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「スタートレック」シリーズのカーク船長役で知られる、俳優ウィリアム・シャトナーがクリエイティブ・エクセレンス賞を受賞(画像提供:VES)

映画賞シーズンたけなわのハリウッド。そんなハリウッドの映画賞の1つである「VES アワード授賞式」が2月21日(水)に開催された。

そこで今回は、第22回VESアワード受賞式のレポートを、筆者独自の目線からご紹介してみたいと思う。

※当コラムをお読みになり、もし何かVFX関連のご質問などがあればinfo@pronews.jpまでどうぞ。

ハリウッドは映画賞シーズン

ハリウッドは1月~3月にかけ、Awards Season(賞レース・シーズン)に突入する。

この時期には、米脚本家組合や米俳優組合等の各映画ギルドの受賞式が開催される。

これらの各映画賞の最後を締めくくるのが、オスカー像でお馴染みのアカデミー賞である。様々な映画ギルドの受賞式がこぞって開催された後、アカデミー賞が一番最後に開催されるように日程が調整されている。

"VFX業界のアカデミー賞"VESアワード

ハリウッドには、VFX(ビジュアル・エフェクト)業界に従事する人を対象とした協会がある。これがVisual Effects Society(米視覚効果協会)である。略してVESの3文字で記述されることが多い。たまに「ベス」と呼んでいる方をお見掛けすることがあるが、VESはアルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。

VESは、米監督組合、脚本家組合、俳優組合等と並ぶ、ハリウッドの映画ギルドの1つである。ただ、VESは労働組合ではなく、業界の啓蒙を目的とした協会という位置づけを保っている。設立は1997年で、会員はハリウッドを中心とする映画、テレビ、アニメーション、ゲーム等のVFX業界に従事する世界中のプロフェッショナル達で構成される。

VESによれば、米国および49カ国に約5,000人近くの会員数を誇るという。もちろん、日本からでも加入が可能であり、文字通り「世界最大規模のVFX業界のギルド」である。会員になるには、「5年以上の現場経験を有すること」が条件とされ、現役会員2名からの推薦状が必要とされる。そして、年2回行われる理事会の承認を経て、晴れてメンバーになることができる。

このようにVESは、「VFX業界の、プロの、プロによる、プロのための協会」と言える。

そして、映画ギルドとしてのVESが主催する賞が、このVESアワードである。VESアワードは、言ってみれば「VFX業界のアカデミー賞」のような位置づけである。

その授賞式では、全世界から応募されたVFX作品の中から、映画、TV(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全25カテゴリーにおよぶ最優秀作品が、VESの会員投票によって選出される。

今年の第22回VESアワードにおけるノミネート作品の選考は、

  • 25カテゴリー
  • 526件の応募
  • 471人の審査員
  • 39カ所での審査会(現地審査会24カ所、バーチャル審査会15カ所)
  • 全世界で6つの異なるタイムゾーン
  • このタイムゾーンを跨ぎ、ノミネート審査会に要した時間(最初に審査が始まった地域の開始時刻から、一番最後に審査が終了した地域での終了時刻までの時間)は39時間

…という途方もないプロセスを経て選び抜かれ、最終的にVESメンバーによるオンライン投票によって、受賞作品が決定される。

そして授賞式では、各部門の受賞作品の発表および表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られる。

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VESアワード名物の「月顔トロフィー」を手にする受賞者。「マンダロリアン シーズン3」で最優秀エフェクト&シミュレーション賞[ドラマ/コマーシャル/ゲーム・シネマティック/リアルタイム部門]を受賞した、ILMのエフェクト・チーム(画像:筆者撮影)

VESアワード受賞式は、ビバリーヒルズのサンタモニカ&ウィルシャーの交差点に位置する有名なホテル、ビバリー・ヒルトンで開催されている。ここはゴールデン・グローブ賞授賞式の会場としても知られ、1,000人以上が出席する、大規模な授賞式である。

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満席の場内。今年のチケットもSOLD OUTだったそう(画像:筆者撮影)

VESアワード受賞式は、チケットさえ購入すれば、VES会員でなくても入場することができる。チケット代はVES会員300ドル、一般500ドルと高めの設定だ。しかしながら、ディナーもついて、VFX業界の著名人やハリウッドのセレブを間近で拝める華やかな授賞式に出席できるので、それだけの価値はあると言ってもいい。チケットはノミネート発表後に間もなく売り切れになってしまう年も多く、今年もSOLD OUTだったそう。

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授賞式では豪華なプログラムも配布される(画像:筆者撮影)

