![250116_meiki_canon_autoboy_top](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_top.jpg)
1986年発売のフィルム一眼レフ「T90」に始まり、最新のミラーレス「EOS R1」や「EOS R5 Mark II」にいたるキヤノンのカメラデザイン。その礎となるものをつくったのが、ドイツのインダストリアルデザイナー、ルイジ・コラーニ氏(1928〜2019)であることはよく知られた話だ。同社のカメラの多くはいずれも、氏の提案したデザインコンセプトを多かれ少なかれ受け継いでいるのである。
このコンセプト案が発表された当時、コラーニ氏のデザインテイスト溢れる独特で奇抜なモックモデルをカメラ誌などで見て、私も含め当時の写真愛好家の多くが、果たしてこのようなカメラで撮影ができるのかと驚かされたものである。
しかしながら、キヤノンのデザイナーはそれを上手く自分たちのものとして巧みに取り込み、そして現在、同社のカメラが持つアイデンティティのひとつとなっていることは間違いのない事実である。
T90はコラーニ氏のデザインであるとか、未だキヤノンのカメラデザインはコラーニ氏のそれを脱していないという発言を見聞きすることがある。しかしながらT90は同社のデザインであるし、カメラデザインについてもコラーニ氏のコンセプトを元に一貫して今日にいたっているわけなので、そのような発言は不理解もいいところだろう。
何より40年近く経った今でも氏のデザインコンセプトを大切に受け継ぐキヤノンの一貫した姿勢は、移り変わりが早く流行に左右されることも多い日本のインダストリアルデザインの中において極めて貴重な存在と述べてよい。
前置きが長くなったが、今回の「オートボーイジェット」もコラーニ氏のデザインコンセプトの影響が随所に見られるカメラである。
![250116_meiki_canon_autoboy_01](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_01.jpg)
レンズ鏡筒をカメラ本体そのものとするような構造と、曲面と曲線が織りなすボディシェイプは、私が知る限り、当時ほかには見受けられなかったものである。しかもカメラは右手で鏡筒部分を持つように構えるが、その曲面によって手のひらによく馴染む。
それだけでも新鮮というか斬新なボディであるが、さらに驚かされるのが、電源をONにしたときだ。レンズカバー開放ノブを押すと、蝶番で鏡筒先端と繋がり、その裏側にはストロボのキセノン管を仕込んだレンズカバーがスプリングで自動的に180°開く。しかもレンズカバーと重なるように閉じていたストロボ用のフレネルレンズも同時に開き電源が入るのである。その姿は発売当時すごく斬新で、同時にどこか未来を感じさせるものであった。
ワイド端とテレ端のときのストロボ用フレネルレンズの位置を比較してみた。ワイド端ではキセノン管のあるレンズカバー裏面にフレネルレンズがほぼくっ付いているが、テレ端では離れた位置となることがわかる
ちなみにフレネルレンズは、光学系の入るインナー鏡筒と蝶番で繋がっており、ズーミングに合わせてインナー鏡筒とともに前後する。ワイド端焦点距離35mmのときはキセノン管のあるレンズカバー裏面にフレネルレンズがほぼぴったりくっ付いた状態に、テレ側になるほどレンズカバーから離れていくのである。述べるまでもなくストロボの照射角度をレンズの画角に合わせるためであるが、とてもよく考えられたギミックで感心させられる。
![250116_meiki_canon_autoboy_03](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_03.jpg)
![250116_meiki_canon_autoboy_04](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_04.jpg)
特徴ある機能もいくつか搭載している。その一つがローアングルファインダーだ。カメラ上部にあるファインダー切り換えレバーをスライドさせると、ローアングル用のファインダーが現れ、同時にカメラ背面のアイレベルファインダーには黒いマスクが降り使用できなくなる。ネイチャー撮影など屈んで撮る時は重宝するはずだ。と同時に、往年の写真愛好家には懐かしい「リコーフレックス TLS401」の2ウエイファインダーを思い起こすものでもある。
![250116_meiki_canon_autoboy_05](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_05.jpg)
![250116_meiki_canon_autoboy_06](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_06.jpg)
もうひとつが倍率一定モード。この機能は撮影距離が変わってもカメラが自動的に行うズーミングで、ピントを合わせた被写体を常に同じ大きさで撮影するものだ。仕組み的にはピントを合わせた被写体の距離からズーミングの量を割り出して撮影を行うようである。
画面上の被写体の大きさは厳密には全く同一ではないものの、望遠側と広角側で撮ると画角による背景の写り込みの違いがそれなりにわかるなど面白い。この機能の搭載については、筆者自身、今回の記事執筆で気づいたものであるが、現行モデル時代おそらく私のように知らなかったユーザーも多かったのではないかと想像している。
![250116_meiki_canon_autoboy_07](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/01/250116_meiki_canon_autoboy_07.jpg)
残念ながら本モデルは一眼レフではなく、撮影レンズとファインダー用の光学系は別個とするカメラ。ピントの位置やボケの状態はわからないし、当然パララックスが生じるためアングルの精度も高くはない。そのため一般的なフィルムコンパクトカメラ同様、撮影条件によっては割り切った使い方をする必要がある。
このコーナーで以前にも他のカメラで同じような発言をしたことがあったが、やはりデジタルで再構築したらそのような割り切りは不要となり、同時に精度の高い写真が撮れるように思える。搭載するイメージセンサーは1インチとし、レンズの焦点距離は28~135mmほどに。もちろんイメージセンサーが35mmフルサイズのフォーマットよりも小さいので、光学系もそれに合わせて小型化され、よってボディも一回り以上小さくなるなど面白いカメラに仕上がりそうである。久しぶりにオートボーイジェットをいじり回しながら、そんな儚い夢を抱いてしまっていた。
大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
一般社団法人日本自然科学写真協会(SSP)会員。
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