EOS R6 Mark IIIとはどんなカメラか
EOS R6 Mark IIIは、キヤノンのフルサイズミラーレスラインにおける中上位を担うモデルだ。前機種EOS R6 Mark IIの発売から3年。2025年11月21日に発売となった。最大40枚/秒の高速連続撮影を維持しながら、2420万画素から3250万画素に高画素化したほか、動画性能が大幅に向上し7K RAW動画の内部収録に対応。
静止画・動画の両面で隙がないうえに、上位機種のEOS R5 Mark IIやEOS R1などと比べると軽量で価格が安いのでより多くの層にとって取り回しが良い。プロ・ハイアマチュア層を中心に非常に現実的な"ちょうど良い"選択肢だ。特にEOS R6やEOS R6 Mark IIからのステップアップ、さらにはEOS 5D Mark IVなど一眼レフシリーズからの買い替えを考えるユーザーにとって注目の1台といえる。
主な仕様と進化ポイント
EOS R6 Mark IIIでは有効画素数3250万のイメージセンサーを搭載し、ディテール表現力が向上。バッテリーはLP-E6Pに進化し、より安定した電源供給を実現した。また、記録メディアがCFexpress Type B対応となり、高速連写や高ビットレート動画記録にも余裕が生まれた。
ボディデザインは旧型のEOS R6 Mark IIを踏襲しながらも、新世代EOSらしいアレンジが施されている。例えば、カラーモードの選択画面を表示できる「COLOR/RATEボタン」を新たに搭載。従来の「ピクチャースタイル」に加え、新たに搭載された「カラーフィルター」やシネマEOSゆずりの「カスタムピクチャー」といった3つのカラーモードの設定に素早くアクセスできる。
EOS R6 Mark IIと同様にカメラ上部の左側に「静止画/動画切り換えスイッチ」、右のグリップ側に「電源スイッチ」や「モードダイヤル」を備えている。初めて触れるユーザーでも直感的に扱いやすく、長く使ってきたEOSユーザーにとっても安心感のある操作性だ。
AF&連写性能:動体撮影にさらに強く
被写体検出AFは人物・動物・乗り物に対応。EOS R6 Mark IIと比べると、この3年間でディープラーニングによりAFのアルゴリズムが改善されており、特にAFの追従性能が向上している。
撮影を補助してくれる新機能も搭載した。例えば「登録人物優先AF」は、事前に人物の顔写真を登録しておくことで、複数の被写体が並ぶシーンでも特定の人物に優先的にピントを合わせてくれる。例えば運動会でたくさんの人の中から自分の子どもの写真を撮りたいときに便利な機能だ。
動体撮影に便利な「プリ連続撮影」にも新たに対応。シャッターを押す前から最大20枚、約0.5秒分を記録でき、動物やスポーツの撮影など"瞬間を逃せない"シーンで強力な武器になる。予想できない動きを待ち構えて撮るときなどに活躍する機能だ。
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プリ連続撮影や最大40枚/秒の高速連続撮影の際には電子シャッターを用いる。高速に動く被写体を撮る場合はローリングシャッターによる歪みが見られるものの、よほどシビアな結果が求められる環境でなければ満足できる描写だろう。連写速度と追従性の両立により、フィールドでの信頼感が一層高まった。
画質と高感度耐性:暗所や人物の撮影に優れたフルサイズ
発色はキヤノンらしい自然で温かみのあるトーン。ダイナミックレンジも広く、明暗差のあるシーンでも粘り強い描写が可能だ。
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優れた高感度耐性もEOS R6 Mark IIIの魅力だ。高画素化にともない常用ISO感度はEOS R6 Mark IIの最大102400から64000へと下がっているものの、それでもこれは上位機種のEOS R5 Mark IIの51200を上回る水準だ。
実写の写真からもその実力は認められ、ISO6400でもノイズを抑えながら優れた精細さを維持する。
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上と同じ構図でISO感度を変えて撮り比べて、一部をトリミングして並べたのが以下の写真だ。
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ボディ内5軸手ブレ補正とレンズ内ISの協調制御により、最大8.5段分の補正効果を発揮する。夜景やスナップ撮影でも手持ちで安心して撮れる。
