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取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

カートゥーン ネットワークとは

カートゥーン ネットワークは、米国で唯一のアニメ専門チャンネルだ。ワーナーメディアの一部門であり、キッズやファミリーに大変人気のある、様々なオリジナルコンテンツを放送している。その作品には「ベン10」、「クレイグ・オブ・クリーク」、「スティーブン・ユニバース」、「おかしなガムボール」、「パワーパフ ガールズ」、そして「ぼくらベアベアーズ」などが含まれる。全192か国、4億世帯以上、31の言語で展開しているカートゥーン ネットワークは、そのクリエイティビティとテクノロジーを駆使してファンにサービスを提供、また次世代のクリエイター達を多く輩出している。日本でも、全国のケーブルテレビ局、スカパー!、ひかりTV及びIPTV等で放送中だ。

今回は、同社でバックグラウンド・デザイナーとして勤務されている冨ケ原美菜子氏に詳しくお話を伺ってみた。

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冨ケ原 美菜子
バックグラウンド・デザイナー/ カートゥーン ネットワーク スタジオ

文化服装学院を卒業後、日本の企業ファッション・デザイナーとして勤務した後、デザイナーからアーティストへとキャリアチェンジする事を決め、一念発起しロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインへ留学しアートを学び直す。在学中は奨学生として学費免除を受けながら生活をやりくりし、在学中からNetflixの映画作品への参加やその他フリーランスの経験を経て、現在はカートゥーン ネットワーク・スタジオにて現在放映中の「ビクター&バレンティノ」にバックグラウンド・デザイナー(背景デザイン)として活躍中。

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下記は、冨ケ原 美菜子氏へのインタビューの要約である。

■制作現場の規模は、どのくらいか

「ビクター&バレンティノ」のLA制作スタッフは、40人以上のスタッフで構成されています。内訳は、エピソードディレクター、ボードスーパーバイザー、ラインプロデューサー、アートディレクター、ミュージックコンポーザー、ライター、プロダクションマネージャー、プロダクションコーディネーターなどの役割やその他のスタッフで構成されています。制作チームは、プロダクションやアートにまたがる、さまざまな部門に分かれています。

■アニメーション制作のワークフロー

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まず、ストーリーチームが制作したストーリボードを元にアートディレクターと話し合いながら、背景のデザインを決めていきます。「ビクター&バレンティノ」はラテンアメリカの神話や伝説を取り入れたコメディー/アドベンチャー・ショーなので、ラテンアメリカのデザイン美学の要素を取り入れたデザインを、作品にふさわしい明確なスタイルで描いていきます。

テレビでの背景の仕事の場合は、その作品のスタイルをうまく出す事、そして映画よりもタイトなスケジュールなのでスピードが求められます。

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■制作スケジュール

スケジュールは週毎に組まれています。カラーデザイン(カラースタイリスト)の業務は平均して100〜150種類の色のデザインをしていきます。ライティングの変化の多いエピソードの場合は200種類ものデザインをする時もあります。2D作品のカラーデザイナーの仕事は、3D作品のライティング・アーティストの仕事に近いと思います。各シーンの背景、ライティングに合った「パレット」を、各デザイナーが制作したキャラクター、プロップ、エフェクトにつけていきます。

カラーデザイン業務はアート部門の一番最後のプロセスになりますので、全てのシーンを把握し、海外に外注依頼する前に、アートの最終の確認もします。背景デザインは、1週間に約8〜10ショットのレイアウトを制作します。私は主にAdobe Photoshopを使用して作業を行っています。レイアウトは、通常線画でペインターがシェイプを作っていきますが、私達のショーは線画ではなく、デザイナーがShape(形状)、Value(色彩の明暗)、Atmosphere(空気間や雰囲気)等のデザインも同時に制作していきます。

毎日行われる「Art Approval」と呼ばれるチェックに提出し、修正を加えながら1週間で仕上げていきます。エピソード毎に毎週全く違ったロケーションのデザインをしていくのはとても楽しく、1エピソードが終わる頃には、いつも次のエピソードのアニマティックを見て、どんな風景が良いか妄想しています。1エピソード毎のショット数は、エピソードにより異なりますが、平均して150から23ショット程になります。

スタッフの国籍はインターナショナルです。チームは主にアメリカ人が多いですが、その他は韓国、フランス、ブラジル、メキシコ、キューバ、オランダ出身のスタッフがいます。リードキャラクターデザイナーはフランス在住です。日本出身は私1人です。

