「RICOH THETA X」登場メイン写真

株式会社リコーから全天球カメラTHETAシリーズの最新アドバンスドモデルであるRICOH THETA Xが、5月中旬に発売される。

THETA Xは、CMOSイメージセンサーをはじめ、プロセッサー、レンズ設計が刷新され、最大5.7Kの動画、11K静止画の360°撮影性能を持っている。同シリーズにおいて、初めて2.25型の大型LCDタッチパネルを搭載。スマートフォンを用いなくても、本体のみでライブビューや殆どの操作を可能とした。

不動産や自動車業界など業務用途での使用を想定して、従来機のUIやワークフローを改善、機能と性能を向上させている。今回の連載では、発売前の実機を検証し、従来機との比較も交えつつ詳細なレポートをお届けする。

ユーザーインターフェースについて

THETA Xは、サイズが136.2×51.7×29.0mm、重量は170g(バッテリー・microSDXCカードを含む)。ボディの素材は、マグネシウム合金を採用、表面は梨地に仕上げられ、色はメタリックなダークグレーとなっている。イメージセンサーは、1/2.0型、48Mを2基搭載。レンズは、F2.4である。

正面には、2.25型の大型表示タッチパネルを実装し、ライブビュー(スワイプで360°表示が可能)や撮影情報の表示はもとより、スワイプ操作で画面を切り替えて、撮影パラメーター設定、撮影設定、カメラ設定、プラグイン選択、撮影画像の再生がおこなえる。そして、スマホ等のモバイルデバイスと接続しなくても、単独でカメラ本体から大部分の操作が可能になった。

タッチパネルの下部に配置されたシャッターボタンも、従来の丸型から大きな半月状のものに変更されて、押しやすくなっている。正面右側の側面には、電源モード、MODE切り替えボタンと、USB Type-Cの端子がある。左側の側面には、スピーカーがあり、その下のカバーの内部に、バッテリーとmicroSDXCカードのスロットが配置されている。メディアは64GB以上、UHS-I V30 ビデオスピードクラスのmicroSDXCカードを利用する。本体の内蔵ストレージも、約46GB備わっている。

もちろん、従来の機種のように、スマホと接続して、THETAアプリから操作することも可能だ。THETA Xとスマホを接続する際には、Bluetooth接続することにより、SSIDを入力せずとも無線LANと接続できるようになったことは喜ばしい。

これまでいささか設定がややこしかったクライアントモード(THETA本体と無線LANルーターを直接接続する)の場合も、スマホを介さずに、本体から設定できるようになったので、使い勝手が良い。ファームアップやプラグインのインストールも、本体のみでシンプルに完結する。

「RICOH THETA X」登場説明写真 「RICOH THETA X」登場説明写真 「RICOH THETA X」登場説明写真 「RICOH THETA X」登場説明写真
THETA Xの筐体。正面には、2.25型TFTカラーLCD、360✕640 ドット、明るさ自動調整機能付きのタッチパネルと半月上のシャッターボタンが配置された
「RICOH THETA X」登場説明写真
デフォルトの画面のライブビュー表示や画像の再生画面では、スワイプで360°の全方位の表示が可能に
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撮影設定画面
「RICOH THETA X」登場説明写真
撮影画像の再生画面のサムネイル一覧
「RICOH THETA X」登場説明写真
タッチシャッターの状態。タッチパネルを押すことで、シャッターを切ることができる
「RICOH THETA X」登場説明写真
シャッターボタンのデザインが刷新され、従来の円形から大きな半月上に変更された
「RICOH THETA X」登場説明写真
カバーを開けると、バッテリー(DB-110)とSDXCカードのスロットが設けられている。バッテリーとメディアを交換可能にする対応については、以前よりユーザーからの要望が多かった
「RICOH THETA X」登場説明写真 「RICOH THETA X」登場説明写真
​​本体側面に設置されたUSB Type-Cポートにより、三脚使用時でもエクステンションアダプターなしで給電することができる

動画性能について

動画サイズはデフォルトの設定が、4K 30fpsとなっており、2K 30fpsも選択できる。さらに本体の撮影設定メニューの動画サイズの項目から、5.7K 30fps、4K 60fpsを選べるようになっている。しかし、無線LANのモードがオンになっていると、5.7K 30fpsや4K 60fpsを選択することができないし、スマホから撮影の操作をすることも出来ないので、その際はカメラ本体で直接、設定してシャッターを切るか、​​​​Bluetoothで接続して、別売りのリモートコントロールTR-1を利用する(電池無しのPD給電時であれば、スマホからの撮影指示が可能だ)。

