Live Production事業部長の服部宏平氏(左)と、同事業部企画グループ 製品リーダーの空閑政彦氏
プロAVの世界では、ローランドのスイッチャーVシリーズ、AVミキサーのVRシリーズが人気だが、忘れちゃいけないのがコンバータのVCシリーズだ。特にコンパクトなボディにフレームシンクロナイザーを搭載し、アップ・ダウン・クロスコンバートを可能にしたスキャンコンバータ、「VC-1-SC」は、イベントや中継の定番となっている。
アナログも含む豊富な入力端子からは、どんな謎信号が来ても大抵なんとかしてくれる。逆に「VC-1-SC」でどうにかならない信号はもはやどうにもならないというぐらい、熱い信頼を得ている製品だ。
ただ、すでに発売から13年が経過し、業界の動向も変化している。中継はHDでも、イベント演出がプロジェクタからLEDビジョンに変わり、普通の縦横比じゃないディスプレイが急増してきた。
そもそもLEDビジョンの最小パネルは正方形なので、16:9にするには横が16の倍数、縦は9の倍数でなければならない。だがそんな都合のいい設置シーンなどそうそうないわけで、どうしても変な縦横比のディスプレイが乱立するという結果になっている。
6月11日に発表されたローランドの新コンバータ「VC-1SC-4K」は、待望の4K対応を果たしたことで注目を集めるだろう。だが単にそれだけではない。どうやらLEDビジョン時代のお困りごとを、一気に解決する製品として開発されたのだという。
それは一体どういうことなのか? そんな疑問を抱きつつ、製品開発を担当したお二人にお話を伺うため、お台場にあるローランド東京オフィスを訪ねた。
今回お話を伺ったのは、ローランドのビデオ製品全体の開発を指揮するLive Production事業部長の服部宏平氏と、VC-1SC-4Kの開発を担当した同事業部企画グループ 製品リーダーの空閑政彦氏だ。
「VC-1-SC」と何が違うのか
――ローランドの有名なコンバータとして、「VC-1-SC」があります。ちょうど東日本大震災があって、ネット配信がちゃんとしたビジネスになっていった頃に登場し、多くの現場に導入されたわけですが。
空閑氏:
「VC-1-SC」の発売が2013年で、どんな信号が来ても、信号の品質が多少悪くても受けられて、自動的に判断できるような構造になっています。当時はアナログ信号が受けられるものも少なかったので、じわじわ浸透していって、使っていただいたらとても安定したと。その積み重ねで、これを通してダメだったらもう諦めるみたいな感じで認めていただいてます。
服部氏:
その当時って、民生機器はHD化が進んでましたけど、イベント業界ではまだまだSD/HDの混在時期でして、スイッチャーとかもまだまだ全部HDに切り替わっていないような時代でしたね。そういう中で「VC-1-SC」はHDをフルサポートしながら、SDも長くサポートしますよっていうところがあって、長く使っていただける製品になったのかなと思います。
――解像度変換もあり、フレームシンクロナイザー機能もありで、困ったらとりあえずこれを通せばなんとかなるという定番として、ヒット商品となったということですね。そして時代が流れて、そろそろイベントでも4Kじゃないと、みたいな話が出てきた。
服部氏:
はい。これは今度の新製品、「VC-1SC-4K」を開発した経緯と重なるわけですけど、まず高解像度化の流れが一つあります。さらに昨今はディスプレイ側も画角が16:9以外のものが出てきて、ここからまたどんどん変わってくるぞという流れも来ています。
そこで、解像度の話と画角の話、これらをきっちり困りごととして捉えて製品化していこうというのが、開発の背景になります。
――業界全体としても、ネット配信からいわゆるステージングへ変わってきたっていう流れもあるっていうことですか?