■アメリカならではの制作スタイルとは

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私が特に印象的に感じるのは、やはりアメリカならではの実力主義の部分でしょうか。実力があって、やる気があれば、新人かエキスパートかに関係なく、仕事をどんどん任せてもらえるというポイントが、日本の企業とは違うなと感じました。

特にアーティストは、本業以外にもフリーランスや、アートスクールで教えている方が多いです。働き方が多様なのもアメリカならでは、と思います。学べることが沢山あると思います。

■スタジオ内の雰囲気

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スタジオはとてもオープンな雰囲気です。制作スタッフは全員同じフロアに個人の部屋があり、いつでも直接行き来して話し合う事ができるようになっています。ランチタイムにはチームで外に出かけたり、スタジオ内にある展望スペースで昼食を取りながら親睦を深めています。特にアート・チームは同じ大学の卒業生の方が多いので、つながりが多く、すぐに打ち解けることができました。才能あるアーティストに囲まれて、毎日絵が描けるこの環境にはとても感謝しています。

■名門アートセンターで学ぶ

私は、奨学金を経て、ハリウッドに人材を多く輩出しているアートセンターで学びました。私の専攻の学科はEntertainment Artsでした。この専攻はとてもユニークで、映画やテレビ業界、特にアニメーションで働くVisual Development Artistになるための「トレーニングに特化した学科」でした。

最初の一年半は基礎を徹底的に学びました。基礎のレベルが高くなければ、どんなにアイデアが良くても評価してもらうのは難しいので、この期間はとにかく練習に励みました。そして奨学金をキープする為のポートフォリオ審査も4ヶ月おきにあった為、更に良いポートフォリオを制作し続ける為に奮闘した三年間でした。

アートセンターはそのタフな教育方針で有名で、学生達は日々忙しい生活を送っています。特にEntertainmentを専攻した場合は高い技術を得なければいけないので、寝る時間以外は描く!という生活でした。ハードな日々ですが同じ夢を追いかける友達と支えあいながら充実した時間を過ごしています。

3年生の時にアニメーションスタジオのインターンシップに応募し始めましたが、ちょうどその頃に現在の私のボスであるアートディレクターからCNでの仕事のオファーをもらいました。テストを受けたのち、最初はフリーランスのBGペインターとして働き始め、その後すぐにカラーデザイナーとして正式採用してもらいました。

仕事はとにかく楽しくて、慣れるまでにさほど時間はかかりませんでした。そして入社2ヶ月でBGデザインの仕事も任され、しばらくは2つのポジションを兼任していました。この時に任された仕事を評価していただき、BGデザイナーへと昇進し、現在に至ります。

■今後、バックグランド・デザイナーとして目指していきたい事

先ず第1に、「ビクター&バレンティノ」の背景デザイナーとして、素晴らしい作品を生み出していきたいです。よくアートディレクターとも話すのですが、今まで活躍されてきたデザイナーの方達が作り上げてきたものを、最高の形で続け、進化させて行くことが一番の目標です。

個人としての活動も積極的に行っていきたいと思っています。今年の年末には、グループ展やコンベンションへの参加が控えているのでそれに向け準備中です。しばらくしたらTeaching(教育分野)にも挑戦したいと思っています。私はとにかくペインティングをすることが好きなので、いつかペインティングのクラス、カラーに特化したクラスを持ちたいです。

――今日は、どうもありがとうございました。

追記:同社テレビシリーズのアートディレクター、バリーE.ジャクソン氏が語る”美菜子像”とは

美菜子さんとは、私が教鞭を取っていたアートセンター・カレッジの学生だった時に出会いました。私が教えていた多くの学生のうち、アニメーション業界で一流のキャリアに進むべき才能、個人的なスキルを持っている人は、ごくわずかですが、彼女は稀な例外の1つでした。

私がカートゥーン ネットワークでテレビシリーズのアートディレクターとして雇われた際、私は優れた才能あるクリエイターを探していました、そして幸いな事に、美菜子さんをチームへ入ってもらう事が出来たのです。そして、たった3か月の間に、彼女は新人からトップデザイナーになりました。彼女の勤務姿勢とプロ意識は、とても模範的です。彼女は全ての人に好かれ、作品にとって不可欠なスタッフになりました。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。