txt・構成:編集部
CM、映画、ドラマ制作現場の今
「Broadcast&Cinema EXPO」シネマカメラ用ズームレンズ「Premista」特集では、ゲストに実際の撮影現場でのPremistaシリーズの使用感や有用性、「Premista 19-45mmT2.9」について語っていただいた。
「Broadcast&Cinema EXPO」シネマカメラ用ズームレンズ「Premista」特集は見逃し配信を行っている
今回の「映像人」はその特集をうけ、株式会社ティーエフシープラス/OND°の小宮山充氏と、株式会社ティーエフシープラスの細田淳一氏に「カメラマンへの道」についてお話を伺った。
小宮山充氏
株式会社TFCPlus/OND°シネマトグラファー。1993年東北新社入社。2002年よりカメラマンデビュー。人物を美しく撮る事に定評があり、数多くのCM、映画撮影を手掛ける。最新作映画「夏への扉」は2021年初春公開予定。細田淳一氏
株式会社TFCPlus技術部部長/撮影部部長代理。1991年東北新社入社。撮影機材を担当。カメラマンリスペクトをモットーとし、技術説明のわかりやすさから、勉強会など多くの講義も請け負う。
子供のころから映画好きで、映像業界を目指す
――まずは現在のお仕事について教えてください。
小宮山氏:カメラマンをやっています。ティーエフシープラスは東北新社が母体のカメラマンとDITの集団で、多くの機材も取り揃え、主にテレビコマーシャルがメインとなります。僕もCM撮影がメインでしたが、最近はいろいろな流れで映画撮影の依頼が多くなりました。今では年に2本ぐらいのペースで映画を撮っています。
細田氏:僕は技術部で、機材全般を担当しています。特にレンズが得意分野で、レンズの調整やレンズの評価を手掛けています。例えば、小宮山カメラマンが「どんなレンズがいいですか?」「あのレンズどうですか?」と聞かれたときに答えられるよう、普段から詳細を調べたり、機材導入に携わっています。
小宮山氏:細田さんとは同じ学校なので学校の先輩でもあります。
細田氏:さらに、僕も小宮山カメラマンも師匠が同じです。
小宮山氏:元々、東北新社に入る前、師匠の会社で一緒だったので、もう数十年の付き合いとなります。
(左)MC:仲 雷太 a.k.a. raitank、(中央)小宮山充氏、(右)細田淳一氏
――お二人が映像業界を目指したきっかけを教えてください
細田氏:僕は子供の頃から映画をよく見ていました。テレビとか見ていても、何で映画と画が違うのだろう?と思っていました。映画の中でも、特に「スター・ウォーズ」には衝撃を受けました。なので、映像、特に映画など、なんでもいいから関わりたいと思っていました。監督、カメラマンなど、撮影には色々な役割がありますが、とにかくなんでもいいので小さいころからこの業界を目指していました。
小宮山氏:僕もそうですね。中学校の卒業文集に「スター・ウォーズ」を撮るために渡米するって書きました。中学生のときはまったく勉強せずに、映画の本ばかり読んでいました。
――細田さんはなぜカメラマンではなく、技術部の道を選ばれたのでしょうか?
