241113_Report_FCP11_top

2024年11月、「Final Cutファミリー」と言える、「Final Cut Pro/Final Cut Pro for iPad/Final Cut Camera」が更新された。その内容をざっと見ていきたい。 レビューは出荷前のバージョンであることをお断りしておく。

Final Cut Pro 11(for macOS)

今回のバージョンアップでは、整数のバージョンナンバーが変わることからApple社の意気込みが感じられる。M4 Macなどのイベントに合わせず、独立して発表したことからもそれを感じる。

これまでのFinal Cut Pro(10.x)は2001年出荷と、15年近く続いたものであるがそこからの変化である。アプリケーションの体験からも、このバージョンへの意気込みを感じる。

基本的にはこれまでの10.xと見た目/操作/設定など変わりがない。正直、外見だけならメジャーアップデートと思うこともないだろう。

そんなFinal Cut Pro 11だがどのような進化があるだろうか。

241113_Report_FCP11_01
これまでのバージョンとは変わらないインターフェース

新しい機能

  • AI機能

[マグネティックマスク]

241113_Report_FCP11_02
映像中のオブジェクトを判別し、マスクを作成する

マグネティックマスクはAIの力で映像中のオブジェクトを判別し、そのマスクを作成する。もちろん、オブジェクトの動きにも追従する。これによるオブジェクトの演出的な色の変化はもちろん、補正にも利用できる。もちろん「切り抜き」での演出もできる。

以前のバージョンの「シーン除去マスク」はどちらかといえば差分マスクの要素が強かったが、それに比べて「マグネティックマスク」は自由度が高い。

[文字起こし]

241113_Report_FCP11_03
編集した内容を素早く文字起こしし、キャプションを作成

Appleが作成した言語モデルを使ったAI文字起こしにより、簡単にタイムラインの内容のキャプションを作成できる。しかも”高速に”だ(M1 Proにて英語ではあるが、56分47秒の文字起こしを47秒で処理)。

ただし、残念ながら現状サポートされるのは英語のみだ。これはこの機能がOSに依存しているもので、現状はOSがまだその他の言語に対応していないからだ。ただしそう遠くはない将来、対応される予定だ。この際に翻訳の機能も搭載されるかもしれない。

  • 空間ビデオ対応
241113_Report_FCP11_04
空間ビデオの編集が身近に(iPhone15Pro 素材提供 須々木様)

同社はApple Vision Proを出荷し「空間ビデオ」を提案したものの、実はその編集に対しては具体的な答えを出せていなかった。そしてその答えを出してきたのだ。

現状、空間ビデオへの対応しているものは高級専用ソフトか、強引に編集ソフトに機能追加されたものだ。残念ながら一般の使用にはハードルが高い。しかし、Final Cut Pro 11では、元々その素養を感じさせるものだったが、見事にインテグレートされて使いやすいものとなっている。

編集作業自体はごく普通の映像編集と変わらないように見える。しかし、実際は3D効果を得るための左右の視差を生む2画面分の加工を行わなくてはいけない。そのための処理が裏で行われる。表ではそれを意識させないようになっている。もちろん「素」の状況の確認も可能だ。

撮影素材にはiPhone15Pro/16/16Proはもちろん、その他の撮影機材で空間ビデオとして撮影されたものもサポートする。もちろん書き出しも考慮されたものになっている。

241113_Report_FCP11_05
書き出しのメニュー

またApple Vision Proとの受け渡しもスムーズにできるよう考慮されている。

空間ビデオだけではなく、従来からある360°そしてその2D/3Dも引き続きサポートする。

なお、空間ビデオの編集にはApple Siliconが必要になる。これは記録フォーマットとなるMV-HEVCの処理はApple Silicon動作のOSにインテグレートされているからだ。

動作必要環境

  • macOS14.6(Sonoma)
  • 8GB RAM(16GB推奨)

※いくつかの機能は、Apple Silicon搭載のMacとSeqoia(macOS15)が必要

金額などに関してはMac App Storeを参考にして欲しい。既存のユーザーはフリーアップデートだ。

Final Cut Pro for iPad 2.1

241113_Report_FCP11_07
Final Cut Pro for iPad 2.1

バージョンが小数点以下の更新であるように、基本的には小さな変更だが、使い勝手の上がる変更になっている。

新しい機能

  • ライトとカラーの補正

これはMac版のFinal Cut Pro 10.8 から搭載されていたもので、Final Cut Pro for iPadにも追加された。AIによって自然な色補正が可能になるものだ。例えば特徴のある光源での色補正は、通常の場合、単純にホワイトバランスで「白」に合わせる調整が行われるが、多くの場合、不自然な結果となる。この機能ではAIの処理により自然な補正が行われる。機能は「カラー調整」から利用できる。

