txt・構成:編集部
放送現場の世界とは
「Broadcast&Cinema EXPO」第一回「FUJINONスペシャル」では、ゲストに「FUJINONレンズの魅力」や「撮影現場の今」について語っていただいた。
「映像人」の第二回は、FUJINONスペシャルに登場いただいたゲストの中から、株式会社フジ・メディア・テクノロジーの吉池憲太郎氏と中井章晴氏、MCを努めた仲雷太氏のインタビューにPRONEWS編集部の質問を加えて記事にまとめた。二人が語った「放送カメラマンへの道」を紹介しよう。
吉池憲太郎氏
カメラマン歴25年。モータースポーツ、ボクシングを中心に活躍。現在はTDを担当。中井章晴氏
VE歴30年。バラエティ、報道、スポーツなど幅広く携わる。フジ・メディア・テクノロジー制作技術部長。
小学生の頃の憧れや体験が業界を目指すきっかけに
――お二人の経歴や関われれている業務内容を教えて下さい
吉池氏:カメラを担当しており、入社30年目になります。今、主にやっている番組は、モータースポーツの中継です。モータースポーツは入社当時から担当しており、カメラアシスタント、カメラマン、スイッチャーを経て今TDのポジションを担っています。
中井氏:私はずっとVEです。入社してから30年VEとしての経験を経て、今は現場ではなく吉池が所属している制作技術部のマネージメントのデスク業務を担当しております。現場自体は、中継、スタジオ、ロケを経験してきました。
2020年7月8日にライブ配信した「Broadcast&Cinema EXPO」のインタビューシーンより
(左)MC:仲 雷太 a.k.a. raitank、(中央)中井章晴氏、(右)吉池憲太郎氏
――何がきっかけでこの業界を目指すようになりましたか?
吉池氏:小学校のとき、大泉の実家近くに東映東京撮影所があり、ドラマや戦隊シリーズ、昔でいうスケバン刑事などのドラマ撮影を行っていました。現場を覗くとカメラマンがドンと座って、「あれが違う」「これが違う」といった感じでいろんな人達に指示を出しているのがかっこよかったです。
遠くから見ていて、小学生だった僕はその姿に憧れました。小学校の卒業文集には、将来の夢としてテレビカメラマンになりたいとも書きました。そして、幸いなことに拾っていただけました(笑)。
中井氏:私も奇遇なことに、同じく小学生の時ですね。でも私の場合は撮影現場を見たわけではありません。小学校には委員会活動があり、放送委員会に所属しました。その時に、人に伝える恐ろしさ、面白さみたいの経験して、放送の仕事に携わりたいなとぼんやりイメージしました。
――入社後は希望の部署に配属出来ましたか?
吉池氏:初めに「きみVEどう?」と言われました。同期が何名もいますが、私はVE向きだと思われたみたいです。そこで、「カメラマンになりたいので、VEだったら僕辞めます」といったら、カメラになることはできました。ラッキーでした(笑)。
中井氏:放送に関わりたいといえば、みんなカメラマンを目指しますよね。私も目指していましたが、入社したら「VEになれ」と言われ、「あれ?VEか」と思いました。VEは面白そうじゃない、暗がりで魅力もない、と思っていたので本音を言うと1mmもやりたくありませんでした(笑)。しかし、同期に見るからにカメラマンみたいな人がいたんですよ。そいつには敵わないと思い、「ではいいです。お譲りします」という感じでVEになりました。
しかし、VEをやってみたら悪くないなと思い、それから30年間VEとして様々なお仕事を経験することができました。
――入社後はどのようなジャンルの番組に関わられましたか?
