txt:VISIONGRAPH Inc. 構成:編集部
オンラインだからこそ可能なライブ配信の新たな試み
新型コロナウイルスの影響により、SXSWを始め大小問わず多くのライブイベントやフェスティバルが中止になり、代替案としてオンラインでのライブ配信が数多く行われるようになりました。自宅にいながら好きなアーティストのコンテンツを楽しめるのは便利ではありますが、やはり生の現場での音楽体験に勝るものはありません。
そんな中、単なる代替案としてではなく、オンラインだからこそ可能な新たな試みも生まれています。
■1.フォートナイトのバーチャル空間で行われたTravis Scott:ASTRONOMICAL
コロナ後のオンラインイベントの中でもひときわ話題になったのが、フォートナイトというオンラインゲームの世界で行われたTravis Scottによるバーチャルコンサートでした。サイケデリックなバーチャル世界で行われるコンサートに自身のアバターで参加する事ができ、全世界から合計1,200万人以上もの人々が集まりました。
バーチャル空間では、楽曲に合わせた様々な映像演出が組み込まれた異世界を歩き回りながらライブを体験できます。アーティストのライブ配信はこれまで一方通行なものが多かったですが、これからは視聴するだけではなく、インタラクティブに参加するという方法が主流になるかもしれません。
■2.自宅を音楽スタジオに変えるVR技術
オンライン配信では、どうしても弾き語りによるソロの配信が多いですが、離れた場所にいるアーテイスト同士でリアルタイムのバーチャルセッションが可能になる技術も登場しています。SXSW2017に登場したスタートアップのThe Music Roomというアプリでは、VRゴーグルとコントローラーを使って、仮想空間上のスタジオで複数の楽器を演奏できます。
さらに、YAMAHAのオンラインセッションサービスSynchroomを利用し、複数の離れた場所にいる人々が同時に演奏できるようになれば、離れた相手とも一緒に音楽を奏でる事が出来るようになります。オンラインでの飛び入りセッションや、オープンマイクのイベントが開催されるようになるかもしれません。
■3.オーディエンス同士が交流するバーチャルダンスフロア
コロナ以降のライブ配信では、オーディエンスがそれぞれの自宅で視聴するだけではなく、オンライン上で他の視聴者と交流する場所が誕生しています。日本で行われたRainbow Disco Clubや、Rovoのライブ配信では、Zoomを使ったバーチャルダンスフロアが用意されました。画面越しに参加者がそれぞれの場所で踊っている様子が見えるというものです。クラブやライブハウスでは当たり前だった自分以外のオーディエンスの存在を、画面越しに感じる事でイベントとしての盛り上がりが生まれたように思います。
海外の事例を見てみると、Zoomを使ってゲイクラブを再現するClub Quarantineというイベントが話題になりました。外出できない状況においても、それぞれが自宅のパソコンの前で、メイクしたりオシャレをしてオンライン上での交流を楽しんでいます。著名人やドラァグクイーンも登場したようで、エンターテインメントが行われる場所が、現実のクラブから仮想空間へそのまま移行したような感覚を味わえます。
このようなオンライン上の場所を提供するサービスに、VRやAR技術を組み合わせる事ができれば、もっと面白い体験が生まれるのではないでしょうか。まだまだ進化の可能性が秘められています。
まとめ
3つの音楽体験の未来像を紹介させていただきましたが、コロナ禍の状況でも希望を持たせてくれるような試みがたくさんあります。SXSWでは数年前から最新技術を取り入れた未来の音楽体験についてデモがありましたが、まさにその体験が現実になっているのを感じます。
これまでの音楽の楽しみ方が制限されてしまい、半ば強制的な変化を求められるこの状況下で、それでも音楽というエンターテインメントが生き残るためには、従来の型に縛られない挑戦が必要とされています。今こそブロックチェーンやXR等の新しい技術を活用したサービスが、一気にメジャーになるチャンスと言えるかもしれません。
VISIONGRAPH Inc.のnoteでは、歴代のSXSWに関してのレポートをmagazine形式でまとめて公開中です。ぜひそちらもご覧ください。