  • 新しいライブドローイング

新しく水彩画調やクレヨン調などがペンに追加されアニメーションなどを描くことができるようになった。

241113_Report_FCP11_08
ペンの種類が増えより表現力が増した
  • インターフェースの調整

ピクチャインピクチャがリサイズできるようになったりと、インターフェースの設定の自由度が上がった。ピクチャインピクチャは以前のバージョンでもできたが、大きさを変えることはできなかった。

今バージョンから大きさを変えることができるようになったが、これだけでも意外と実用度が上がった。広くタイムラインを使うことができ、作業効率が上がる。

余談だが、ピクチャインピクチャを利用した作業の様子はひと昔前のハイエンドコンポジティングシステムのようだ。特にペンでの使用がさらにそう思わせる。

241113_Report_FCP11_09
画面一杯にタイムラインが表示できるので細かな操作も容易に
  • ハプティックフィードバックの追加
    Apple Pencil ProやMagicKeybordなどハプティックエンジンを搭載したデバイスは、インターフェースの情報に反応するようになった。
  • ショートカットの追加
    キーボードでの操作をより効率的にできるようショートカットも追加されている。

そのほかにも内蔵コンテンツの追加もされている。

動作必要環境

  • Apple M系 チップを搭載したiPad、iPad mini(A17 Pro)

金額などに関してはApp Storeを参考にしてほしい。既存のユーザーはフリーアップデートだ。

Final Cut Camera 1.1

Final Cut Camera も小さな変更ではあるが、市場の意見を参考にした良い進化だと思う。

新しい機能

  • AppleLog撮影にLUTを適用しHDR/SDRに展開したプレビューを表示

AppleLogで撮影する内容をSDR/HDRに展開し表示する。いわゆるLog to SDR/Log to HDR が行われる。

241113_Report_FCP11_10
Apple Log使用時のオプションが追加されている。

※ここで言われている「LUT」は一般の方がイメージするものと違う。また現状、別に用意されたLUTを読み込んで適用するようなことはできない。

  • 撮影を補助するインジケーター(水準器)の追加

水準器によって、チルトとロール量を表示して水平を保てるようになった。

241113_Report_FCP11_11
インジケーター(水準器)
  • AppleLogとHEVCの組み合わせなど

これは一部のカメラAppでは使用できたが、これまでのFinal Cutカメラではできなかった。これで高効率でAppleLogの収録ができるようになった。

その他、対応機種なら4K/120fps対応などある。

動作必要環境

  • iOS 17.6以降で動作するiPhone、iPadOS 17.6以降で動作するiPad

※一部機能は、機種に依存する

App Storeでフリーダウンロードができる。

まとめ

Final Cut Pro 11のバージョンアップは、整数のバージョン数が上がった分「Final Cut Proにしては」大きな進化だ。AI機能の追加、空間ビデオへの対応など目を引くものも多い。

Final Cut Pro for iPadも大きな変化ではないが、着実な進化だろう。Final Cut Cameraも立ち位置をふまえながらの順当な進化だろう。

人によっては、今回のバージョンアップの内容を残念に思う方もいるかもしれない。近年の競合製品の過多とも言える機能数に比べればその思いも理解もできる。

筆者的にも、Final Cut Pro 11はオーディオ周りにテコ入れをしてほしいし、Final Cut Pro for iPad は for macOS相当のメディア管理の機能は欲しい、さらにキャプションの機能も追加してほしい。ただ、気をつけなくてはいけないのは、何事にも「バランス」が必要だということだ。

むやみにたくさん機能がついても使われないものであれば意味がないし、実用よりセールス要素が優先されたものであれば悲しい。さらに私のような技術志向な人間はどちらかといえば頭でっかちなのでアンバランスで、実用的な思考には欠ける。実際多くの人々が必要なものは「実用的で使える」機能だ。

そんな近年の時世の中、Final Cut Proはバランスを考えた「スマート」な存在であり続けていると思う。今度のFinal Cutファミリーもそういった存在であるだろう。

WRITER PROFILE

高信行秀

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。