取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

ビバリー・ヒルトンに続々と到着するリムジンや高級車(筆者撮影)

1月28日(水)夜、ロサンゼルスのビバリー・ヒルトンにおいて、第18回VESアワード授賞式が開催された。会場のエントランス付近にはレッドカーペットが敷かれ、タキシードやドレスに身を包んだVFX業界関係者が続々と到着。ハリウッドの映画賞にふさわしい華やかな雰囲気の中、授賞式が開催された。今回は、その模様をご紹介させて頂く事にしよう。

VESとは

毎年お馴染みの当レポートではあるが、新しい読者の方や、VESそのものをよくご存知でない方のために、VESとは?を簡単にお説明しておく事にしよう。

VESは、アルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。これは「Visual Effects Society」(米視覚効果協会)の略で、米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの映画ギルドの1つである。設立は1997年で、会員はハリウッドを中心とする映画、テレビ、アニメーション、ゲーム等のVFX制作に従事する世界中のプロフェッショナル達で構成される。

現在、米国および世界40ケ国に約4,000人以上(VES発表)という会員数を誇る。もちろん、日本からでも加入が可能である。会員は年々増え続けており、文字通り世界最大規模のⅤFX業界のギルドである。会員になるには、5年以上の現場経験を有する事が条件とされる他、現役会員2名からの推薦状が必要とされる。そして、年2回行われる理事会の承認を経て、晴れてメンバーになる事が出来る。

このようにVESは、「VFX業界の、プロの、プロによる、プロのための協会」なのである。

VESアワード授賞式とは

VESアワードは、「VFX業界のアカデミー賞」のような存在である。その授賞式では、全世界から応募されたVFX作品の中から、映画、TV(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全25カテゴリー(昨年は24カテゴリー)に及ぶ最優秀作品が、VESの会員投票によって選出される。そして授賞式では、各部門の受賞作品の発表及び表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られる。

月顔トロフィー(筆者撮影)

VESアワード授賞式は、ハリウッドのアワード・シーズンである毎年2月に開催される事が多い。今年は、第92回アカデミー賞授賞式の日程が2月9日(日)と例年より2週間程早まったため、それに伴い各映画ギルド系のアワード授賞式は全て前倒しで行われた。その関係でVESアワード授賞式も1月29日(水)の開催となった(アカデミー賞が「最後の締め括り」となるよう、各アワードの開催スケージュールが組まれている)。

今年で第18回目を数えるVESアワード授賞式。記念すべき第1回授賞式は2003年2月にロサンゼルスのスカーボール・カルチュラル・センターで開催され、それ以降はハリウッドのパラディアム・シアター(2004 第2回~2006 第4回)、ハリウッド&ハイランドのグランドボールルーム(2007 第5回~2008 第6回)、ハイアット・リージェンシー・センチュリープラザ・ホテル(2009 第7回~2011 第9回)と会場を移しながら開催され、2012年の第10回目以降は、ここビバリー・ヒルトンでの開催に落ち着いている。

ビバリー・ヒルトンはビバリーヒルズのサンタモニカ&ウィルシャーの交差点に鎮座する由緒正しきホテルである。ここは毎年ゴールデン・グローブ賞授賞式の開場としても使用されており、1,000人以上が出席する、大規模な授賞式である。

ちなみに、この授賞式は事前にチケットを購入さえすれば、「誰でも」入場する事が出来る。ただし、チケット代は1人500ドル(VES会員は会員割引き価格250ドル)と高額だ。しかし、ハリウッドの著名映画賞の1つで、華やかな授賞式に出席出来て、ディナーもついて、VFX業界の著名人やハリウッドのセレブリティを間近で拝む事が出来るのだから、そのメリットは非常に大きいと言える。

今年のVESワード授賞式のチケットは、ノミネーションの発表後、3日間で完売してしまったという事で、その人気ぶりが伺える(来年の参加を検討しておられる方は、ノミネーションの発表と同時にチケットを購入されるのが賢明だろう)。

授賞式セレモニーの前には、本格的なディナーが楽しめる。もちろん、ディナーはチケット代に含まれている(筆者撮影)

この日のVESアワード授賞式の模様はテレビ収録され、後日、タイムワーナー・ケーブルやスペクトラム・ケーブルで放送された。

先日、筆者がハリウッドの居酒屋「味路」で呑んでいたら、店内のテレビで偶然にもオンエアが流れていてビックリ(筆者撮影)

今年も司会はこの人

俳優パットン・オズワルトによる爆笑司会(筆者撮影)

授賞式セレモニーの司会は、2011年以降、ハリウッド映画でもおなじみの人気コメディ俳優パットン・オズワルトが9年連続で司会を務めている。ピクサー作品「レミーのおいしいレストラン」のレミーの声でも有名なパットン・オズワルトは、今年も絶妙なトークで会場を盛り上げていた。9回目とあって業界ネタにも精通、数々の“VFXジョーク”を連発して場内を爆笑の渦に陥れていた。

