穗垣順之助氏、相羽千尋氏ツーショット

映画や配信作品の編集に長年携わってきた株式会社FILMの穗垣順之助氏と、同社の編集技師であり2023年にNetflixで公開された「幽☆遊☆白書」ではVFXエディターを務めた相羽千尋氏に、これまでに携わった様々な作品での編集環境の違いや、作品編集のワークフロー、Media Composerの使い勝手などについて話を伺った。

穗垣順之助氏近影
穗垣順之助氏

穗垣氏:

30年程前に日活の編集部に入社し、9年程所属した後、フリーランスとして活動を始めました。現在は、株式会社FILMでユニットリーダーを務めています。Media Composerに初めて触れたのは、伊丹十三監督の「静かな生活」(1995年)で数シーンを編集した時ですね。それ以来Media Composerを使って編集をしています。

 

穗垣 順之助(ほがき じゅんのすけ)氏 プロフィール

日活芸術学院卒業後、日活株式会社に入社。鈴木晄氏に師事し様々な作品で助手を務め、退社後フリーランスとして編集技師になる。現在は株式会社FILMでユニットリーダーを務める。

主な作品:

  • 「罪の声」(土井裕泰監督)
  • 「ちはやふる~結び~」(小泉徳宏監督)
  • 「幽☆遊☆白書」(Netflixシリーズ)
  • 「恋愛バトルロワイヤル」(Netflixシリーズ)
  • 「片思い世界」(土井裕泰監督)2025年4月公開
  • 「父と僕の終わらない歌」(小泉徳宏監督)2025年5月公開

受賞歴:

  • 「ちはやふる~上の句、下の句~」にて第26回日本映画批評家大賞編集賞、日本映画テレビ編集協会第23回JSE賞、第70回日本映画テレビ技術協会映像技術賞
  • 「ちはやふる~結び~」にて第1回映画のまち調布賞、技術部門編集賞
  • 「罪の声」にて第44回日本アカデミー賞、優秀編集賞
相羽千尋氏近影
相羽千尋氏

相羽氏:

2015年に映像系の会社に入社し、仕事を通じて穗垣さんと知り合いました。その後、2017年に株式会社FILMの編集部で穗垣さんの助手として働き始め、3年ほど前から編集技師として作品に携わっています。

 

相羽 千尋(あいば ちひろ)氏 プロフィール

2015年にIMAGICA GROUPへ入社、撮影・インジェストチームにて従事したのち、担当作品をきっかけに、2017年穗垣順之助氏の助手として株式会社FILMへ入社。「ちはやふる—結び—」「コールドケース」「浅草キッド」などの作品で助手を務めたほか、Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」ではVFXエディターを経験。現在は編集技師として様々な作品を担当する。

主な作品:

  • 「コンフィデンスマンIG」(ドラマ)
  • 「コンフィデンスマンMC」(ドラマ)
  • 「夏空ダンス」(内村光良監督)
  • 「劇映画 孤独のグルメ」(松重豊監督)

初の試みに挑戦したNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」

ー「幽☆遊☆白書」では制作のスタイルがそれまでと違っていたと伺いました

穗垣氏:

この作品は、北米の制作スタイルで進めるということでスタートしました。VFXを主に担当するScanline VFXは海外の会社のため、共通言語は英語でした。それから、細かい話ですが、クリップの名前の付け方などもすべて現地のやり方に合わせていました。日本の従来のシステムにはないことが、いろいろとありましたね。

ー相羽さんはVFXエディターという立場での参加だったと伺いました。

相羽氏:

VFXエディターの主な仕事は、合成が必要なカットの管理です。編集部と合成部の間でデータが行き来するので、それを確実にやりとりするのが役割ですね。当時の日本ではまだあまり馴染みのないポジションだったと思います。
今回は撮影から編集、合成までの期間が長く、穗垣さんが常に付きっきりというわけにはいかなかったので、合成された映像を見ながらカットの尺を調整する作業も任せていただきました。これは海外の作品におけるVFXエディターの役割としてもよくあることです。
また、合成部のミーティングにも参加し、合成のプレビューについて意見交換も行っていました。実際に合成作業を担当する会社は複数あり、それぞれと作業のフローやスケジュールのやりとりも発生したのですが、手探りの部分も多く、思った以上に時間がかかることもありました。
VFXエディターの具体的な作業内容を当初はしっかりと把握していなかったこともあり、実際に作業を進める中で編集作業全体のスケジュール調整が想像以上に大変でしたね。