服部氏:
以前から我々もイベント業界様には力を入れているんですが、すでにネット配信は当たり前化して、その方法論も確立しているところです。一方でライブイベント需要っていうのも一旦は落ち着いたんですが、今は外に出かけてイマーシブなイベントを見に行くという動きも加速しているところです。
そのイベントで使われるスクリーンが、数年前と比べると明らかに、プロジェクタからLEDビジョンに変化してきています。LEDビジョンはご承知のように、様々なサイズやアスペクト比に組み替えができますので、もはや16:9出力では対応できなくなっています。我々としては「解像度変換」や「切り出し(ROI)」は得意分野でもありますので、しっかりこの問題を捉えていきたいと思っています。
――なるほど。4Kから切り出すことで、どんな解像度やアスペクト比のディスプレイにも対応するぞと。「VC-1-SC」がインプットのごちゃごちゃをどうにかする機器だったのが、今度の「VC-1SC-4K」はアウトプットのごちゃごちゃをどうにかする機器だと。
服部氏:
そうですね。ただインプットのフォーマットもデジタル化してだいぶ整理されてきたところではありますが、フレームレートが特殊なものなどはまだまだ混在しています。入力しても「あれ映らないぞ」っていうのはいまだにたくさんありますので、そこは我々の価値として、「何でも来い」というところは踏襲しつつ、今回は後ろの方もそういう思想で助けていきたいと。
――そういうことですか。その点では製品の「SC」っていう言葉の意味が変わってきた。以前は「スキャンコンバータ」という意味だったものが、今回「スケーラー」っていう意味になってるんですね。ただ、ちょっと名前が似てる(笑)。
服部氏:
そこは悩んだところなんです。ここまで内容をブラッシュアップしたので、まったく新しいネーミングにしてもいいかなっていう話もあったんですけど、やっぱり以前から「VC-1-SC」を使っていただいているお客様がたくさんいらっしゃいますので、まずそのお客様に知っていただきたいというところがあって、あえてネーミングをかぶせています。
確かな機能と計算されたボディサイズ
――ボディのサイズなんですけれども、4K対応なので単純に処理が4倍になります。サイズもそれなりに大きくせざるを得ないところ、だいたい同じぐらいのサイズで収まりましたね。
空閑氏:
以前はファンレスでしたが、今回は放熱対策ということで、ファンは1つ追加してます。ただこの中に効率のいいファンを入れようとしたので、かなり苦労しました。
さらに高さと幅は、以前「VC-1-SC」を3台実装できたラックに入れ替えできるよう、横幅と高さを調整しました。高さは1Uよりちょっと低めにして、ラック底面の厚み分が吸収できるようになっています。
空閑氏:
最初に設計したサイズが、これぐらいだったんです。結構床に直接置いて使われるケースも多いので、厚めのシャーシで設計しようとしていました。ただ、一方でファンの効率を上げようとすると、内部の空間をもう少し広く取る必要があったんです。でも全体の高さは変えられない制約があったので、最終的には板金の厚さを調整して対応しました。
――あ、元がこれぐらいのサイズなんですね。
服部氏:
現行のユーザーさんは「VC-1-SC」を1Uの幅に3台入れていただいていますけど、今回の「VC-1SC-4K」も変わらず、オプションのトレイを使って、1Uに3台ラックマウントできるサイズになっています。
服部氏:
これまでLEDビジョンの画角をしっかりマネジメントするような機材って、だいたい大型の専用機なんですね。これはオペレーションも難しいし、価格も高く、かなり大掛かりな装置です。
それだとLEDビジョンを使って演出していただける方が、限定されてしまいますよね。ですから以前の「VC-1-SC」のように、気軽に持ち運んで、頑丈で、どこにでも転がして使えるっていうコンセプトは、かなり大事にしたポイントですね。
――僕も以前そういうLEDビジョン用のマネジメント機器を拝見したことがあるんですけど、ビデオスイッチャーとも違うしコンバータでもないし、なかなかマスターするのは大変だなと思いました。さらにあれを毎回持っていくのは、コストが合わない現場もあるよなと。それに対しての、ローランドなりのアンサーっていうことなんですね。
服部氏:
特に先日発表されたばかりの4Kスイッチャー、「V-1-4K」との組み合わせにも最適ですね。もっともコンパクトかつリーズナブルに、しかも従来通りのオペレーションで、ベース解像度の4K化と、LEDビジョンへの切り出しが実現できます。
――とはいえ、現場ごとに変わるアウトプットに対して、毎回調整しなきゃならない。どうやってそれをコントロールするのかっていうところが、大きなポイントになると思うんですけども。
空閑氏:
そうなんです。そこで今回、スマートフォンのアプリをご提供する予定になっています。特にドライバーなども不要で、USB-Cで繋げば即、今の状態が見られます。
空閑氏:
またLEDビジョンの画角に合わせるためのスケーラーの調整も、スマホ画面のGUIでだいたいのところまで追い込んで、細かいところは数字で入力すれば、必要な設定ができてしまう。その辺のわかりやすさは、習熟してない方にもどんどんLEDビジョンの使用に挑戦していただきたいなというところから、このような形態になりました。
――ああ、ワイヤードで繋がるのは現場で心強いですよね。電波繋がらないぞとかIPアドレスいくつだみたいなことにならず、とりあえず線を繋げばできるっていう、ローランドのお得意の「繋げばなんとかなる」ポリシーがここにもある感じがします。あとディップスイッチも残してあるんですね。
空閑氏:
単純にフォーマットを変換したい、コネクターを12G-SDIとHDMI 2.0の間で相互変換したいぐらいであれば、本体のDIPスイッチだけでできます。設定については、裏面に書いてあります。
――そうそう、裏に設定が書いてあるのも、お馴染みですよね。マニュアルどこいったみたいな、現場でわちゃわちゃしない。
空閑氏:
同じように、表面にはブロック図も入れてあります。最初は入れてなかったんですけど、ぜひ入れてほしいというお客様のリクエストがありまして。
――そう、ブロック図があると、これがこう繋がってるのでできるはずだ、みたいなのがわかる。機能的には12G-SDIとHDMI 2.0の両方に対応し、双方向に変換できる。
空閑氏:
そうですね。同時変換はできないんですけども、SDIからHDMI、HDMIからSDIのいずれかができます。片方向の機材だと、現場に間違って持って行ったということも結構あるという話を聞いていましたので、双方向に対応できるというところはかなり強みになるかと。
――ああ、特にボディデザインが似てると、間違えますもんね。また遅延なしでスルーできる機能があるのは、2台とか3台スルーして繋ぐ時に助かりますね。
空閑氏:
そうですね。やはり音楽やゲームなどタイミングがシビアな現場があるということ、またパネルが複数枚あった時に切り替わるタイミングにズレがあると、見た目でもわかってしまいます。
――あれ気になるんですよね。あとポイントは、オーディオI/Oの強化じゃないかと思います。ちゃんとXLR対応になった。
空閑氏:
そうなんです。これまではRCAだったので、現場では抜けないかどうかを結構心配されてました。今回はバランスなんで、ある程度長く引き回してもノイズに強いというのもありますね。
――「VC-1-SC」が高い評価を得た背景って、機能はもちろんなんですけど、製品としての安定性が大きかったんじゃないかと思います。やはりそこは「Made in Japan」の強みなんでしょうか。
服部氏:
実は昨年11月、かねてから建設を進めていた新本社「Roland Inspiration Hub」が完成しました。これまで浜松エリアに点在していた工場や研究所を、一箇所に集約したんですね。
服部氏:
そこでは開発と製造の間で、より密なコミュニケーションが取れるようになってます。例えばボディを小さくしようとするのも、中身的にはものすごく複雑になってしまうんですけど、それをどうすれば実現できるかっていうのは本当に製造する人たちがすぐ近くにいるので、答えにたどり着くまでの効率が非常に良くて、確かなものができているという確信があります。
これが遠隔で、例えば海外拠点とかとやっていたら、なかなかこのスピード感でたどり着けないんじゃないかなと思います。細かいところまで行き届いた設計から製造までできているというのは、このロケーションがあっての話かなと。
――あとやっぱり、その製品の試験ですよね。耐久試験の厳しさでローランドは有名ですけど、「VC-1SC-4K」もやっぱりかなり厳しくやっているということですか。
服部氏:
一般的に言われている、法規制のレベルっていうのがあるんです。例えば温度とか外来ノイズの耐性とか、あとこの機器から出すノイズとか含めて、ざっくり言うと全部、2倍の基準でしっかり作ってあります。
昨今のイベントの現場では、複数枚のLEDビジョンを使った複雑な演出も行われるようになった。これは複数ソースを同時に出せるということでもあるわけだが、再生機を複数用意する方法もあれば、1本の4K出力から切り出して分配するという方法もある。
どのようなセッティングにおいても、基本的にはLEDビジョン1枚につき「VC-1SC-4K」がその背後にぶら下がっているという構成になるだろう。LEDビジョンの画角や解像度に合わせて、「VC-1SC-4K」の設定を最適化していくという流れになる。
さらにLEDビジョンの高解像度表現を実現するため、内部処理は4:4:4 10bitで処理するなど、ローランドならではのノウハウも詰まっている。この威力に関しては、後日実際に検証してみたいと思っている。
もう今からでも欲しいという現場もあるだろうが、製品の発売は今年10月下旬を予定している。製品スペックとにらめっこしながら、セッティングプランを十分に練って、スタンバイしておいていただきたい。
