物が続々と発売されているということが、プチシネ的にはとても嬉しい。いくら凄い物でも使えないほど高かったり、所有して使いこなせるまでトレーニングできなければ意味が無い。そういう意味では一年前の最先端技術がだんだん低価格の製品となって発売される動向に目を光らせるべきなのだ。

その動向の中心となっているのはやはり中国製品だろう。彼らの技術力を侮ってはいけない。今や安かろう悪かろうとは言い切れないしっかりとした製品が多くなってきている。それはInterBEEなどの小さなブースで多く見られたが、やはりそういう所には足を運び、実際手に取って、メーカーや技術者とも話をして情報を得る事が大切だと思う。往々にしてこういった新進の企業の製品はニュースになる事も少なく、情報を得る事が難しいからだ。

お金の心配をしなくてもいいのならともかく、下手すると三倍、四倍もの無駄遣いをすることになるかもしれないので、最先端ではなくても、こうした足元の技術進歩と低価格化には目を光らせておきたい。欧米的見方をすれば、人件費やパテントの問題はあるのかもしれないが、この恩恵は素直に受け取るべきだと思う。そんな中で去年は私もいくつかの新しい機材を購入した。今回はそれらを映像表現と結びつけながら紹介してみようと思う。

まずはSNOPPAというメーカーの3軸電動ジンバルのKylin-mという製品だ。現在は55,000円だが、私は初期のクラウドファンディングで約40,000円で手に入れた。お陰で予定よりも数ヶ月も後の納品となってしまい、納品時にはユーザーからのクレームも殺到し、ちょっとした炎上騒ぎにもなってしまったが、幸運にも私の物は今のところ不具合もなく大丈夫なようだ。まぁ、こういったリスクは新製品や新進メーカーには付き物だが、それは一流メーカーであっても実際に無くはない。

そこで必要な事はユーザー側の状況に合った判断だ。絶対にすぐに使えなくてはならない物、例えば買い替えのようなケースでそれが無くては仕事ができないといった場合には、カタログスペックを過信して新製品の初期ロットに手を出すべきではない。入れ替え期間に余裕を持つとか、レンタルで一度使ってみたり、実際のユーザーの報告を十分聞いてから購入するといった慎重さはユーザー側の責任でもある。

では何故私が購入に踏み切ったのか?そもそも電動ジンバルの誰が撮っても同じような画があまり好きではなく、以前から使っているComodo社のOrbitという非電動のスタビライザーとカメラの手ブレ補正を使った安定感がちょうどいいと思っており、現在もそれをメインで使っている。だが、請け負い仕事では電動ジンバルの需要もあり、もちろん便利な事もわかっているので、そういう時はレンタルで対応してきたのだが、この価格であれば買ってもいいだろうと気持ちが働いたのだ。

現に届いてから3ヶ月ほど経つが、未だに仕事の現場では使っていない。もちろんいつまでも遊ばせておくつもりはなく、電動ジンバルならではの表現を模索しながらトレーニング中だ。そういう余裕があったからこその購入だったが、いざとなれば使い慣れた、しかもレンズ交換可能なカメラが載るジンバルがあるという安心感は大きい。

次にInterBEEで見つけたFeel World社のFW7033というIPS薄型7インチモニター。解像度は1920×1200とHDながらも、4K入力にも対応している。驚くべきは約3万円という価格。SDI入力を省いたモデルだと更に2万円台前半で買える。画質は申し分なく、各種パラメーターによる調整も可能、日本語も設定できる。時々不思議な日本語を見かけるのはご愛嬌だろう。

ものぐさな私はモニターを取り出すのが面倒になり、ついついカメラのモニターで撮ってしまい、後で後悔する事が度々あったので、大きめのポケットやウェストバッグに入れられるお気軽モニターの必要性を感じていた。これは正に渡りに船といったところだ。数年前まではこのような新進メーカーの物を見つけても日本の代理店が決まらないとなかなか手に入れるのが難しかったりしたもんだが、最近はAmazonで手軽に買えるのも嬉しい。但し、故障した時のサポートなどは期待しない方が賢明だろう。この価格なら予備を買っておいても安いものだ。

最後は同じくInterBEE で見つけたNanguang社のRGB66というLEDライト。こちらは日本の代理店もスタジオポリゴンズに決まっており、お値段ナント19,800円!さらに驚くべきはそれだけではない。素晴らしい機能がてんこ盛りのライトなのだ。

まずはフィルターやデフューザーを使う事なくスイッチ一つでハードライトとソフトライトを切り替えられる。決して光量調整ではなく、明らかにソフトになるマジックのような機能だ。博識な友人によればこれはテレビのモニターなどに使われている技術だという事だが、少なくともそれを搭載した照明機器は知る限り見た事がない。

それだけではない。これまたスイッチ一つでRGBの自由なブレンドでカラーリングできるウォッシュライトにもなる。これはステージライトにも使われている技術だが、フラッシュさせたり徐々に変化させたり、また、その速度を調整したりと何でもアリだ。もちろん基本的な光量や色温度の調整もできる。私は一番小さなモデルを選んだが、大きいサイズも用意されている。大きいメインの照明は既に持っているので、プラス1の照明として、よりセンシティブなライティング、自然なカラーリングや大胆な演出ができると今からワクワクしている。

このように技術的には確実に足元まで進化している。我々クリエイターはその恩恵をしっかり受け取っているだろうか?最先端ではなく、基本的な映像美は同じように向上しているのだろうか?これだけ手頃な価格で優秀な機材が揃ってきた今、インディーズだからって一昔前のVシネのようなクオリティーで良いわけがない。手に入れて、使いこなし、丁寧な、或いは大胆な撮影演出をする。これが我々クリエイターに求められている使命なのではないか。進化しよう!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。