穗垣氏:

Scanline VFXは海外にありますが、他にも多くの会社がいくつかの国々でCG制作を担当していて、それらとの橋渡しも重要な役割でした。もちろん、こちらの要望を伝える役割もありましたし、「幽☆遊☆白書」に関しては、私よりも相羽の方が相当忙しかったと思います。

ー日本のシステムと違う部分は他にもありますか

相羽氏:

「幽☆遊☆白書」は合成シーンが非常に多く、特に第5話では編集の時点では約500カットありました。合成作業を経ると、それぞれのカットに合成専用のカットナンバーが振られます。これは編集時に使っていたカットナンバーとは異なり、シーンの内容に応じた英数字になります。この番号を元のカットナンバーと照らし合わせる作業も大変でした。
さらに、途中で元素材のファイルをリネームする必要があり、日本側で間違えるとそのままアメリカの合成部に渡ってしまうリスクがありました。そのため、ミスを最小限に抑えるために、どのようなフローが最適かをEDLやAAFを駆使して関係者と試行錯誤しました。1つの合成カットには、クリーンプレートやベースプレートなど多くの素材が付随するため、作業は非常に大変でした。この時は私を含めて助手が4人いたのですが、全員がフル回転で作業していましたね。

穗垣氏:

合成後のやりとりも、すべてこの合成ナンバーを使って行われました。日本では基本的に、最初に付けたカットナンバーをそのまま使うので、その点も大きな違いですね。

穗垣順之助氏、相羽千尋氏インタビュー風景

ー特に大変だった作業はありますか

相羽氏:

俳優さんの顔をキャプチャーし、表情やセリフを合成するボリュメトリックキャプチャーシステムを使ったカットでは、そのデータを受け取った後、穗垣さんや監督と相談しながらリップシンクやアクションの誤差を調整しました。その上で海外の会社にデータを送り、戻ってきたものを再調整して送り直すという作業を、何度も繰り返しました。カット数が膨大だったので、本当に大変でした。

穗垣氏:

ここまで細かく作業を進めたからこそ、VFXのクオリティが非常に高いものになったのだと思います。これまでにないレベルのカットもあり、そうしたものに携われたのは貴重な経験になりました。
今までにない挑戦をさせてもらったという意味でも、有意義な体験でしたし、今後の日本での制作活動にも活かしていけると思います。

ー「幽☆遊☆白書」ではMedia Composerはどのように活用されましたか

穗垣氏:

Media Composerを5式使っての作業でした。レゾリューションはプレビュー時にある程度の画質を確保したかったので、LBではなくSQまたはHQを使用しました。近年はマシンパフォーマンスも上がっているので、ある程度の画質でもストレスフリーで作業ができますね。
今回はプロジェクトをエピソードごとに分けて作業しました。1話ごとの合成用素材の数が非常に多かったため、念のため分けて管理する形を取りました。ただ、ビン自体はどのプロジェクトのものでもいつでも呼び出せるので、特に問題はありませんでした。

相羽氏:

私は「VFXエディター」という名前のプロジェクトを作り、そこでさまざまな作業を行い、ミックスダウンしたものを穗垣さんに渡していました。また、私の助手の方々もそれぞれ個別にプロジェクトを作成し、それぞれの作業を並列で担当してもらいました。

穗垣氏:

とにかく素材の数が膨大だったので、ミスが起きないような体制づくりを心がけました。

相羽氏:

機能面では、仮合成を担当していたので、各シーンのイメージを合成部に伝える必要がありました。そのため、エフェクトパレットの「Key」ジャンルにあるエフェクト群を駆使して作業を行いました。また、合成素材の多いカットでは、1カットで24トラックを使用することもありましたが問題なく作業できました。

穗垣氏:

今回はカメラの台数が多く、グループクリップを多用しました。グループクリップを重ねて使う場面もありましたが、特に不具合なくスムーズに作業できました。近年は、プレビューの段階で、仮合成に加えてもうワンランク上のビジュアルクオリティを求められる作品が増えています。Media Composerの今後の進化という意味では、そのあたりが期待されるところになってくるのではないかと思います。

