txt:VISIONGRAPH Inc. 構成:編集部
最新XR技術を導入したライブエンターテインメント
アメリカのビルボードチャートで韓国のボーイズグループBTSが1位を獲得した事が日本でも話題となりました。その他にもBLACKPINKがLady Gagaの楽曲に参加したりと、今年はK-POPが世界的な躍進を果たした年と言えるでしょう。
ハイレベルなダンスや歌のパフォーマンスが評価されているのはもちろんの事、彼らの躍進の秘訣となったのは、ステージのビジュアル面を含めたライブエンターテインメントとしての完成度にあると思います。このコロナ禍でもいち早くオンラインコンサートを開催し、世界中のファンにクオリティの高いコンテンツを提供し続けていますが、実はコロナ以前からK-POPのコンサートでは最新のXR技術をいち早く導入しています。
今回は近年のK-POPの盛り上がりから、積極的にXR技術を導入している挑戦的なライブエンターテインメントの事例をピックアップしてご紹介します。
ゲームのキャラクターとK-POPアイドルが共演し、熱狂を呼んだステージ演出
2018年にオンラインゲーム”League of Legends”の世界大会のオープニングセレモニーとして行われたリアルイベントでは、K-POPアイドルとゲーム内キャラクターがステージ上で共演し話題となりました。ステージでリアルなライブパフォーマンスが行われる中、スクリーン上の映像にはARのキャラクターがリアルタイムに合成されており、まさにリアルとバーチャルが融合したライブ体験と言えるでしょう。
このコロナ禍で特にオンラインゲーム市場が注目されている事もあり、このような相性の良い融合領域はこれからさらに進化する可能性を感じます。リアルのパフォーマンスにもバーチャルの要素をうまく取り入れていく事が、オンライン・オフライン両方の機会において今後のライブエンターテインメントのカギとなりそうです。
Tシャツにプリントされたメンバーがスマホアプリで動き出すARを活用したグッズ展開
男性アイドルグループのSuperMが2019年にデジタルアルバムをリリースした際に、同梱グッズとして各メンバーのプリントされたTシャツを販売しました。そのTシャツを専用のスマホアプリで読み取ると、プリントされたメンバーがARで動き出します。
CDではなくデジタルアルバムという形で楽曲を発表したのに対して、物質的なグッズであるTシャツにバーチャルな新しい価値を持たせて販売した点が、対照的で非常に面白い試みだと感じました。この他にも、コンサートの紙チケットやブロマイド写真にもAR効果を付け加えて販売しており、積極的に新しいテクノロジーを取り入れる事で、ファンに対して新鮮なエンターテインメント体験を提供しています。
AR映像演出を取り入れた独自のライブ配信プラットフォーム
コロナ禍でリアルのコンサートができない状況の中、韓国の大手芸能事務所は新たにライブ配信プラットフォーム”Beyond Live”を立ち上げ、所属アーティストのオンラインコンサートを次々と配信しました。この配信プラットフォームでは、ステージに巨大な龍や虎が登場したり、ファンが送ったリアクションがエフェクトになって浮かび上がったりと、AR技術を駆使した映像演出を巧みに取り入れています。
さらに、抽選で選ばれたファンと映像を繋いで会話したり、チャットで流れてくるコメントを読み上げたり、リアルタイムで交流できる仕組みを導入。視聴者が積極的に参加できるポイントを盛り込むことで、配信コンサートをただ単に視聴するだけではない体験に昇華しています。
今年5月に行われたSUPER JUNIORのライブ配信では、全世界から12万人以上の視聴者数を記録。リアルのコンサートとは異なり、世界中のファンを対象に開催できるため、コロナ禍で落ち込む音楽業界においては収益化の面でもかなり大きな成功例と言えるでしょう。
世界100ヵ国以上から75万人が参加したBTSのオンラインコンサート
6月に行われたBTSのオンラインコンサートは、史上最多のライブ視聴者を集めたイベントとしてギネス記録に認定。世界100ヵ国以上から75万人という数字は、コロナ禍でのオンラインコンサートだからこそ実現した記録と言えるでしょう。
10月に行われた2度目のオンラインコンサートではさらに規模が大きくなり、110万以上のハートリアクションが送られたと発表されています。楽曲に合わせて変化するバーチャルのステージセットは、最新の映像技術を駆使して作り込まれた完成度の高いもので、リアルのコンサートでは見られない特別なパフォーマンスとなりました。
まとめ
近年の韓国エンターテインメント業界は、自国やアジア圏内だけでなく世界市場をターゲットに据えて積極的なアプローチをしてきました。このコロナ禍の状況でさえも逆にチャンスと捉え、最新の映像技術を積極的に取り入れている様子からは、時代に合わせて進化しながら閉塞感を打ち破ろうとする強さと可能性を感じる事ができます。
アーティスト自身や従来のイベント関係者だけでなく、配信や映像の分野のプロフェッショナルを巻き込んでコンテンツを作り上げる事で、非常に完成度の高いエンターテインメントを世界に向けて発信する事に成功しています。K-POPのキラキラした世界観が、XR技術が再現するバーチャルな世界との親和性が高い事も成功要因の一つと言えるでしょう。
今後、コロナ後に再びリアルなコンサートが行える状況が戻ってきたときには、今行われている様々な実験的な試みを経由して、どのような新しいライブ体験を生み出していけるでしょうか。時代の転換期、クリエイターに求められていることは大きいと考えています。
VISIONGRAPH Inc.のnoteでは、歴代のSXSWに関してのレポートをmagazine形式でまとめて公開中です。ぜひそちらもご覧ください。