今年のハイライト

「ライオンキング」受賞発表の瞬間(筆者撮影)

今年は、「ライオン・キング」が最優秀視覚効果賞[実写映画部門]を始め3部門で受賞。長編アニメーション関連部門では「ミッシング・リンク」が最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]など2部門で受賞。

長編アニメ「アナと雪の女王2」で、最優秀エフェクト&シュミレーション賞[アニメーション映画部門]を受賞した、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのエフェクト・チーム(筆者撮影)

またテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」とNetflixの「ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン3」も、2部門で受賞を果たした。

テレビ・コマーシャル関連部門ではヘネシーのCM「HENNESSY: THE SEVEN WORLDS topped」が2部門で月顔トロフィーを獲得した。

特別賞

VESは毎年、VFX業界で優れた功績を残した人物に特別賞を贈っており、その受賞セレモニーもハイライト・イベントとして行われた。

今年の生涯功労賞(Lifetime Achievement)はマーティン・スコセッシ監督に贈られたが、スコセッシ監督は都合により出席されず、代わりにビデオ・レターでのご挨拶となった。巨匠のお姿をこの目で拝めなかったのは、少々残念であった。

「今回は栄えある賞を頂きながら、出席が叶わず、誠に申し訳なく思っております」とビデオ・レターで挨拶するマーティン・スコセッシ監督(筆者撮影)

またローランド・エメリッヒ監督にVESビジョナリー賞(VES Visionary Award)が贈られた。VESビジョナリー賞は2011年に新設された賞で、これまでにクリストファー・ノーラン監督、アン・リー監督、アルフォンソ・キュアロン監督、J・J・エイブラムス監督、シド・ミード、ヴィクトリア・アロンソ(マーベル・スタジオ)、脚本家のジョナサン・ノーランの各氏が、それぞれ受賞している。

ドイツ人のエメリッヒ監督は、「映画の中で、みなさんの大切なホワイト・ハウスを何度も破壊してしまったのに、このような賞を頂いて申し訳ないです」とユーモアに富んだご挨拶(筆者撮影)

そして昨年新設されたVESクリエイティブ・エクセレンス賞(VES Creative Excellence)が、VFXスーパーバイザーのシーナ・デュガル女史に贈られた。

ステージ上で受賞の喜びを語るシーナ・デュガル女史(VES提供)

今年の著名ゲスト

VESアワード受賞式は毎回、VFX作品にゆかりのあるハリウッドのセレブが、賞のプレゼンターとして登場する事でも話題だ。今年は、

■アンディ・サーキス/俳優
クリエイティブ・エクセレンセス賞(Creative Excellencess)を受賞したVFXスーパーバイザーのシーナ・デュガルのプレゼンターとして。

ビデオ・レターで登場したアンディ・サーキス(筆者撮影)

ジョーイ・キング/女優
VESビジョナリー賞を受賞したローランド・エメリッヒ監督のプレゼンターとして。

VESアワード受賞式のテーブルでローランド・エメリッヒ監督と談笑する、女優ジョーイ・キング(VES提供)

そして、VFXスーパバイザーのパブロ・ヘルマン、俳優&映画監督のジョン・ファヴロー監督、「スター・ウォーズ」シリーズからJ・J・エイブラムス監督とライアン・ジョンソン監督、そしてNetlfixのドラマ「ロスト・イン・スペース」の俳優マックスウェル・ジェンキンスなど、錚々たる顔ぶれがプレゼンターとして登場した。

プレゼンターとして受賞作品を発表するJ・J・エイブラムス監督(筆者撮影)

「アイアンマン」、「ライオン・キング」そして「マンダロリアン」の製作総指揮でお馴染み、また俳優としても知られるジョン・ファヴロー監督(筆者撮影)

ハリウッドで活躍する日本人のノミネート

今年のVESアワードの話題として外せないのが、ハリウッドで活躍されている日本人のノミネートである。

今回は、Scanline VFXの坂口亮氏が、テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」で最優秀エフェクト&シュミレーション賞[ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]に。

Weta Digitalの武田裕史氏が映画「アリータ:バトル・エンジェル」で最優秀コンポジット賞[実写映画部門]に。

Lola Visual Effectsの上原勇樹氏が「キャプテン・マーベル」で最優秀コンポジット賞[実写映画部門]に。

そして、フランスのCyber Group Studiosの田村義道氏が、Netflix映画「クロース」で最優秀キャラクター・アニメーション賞 [アニメーション映画部門]にノミネートされた。ちなみに田村氏はフランス生まれのフランス国籍で、ご両親が日本人なのだそう。

受章こそ叶わなかったものの、VESアワードでノミネートされた功績は大きい。

ぜひ、日本からもノミネートを!