穗垣順之助氏インタビュー風景

その他の配信作品について

ーNetflixシリーズ「恋愛バトルロワイヤル」についてはいかがでしょうか

穗垣氏:

今回インタビューを受けているNetflixの編集スタジオを初めて使って編集したNetflix作品でした。クラウドのシステムを使うことに当初多少の不安はありましたが、実際に作業してみると全く問題ありませんでした。
もう一人のエディター用、そして助手用のMedia Composerと、計3部屋の体制で行いました。この作品はエピソード毎に担当するエディターを変えていたので、それぞれが別の部屋で並行して作業ができてとてもスムーズでした。助手さんの端末も含めデータも自由にやりとりできますし、とても使い勝手の良い環境ですね。

ーリモートでも作業できるシステムですが、リモートでの編集はされましたか

穗垣氏:

最近は自宅で編集をするエディターさんも増えていますし、そのメリットも理解はしているのですが、単純に自分はリモートに向いていないと思います。現場に来ないと、いわゆる「仕事のスイッチ」が入らないんです。
また、編集作業中は頭がフル回転している状態になるので、完全にリラックスできる時間を作ることも私にとっては重要です。たとえば、自宅のお風呂に入っているときに「こうしたらいいのでは?」と思いつくこともありますが、もし自宅に編集環境があってすぐ作業できるとなると、休む時間がなくなってしまうのです。ですので、そういう時に思いついたことは翌日にやると決めています。次の日の作業場に向かう電車の中でさらにブラッシュアップのアイデアが浮かぶこともありますし。

相羽氏:

私も編集室を出たら仕事スイッチを切って、切り替えるように心がけています。もちろん家で編集について思いつくことはありますが、明日試してみよう、という感じですね。おそらく家に編集環境があっても、家事をして、ご飯を食べて、休憩して、ちょっと編集に向き合うけどまたすぐ休憩して、という具合に、誘惑に勝てる自信がありません(笑)。

Netflixが構築するAvid Media ComposerやAvid NEXISを組み合わせたリモートワークフローについては過去の記事を参照して下さい。

On Avid Vol.14 Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」エディターインタビュー。Media ComposerとAvid NEXISを使用したチームワークフロー

穗垣氏:

それと、私にとっては近くに助手さんがいて「休んでばかりではだめですよ」というプレッシャーを感じるのも重要なことかなと思っています(笑)。

ー助手さんには見張り役のような役割もあるのでしょうか(笑)

相羽氏:

あると思います(笑)。私が助手の時、穗垣さんに「今日のノルマはここまでですからね」とよく言っていましたね。

相羽千尋氏インタビュー風景

穗垣氏:

助手さんが隣にいると、編集を見せることもできますし、悩んだ時に意見を聞くこともあります。例えば相羽とは年齢も一回り以上違いますし、性別も異なります。その相羽の意見が新鮮だったり重要だったりすることも多いですね。
また、編集の工程を見せることも大切だと考えています。結果だけを見せても何にどのように悩んだのかは伝わりません。そこに興味を持っている助手さんも多いと思うので、私はできるだけオープンに見せるようにしています。

劇場作品のワークフローについて

ー映画「片想い世界」についてはいかがでしょうか

穗垣氏:

「片想い世界」は東映の編集室を使いました。撮影所の利点は、編集室と試写室がリンクしていることで、スクリーンサイズで見ようと思ったときにすぐに映し出せる点です。映画の編集では、スクリーンサイズでの確認がとても重要になります。そのため、使用するレゾリューションも高めに設定し、大画面でも耐えられるようにしています。
スクリーンサイズを前提にすると、編集の「間」の取り方も変わってきます。一方で配信作品の場合は、私はデータを貰ってスマートフォンで確認するようにしています。今やほとんどの人が小さな画面で作品を見るので、その際の見え方をチェックするのは大切です。
例えば、引きの美しい風景カットでは、スクリーンでは全体を把握するのに時間がかかるためある程度の尺を確保しますが、スマートフォンで見る場合はそこまで長くする必要のないこともあります。このように画面の大きさによって編集のアプローチが変わります。ただ、今は映画館で上映された作品がその後配信されることも多いので、どこに基準を置くか悩ましいこともありますが、基本映画作品はスクリーンがメインになるので私はそこを最優先に考えています。

ー映画作品でのMedia Composerの使い勝手はいかがでしょうか

穗垣氏:

「片想い世界」の土井裕泰監督は、レイヤーを重ねるような作り込みはほとんどせず、芝居を紡いでいくという印象が強いです。芝居を繋いでいくという観点では、Media Composerのシンプルな操作性がとても良いですね。芝居を掴み、芝居を拾う、という作業に集中でき、直感的に編集を進められます。

相羽氏:

私も同じですね。直感的に操作できるので、制作部にソフトについて聞かれたら基本Media Composerを指定しています。芝居場が多いMVなども含め、お芝居を繋ぐ作業はMedia Composerが向いていますね。

穗垣氏:

Media Composerは編集操作の各工程がシンプルなんですよね。他のソフトと比較するとその手数の少なさが良いです。自分の中では基本選択肢はなく、Media Composerでやります、と伝えています。

ー映画「父と僕の終わらない歌」はいかがでしょうか

穗垣氏:

「父と僕の終わらない歌」は音楽が重要な映画でした。私は編集する際、いつもAvidのコントロールサーフェスAvid S1を使って仮のミックス作業を行なっています。音楽作品ではバランス調整が特に重要ですが、Media Composerの画面にあるフェーダーだけでは細かい調整が難しいので、ハードウェアのミキサーがあるととても便利です。この映画でも多用しました。セリフ、SEとその他に劇中の演奏している音楽が6chだったので、音声トラックが多い構成でした。
また、映画の試写室でのプレビューでは、通常モノミックスで音声を出すことが多いのですが、セリフや音楽のバランスが崩れて聞き取りづらくなることがあります。そのため、私は試写の段階ではセリフをセンタースピーカーで出して音楽をLRから出してもらうようにしています。最終的な作品はサウンドチームがマルチチャンネルで仕上げるので、それとは別物なのですが、試写時の音のバランス調整はとても重要ですね。

相羽氏:

試写として見やすい環境を整えるということですね。ストレスなくセリフも聞こえますし、音楽をどこで出すのか、という確認もできます。

穗垣氏:

「父と僕の終わらない歌」に限らず、最近では試写の段階で音楽をつけて欲しいという作品も多いです。試写の際にセリフや音楽が聞き取りづらいと、集中力が削がれてしまい、作品の見え方、感じ方が変わってしまいます。そのようなことを防ぐためにも、音を整えておくことが大切です。
そういう意味でも、S1を使った作業はとても便利です。Netflix作品のオフライン編集では基本音楽をつけるので、細かい調整も楽にできています。
編集が終わると、音声トラックのデータは、書き出したQTムービーと共にサウンドチームに渡します。QTムービーは編集の意図として「ここはこうしたい」「ここでグッとくるようにしたい」というポイントを伝えるためのものですね。これは私だけでなく監督の意向も反映されているので、それを投げるという感じですね。あとは録音部さん、サウンドデザイナーにお任せします。

穗垣順之助氏、相羽千尋氏インタビュー風景

ーお二人は映画、配信、テレビと様々な作品に携わられていますが、媒体による編集の違いはあるでしょうか

穗垣氏:

映画と配信は技術的な面よりも、カッティングのリズムの違いを意識することが多いですね。

相羽氏:

配信はテレビともまた違いますね。

穗垣氏:

地上波のドラマはCMが入るので、いかに継続して観て貰えるかが大きなポイントになります。一方で配信は30分なり1時間なりの尺を連続で視聴させることが求められます。途中で離脱させないことが非常に重要で、さらに1シーズン10話のように長いスパンでずっと見てもらうことを意識する必要があります。「飽きさせない編集」が大切です。
特に若い世代はテンポの早い作品を好む傾向にあるので、作品によっては意識してリズムよく作ることを心がけます。一方で映画の場合は劇場に足を運んでもらうという形になるので、作り手が劇場で見てほしいものをお客様に見てもらうという考え方が強くなります。作家性という意味では映画の方が自由度は高いのではと思います。
また、テレビは「ながら見」をする人も多いので、そうした視聴スタイルの中でいかに惹きつけるかが重要ですね。

相羽氏:

視聴媒体でカッティングが違うという体験でいうと、Netflix作品「浅草キッド」の完成披露試写会のときですね。試写室で行われたのですが、それを見た時に「穗垣さん、これ、この間合いじゃなかったですね」と言いました(笑)。

穗垣氏:

