"使えるレンジファインダー機" 「ライカM6」が1984年に登場したとき筆者(大浦タケシ)はそう思うところがあった。当時使用していた「ライカM4-P」の測光は、純正の外付け露出計「MRメーター」に頼っていたが、カメラに結果を反映するまでの作法が生意気にもとても面倒くさく思えていたからだ。
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M4-Pのアクセサリーシューに装着したMRメーターは、一応シャッターダイヤルと連動するものの、露出を決めようとする度にファインダーから目を離し、メーターの針が指す絞り値を見て、それをレンズの絞りに合わせなければならなかったのである。当時のメータードマニュアルの一眼レフのように、ファインダーを覗いた状態のまま露出を設定することは当然できず、測光範囲も曖昧で不便このうえないものであった。
露出は勘で決めろという精神論を伴う古めかしい考えもあるが、正直そのような技は未熟な私には土台無理な話し。露出計に頼る理由は少なくなく、まず露出の揃ったネガ、特にモノクロフィルムのネガはプリントの際焼きやすいうえに、階調も揃えやすい。
また印画紙への露光時間や、多階調印画紙ではフィルターの設定など比較的あたりがつけやすいこともある。さらにフィルムの特性を最も引き出しやすい露出で撮影ができることも理由のひとつ。もちろん逆光撮影時や、露出を追い込みたいときなど露出補正を行う目安にもなるのである。
M4-Pはセルフタイマーを内蔵していないので、その部分に露出計用のバッテリーは入れられそうに思えたし、「ミノルタCLE」のようにシャッター幕に当たる光の反射を測光すれば、「ライカM5」や「ライカCL/ライツミノルタCL」のような複雑な機構を持つ腕木式の受光素子でなくても対応は可能であるように思えたものである。
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そして、発表されたM6は、まさにそのような思いの叶ったカメラであった。しかも嬉しいことにそれまでのM型ライカと変わらないボディサイズとスタイルを踏襲し、追加された操作部材もカメラ背面のフィルム感度ダイヤルのみとしていたのも魅力ある部分に思えたものであった。
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ただし、発売されたM6はすぐに手に入れることは叶わなかった。先月紹介した「キヤノンNew F-1」関連や、その後に登場した「キヤノンEOS-1」への出費、あるいはクルマやバイクのローンで、趣味性の強い(仕事で使うことのほとんどない)レンジファインダー機は随分と後回しになってしまったのである。そしてようやく購入といたったのが1990年代の最初のころであった。
当時ライカの日本代理店であるシーベルヘグナー(現DKSH)を通して販売されたいわゆる正規品は言うまでもなく高価であった。そのため少しでも予算を抑えたい写真愛好家は並行輸入のライカを購入することが多く、その代表的なカメラショップのひとつが銀座のレモン社であり、自身もそこで購入した。ちなみに前述の筆者のM4-Pは、レモン社の前身であるヒロー商会で購入したやはり並行輸入品であった。
その後経緯は不明ながら1990年の半ばにレモン社が突然正規取扱店となった。しかも販売価格はそれまでと変わることがなく、"正規品"が値ごろ感ある価格で購入できるようになる。私もこの機会を見逃すわけにはいかないと2台目となるM6を購入した。そのときのM6に同梱されていた取扱説明書は日本語のもので、正規品であることを強く認識させるものであった。
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M6では想像以上に快適な撮影が楽しめた。メータードマニュアルは言うまでもなくユーザーにとってフレンドリーであり、精度の高い露出を素早く、しかも被写体と対峙しながら求めることができたし、そのため持ち出す機会も多かった。当時もっと早くこのカメラを手に入れておけばと思ったことは述べるまでもない。「M6はライカでない」とどこぞの写真家が当時語ったそうであるが、個人的にはそのような発言はどうでもよく思えた。
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その後、TTLストロボ発光に対応する「ライカM6 TTL」や、絞り優先AE撮影の可能な「ライカM7」も登場したが、従来と変わらないボディサイズとするM6は自分にとってその魅力は色褪せることがなく長く愛用した。現在M6はメーカーから復刻版が販売されているが、その価格に驚かされるばかり。
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しかしながら復刻版が出たおかげでオリジナルM6の修理は今後も安泰だと言う。露出計のないM型ライカも魅力的であるが、"使えるM型ライカ"としてM6の存在は大きく感じている。
大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。