THETA Xで撮影した5.7K 30fpsの動画は、スマホに直接転送することはできない。また、4K 60fpsの動画も、デバイスによっては直接転送することができない。その場合は、パソコンでデータを引き取ることになる。

また、THETA Xは、製品安全基準に沿って設計、制御されているため、内部の温度上昇時には自動終了する。5.7K 30fpsと4K 60fpsの撮影の場合、25度の環境下での撮影可能時間は、最大およそ10分程度である。

THETA Xでは、THETAシリーズでは初めて撮影時にカメラの内部で動的繋ぎ処理と天頂補正の処理がなされるので、THETA Z1のように撮影後にパソコンのTHETA基本アプリでステッチ処理を施す必要はなく、撮影後にすぐに動画ファイルを利用することができるというメリットがある(THETA VやSC2は、静的繋ぎ処理であれば、カメラ内リアルタイムステッチは可能であったが、ステッチの精度の高い動的繋ぎ処理は未対応だった)。

画質は、レンズ中央部分を比較してみると、解像度の違いはあれど、THETA Xがデティール、シャープネスも良好で、解像感が良いと感じた。

手ぶれ補正については、従来のモデルより改善されたと謳われているが、正直、大幅な向上は実感できなかった。THETA Xにおいては、移動撮影よりも、据え置きの撮影を中心に考えた方が良いと思われる。

THETA X 5.7K 30P

THETA X 4K 30P

THETA X 4K 60P

THETA Z1 4K 30P

THETA SC2 4K 30P

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レンズ中央部分の描写を切り出して比較してみると、THETA Xの解像感が優れているのが見てとれる。左から、THETA X(5.7K 30P)、Z1(4K 30P)、SC2(4K 30P)
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THETA X 5.7K 30P 手ぶれ防止機能の検証(歩行による移動撮影)

静止画性能について

静止画の撮影性能は、デフォルトが5.5K。さらに11Kを選択することができる。フォーマットはJPEGのみであり、Z1のような、RAW(DNG)データはサポートされていない。撮影感度は、5.5Kの場合、基本的に、上限がISO1600まで、11Kの場合は、ISO800までに設定されている。必要に応じて、ISO3200まで選択することが可能だが、低照度下でノイズを抑えた画質を得たい場合は5.5Kを、明るい環境なら11Kを選択するように心がけた方が良さそうだ。

5.5Kを選択した際には、スマホへの無線転送速度は、前アドバンスドモデルのTHETA Vの約1.5倍のスピードアップを達成している。11Kの静止画を選択している場合は、転送速度にいくぶん、時間を要することになる。THETA Xではパープルフリンジ(偽色)の発生が抑制されている。従来機や競合機で発生しがちな「赤玉」と呼ばれるフレアも、Z1同様の対策が施されており、検証撮影においても発生することはなかった。

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THETA X 11Kを360°で見る場合

THETA X 11K – Spherical Image – RICOH THETA
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THETA X 5.5Kを360°で見る場合

THETA X 5.5K – Spherical Image – RICOH THETA
    テキスト
フリンジ低減の比較。画像内の窓付近を切り出している。THETA Xのパープリフリンジの抑制は良好だ。左上からTHETA X(11K 11008×5504)、右上がTHETA X(5.5K 5504×2752)、左下はTHETA Z1(6720×3360)、右下がTHETA SC2(5376×2688)。すべてJPEG
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THETA SC2(左) vs THETA X(右) 「赤玉」発生の比較
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室内や車内等の輝度差のある環境下の撮影では、HDR撮影が有効であるが、THETA Xでは、HDRを選択した場合、自動的に露光を変えた設定で4回シャッターを切り、HDR合成処理が施される。

5.5Kを指定した際のHDR合成処理時間は、Vの約1/3程度向上しているので、多くの場面を撮影する必要がある場合でも、処理待ちのストレスもなく、撮影をこなしていけると感じた。一方、明るい環境下や撮影時間を気にしなくても良い場合であれば、11Kの高解像度のHDR撮影を存分に活かすことができるだろう。THETA XのHDR合成は、室内と窓外が違和感なく馴染み、自然な按配の合成処理になっている印象であった。