今年のハイライト

第22回VESアワード受賞式は2月21日(水)夜に開催された。ノミネートされたゲスト、VFX業界からの参加者、そして賞のプレゼンター達がドレスやタキシードに身を包んでビバリー・ヒルトンに集い、全25カテゴリーにも及ぶ各賞、そして特別賞の授賞式が開催された。

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ビバリー・ヒルトンの正面玄関に続々と到着するリムジン(画像:筆者撮影)

今年は映画「ザ・クリエイター/創造者」が圧倒的に強く、5部門で月顔トロフィーを獲得した。長編アニメーション関連部門で映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」が強く、最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]を始めとする4部門で受賞。映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」は最優秀デジタル撮影賞[全部門]など2部門を受賞。コマーシャル関連部門では、コカ・コーラの「Coca-Cola; Masterpiece」が強く、2部門で受賞を果たした。

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映画「ザ・クリエイター/創造者」で最優秀視覚効果賞[実写映画部門]を受賞したILMのチーム(画像提供:VES)

先端技術賞

昨年から新設された先端技術賞(EMERGING TECHNOLOGY AWARD)では、前回の本欄でもご紹介したScanlineVFX / Eyeline Studiosが、映画「ザ・フラッシュ」におけるボリューメトリック・キャプチャの使用事例で受賞を果たした。

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映画「ザ・フラッシュ」におけるボリューメトリック・キャプチャの使用事例で受賞を果たし、スピーチを行うScanlineVFX/Eyeline StudiosのCEOステファン・トロジャンスキー氏(画像提供:VES)

特別賞

VESアワードでは、VFX業界において長年貢献した人物に、毎年特別賞を贈っている。

今年は、映画「タイタニック」、「アバター」、「ジャングル・ブック」、「ライオンキング」などの数々の作品でVFXプロデューサーを務めたジョイス・コックスが生涯功労賞を受賞

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生涯功労賞を受賞したジョイス・コックス(画像提供:VES)

また、60年代から俳優、映画監督として活躍し、「スタートレック」シリーズのカーク船長役で世界的にも知られるウィリアム・シャトナーが、クリエイティブ・エクセレンス賞を受賞した。今年で92歳を迎えた今も、現役の俳優としてご活躍中である。

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壇上で受賞の挨拶を行う"カーク船長"こと、ウィリアム・シャトナー(画像提供:VES)
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「日本のファンのみなさんへ!」という筆者の呼びかけに、笑顔で応えるウィリアム・シャトナー(画像:筆者撮影)

今年の豪華ゲスト

VESアワードは、映画の賞だけに司会やゲストも豪華な顔ぶれだ。

今年の司会は、人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」で人気を博した俳優/コメディアンのジェイ・ファラオが務め、歯切れの良い軽快なジョークで場内を沸かせていた。

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司会は、俳優/コメディアンのジェイ・ファラオ(画像提供:VES)

また、賞のプレゼンターとして、映画「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」、「ザ・クリエイター/創造者」のギャレス・エドワーズ監督や、映画「テッド」やSFドラマ「宇宙探査艦オーヴィル」の監督&俳優として知られるセス・マクファーレンが登壇した。

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壇上で挨拶するギャレス・エドワーズ監督(画像提供:VES)
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プレゼンターとして登場した俳優のセス・マクファーレン(画像提供:VES)

そして各賞のプレゼンターとして、映画「ゴーストバスターズ」の人気俳優アーニー・ハドソン、女優フォーチュン・フィームスター、「マンダロリアン」の女優ケイティー・サッコフ、ヒット番組「I’m Sorry」の原作および主演女優のアンドレア・サベージ、「ザ・フラッシュ」の女優キアシー・クレモンズらが登壇。

まさにハリウッドの映画賞に相応しい、錚々たる顔ぶれの豪華ゲスト達であった。

ハリウッドで活躍する日本人の受賞

今年は、Sony Pictures Imageworksのエフェクト・アーティスト加藤直樹氏が、映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」で最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]にクルー4名の方と共に連名でノミネートされ、見事受賞を果たした。

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映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」で最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]を受賞した、Sony Pictures Imageworksのエフェクト・チーム。左からパブ・グロホラ、フィリッポ・マッカリ、加藤直樹、ニコラ・フィニッツィオの各氏(画像提供:VES)

