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HTC(宏達国際電子股份有限公司)は、スマートフォンからVRヘッドセットまで手掛ける台湾を拠点とするエレクトロニクス企業だ。その日本法人であるHTC NIPPON株式会社より、2021年11月18日、VRグラスVIVE Flowが発売された。価格は税込5万9,990円。
VIVE Flowは、メガネタイプのVRグラスであり、これまでのVRヘッドセットより、はるかに小型軽量である。動画やマインドフルネスなコンテンツを、カジュアルに視聴出来るデバイスとなっており、VIVE Syncによるメタバース体験も可能だ。今回は、このVIVE Flowの実機レビューをお届けする。
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小型化を実現した構造
VIVE Flowは、189g(付属のケーブルが1.2m、50g)と缶コーヒー1本分程度の重量で、メガネのようにフレームを折り畳めるから、バッグ等に収納するなどして持ち歩きがしやすく、外出先の視聴にも適している。
従来のVRヘッドセットでは、ディスプレイからの光が目に届いて焦点を合わせるためには、ある程度、広い空間が必要だった。それに対して、VIVE Flowは、光学システムのサイズと重量を改善。偏向レンズとハーフミラーからなる「パンケーキレンズデザイン」を採用し、ディスプレイとレンズ間、そして、目の距離を短くすることで、小型化に成功している。
また、本体にメインのバッテリーは内蔵しておらず、USB Type-Cケーブルで、モバイルバッテリーもしくは、コンセント等の外部電源を利用する仕様にしたことも、小型・軽量化に貢献していると言えよう。電力が7.5W以上供給可能な電源に接続されると、VIVE Flowが自動的に起動する。ただし、不意の電源喪失時等にも稼働状態を維持できるように、本体にも5分間給電できるホットスワップ機能の予備のバッテリーは備わっている。
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フレームには、内蔵ファンが実装されており、内部の熱を通気口から排出するアクティブ冷却システムが施されている。試用時も熱が篭ることもなく、快適にオペレーションができた。
フレームのテンプル(ツル)部分のスリットは、空間音声対応のスピーカーである。イヤホンジャックはないが、Bluetooth接続により、イヤホンやヘッドホン、スピーカー等の利用が可能になる。また、ノイズキャンセラーとエコーキャンセーラー付きのデュアルマイクも、左目の上(音量調整ボタンの少し横)とその真下あたりに配備している。
本体前面には、デバイスカメラが設置され、ビデオパススルー表示(白黒)が可能となっており、VIVE Flowを外さずとも、視聴中の周囲の環境が認識できて、安全にも配慮されている。トラッキングは、2個のカメラによるインサイドアウト方式の6DoFトラッキングだ。
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快適な装着感
装着する際は、VRヘッドセットやVRゴーグルのように、頭に被ってバンドで保持するスタイルではなく、メガネのようにモダン(耳あて)部分を耳にかけるだけである。VR視聴の課題であったヘッドセット装着の煩わしさもないから、視聴に臨むのにストレスがない。
フェイスクッションは、衛生面の配慮から、取り外しが可能になっている。本体には、マグネットで装着する仕様で、着脱もスムーズ。耳かけ部分のテンプルパッドも、マジックテープで着脱ができる。テンプルの蝶番は、装着のためのヒンジと、折りたたむためのヒンジを別にしたデュアルヒンジ仕様で、頭部へのフィット性を高めている。
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スペックについて
VIVE Flowの液晶ディスプレイは、片目1600 x 1600ピクセル、両眼で3.2Kの解像度である。最新のハイエンドのVRヘッドセットには及ばないが、Oculus Questとほぼ同等で、気軽に使用するには妥当なサイズかもしれない。視野角は最大100°、リフレッシュレート(ディスプレイが、画像を1秒間に何回、描画できるかを示す)は75Hzとなっている。
左右の各々のレンズには、焦点距離ダイヤルが配備されているので、片目ごとに焦点の調整ができ、基本的にメガネを使用せずとも、視聴することが可能だ。
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SoC(CPU、GPUなど様々な部品を搭載したチップ)は、QualcommのSnapdragon XRを採用。メモリは4GB、ストレージは64GBとなっている。VIVE Flowは、単体で動作する所謂スタンドアロンの仕様ではなく、対応するAndroid 9以降のスマートフォンとBluetoothでペアリングして利用することになる。対応スマホは、「VIVE Flow対応機種の確認」で確認できる。
操作性について
VIVE Flowには、コントローラーは付属しておらず、対応するAndroidのスマホをBluetooth接続して、コントローラーとして使用する。具体的には、スマホのディスプレイを4つに区分した領域をタップ、ホールド、また、スマホ自体を動かすなどすることで、VRのインタラクションが可能になる。