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また、R6 Mark IIIではフルサイズ機として初めて「美肌モード」を搭載し、ポートレート撮影時に肌を自然に整える表現が可能になった。プロのフォトグラファーだけでなく一般層でも手軽に人物撮影を楽しめる。
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動画性能:シネマカメラ級の進化を身近に
動画機能の強化は本機の大きなトピックだ。EOS R6 Mark IIIはシネマラインの「EOS C50」と同じイメージセンサーを搭載しており、動画撮影の多くの点で共通した機能を有する。7K RAWの内部収録や、7Kオーバーサンプリングによる4K動画に対応し、映像品質は非常に高い水準だ。Canon Log 2 / Canon Log 3に対応するほか、Canonが用意するLUTライブラリーを利用できるので、カラーグレーディングしたいユーザーにも適している。
筆者も動画撮影を試してみたが、カスタムピクチャーで選択できる「Canon 709」のルックにいたく感心した。やわらかな描写でありながらもコントラストや色味は強めで存在感ある画づくりだ。写真向けのピクチャースタイルの設定ではなかなか作ることのできないフィルムライクなルックだ。スキントーンが美しく、グレーディングなしで映像を撮りたい際に重宝するに違いない。
EOS Rシリーズとして初めてオープンゲート記録に対応した。センサー全体を活用した3:2の画角で7K動画を記録できるので、ひとつの高解像度の素材から縦・横の映像を切り抜くことができて編集の自由度が向上している。
EOS R6 Mark IIでは、圧縮方式がIPB(LGOP)のみだったが、EOS R6 Mark IIIではIntra(All-I)にも対応。Proxy記録にも対応していて、撮影後の編集ワークフローのこともよく考えられた仕様に進化している。
新機能として、「ショックレスWB」「AWBレスポンス」「AWBホールド」の3つの機能に対応。シーンや環境光に変化があったときにホワイトバランスが順応するまでのスピードやなだらかさを調整したり、一時的にホワイトバランスをロックできる。
ヒストグラムのほか、波形モニターやゼブラ表示もサポートし、映像制作現場での使い勝手が良くなっている。キヤノンのEOS Rシリーズは録画中にはヒストグラムの表示が消えるものが多く、EOS R6 Mark IIIも例外ではないが、波形モニターであれば録画中も表示が可能だ。
以上はどちらかというと上級者やプロ向けの機能だったが、動画初心者にとっても嬉しい進化が多い。例えば、「EOS R50 V」など近年の動画向けカメラで採用されていた「カラーフィルター」機能や「レビュー動画」モードにも対応した。ボタンひとつで印象的なルックを作ったり、カメラに不慣れな人でもスムーズなピント合わせが可能だ。モードダイヤルに新しく搭載された「S&F」モードを使えば、スローモーションや早回し動画を手軽に撮影できる。
ボディ内手ブレ補正は動画でも効果的で、Vlogなど手持ちの気軽な撮影でも安定した自然な映像が得られる。内蔵マイクの音質も改善され、簡易収録でも十分実用的だ。
まとめ:どんな人におすすめか
EOS R6 Mark IIIは、「静止画も動画も1台で高次元にこなしたい人」に理想的なカメラだ。上位機EOS R5 Mark IIと比較すると、画素数や映像エンジンなどの点で劣るものの、連写性能はEOS R6 Mark IIIに軍配が上がる。コストパフォーマンスも魅力だ。
EOS RやRP、R8、あるいはAPS-Cユーザーにとっては明確なステップアップモデルとなる。EOS 5D Mark IVなど一眼レフからの移行組にも最適だろう。
EOS R6や、R6 Mark IIユーザーは用途次第だが、静止画中心ならEOS R6 Mark IIの性能は現在でも高い水準を誇る。あわててMark IIIにとびつかなくても、Mark IIで十分に快適な撮影体験を得られる人も多いだろう。Mark IIは新型のMark III発売以後も販売が継続しており、特に現在はキャッシュバックキャンペーンの対象となっているので、価格の安さがひときわ目立つ。性能差や価格差を天秤にかけて、新旧どちらのモデルを選ぶか考えたいところだ。
総評としてEOS R6 Mark IIIは、万能性・信頼性・快適性の三拍子がそろった現場対応力の高い一台だ。プロからハイアマチュアまで幅広い層にとって、頼れるメインカメラになるだろう。
尾田章|プロフィール
カメラのある日常の楽しさを発信する"くらしフォトグラファー"。カメラ機材の使い方、写真の撮り方などをYouTube、運営ブログ「KOBE FINDER」にて"Aki"として初心者にもわかりやすく解説。