細田氏:僕は結構メカが大好きで、早いうちにカメラマンではなくて技術部を希望しました。
僕らが若いときは、会社に入らないとメカもカメラもいじれない。触ることさえできませんでした。学生のときは16mmフィルムしか触れませんでした。35mmフィルムを見たときに、でかっ!と思ったのを覚えています。社会人となり入社して初めて触れたときの感動は大きかったですね。
今の学生は、頑張ればお小遣いでいいカメラが買えます。そのためなのか、最近は以前より「技術(機材)をやりたいです」という人が増えています。
小宮山氏:僕はカメラマンになりたかったので、細田さんが技術部を選んでくれて「よし、ラッキー!」と思いました(笑)。それは、カメラマンは入社順ではありませんが、だいたい入社順になっていくことが多いです。カメラマンは横綱みたいなものだと思うんですよね。
先輩は優秀だし、カメラマンになるには先輩を越えなければと思っていましたから。だから「そうか。俺カメラマンになるチャンスあるかも」と思ったことがありました(笑)。
――今まで様々な現場を経験されたと思いますが、その中でも思い出に残る現場を1つ教えてください
細田氏:技術部だと、若いときの辛い思い出しかありません(笑)。フィルムの頃はトラブルがあると機材を検証します。「傷がでている」「画面が揺れている」「パララックスがあるのではないか」。それを深く探って真相まで検証します。でも、それが楽しい。
レンズに関しても、ハレーションが入ると昔は事故でした。「なぜハレーションが入るんだ!」みたいな話になると、「もう、知らないよ!」みたいな感じでした(笑)。
小宮山氏:僕の思い出の現場は、カメラマンとして参加した、広瀬すずさんと山﨑賢人くん出演の実写映画「四月は君の嘘」です。カメラマンとして立っていて、泣きそうになったことがあります。
2人で楽器を演奏する一番クライマックスのラストシーンがありました。僕はそこでクレーンに乗って撮影をしていました。大音量でラストの曲がかかる。悲しいメロディーラインの部分で2人は凄くいい表情をしていて、恥ずかしながら、完全にストーリーの中に没入していました。
カットがかかり、スタッフに「小宮山さん次どこ撮ります?」って言われたたときは、「頼むから俺に声をかけないで。今、動いたら泣く」という感じでした(笑)。
あと、テレビCMのときは感じませんでしたが、映画の撮影で「カメラマンになったんだ」と思った瞬間がありました。テレビCMは意外と短いスパンで撮影する作品が多く、一番ピークで週1本、年間40~50本ぐらい撮っていました。その頃、WOWOWで流すための2時間映画を撮影していました。
商業ベースの映画では初めてだったので、凄く緊張もしていました。その時に「俺ってカメラマンになったんだ」「あっ、本流に入った」と思いました。なので、若手の方、これからカメラマンになろうと思っている方も、恐らくそう感じるときがあるのではないかと思います。まさにブレイクスルーの瞬間でした。
1本の映画撮影においてレンズ交換だけで15時間もの時間が費やされている
――ここから、機材についてお伺いします。スーパー35mmフォーマットからラージフォーマットが登場しましたが、このことについてどのように思いますか?
小宮山氏:スチルカメラで動画を撮る。それが、フルサイズセンサーのはしりでした。フルサイズの映像が「きれい」「フルセンサーがいいのではないか?」と評価されるようになりましたが、なかなかシネマに対応するフルサイズのレンズまで揃いませんでした。しかし、FUJINON Premistaのようなレンズがここ数年登場してきました。
現在、FUJINON Premistaのラインナップは19-45mm/28-100mm/80-250mmと全部で3本。この3本で19mmから250mmまで網羅していることは、これからフルフォーマット、フルサイズのカメラを使うカメラマンにとっては大変心強いです。
――なるほど。いわゆるラージフォーマットは新しい潮流ではありますが、まだ決してメインストリームではないのですね
細田氏:まだフルサイズに関しては、予算がある案件でしか使用されていません。フルサイズで安価なレンズもありますが、カメラマンが満足する映像が撮れるレンズは、やはりまだ価格が高いです。
フルサイズの良さもありますし、スーパー35mmのよさもあります。小宮山カメラマンの作品もそうですが、使い慣れたスーパー35mmとフルサイズの使い分けだと思います。
――フォーマットにはスーパー35mmとラージフォーマットがありますが、レンズにはプライムレンズとズームレンズの選択もありますよね。
小宮山氏:予算感にもよると思います。あと、作品の方向性で、じっくり1つの画面で長い間見せる作品でしたら、当然プライムレンズ(単玉)で粛々と撮るのがいいと思います。
ただ昨今、僕の手掛ける作品ですと、情報量の多い作品が多く、ズームレンズで撮る量を増やして、編集で切ったりしています。その2つの方向性があるのではないかと思います。
例えば、僕が関わった作品ですと1作品で1,200カットぐらいあります。そうなるとレンズ交換の時間が結構もったいないです。レンズを一回交換すると約3分かかります。それでも早い方だと思います。1日10回レンズ交換を行うと合計30分。2日間で合計1時間となります。
僕が担当する映画の撮影期間は、だいたい30~45日間前後です。30日で計算すると合計15時間はレンズ交換に時間を費やしていることになります。その時間は凄くもったいないです。特に冬場だと早く日が落ちてしまいます。レンズ交換を一回失敗しただけで撮影予定だったシーンを撮りこぼしそうになった事が何回もあります。
やはり映画もCMも総合芸術だと思います。全員が気持ちよく仕事が進まないと、いい作品にはなりません。映像作品はスチルでバシバシ撮っているわけではなく、全員が重たいカメラを持ち、みんなで動いて、みんなで撮ります。ですので、全員が少しでも気持ちよく進んだ方がいいと考えています。
FUJINON Premistaはフォーカス、ズーム、アイリスの位置が3本とも同じ位置、同じ径で作られているのでレンズ交換がとてもスムーズで、気持ちよく作業が出来ますから相当な時間短縮が見込めます。先日、CM撮影にも3本組で使用しましたが、とても重宝しました。FUJINONさんには「本当に作ってくれてありがとう!」という気持ちです。
――細田さんはいかがですか?