吉池氏:最初にカメラをやらせてもらったのが、女子プロレスです。弊社の中では結構厳しい先輩達がついている現場でした。そして、カメラをやらせてもらって数年で仕事中に膝を大怪我し、3か月入院して半年休んで仕事に戻ってきたら、自分の戻る場所がなくなっていました。その時に「モータースポーツの仕事があるよ」と言われ、アシスタントから始まり、カメラマン、スイッチャーを経て、今はTDのポジジョン任されています。
中井氏:私はおかげ様で、色々なジャンルの番組をやらせていただきました。バラエティ、歌番組、中継、報道、ロケなど、ほぼ全ジャンルを経験していると言っても過言ではありません。
――入社後の苦労を教えてください
吉池氏:入社して、凄く厳しい先輩についていたので相当きつかったです。これは厳しいと思いました。ただ、「辞める」なんて言えない環境でしたし、そんなことを言えないぐらい先輩たちも本気で教えてくれました。それにどうやって答えたらいいだろう、と思いながら気がついたら30年が過ぎていました。
――そのときに叩き込まれた教訓は今でも活きていますか?
吉池氏:もちろんそうですね。そのときに考えながらやってきたことは、気がついたら同じことを後輩たちに教えています。
――日頃の業務でもっとも意識して取り組んでいることは何でしょうか?
吉池氏:カメラマンとしては、そこにいる主役をいかにかっこよく撮ってあげるか?スポーツでいえば、フレームにいる主役をいかにかっこよく見せてあげるか?です。どうやって見せたら、主役がかっこよく映るのか?そういうのを意識しながらやっています。
モータースポーツだったら、ばっと動くマニューバを見せてあげて、そこから抜いた後に、「こいつが抜いたんだよ」って見せてあげる。過程をきちんと見せることで、一番の主役が誰なのかを忘れない作り方をしています。
中井氏:今、私は現場を離れてしまって、マネージメントのほうが主なんですが…VEは影の作業です。最近変わってきたのは、VEはカメラマン、音声、映像を切り替えるスイッチャーの色々な話をまとめていく作業があります。このコミュニケーションなど、みんなのインターフェイスになれるように気をつけて作業していました。
制作現場で見ているモニター環境は正しくない?!正解はどこにある?
――今の4K番組は、4Kで撮られていなかったり、4Kで作られていません。ある種ジレンマがある過渡期の状況と言えますが、御社の制作スタンスはどのように考えてらっしゃいますか?
中井氏:正直に言ってしまうと、まさにおっしゃる通りです。恐らく4K解像度、HDRの部分は、非常にVEが悩んでる部分だと思います。我々制作現場で見ているHDや4Kは、圧縮をしていないネイティブの信号を見ているわけです。そこからいろいろ味付けをしたり、作り込んだりしています。
ご存知のように、放送波は配信のパイプを通ることによって圧縮されて、皆さんがそれぞれ視聴環境で見られた時には同じ解像感ではない、同じダイナミックレンジではないものになります。となると、我々が放送機器として見ている、信号、モニター環境は、果たして正しいのか?ここで見ているものは何だろうか?非常にここ数年、悩んでいます。
弊社は中継車も所有しており、中継車を一般の方にご覧いただくCSR活動にも取り組んでいるので、一般の方がまさに先ほど申し上げた圧縮をしていないネイティブの信号を見られる貴重な機会もあります。そういうときに、こちらも意地悪してHDと4Kを並べて見たりします。そうすると、皆さん「4K綺麗ですね」とHD信号を見て言います。
ネイティブの信号は、それだけ威力があります。先ほど申し上げたように、いろんなパイプを通っていくと、同じように見えなくなる。そのため、一般の方がネイティブのHDを見た時に4Kと勘違いするぐらいのパンチがありますが、パイプを通って皆さんが見ている4Kは全然違う。我々はどう意識して、どう理解して作り込んでいくかは、実はいま正解がないことをVEは正直感じていると思いますね。
――特に最近、テレビの補間機能が余計であることも話題になりました
中井氏:色味が一番問題になっています。放送用機器のマスモニのスペックで見ているものは、いったいなんのためなんだろう。笑い話で、VEのマスモニに民生機を入れたほうがいいんではないか?皆さんが見ている信号で見るという意味では、そのほうがいいのではないか?という話が出るぐらいに、迷走しているのが正直なところです。
――そういう場合、現場で実際に撮影されるカメラマンとしては、どういう思いで撮られていますか?
