txt:VISIONGRAPH Inc. 構成:編集部
急速に発展する音楽体験の未来
新型コロナウイルスの影響により、エンタメコンテンツとしての音楽の消費の仕方が大きく変わろうとしています。従来は現場に足を運び、生の演奏を楽しむ事が何よりも大切にされいたコンテンツですが、コンサートのほとんどが中止になり、音楽業界は危機的な状況にあります。それでも、無観客ライブのインターネット配信など、オンラインで実施可能な様々な試みが模索されている中で、新たなテクノロジーを意欲的に取り入れる事で、これまでとは異なる音楽体験が誕生し始めています。
今回は、中止となってしまったSXSW2020で予定されていたプログラムの事例を中心に、コロナ以降リアルタイムに行われたいくつかのオンラインイベントの試みを交えながら、急速に発展する音楽体験の未来を予報します。
SXSW2020“FUTURE OF MUSIC”トラックの注目セッション
SXSW2020のカンファレンスでは、22のトラックと呼ばれるテーマに分かれて2000以上のセッションが開催される予定でした。音楽をテーマにしたトラックは“FUTURE OF MUSIC”と、“CREATING & MANETIZING MUSIC”の2つがあり、その名の通り音楽の未来像と、アーティストの音楽制作や収益化に関する議論がプログラムされてました。そんな数多くのセッションの中から、特に音楽体験の未来を感じさせるようなトピックをご紹介します。
■1.アーティストの権利と収益を守るブロックチェーン技術
SXSWでは以前から、「アーティストの権利をどのように保護していくべきか」という議論が活発に行われています。ここ近年、急激にストリーミングが中心となった音楽業界で、アーティストに対して公平な利益が分配されるために、ブロックチェーン技術を活用すべきだというセッションがいくつか見られます。コロナ禍でコンサート収益が無くなってしまった現状では特に、アーティストが生き残るためには、消費者のコンテンツに対する支払いがアーティストに還元される仕組みが見直されるべきでしょう。これからのアーティストの収益化の形を変えるかもしれないサービスをいくつかご紹介します。
Blockchain for The Music Industry
中国発のストリーミングサービスSoundArioは、ブロックチェーン技術により楽曲が再生された総時間を記録し、時間に応じた報酬がクリエイターに毎日振り込まれるというストリーミングサービスで、既にテスト版が公開されています。更に、クリエイターだけでなくリスナーとしても、楽曲のプロモーションを行い再生時間を延ばす事で報酬が貰えるという仕組みも導入されています。アーティストをファンが支える新たな仕組みと言えそうです。
The Future of the Supply Chain in Music
アーティストやレーベル向けの音楽配信マネジメントサービスを展開するFUGAでは、複数の配信プラットフォームとの契約を一括管理し、マーケティングやマネジメントに役立つデータ解析ツールを提供しています。アーティストがより独立した活動を行えるような環境をテクノロジーでサポートする仕組みです。
Verify Mediaでは、共同制作者の多いコンテンツにおいて、音楽制作に関わる各クリエイターの権利をデータ化で明確にし、収益分配が最適化される仕組みを開発しています。近年は1つのヒット曲に何人ものプロデューサーやコラボレーターが関わる事が一般的になり、昔に比べると収益分配はより複雑化しています。音楽制作の方法や消費のされ方が大きく変わった現在、クリエイターには従来のビジネスモデルからの脱却が求められている事がよくわかります。
■2.A.I.が作曲する未来の音楽
ブロックチェーンと同様に、音楽業界と最新技術のトピックにおいてもう一つ頻繁に登場する話題がA.I.による作曲です。ヒットチャートの上位になる曲の構成や特徴をマシンラーニングにより学習し、データに基づいた「売れる曲」を作る事ができると言われています。A.I.が作ったヒット曲で踊る人々は、果たして機械に踊らされている事になるのでしょうか?SXSWでは倫理観の問題も含めた議論が行われています。
The Aesthetics of Future Music
ADAM NEELYは、コードやリズムの特徴を解説し、様々な作曲方法の動画を配信しているアメリカの人気Youtuberです。アーティストだけでなく、一般の音楽好きな人が動画を見ているだけでも、音楽の勉強になります。実験的な動画も多く、最近では感情を表す絵文字から音楽を作るという企画にチャレンジしています。
The Role of Humans in Music AI
AIによる音楽制作サービスを開発する会社LoudlyのCEOは、その役割を奪われる可能性のあるDJやプロデューサーとのパネルセッションを企画していました。AIにできる事と、人間にしかできない事の境界線は果たしてどこにあるのでしょうか。AIは人間の仕事を奪う敵になるのか、それともより良い音楽制作の相棒になるのか、非常に興味深いトピックです。
こちらはSXSW2020の中止後にオンラインセッションが行われ、YouTube上で公開されています。
■3.音楽体験を劇的に変えるAR/VR技術
私達の音楽体験を劇的に変えるのと言われているがAR/VR技術です。既に生活の中へ浸透し始めたAR/VRですが、音楽の現場でも導入が始まっています。例えばCoachella2019では、ステージの一つにライブ音楽と連動するARインスタレーションが取り入れられました。非現実感を楽しむ音楽フェスでのAR体験の没入感は抜群でしょう。
SXSWでもAR/VRはよく議論されているトピックで、2020年は音楽体験との融合に関係したセッションが数多く予定されていました。SXSW2020の今年のトレンドのひとつに、“New Tech Redefining Entertainment Industries”があります。XRやホログラム技術を使用した音楽ライブなど、テクノロジーとの融合によるエンターテインメントの進化が話題となりそうでした。音楽体験が劇的に面白くなりそうな、わくわくする話が聞けそうなセッションをいくつかご紹介します。
Concerts in the Era of Spatial Computing
前述のCoachellaのDigital Innovation Managerが登壇し、実際に音楽フェスティバルでARが導入された舞台裏の話を聞けそうなセッションです。コロナ禍により2020年の音楽フェスティバルは相次いで延期や中止となっていますが、今年はさらに面白い試みが予定されていたかもしれません。
The Future of Live Music: Blended Realities
XRイベントのプロデューサーやChildish Gambinoのコンサートを再現するARアプリ「PHAROS AR」のクリエイターによるセッション。このアプリでは、実際に行われた映像演出を駆使した実験的なライブをアプリ上で追体験できます。
VISIONGRAPH Inc.のnoteでは、歴代のSXSWに関してのレポートをmagazine形式でまとめて公開中です。ぜひそちらもご覧くださいませ。