細田氏:僕はカメラマンの方から「どんなのがいいですか?」「どこがいいんですか?」と聞かれることが多いです。
おすすめポイントをチェックしたり、検証も行います。従来の4K対応レンズは、凄いシャープネスを無理に上げているわけではないと思いますが、少しカリカリとしたイメージが強かったです。FUJINON Premistaはラージフォーマットに最適化されてるので、ギュッとなっていません。ナチュラルなルックと、FUJINONさんも言っていますが、ズームレンズでそれを達成しているのは凄いと思いました。
あと、FUJINON Premistaはラージフォーマット用レンズですが、実はスーパー35mmでテストした結果が凄くいいです。だから「ラージフォーマット=FUJINON Premista」ではなく、「T2.9をどのように考えるか?」ということもありますが、スーパー35mmの作品でもルックとしては柔らかいのでおすすめしますね。
その時、その時の自分を咲かせられるように努力しよう
――これから業界を目指す人はへのアドバイスをお願いします
細田氏:スタートが肝心だと、いつも僕は言います。その世界に入った時の、その世界観がすべてになってしまうからです。
例えば、同じ撮影といっても、テレビドラマを撮るのか?CMを撮るのか?映画を撮るのか?はたまたドキュメンタリー系を撮るのか?意外とそこで見たものが、最初の刷り込みになります。その意味では、僕たちはたまたま良い師匠がいましたので、ラッキーでした。
小宮山氏:僕は若い子にこの業界でどのように立ち回っていくのか?どの業界・業種でもそうですが、「時分の花を咲かせよう」と言います。自分の花ではなく、時分の花です。当然、自分の得意分野を開けという意味もありますが…。
よく言うじゃないですか?「あの時分はよかったな」と。例えば学生時代に楽しかったことがありますよね。あの時、一生懸命ものごとを行っていて、あの時の自分は楽しかったと思いますよね。社会人になると辛いことがたくさんあります。例えば入社して、一日中三脚を磨くこともありました。細田さんは優しかったですが、厳しい先輩には散々色々と言われました。
ですが、その時、その時を楽しまなければ損だと思うんです。それが続いてカメラマンになったとき、初めてきちんと花を開くことができると思うんです。
辛かった頃が楽しめない人は、絶対に成功しないと思います。
歳を重ねてきて、体も辛くなってきましたが、その代わりに様々な役者の動きを見たり、監督の言っていることもわかるようになってきました。今の自分も花を咲かせられるように努力をし、自分が70歳になった時も、その「時分の花を咲かせられる」ようにしたいと思います。なので、若い方々も不本意な事に直面しても腐らずに、それさえも楽しむ。その時、その時を楽しんで、カメラマンになってほしいと思います。
MC:仲 雷太 a.k.a. raitank、小宮山充氏、細田淳一氏の対談映像
なお、富士フイルムではPremistaシリーズをトライアルできるキャンペーンを実施中とのこと。キャンペーン詳細は以下より。