吉池氏:実際に撮影するカメラマンとして何を変えているかといったら、何も変えません。今日は4Kだから。今日はHDだから。でも、やることは一緒なんですよ。伝えなきゃいけないものは同じなので、同じことをやるのは間違ってないと思います。
ただ機材が違えば多少撮れる画が変わってきます。本当は広い画を撮りたくても、HDレンズだと歪んでしまうこともありました。しかし、4Kのワイドレンズは本当に歪みません。ドン!と引いたかっこいい画が撮れる。そういう違いは多少あるとは思います。
――全ての映像を作る時の入り口はレンズですよね。4Kレンズが2~3年ぐらい前から主流になってきましたが、御社の制作フローの中で定着する方向にきていると考えてよろしいですか?
中井氏:そうですね。
吉池氏:恐らくこれから買うのであれば、HDレンズではなく、4Kレンズになると思います。これから長くもありますし、キレもいい。選択肢としては、4Kレンズになる気がします。
社内の九分九厘はFUJINONブランドのレンズを導入
――カメラマンにとって、レンズは、ピント、絞り、ダイヤルの重さなどは大変気になるのではないかと思います。そのへんに関して、FUJINONレンズはいかがでしょうか?
吉池氏:実は弊社からFUJINONさんにお願いしている硬さがありまして、標準とは違います。なので、弊社のカメラマンは、ズームもフォーカスもこの固さに慣れています。
――御社もFUJINON以外のレンズを導入していると思いますが、その辺の使い分は何かありますか?
吉池氏:うちの会社的には、実は九分九厘FUJINONです。昔から弊社はFUJINONでずっと慣れています。特に丸玉のズームの感じ、ズームとアイリスの距離感など、フォーカスを回す感じなどが多少他社と違います。他社のレンズを使う場合は、感覚が慣れるまでに1時間ぐらいかかります。
――VE的な信号の面でも、FUJINONレンズを選ぶ理由はありますか?
中井氏:弊社のレンズ選定は、カメラマンが中心になります。レンズの周辺機器はレンズメーカーごとに変えなければいけない部分もあります。ですので、カメラマン中心でFUJINONで行きたいと言われると、VEは「そうね」という感じです(笑)。
――吉池さんと中井さんにHDレンズと4K放送用レンズを4K対応のスタジオカメラにつけて撮影をしたものと、HDスタジオカメラにHDレンズ、HDカメラに4Kレンズをつけたて撮影をした比較映像を見ていただきました。どういった感想をお持ちになりましたか?
吉池氏:4Kレンズは、広い画を撮ったときに周辺まで切れがありますよね。HDとのレンズでルーズショットを撮ると、周辺はボケてくるのが見受けられます。長玉だとレンズが真ん中辺りしか使っていない。周辺の様子はわりずらいと思います。引いたときはレンズのすべてを使っているので、周辺がボケているのがわかります。
――4Kに4Kレンズ、フルHDのカメラであっても4Kレンズをつけたほうが、圧倒的に綺麗ですね
中井氏:我々も気にしていた部分で、HDのカメラに4Kレンズをつけたときにどういう効果があるのか?理論値やスペック的には綺麗なのはわかっていました。実際に一番気になる部分を比較してると思います。
同じHDだけど、4Kレンズのほうが解像度と画のヌケ感がいい。色なども各メーカーさんが自信を持って出されているだけに、圧倒的に「4Kレンズを使えたほうがいいね」という判断を弊社はしています。
――御社の中でも、HDレンズもまだ併用されていると思いますが、そのへんの使い分けなどはありますか?
吉池氏:実はそれほど使い分けてはいません。ただ、現場で4Kレンズだと「今日はラッキーだな」と思います。
――スポーツ関係の中継だと長玉が多いかと思います。そういったジャンルの撮影でも、4K放送対応のレンズを選びますか?
吉池氏:長玉のレンズを使っていても、遠くから選手ばかりを撮っているわけではありません。途中でビューティーを撮ったりすることもあります。そういうときに、4K対応のレンズはぜんぜん違いますね。あとは、長玉で撮っている場合、エクステンダーを入れた時はちょっと違って解像度が落ちない感じがしますね。
――そうすると、御社でも4K対応レンズをすでに繰り返しテストされたと思うのですが、改めて4Kレンズはいいね、となりますか?
