スマートで端正な顔立ち「コンタックスRX」。アナログダイヤルを多用するとともに、コンタックスらしい操作感の楽しめるフィルム一眼レフカメラである。現行モデル時のボディ単体価格は16万円であった

「コンタックスRX」(以下:RX)について語る前に、まずはカール・ツァイスとヤシカが1974年に協業を開始したコンタックスというブランドに対する個人的な思い出を少し記させていただきたい。

いわゆる"ヤシコン"が登場してそう時間は経ってなかった1978年前後の話である。当時筆者は「レールガイ」という鉄道月刊誌を定期的に購読していた。他の鉄道誌の判型はB5サイズ、あるいはB5変形サイズのものがほとんどであったが、レールガイは鉄道グラフ誌と称していたこともありA4サイズと判型は大きく(実際はA4変形サイズ)、また写真を中心とする誌面レイアウトで子どもなりに見応えあるものに感じていた。

誌面は基本的に読者からの投稿写真で構成されていたが、掲載条件として35mmカメラで撮影した写真はコダクロームで撮影したものに限られていた(たしかコダクローム25が指定のフィルムであったように記憶している)。それほど写真に対するクオリティを追い求めていた雑誌だったからだろう。その表4、いわゆる裏表紙は毎号コンタックスの全面広告としていたのである。それが九州の片田舎に住む子どもにとって、コンタックスというカメラブランドが、ニコンともキヤノンとも異なる特別な存在のように思えたのであった。

さらにコンタックスの憧れを強くしたのが、その広告にヤシコン最初のモデル「コンタックスRTS」(1975年発売)とともに写っているツァイスのレンズであった。特に記憶に残っているのが、「Mirotar 1000mm F5.6」というミラーレンズ。装着しているRTSを飲み込んでしまうような巨大な前玉と、広告のなかに記されていたレンズ単体で500万円近くする価格に「世の中にはこんなレンズが存在するんだ」と度肝を抜かれてしまったのである。また、プラナー、ディスタゴン、ゾナーといったレンズ銘も国産メーカーにはない魅力として強烈に映り、コンタックスに対する強い憧れをいたいけな子どもに抱かせるのにレールガイの表4広告は十分以上のものであった。

そのような思いを持つコンタックスであったが、筆者が最初に手に入れたのが、それから20年近く経った1995年で、カメラは今回ピックアップしたRXであった。本モデルの発売は1994年。ヤシカは京セラに吸収されヤシカ・コンタックスから京セラ・コンタックスへと俗称が変わっていた。さらにすでに他メーカーはAFに舵を切っており、私自身も「キヤノンEOS-1N」をメインとして使い始めたときであった。

    テキスト
もちろんマウントは、ヤシカ/コンタックスマウントを採用。フォーカシングスクリーンは交換が可能で、デフォルトの水平スプリット+マイクロプリズムをはじめ5種類が用意されていた。クイックリターンミラーのズレはRXの持病のひとつなので、中古購入の際は留意したい
※画像をクリックして拡大

購入した理由は、いずれコンタックスもAF化されるはずなので、その前に憧れのMFコンタックスとツァイスレンズを一度使ってみたいという極単純な動機であった。それまでもコンタックスを手に入れたいという思いはあったのだが、フラグシップモデルの「コンタックスRTS III」(1990年発売)は大きなボディであることに加えとても高価、ミドルクラスの「コンタックスST」(1992年発売)にしてもちょっと予算オーバーに思えていたのだ。しかしながら、STの後継モデルとしてRXがそれよりも安い価格設定で登場し、この機会を逃したらもうMFコンタックスには縁がないと考え購入したのである(実際AFのコンタックスNシステムが登場したのはそれから6年も後の2000年であったが)。レンズは「プラナーT85mm F1.4」のような大口径で高価なものは買えず、「ディスタゴンT28mm F2.8」、「テッサーT45mm F2.8」、「ゾナーT85mm F2.8」、「ゾナーT135mm F2.8」と比較的安価で、ちょっと暗いツァイスレンズを4本揃えただけであった。

    テキスト
装着しているレンズは、コンタックスを代表するレンズのひとつ「プラナーT50mmF1.4」。「プラナーT85mmF1.4」とともに人気のレンズであった。RXは2000年記念モデルとしてボディ6色、ラバー3色から選べるカスタム仕様も発売している
※画像をクリックして拡大