映画「ゴジラ-1.0」がノミネート

今年は、日本からの作品が、なんと13年ぶりに、そしてVESアワード史上では3作品目のノミネートを果たした。

映画「ゴジラ-1.0」が、最優秀キャラクター賞[実写映画部門]にノミネートされ、山崎貴監督、ゴジラのモデリングを手掛けた田口工亮氏が来場した。

受賞作品の発表前には各ノミネート作品のクリップが上映されるが、画面にゴジラが登場した瞬間に場内から沸き起こった歓声の大きさは、他の作品を凌ぐものがあった。

惜しくも受賞にはいたらなかったものの、日本からのノミネートは快挙!!である。

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VESアワードのレッドカーペットにて。左から田口工亮氏、ゴジラを手にする山崎貴監督(筆者撮影)
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VESアワード受賞式の会場にて。左から山崎貴監督、通訳のMike McNamara、田口工亮の各氏(筆者撮影)

今年の受賞作品一覧

第22回VESアワード 全25カテゴリー 受賞作品一覧は下記のとおり(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。

最優秀視覚効果賞[実写映画部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE

「The Creator」

最優秀助演視覚効果賞[実写映画部門]

OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE

「Nyad」

最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN AN ANIMATED FEATURE

「Spider-Man:Across the Spider-Verse」

最優秀視覚効果賞[ドラマ部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE

「The Last of Us; Season 1; Infected」

最優秀助演視覚効果賞[ドラマ部門]

OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE

「Winning Time:The Rise of the Lakers Dynasty; Season 2; Beat LA」

最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A REAL-TIME PROJECT

「Alan Wake 2」

最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A COMMERCIAL

「Coca-Cola; Masterpiece」

最優秀視覚効果賞[博展映像部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A SPECIAL VENUE PROJECT

「Postcard From Earth」

「Rembrandt Immersive Artwork」

最優秀キャラクター賞[実写映画部門]

OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN A PHOTOREAL FEATURE

「Guardians of the Galaxy Vol. 3; Rocket」

最優秀キャラクター賞[アニメーション映画部門]

OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN ANIMATED FEATURE

「Spider-Man:Across the Spider-Verse; Spot」

最優秀キャラクター賞[ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門]

OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN EPISODE, COMMERCIAL, GAME CINEMATIC OR REAL-TIME PROJECT

「The Last of Us; Endure & Survive; Bloater」

最優秀背景賞[実写映画部門]

OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN A PHOTOREAL FEATURE

「The Creator; Floating Village」

最優秀背景賞[アニメーション映画部門]

OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN ANIMATED FEATURE

「Spider-Man:Across the Spider-Verse; Mumbattan City」

最優秀背景賞[ドラマ/コマーシャル/ゲーム・シネマティック/リアルタイム部門]

OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN EPISODE, COMMERCIAL, GAME CINEMATIC OR REAL-TIME PROJECT

「The Last of Us:Post-Outbreak Boston」

最優秀デジタル撮影賞[全部門]

OUTSTANDING VIRTUAL CINEMATOGRAPHY IN A CG PROJECT

「Guardians of the Galaxy Vol. 3」

最優秀モデリング賞[実写/アニメーション部門]

OUTSTANDING MODEL IN A PHOTOREAL OR ANIMATED PROJECT

「The Creator; Nomad」

最優秀エフェクト&シミュレーション賞[実写映画部門]

OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN A PHOTOREAL FEATURE

「The Creator」

最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]

OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN ANIMATED FEATURE

「Spider-Man:Across the Spider-Verse」

最優秀エフェクト&シミュレーション賞[ドラマ/コマーシャル/ゲーム・シネマティック/リアルタイム部門]

OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN EPISODE, COMMERCIAL, GAME CINEMATIC OR REAL-TIME PROJECT

「The Mandalorian; Season 3; Lake Monster Attack Water」

最優秀コンポジット&ライティング賞[実写映画部門]

OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN A FEATURE

「The Creator; Bar」

最優秀コンポジット&ライティング賞[ドラマ部門]

OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN AN EPISODE

「The Last of Us; Endure and Survive; Infected Horde Battle」

最優秀コンポジット&ライティング賞[実写コマーシャル部門]

OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN A COMMERCIAL

「Coca-Cola; Masterpiece」

最優秀SFX部門[実写部門]

OUTSTANDING SPECIAL (PRACTICAL) EFFECTS IN A PHOTOREAL PROJEC

「Oppenheimer」

先端技術賞(昨年より新設)

EMERGING TECHNOLOGY AWARD

「The Flash; Volumetric Capture」

最優秀視覚効果賞[学生作品部門]

OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A STUDENT PROJECT (AWARD SPONSORED BY AUTODESK)

「Silhouette」

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。