吉池氏:そうですね。比較するとよいですよね。値段もよいですが(笑)。
カメラマンにとってレンズは武器
――今後のパートナーシップの中で、FUJINONに望まれることを教えてください
吉池氏:カメラマン、オペレートするカメラマンと設計を担当する方、そういう方との接点を今まで以上にもっと持ちたいなと思います。例えば「こういうレンズがほしいんだけれども、どうですか?」「それはこういう理由だからできません」というようなディスカッションの場は今ままでもありましたが、もっと機会が増えたらと思いますね。
いままでも、何度かやらせていただいていますが、非常にカメラマンとしては、勉強になりました。「ほしいレンズはどんなレンズですか?」と言われたら、「引けて、寄れるレンズ」です。最高のレンズではないですか?なんでできないのか?とか、そういうところまで、説明してもらいたいです。
「これを実現するには、これだけ巨大なレンズになります」とか、そういうのを笑い話も含めて話ができる場があるといいかなと思います。メーカー側も「あっ、今カメラマンたちはこういうのを求めているんだな」「この会社の人たちは、こういうレンズがほしいんだな」など多少、わかるのではないかと思います。もっとそういうところのコミュニケーションを実現できたらいいかなと思いますね。
中井氏:まさにその通りで、レンズって、突然激的に何かが変わるとは考えにくいです。四角くなることもないでしょうし、極端に軽くなることもないでしょう。そうすると、やっぱり、吉池が言った我々エンドユーザーが、勝手に欲しいと思ってるものが実現できる、出来ない、というディスカッションが必要と考えています。光学系は非常に難しいのですが、幸いなことにFUJINONさんとは、そういうお付き合いができています。
例えば、「アイリス値は設計段階で4Kレンズだと、4以上開けたほうが美味しいですよ」と言われますが、実際カメラマンは開けると非被写界深度が浅くなるのを嫌います。今の野球中継は絞り10でやっていますよ。
つまり、我々は設計段階でレンズの美味しいところを実は使えていなかったりしている。その辺の理屈をきちんと我々ユーザーが理解して使えていないんだなというのがあったりするのが現状なのです。当然社内での伝承ということもありますが、そういった技術的なご指導を引き続きご協力いただければ、我々も設計の方が狙っているおいしい場所をポイントとしても使えるんではないかなと思ったしますね。
――最後に自分ならでは、もしくは御社ならではのこだわりや情熱があるところを教えてください
吉池氏:カメラマンにとってレンズはやはり「武器」なんですよ。唯一持てる武器。例えば、そこにいる主役に思いっきり寄ったり、静かに寄ったり、どういう寄り方をするのか。そういうのを表現できる武器なんですよね。そういう武器をもっと、若い人たちはどういう過程を経て、このレンズがでているのか?どういう過程を経て、ここにあるのか。どうして、このレンズを使えるのか?などをいろいろ考えて、レンズを扱ってほしいですね。
今の若い人たちは、ここにこのレンズがあるから使います。このカメラにこのレンズがついているから、このレンズでやりますと、当たり前にやっていますが、そういうところをもっと、自分の武器を自分で選定して、戦ってほしいなと思います。
中井氏:やはり我々が作っている放送、配信、パッケージなどのコンテンツは、見てくださる方がいらっしゃるというところに向けて、みんな作業をしています。なので、やはり忘れちゃいけないというのは、観る側の気持ちです。
視聴者は、若干画質が落ちても見えることが大事という側にちょっとずつシフトしている可能性があります。そうすると、我々がいかに綺麗、ダイナミックレンジ広いですよ、と言ったところで見たいものが映っていなければ、やっぱりそれは観てる方の気持ちに寄り添いてないなと思います。
テレビの業界のハンドリングは、制作に携わる人間がしますが、やはりそこは技術側からも物申して、観る側の気持ち、見せるべきものをきちんと整理して伝えていくことは必要だと思います。
「Broadcast&Cinema EXPO ~FUJINONスペシャル~」の株式会社フジ・メディア・テクノロジーの吉池憲太郎氏と中井章晴氏インタビュー映像。こちらも是非ご覧いただきたい