キヤノンマーケティングジャパンは、6月6日から横浜で開催中のフォトグラファー&フォトビジネスフェア「PHOTONEXT2023」の同社のブースにて、新しいVRカメラのコンセプトモデルを参考出展した。このカメラは、その外観から、360°/180° 3Dのハイブリッド仕様で、視野角を切り替えてVR撮影ができる仕様になっていることが見てとれる。今回は、この製品について、いち早く、本連載記事で取り上げて、ご紹介してみたいと思う。
概要
PHOTONEXTは、最新のフォトビジネスを提案する展示会として、毎年開催されており、2023年は、6月6~7日の両日、パシフィコ横浜 Bホールにて、85社の写真関連企業が出展して行われている。写真館やブライダルのビジネスを手がける会社の参加も多い。本年のキャッチフレーズは、「More Professional」である。
会場のキヤノンのブースで専ら目を引いたのは、新しいVRカメラの参考展示であった。キヤノンとしては、2021年に、同社初のVR映像撮影を可能にするEOS VR SYSTEMがリリースされているが、今回展示されたカメラは、コンシューマー向けであり、EOSシリーズではない。同社の新領域のPowerShotのVシリーズのカテゴリーにあるとされている。
今回の展示から読みとれること
今回、出展されたモデルは、モックアップであり、まだ実際に起動できる状態にはない。また、スペックや価格、サンプル映像、発売時期等も公開されていない。外観は四角い形状で、大きさはおよそ70mm×90mm程度。厚みは、30mm弱と見てとれる。容易に携帯できるサイズとなっている。
デフォルトでは、フロントとリアのレンズによって、360°の2Dが撮影できる状態。レンズの配置は、完全なバックトゥーバックではなく、オフセットのレイアウトになっている。また、一方のレンズを引き起こすと、レンズが並列に揃い、180°の立体視の撮影が可能になる仕組みだ。つまり、一台二役のVRカメラである。ちなみに、180°撮影時のIPD(レンズ間距離)は、およそ60mm程度と見てとれた。正面向かって右側面に、起動ボタン、カードとバッテリーのスロットのカバーが、左側面に、モードボタン、Wi-Fiボタン、USBタイプCの端子が並ぶ。背面には、モニターとシャッターボタンが配置されている。持ち手はないので、基本的には、グリップや自撮り棒等のアクセサリーを装着して、VR撮影する使い方が現実的であると考える。
展示のキャプションには、「Vシリーズ コンセプトカメラ 360°&180° 3D VR Camera 360°全天球・180° 3DVR映像、双方の撮影が可能なコンセプトカメラ」と記載されている。
Vシリーズとは、「自己表現により、人をつなげていくためのコミュニケーションツール」として、ユニークな特徴を持つデバイスを動画・ライブ配信の市場に投入する目的で立ち上げられた。その第一弾として、この5月、「365日、Vlogしよう。」をキャッチフレーズに、ポケットサイズのVlogカメラである「PowerShot V10」が発表されたばかりだが、今回、参考展示されたVRカメラも、PowerShotにおける新領域のデジタルカメラのシリーズに位置付けられるということになるわけだ。今回のコンセプトモデルについては、スペック等の詳細な情報は、一切公開されていないが、筆者としては、時代に見合った高解像度となることを期待している。
キヤノンのVR映像の取り組みについて
キヤノンは過去においては、Canon EXPOやNAB SHOW等で、VR映像のR&D的なデモ展示をしているが、実際に製品化されたのは、2021年に発売されたEOS VR SYSTEMが初めてだ。
EOS VR SYSTEMは、当初、世界初の8K内部収録を実現したRFマウントのフルサイズのミラーレス一眼機EOS R5とRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズのコンビネーションにより、最大8K 30fpsの180°の3D VR映像を記録できるシステムとしてスタート。
翌年、発売された本格的な映像制作用のCINEMA EOS SYSTEM系統のEOS R5 Cがラインナップに加わった。さらに、昨年末、VR変換用のEOS VR Utility/Pluginが、V1.2にアップデートされ、大幅に機能が拡張。スタンドアローンのアプリ、EOS VR UtilityがRAW動画に対応したことにより、EOS R5 Cの最大8K 60fpsのアドバンテージを活用することが可能になった。その他、GPU対応オプションの追加による処理の高速化(VR Plugin)、速度優先オプションの追加(VR Plugin)、高圧縮HEVCの採用による処理の高速化(VR Utility・Win版のみ)、Apple Siliconへの対応(VR Utility/Plugin・Mac版)、レンズマスク機能の搭載(VR Utility/Plugin)などの機能が、追加実装された。
また、正式対応カメラ以外の機種で撮影されたクリップへも対応するようになり、動作保証外ではあるものの、実質的に対応機種が拡大している。具体的には、EOS R3/EOS R6/R6 Mark IIのVR対象動画(MP4とRAW動画)及びカメラで記録したJPEG画像、EOS R5/R5C/R3/R6/R6 Mark IIのRAW静止画から現像したJPEG画像が対象である(EOS VR Utility/Plugin V1.2を使用した場合。一部、機能制限がある)。
まとめ
2018年当時、GoogleがVR180というフォーマットを提唱した後、LenovoのMirage CameraやZ CamのK1-Proなどの180° 3Dカメラが相次いで登場した。その中には、Kandaoの初代QooCamやInsta360 EVO、Humaneyes Technologies社のVuze XRなどのように、360°と180°が両方利用できるハイブリッド型のものも、いくつか存在した。YI Technology社のYI Horizon VR180やKodak PIXPROのコンセプトモデルなども公開されていた。今回のキヤノンのコンセプトモデルも、その系統となる。空間をキャプチャーするのに相応しい360°の撮影機能と、立体視と没入感を両立させる180°映像のメリットを、一台で併せ持つ2 in 1の仕様は、必要に応じて、それらを使い分けることができるのが特徴だ。
昨今のVRカメラ市場においては、昨年末から今年にかけて、中国・深圳のLabpano社がPilotPanoを発売。KandaoもQooCam 3やQooCam 3 Ultraを発表。さらにVR180の領域では、中国・杭州のTECHE社やFXG VIDEO SCIENCE AND TECHNOLOGY社からも、新しいモデルが発売されて、活況の様相を呈している。
6月5日、WWDC23で、ついに発表されたMRヘッドセット「Apple Vision Pro」においても、空間音声をサポートした180°の高解像度「Apple Immersive Videos」に対応することが発表されており、今後、ますます実写のVR映像の発展に期待ができる。
今回、参考展示されたコンセプトVRカメラが発売されれば、エントリーモデルとして、VR映像を利用するユーザーの裾野が広がり、普及につながることが予想される。さらには、EOS VR SYSTEMと連携して、より充実したVR映像撮影に取り組めることができると期待できる。トップメーカーであるキヤノンが満を持して放つ新VRカメラの正式な発表と発売が、待ち遠しく感じる。