また、これまでプラグインとしてラインナップされていたタイムシフトが、THETA Xでは標準装備されている。タイムシフトとは、フロントとリアのレンズの撮影を時間差で行うことにより、撮影者が映り込むことを回避する機能だ。近くに撮影者の隠れる場所がない場合、空間だけを撮影したい時に、とても有用な手段となる。

その他、1秒間に20枚(5.5K静止画撮影時)の連続撮影が可能な連写モードも搭載されている。

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THETA X 11K HDR撮影。オフの場合
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THETA X 11K HDR撮影。オンの場合
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360°で見る(THETA X 11K HDR撮影)

THETA X HDR合成処理 – Spherical Image – RICOH THETA

まとめ

THETA Xは、THETAシリーズの8世代目のモデルである。2013年の初代THETAは、ワンショットで全天球をキャプチャーできるポケットサイズの360°カメラの先駆けであったが、その後、他社から様々な競合機も登場してきた。THETA Xは、これまでのTHETAの歴史や、コンシューマー向け360°カメラの進化を見つめ直し、スペック競争よりも、本当に有用な機能を選定し、使いやすさや効率的なワークフローを第一に考えて設計された製品であると感じられた。

バッテリーやメディアを交換可能にしてほしいという予てからのユーザーの要望も、遂に叶えられている。主なターゲットは、建設業や不動産業、観光業、自動車業界等のビジネスユースとされているが、本体にタッチパネルのUIを実装した本機は、それ以外の様々なシーンやプライベートにおいても、普段使いの全天球カメラとして重宝されることと思う。試用してみて感じた課題としては、バッテリーの消耗が早いということ。また手ぶれ補正機能は、些か物足りなく感じた。リチウムバッテリーは予備を揃えておくことと、動画は据え置きの撮影を主に行うなど用途を選んで使用したい。画質においては、THETA Xの5.7Kのレンズ中心部の解像感が優れていた。

THETA Xの静止画における偽色の低減効果も優良だ。因みに、現行モデルのフラッグシップ機は、今もTHETA Z1とされており、1.0型のイメージセンサーの搭載、静止画のRAW(DNG)データの対応、プラグインのDualFisheyeのHDR-DNGモードが使用できる点など、未だ魅力的なアドバンテージを持っているので、静止画の360°の撮影画質をとことん追求したい向きには、そちらをお勧めする。

そして、THETA Xでは、こちらもユーザーからのリクエストの多かったGPS機能が初めて内蔵されている。本体だけでも、正確な位置情報が取得できるようになっており、A-GPS(補助GPS)機能と併せて、高い精度を実現している。さらに、THETA VやZ1同様、Androidベースの OSを搭載しているので、サードパーティーのプラグイン(アプリケーション)の開発や公開もできる。原稿執筆時点では、ストアに用意されているのは、Wireless Live Streamingのみだが、刷新されたUIを利用した新たなプラグインの登場も楽しみだ。

株式会社リコーのアナウンスによると、今後はデバイスやソフト、RICOH360というクラウドサービスとの連携を強化させて、ワークフロー全体の効率化を提供していくという。因みに、RICOH360とは、RICOH360 Tours(不動産向け360°バーチャルツアー制作サービス)とRICOH360 Projects(建設・施工管理向け360°画像共有サービス)からなるサブスクリプションで、ユーザーが手軽に高度な機能を利用できるワークフローを提供するプラットフォームである。

株式会社リコーは、不動産業界向けにRICOH360 Toursと連携するTHETA X専用の物件撮影プラグインや、物件のバーチャルツアーを自動生成する不動産向けオートツアーアプリ(β版)、建設業界向けにRICOH360 Projectsと連携し、現場の状況を遠隔地からリアルタイムに把握できるタイムラプス/ライブ映像機能(β版)、現場の巡視時の撮影画像を自動で図面上に整理する建設業向けオートマッピング(β版)など、業種特有の業務を効率化するプラグインの提供を逐次おこなっていく予定だ。

THETA Xについては、新たに立ち上げる自社のECサイトから販売され、価格はオープン価格で、市場予想価格は11万円程度の見込み。​​法人向けには、リコージャパンからの販路もあるという。

    テキスト
Google Street Viewのアプリから、撮影済みの画像をアップして、Google Street Viewに360度画像を投稿することができる
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「RICOH THETA X」登場説明写真 「RICOH THETA X」登場説明写真
ビジネスユースの他、プライベートでのカジュアルな利用にも適している

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。