米国では日本に先駆けてワクチンの接種がかなり進んでおり、弊社のオースティン現地スタッフからも徐々に元の生活に戻り始めていると聞いています。そんな中、6月29日にはSXSW 2022の開催に向けた各応募プラットフォームがオープンし、来年3月のリアルイベントとしての開催に期待が高まっています。
今年3月のSXSWは完全オンラインでの開催でしたが、来年はもしかするとオフライン+オンラインのハイブリッドな形での開催となるかもしれません。日本からの参加がどのような形になるのか、引き続き状況を注視していきたいと思います。
SXSWでは、多くのセッションがPanelPickerと呼ばれる一般からの公募システムで採用されています。こちらの記事で紹介しているセッションの多くも、自身のアイデアを世界に向けて発表したい、未来についての問題提起をしたいという人々によって提案されたものです。つい先日、SXSW2022に向けた公募も開始されましたので、ぜひそちらにもご注目いただければと思います。
今回も前回に引き続き、SXSW Online 2021のセッションの中から、メタバースに関するセッションをピックアップして紹介したいと思います。未来のエンターテインメント体験が大きく変わる可能性を想像しながらご覧ください。
ライブコンサート×メタバース|コンサート会場に行く事も体験価値になる
Why the Music Biz is Buzzing About the Metaverse|SXSW 2021
米国の人気アーティストLil Nas Xが、ゲームプラットフォームのRoblox内で行ったバーチャルコンサートに関するセッション。Robloxの音楽マーケティング担当者や、ライブを企画したLil Nas Xのマネジメント担当者らが参加し、実際のライブ映像やモーションキャプチャー技術を多様した制作の裏側について語りました。
Robloxは米国では子供達に大人気のゲームで、ユーザーの多くは小中学生と言われています。特定のゲームを遊ぶというよりは、放課後にゲーム内で友達と待ち合わせて、「今日は何する?」といった感覚で一緒に過ごせるプラットフォームになっています。
コロナ禍で多くのオンラインコンサートが開催されましたが、配信映像を視聴するだけでは、従来のコンサートに参加しているような熱狂や興奮は中々味わえません。ところがRobloxのようなバーチャル空間では、誰かと待ち合わせて一緒にコンサート会場に行く、アーティストと一緒にアバターでダンスをするといったよりリアルに近い体験を作ることができます。
「友達と一緒にコンサートに参加」という感覚が再現できるのはメタバースの大きな魅力であり、Robloxが単なるゲームではなく、子供達が集まる場所を提供しているプラットフォームだからこそ実現した試みだと言えます。セッションでは他にも、今後Coachellaのような大規模なフェスティバルを、オンラインプラットフォーム上でどのように実現できるか等の議論がされました。
アクセシビリティ×メタバース|全ての人々に公平なプラットフォーム
Disability-Led Innovation in Future Workplaces|SXSW 2021
毎年SXSWでは、障がいを持つ人々をサポートするために開発された新しい技術やプロダクトが発表されています。例えば義手や義足の開発と、細かい動きを再現できるロボット技術の開発が繋がるように、特定の課題を抱える人々の切実な必要性にフォーカスする事から誕生した新しい技術は、社会全体にとっても画期的なイノベーションとなる可能性を秘めています。
最近では"Accesibility"や"inclusive"というキーワードがよく聞かれるようになり、障がい者やその他のマイノリティを含めた全ての人々に開かれたサービス・プロダクトである事が、社会的にますます重要視されるようになっていると感じます。
このセッションでは、身体拡張に代表される障がい者向けに開発されている新しい技術が、未来の私達の働き方や暮らし方を劇的に変える可能性を議論しています。セッション内では前述のRobloxのコンサートにも触れており、障がい者とメタバースの親和性について語られました。
現実世界ではコンサート会場に行けない様々な問題を抱える人々にとって、バーチャル空間でのコンサートは自宅からコンサートに参加できる機会であり、人々に公平な機会を与えるという点で重要な意味を持ちます。全ての人に開かれたエンターテインメント、障がいを障がいと感じさせないような体験が可能になる未来は、もしかするとメタバースの中にあるのかもしれません。
AI×メタバース|もう一人の自分が暮らす世界での経済活動
Creative Machines: AI & The Future of Design and Media|SXSW 2021
ディープフェイクに代表される映像や音声の合成技術と、それを可能にしているAIによるクリエイティブが、未来のメディアを劇的に変えていく可能性を語るセッション。ディープフェイクは悪用される事が多くネガティブなイメージが強いかもしれませんが、ハリウッドの映像制作現場では数十年前から採用されている技術であり、私達が目にしている映画でも俳優の表情が加工されているかどうかを判別する事は非常に難しいです。今では表情だけではなく、声や身体の動きも含めた全てをAIによるディープフェイクで作り上げる事が可能になっています。
このセッションでは、この合成技術によって自分の分身となるデジタルコピーを作り出す事により、もう一つの世界メタバースでもう一人の自分が存在するようになる未来の可能性を示唆しています。実際にEpic GamesのUnreal Engineは、Metahuman Creatorという非常にリアルな3Dアバター制作ソフトをリリースしており、誰でもスマホから自分の分身を作る事ができます。
アバターが現実の自分と同じ、またはそれ以上の価値を持つようになった時、例えば現実で着る洋服ではなくアバターに着せるデジタルな衣装の方によりお金を使うようになるかもしれません。また、AIによる自動生成技術を使用すれば、デザイン知識のない素人でもメタバース世界で簡単に3DCG作品を作れるようになり、それをコンテンツとして売却する事で収入を得られるようになるかもしれません。このように、メタバースが実現する事で新たな経済圏が生まれ、多くのビジネスチャンスが訪れると言われています。
Metahuman Creatorの紹介動画
まとめ
2か月にわたってメタバースをテーマに様々なセッションをご紹介しましたが、共通している点はテクノロジーとは人々の生活を向上させ、人々を幸せにするために存在するという事です。
様々な可能性や課題が議論されているメタバースですが、実現されれば私達の暮らしを便利にしたり、より良いエンターテインメント体験ができるプラットフォームとして活用されるに違いありません。そんなワクワクするような未来に向けた兆しに今後も注目していきたいと思います。
SXSW Online 2021の多くのコンテンツは、アーカイブとしてYouTubeのSXSW公式アカウントに順次アップされており、誰でも無料で視聴可能です。SXSWに参加された方は見逃したセッションの復習として、参加されていない方もぜひSXSWでどのようなトピックが議論されているのか、この機会に覗いてみてはいかがでしょうか?
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