今年も日本からのノミネートがなかったのが残念である。過去のVESアワードでは、日本の作品がノミネートを果たした事があり、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分に期待出来るだろう。来年のVESアワードでも、是非とも日本からの奮っての応募を期待したいものである。

第18回VESアワードの受賞作品一覧は下記の通り(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。

最優秀視覚効果賞 [実写映画部門]
Outstanding Visual Effects in a Photoreal Feature
「THE LION KING」

最優秀助演視覚効果賞 [実写映画部門]
Outstanding Supporting Visual Effects in a Photoreal Feature
「THE IRISHMAN」

最優秀視覚効果賞 [アニメーション映画部門]
Outstanding Visual Effects in an Animated Feature
「MISSING LINK」

最優秀視覚効果賞 [実写テレビドラマ部門]
Outstanding Visual Effects in a Photoreal Episode
「THE MANDALORIAN – The Child」

最優秀助演視覚効果賞 [実写テレビドラマ部門]
Outstanding Supporting Visual Effects in a Photoreal Episode
「CHERNOBYL – 1:23:45」

最優秀視覚効果賞 [リアルタイム部門]
Outstanding Visual Effects in a Real-Time Project
「CONTROL」

最優秀視覚効果賞 [コマーシャル部門]
Outstanding Visual Effects in a Commercial
「HENNESSY: THE SEVEN WORLDS」

最優秀視覚効果賞 [博展映像部門]
Outstanding Visual Effects in a Special Venue Project
「STAR WARS: RISE OF THE RESISTANCE」

最優秀キャラクター・アニメーション賞 [実写映画部門]
Outstanding Animated Character in a Photoreal Feature
「ALITA: BATTLE ANGEL – Alita」

最優秀キャラクター・アニメーション賞 [アニメーション映画部門]
Outstanding Animated Character in an Animated Feature
「MISSING LINK – Susan」

最優秀キャラクター・アニメーション賞 [テレビ番組/リアルタイム部門]
Outstanding Animated Character in an Episode or Real-Time Project
「STRANGER THINGS 3 – Tom/Bruce Monster」

最優秀キャラクター・アニメーション賞 [コマーシャル部門]
Outstanding Animated Character in a Commercial
「CYBERPUNK 2077 – Dex」

最優秀背景賞 [実写映画部門]
Outstanding Created Environment in a Photoreal Feature
「THE LION KING – The Pridelands」

最優秀背景賞 [アニメーション映画部門]
Outstanding Created Environment in an Animated Feature
「TOY STORY 4 – Antiques Mall」

最優秀背景賞 [テレビ番組/コマーシャル/リアルタイム部門]
Outstanding Created Environment in an Episode, Commercial, or Real-Time Project
「GAME OF THRONES – The Iron Throne – Red Keep Plaza」

最優秀デジタル撮影賞 [実写部門]
Outstanding Virtual Cinematography in a CG Project
「THE LION KING」

最優秀モデリング賞 [実写/アニメーション部門]
Outstanding Model in a Photoreal or Animated Project
「THE MANDALORIAN – The Sin – The Razorcrest」

最優秀エフェクト&シュミレーション賞 [実写映画部門]
Outstanding Effects Simulations in a Photoreal Feature
「STAR WARS: THE RISE OF SKYWALKER」

最優秀エフェクト&シュミレーション賞 [アニメーション映画部門]
Outstanding Effects Simulations in an Animated Feature
「FROZEN 2」

最優秀エフェクト&シュミレーション賞 [ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]
Outstanding Effects Simulations in an Episode, Commercial, or Real-Time Project
「STRANGER THINGS 3 – Melting Tom/Bruce」

最優秀コンポジット賞 [実写映画部門]
Outstanding Compositing in a Feature
「THE IRISHMAN」

最優秀コンポジット賞 [実写テレビドラマ部門]
Outstanding Compositing in an Episode
「GAME OF THRONES – The Long Night – Dragon Ground Battle」

最優秀コンポジット賞 [実写コマーシャル部門]
Outstanding Compositing in a Commercial
「HENNESSY: THE SEVEN WORLDS」

最優秀SFX部門 [実写/アニメーション部門]
Outstanding Special (Practical) Effects in a Photoreal or Animated Project
「THE DARK CRYSTAL: THE AGE OF RESISTANCE – She Knows All the Secrets」

※今年新設された、撮影時のプラクティカルなエフェクト(特撮)を対象とした新カテゴリー

最優秀視覚効果賞 [学生作品部門]
Outstanding Visual Effects in a Student Project
「THE BEAUTY」

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。