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スマホのコントローラーのインターフェースは、以下の通り。
- 1のエリア:VIVEメニューを開く。
- 2のエリア:トリガーとして使用、また、アイテムを選択・ドラッグすることが可能。
- 3のエリア:メニューアプリのメニューを開く。
- 4のエリア:タップしてアイテムを選択、または、タップしてホールド後、スマホを動かしてアイテムをドラッグする。
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体験できるコンテンツ
使用するアプリなどは、アプリストアの「VIVEPORTVR」からダウンロードできる。現在、150前後のコンテンツが、VIVE Flowに対応している。また、VIVE Flowと同社のオールインワンVRゴーグルであるVIVE Focus専用のサブスクリプション・プラン「VIVEPORT インフィニティ・ビスタ」も用意されている。
そして、VIVE Flowは、「VIVE Sync」のアプリから、メタバースを体験することもできる。VIVE Syncは、HTCの法人向けソーシャルVRプラットフォームである。VIVE Syncのパーソナルスペース版といった趣で、プライバシーが守られたカフェや個室のような雰囲気の中、軽い作業ができる「VIVE Lo-Fi」も用意されている。また、日本発のPsychic VR Labが手掛けるVR/AR/MRのクリエイティブ・プラットフォーム「STYLY」が、VIVE Flow版を提供している。こちらでは、ギャラリー、インスタレーション、ショップ空間などが体験可能だ。
その他、対応するスマホのMiracast機能を用いると、画面上の映像コンテンツを、VIVE Flowのディスプレイにミラーリング表示することが可能になる。Netflixなどの動画配信サービスの映画鑑賞やインターネットのブラウザなど、VRヘッドセットに非対応のコンテンツであっても、仮想の大スクリーンで楽しむことができるのだ。
就寝前の視聴時には、ブルーライトフィルター機能をオンにすることで、眼精疲労を軽減できる。 ベッドルームで、映画の視聴や「VIVE ASMR」、「TRIPP」などの今、流行のASMR(Autonomous Sensory Meridian Response:自律的頂点反応)や、リラックス系のマインドフルネスなコンテンツなどを楽しむ際にも、眼に優しい設計になっている。
そして、選択した外部デバイスで、VRでの視聴をワイヤレスかつリアルタイムに共有することができ、お互いの体験もまた共有可能になる。
ローカルストレージに保存した動画を再生する場合は、「VIVEPORT Video」のアプリを使用することになる。標準(または平面)、立体3D、180°または360°の動画再生に対応。対応するファイル形式は、.mp4、.mkv、.mov、.divx.となっている。
360°VR動画の視聴は、VRヘッドセット向けに設計されたブラウザである「FirefoxRerality」も対応している。
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まとめ
VIVE Flowは、光学設計の改善と外部からの給電を利用するなどして、メガネ型のコンパクトな筐体を実現。リビングルームやベッドルームで、くつろいでいる時に使用したり、外出先でも気軽に動画やVRを視聴・体験できる画期的なVRグラスだ。
ターゲットはVR初心者を中心に、本格的なゲーム目的というよりも、シンプルなVRゲーム、配信映画、360°やVR180などのVR動画の視聴やマインドフルネス的なコンテンツの利用が想定されている。
ただし、スマホをコントローラーとして利用できる点は手軽で良いのだが、慣れるまでは、時々、下向きに手許を見ないと、押すべきエリアが些か認識しにくいかも知れないと感じた。タッチパネルをタップした際のレスポンスについても、スマホの機種によっては微妙なこともある印象だった。因みに、HTC U11かU11+をコントローラーとして使用する場合、スマホの位置情報の設定をオフにすることで、反応が改善するようだ。
VIVE Flowの功績としては、何と言っても、これまでありがちだった、VRヘッドセットを被ることに対する抵抗感を覆したことにある。VRに馴染みのなかった層にも、カジュアルユースから体験の道を開く、ポータブルで先駆的なデバイスであることは間違いがないだろう。
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VIVE Flow用別売りアクセサリーには、電源とスマートフォンの両方を、VIVE FlowにつなぐことのできるVIVE Flow電源ハブケーブルや、VIVE Flow携帯用ケースなどのアイテムが用意されている。また、 VIVE Flowフェイスクッションセットと、VIVE Flowフェイスクッションセット(Sサイズ)の2点は、2022年1月初旬発売予定となっている。
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WRITER PROFILE
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