初めてのコンタックスであったが、シャッターや絞り、露出補正などアナログ表示のダイヤルは当時としても懐かしく、同時にカメラ操作はやっぱりこれだよねと思ったことを強く憶えている。今にして思えば、EOS-1Nの操作感に当時馴染めないところあり、より一層そんな思いを強く持ったのだろう。シャッターダイヤルはヤシコンの伝統いうべき左側ショルダー部に備わっているが、基本絞り優先AEで撮影を行っていたので違和感はなかった。むしろ右側ショルダー部に置かれた露手補正ダイヤルは、ファインダーを覗きながら右手親指と人差し指で素早く補正でき、スナップ撮影などでは便利に感じる部分であった。また、柔らかく優しいシャッター音や、握りやすい形状のグリップなども好印象に思えた。ファインダーはフォーカスエイド機能を搭載したため、さほど明るくないと言われていたが、個人的には不足を感じることはなく、むしろ前述のように暗いレンズしか揃えられなかったので、被写体との撮影距離によってはありがたく感じることも少なくなかったと記憶している。

    テキスト
トップカバーにはアナログ表示のダイヤルが並ぶ。左より撮影モードレバーと同軸のシャッターダイヤル、ABC(Auto Bracketing Control)レバーと同軸の露出補正ダイヤル、測光切り替えレバーと同軸のドライブモード切り替えダイヤル。ちなみに露出補正ダイヤルは1/3段ステップとなるが、ABCレバーはなぜか1/2段ステップ
※画像をクリックして拡大
    テキスト
高級機の証というべきアイピースシャッターを備える。三脚にカメラをセットしたときなどファインダーから目を離して撮影することがあるが、この機構はそのような際アイピース側から光が入り露出が変化することを抑える
※画像をクリックして拡大

そして、RXで撮影後の結果、つまりプリントの仕上がりも強く印象に残っている。当時モノクロプリントは自分で行っていたが、国産のカメラ(レンズ)で撮影したものにくらべ中間調のトーンが豊富で焼きやすく、また自分が愛用している印画紙との相性がとてもよいように思えたのだ。ツァイスレンズの特性に依存するものであるが、出来上がったプリントを見て生意気にもひとり感慨に耽ったものである。ちなみに中判フィルムカメラのハッセルで撮影したモノクロネガも同様の結果であったが、言うまでもなくこちらのレンズもカール・ツァイス製である。そんなRXであったが、私とコンタックスとの付き合いはこれ1台のみ。残念ながらRTS IIIなどフラグシップ機や大口径のツァイスレンズを手に入れることは最後まで叶わなかった。

    テキスト
写真上はCF(カスタムファンクション)に設定した状態で、写真下はディスプレイに表示されたカスタムファンクションの番号と設定番号。設定の内容など取り扱い説明書を見ないとわからないというユーザー泣かせの機能である
※画像をクリックして拡大

中古RXの相場は、ショップや中古カメラ検索サイトなどをチェックすると現在2万円前後のようである。比較的手に入れやすいカメラと思ってよいようだ。ただし、純正のツァイスレンズに関して言えば人気のため価格はそれなりで、特に前述のプラナーT85mm F1.4のような人気の大口径レンズは手に入れるには少々ハードルが高い。コンタックス初心者であれば、そのことを考慮してゆっくりと買い揃えるとよいだろう。またRXは機構的にシャッター鳴きやクイックリターンミラーのズレ、液晶ディスプレイの液漏れなどのある個体も見受けられる。しっかり確認して納得できる一台を手に入れるとよいだろう。そのようなRXであるが、コンタックスというブランドと、ツァイスレンズの写りを知るには、ちょうどよいモデルであるように思える。

    テキスト
バッテリーの交換は、ちょっと前のライカのM型デジタルカメラのように底蓋を外して行う。三脚にセットしているときなどカメラを一旦雲台から外す必要があり、少々面倒だ。ちなみにバッテリーの持ちはよかったように記憶している
※画像をクリックして拡大

■機材協力

住所:〒140-0013 東京都品川区南大井6-13-8第三浜野ビル103
連絡先:TEL.03-3766-7122
営業時間:10:30-18:30


大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。