今年10月にFacebookが社名をMetaに変更した事が大きなニュースとなり、メタバースという言葉を耳にする機会が急に増えてきました。本連載でも度々取り上げてきたメタバースですが、遠い未来の話ではなく目前の未来に実現可能な話として、ますます注目が高まっているように感じます。
「現実世界とは異なるもう一つの世界」とされるメタバースは、多くの人々が集まる新たな経済活動の場になると言われており、そのプラットフォームとして台頭する事で莫大な利益を得られるのではないか、と期待されています。その概念を体現するような様々なサービスが誕生している今はまさに黎明期であり、これから数年間は群雄割拠のメタバース戦国時代が訪れる予感がしています。
今回は既に利用可能なサービスから、これから登場する開発段階のものも含めて、様々なタイプのメタバースになり得るサービスをご紹介します。果たしてどのサービスが、メタバースに一番近いプラットフォームと言えるでしょうか?
1.オンラインゲームはあらゆる体験型エンターテインメントの表現の場へと進化する
オンラインゲームの世界はメタバースという文脈とは別に発展してきましたが、そのユーザー数の多さとコンテンツクリエイションの自由度の高さから、今や最もその概念に近いプラットフォームとして注目されています。特に昨年からのコロナ禍でゲーム需要が高まった事もあり、いま急激に成長している分野と言えるでしょう。
オンラインゲームのメタバース化の特徴は、本来のゲーム目的とは異なる様々な使われ方をし始めている点にあると言えます。例えば、米国の子供達に人気のRobloxというゲームでは、Lil Nas XやTwenty One Pilotsといった人気アーティストがアバターライブを開催して話題になりました。Minecraftでは、複数のアーティストがプレイする音楽フェスティバルも開催されました。従来のオンラインコンサートの視聴者は、画面越しに映像を見るだけなのに対して、ゲーム内であれば自分もアバターとしてバーチャル会場に赴き、ダンスをしたり飛び跳ねたりして参加するという体験型のエンターテインメントが可能になります。
また、日本でも多くのユーザーを持つFortniteは、Ariana Glandeや米津玄師といった人気アーティストとのコラボレーションを行う事で、普段ゲームをプレイしないような層にもアピールし、新規ユーザーを獲得する事に成功しています。
かつては高価なゲーム機を持っている人しか体験できなかった高性能のオンラインゲームが、今では比較的安価なPCやスマホでも遊べるようになり、ゲームをしない人でも気軽にアクセスできる「体験型エンターテインメントのプラットフォーム」へと進化しつつあります。従来のリアルなコンサートとは異なる表現方法や、IP活用による収益化、新たなファンとのコミュニケーション方法の模索など、アーティスト側にとってもオンラインゲームは多くの可能性を秘めています。
Robloxにて行われたTwenty One Pilotsのアバターコンサートの様子
2.リモートワークにVRで対人コミュニケーションの"人感"を復活させる
働き方が半強制的にリモートワークへ移行する中で、オンラインのコミュニケーションに不便さを感じた人も多いと思います。カメラ越しのオンラインミーティングでは、微妙なニュアンスや感覚を伝える事が難しい場面もあるでしょう。このような課題を解決するため、対人コミュニケーションをオンラインで再現する事を目的に開発されているサービスも、将来メタバースに近い存在になり得る可能性があります。
Meta(旧Facebook)が開発しているHorizonは、VRゴーグルを装着した人同士が、まるで同じ部屋で会議しているかのような感覚を再現するHorizon Workroomsを発表しています。このツールを使うと、VRで参加している人は同じバーチャル空間に3Dアバターとして存在するのに対し、従来のビデオ通話で参加する人はその部屋のスクリーン上に2D映像として表示されます。どちらも同じリモート参加ながら、コミュニケーション方法が異なるために明確な区分けがされているのは非常に特徴的です。
一方Microsoftでは、Meshというリモートコラボレーションツールを開発しています。こちらはVRというよりも、現実世界にバーチャルを組み合わせたMR(複合現実)に近いものになるようです。まだ開発段階ではありますが、絵を描いたりものづくりをしたり、会話だけではなく実際に手を動かす必要のある共同作業を可能にするツールといった印象です。遠く離れた場所にいながら同じ空間で作業ができるという点で、バーチャルとリアルが融合する世界はメタバースの一つの可能性と言えるかもしれません。
MeshのコンセプトムービーではMRやARを駆使した作業の様子が描かれている
3.アバターのファッション重視!SNS進化系メタバース
もう一つのメタバースの可能性として注目したいのが、現状のSNSの進化版とも言えるような、アバター同士のコミュニケーションを主な目的としたサービスです。完全オンライン開催となったSXSW2021にて、バーチャル空間にオースティンの街並みを再現したSXSW XRの世界では、VRChatがそのプラットフォームになりました。世界中からの参加者がそれぞれ好きなアバターの格好をして集まり、交流を楽しんでいる様子は、このようなイベントの未来を予感させるものでした。VRChatの特徴はアバターデザインの自由度にあり、宇宙人からアニメキャラクターまで、実に多種多様な姿を作り出す事ができます。現実の自分の姿とは関係なくアバターを自由に表現できるという点は、メタバースの大きな利点の一つと言えるでしょう。
反対に、主に欧米の若者の利用者が多いIMVUでは、よりリアルな人間に近いアバターが使用されており、それ故にファッションが非常に重要視されています。IMVUの世界内ではアバターによるファッションショーが開催されており、アバター用のファッションアイテムを販売するクリエイターとして生計を立てている人もいるそうです。このようにメタバースはファッションやNFTとも相性が良く、現実のファッションブランドが続々と参入し始めています。
例えば、前述のRobloxではNikeがNikelandを作り出し、自社のブランディングに活用する可能性を探っています。アバター=もう一人の自分としての価値が高まるにつれて、そのアバターのファッションに対して費用をかける事が当たり前になっていくのかもしれません。一方でルッキズムと呼ばれる「典型的な美しさによる差別」をメタバースではどう超えられるのか、という課題も同時に議論されていくでしょう。
SXSW XRの様子。バーチャル空間では音楽コンサートやVRシネマの上映等の様々なコンテンツを体験できる他、アバター同士が交流するミートアップも行われた
まとめ
今回ご紹介したサービスの数々は、そのどれもが異なるアプローチからメタバースの実現に向けて動き始めています。メタバースの全貌はまだ誰も掴めていないからこそ、それぞれがどんな世界を作り上げたいかを思い描き、それを実現するためのサービスを開発しています。利用する側にとっても、自分にとっての理想となるメタバースの姿を想像し、それに一番近い形のサービスを選択して体験してみる、という姿勢が必要かもしれません。また制作者側には、現実世界にある差別のような社会課題をメタバースに持ち込まない仕組み作りという、プラットフォーマーとしての責任も求められてくるでしょう。
現実世界を超える理想のメタバースを実現するのはどのプラットフォームになるのか、今後も続々と生まれてくるであろう新たなサービスにも注目していきたいと思います。
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