先ほどもお話しましたが、あれは配信向けに繋いでいるので、スクリーンで見るための「間」ではないんですよね。スクリーンで観るのならもう一回編集し直したいと思いました(笑)。

相羽氏:

それと、テレビの場合は視聴者が積極的に選んで観るのではなく、たまたま流れていたから観ているという場合もあります。そのため、表現を少しオブラートに包んで柔らかくする傾向はありますね。それぞれの編集の媒体でアプローチは結構違うと思います。

ーMedia Composerの機能について、気に入っている点や要望はあるでしょうか

穗垣氏:

Pro Toolsとのデータの連携はとても便利です。Pro Toolsのセッションファイルが書き出せるというのは他のメーカーにはない強みですね。仕事でも何度も使っています。

相羽氏:

文字を入れる作業が多いのですが、現行のAvid Titler+よりも機能をシンプルにしていいので、よりレスポンスの良いツールがあると良いなと思います。

穗垣氏:

あとはScriptSync AI(正式名:Media Composer | ScriptSync AI Option)を使ってみたいですね。ただ、日本の台本は縦書きなので、横書きの状態に違和感を感じる人もいるかもしれないですね。海外では多く使われていると聞いているので、数シーンでもよいので仕込みからの一連のワークフローを試してみたいです。

ポストプロダクションにおける「働き方」について

ー編集を取り巻く就労環境については、どのようにお考えでしょうか?

穗垣氏:

若いうち、体力があるうちに、多少ハードな経験をすること自体は決してマイナスではないと思います。ただ、すべてがそうであるべきではありませんし、例えば私はこの仕事を30年ほど続けていますが、もし私が今も厳しい環境で働いているのを新人が見たら「30年やってまだ辛い状態なのか」と思われてしまいます。それは良くないですよね。
また、近年は女性のスタッフも増えています。私自身も結婚し、子育てをしながら仕事を続けてきましたが、女性も結婚して家庭を持ち、育児をしながら働ける環境を整えていきたいと考えています。撮影現場では難しい面もありますが、ポストプロダクションなら、柔軟な働き方ができるはずです。それを私たちが示していかなければならないと思っています。

相羽氏:

私もこれまで様々な経験をしてきて、忙しい時期もありました。私はたまたま乗り越えることができましたが、人それぞれキャパシティがあります。だからこそ、根性論だけではなく、どうすればより良い環境を作れるのか、常にアップデートしていく必要があると思っています。

穗垣氏:

プロダクション側の意識も重要ですね。その点、Netflixのような配信系の会社はしっかりと環境を整えていますが、それ以外の会社にも、予算配分などを含めて、より良い制作環境を検討してほしいと感じています。

ー人手不足でエディターや助手が足りていないという話も聞きますが、その点についてはいかがでしょうか

穗垣氏:

映画などの編集において、助手というのはとても重要な役割を担っています。助手がいなければ、編集作業はスムーズに進みません。いかに技師が余計なことを気にせず、編集に集中できる環境を整えられるか、それが助手の役割です。

相羽氏:

編集助手は単に技師のサポートをするだけではなく、関係者との調整、各所との円滑なルール作り、その統括など、多岐にわたる業務を担っています。

穗垣氏:

そして、技師が助手を育てることで、編集のスキルやノウハウが継承されていきます。自分はフィルム世代だったので先輩には「プロとアマの1番の違いはスピードだ」とよく言われました。「時間をかければ学生でもできる。しかし、プロはお金をもらっている以上、できるだけ短時間で正確に仕上げることが求められる」と。
スピードという観点でも助手の能力は非常に重要ですが、それは一朝一夕で身に付くものではありません。しかし、近年はネット配信の増加などによるエディター不足の影響もあり、十分な助手経験を積まないままエディターになるケースが増えています。その結果、作業環境全体のクオリティが低下する懸念もあります。この課題についても、どうすれば改善できるのかを考えていきたいですね。

今回は全世界で配信中のNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」におけるVFXエディターのワークフローや、視聴デバイスの多様化による編集アプローチの違い、脈々と続く知識や技術の継承など、日本のトップエディターによる貴重な話を聞くことができた。

制作側も、視聴者も、それを取り巻く環境が目まぐるしいスピードで多様化する昨今において、Avidソリューションが様々な人に寄り添う存在であり続けることを願うものである。

穗垣順之助氏、相羽千尋氏インタビュー動画