オンセット・デイリーシステムの最右翼
ステージ(屋内スタジオ)内に設置された1コマだけの小さなColorfrontのブース
フィルム撮影では撮影後にすぐにスタッフ用に作られるラッシュをデイリー(Daily)と呼ぶが、デジタル撮影におけるオンセット・デイリー(On-Set Daily)は、RAWやLogなどのすぐに再生してモニタリング出来ない映像データを、現場ですぐに映像再生するという意味である。
これからオン・セット・システムが重要になってくることは世界的な潮流だ。中でもRAWデータをリアルタイムに現場で現像でき、データトランスファーから再生、同期、カラーグレーディング、QC(クオリティ・コントロール)、オーディオ・シンク、メタデータ管理など、撮影現場における収録データの統合的なマネジメントを支える、デイリープロダクションの統合システム「On Set Dailies」「Express Dailies」などの製品を送り出して、いま世界的に注目を浴びているColorfrontには、今年のCine Gear Expoの会場にも多くの人が集まっていた。
新製品のExpress Dailiesは毎時デモンストレーションに余念がない
今年は他にもオンセットのデイリーシステムのレンタル会社などいくつか出展していたが、FotokemやTechnicolorなどの大手ポスプロが手がけ、DITサービスまでも行うようなオリジナルシステム以外は、このColorfront社の「On−Set Dailies」のソフトウェアを活用したもののようで、フィルムからデジタルへ移行しようとしている映画制作業界には、いま最も必要とされているツールだといえる。
イメージサイエンスのエキスパートColorfrontは、東欧はハンガリーの首都ブタペストにあるポストプロダクションを経営するMark&Aron Jaszberenyi Brothers(ヤズベレニー兄弟:マーク&アロン・ヤズベレニー)によって、2000年に設立された会社。
元々ハンガリーなどの東欧諸国では、社会主義時代に政府のプロパガンダ政策の一環として、思想啓蒙のための社会主義思想の映画などが数多く作られていた。そのため、スタジオ施設や映画関係のファシリティがハリウッド並に揃っており、民主化した後も現在の映画産業の下支えとなっている。
その中でColorfront社は、当初からカラーグレーディングシステムを開発しており、初期の頃は大作映画にも一部使われたそうだが、その後”5D”というメーカーから発売になったものの、その後に販売を凍結、そして結果的にそのライセンスをオートデスク社が買い取って出来たのが、2005年に発売されたAutodesk Lustre(ラスター)である。ヤズベレニー兄弟も一時期はオートデスク社に身を置くものの、2007年には再びColorfront社に戻り、ポストプロダクション事業を再開する。その後2008年ごろから現在の”On-Set Dailies”のソフトウェア開発を始め、2010年の秋から販売を開始。これまでにハリウッド大手のテクニカラー社やEFILMなどを傘下にもつデラックスグループなど、DIを手がける大手ポストプロダクションへ製品出荷を行ってきた。
Colorfrontは、昨年のIBCでソニーとパートナーシップを締結、InterBEE2011ではSONYのF65などのデジタルシネマ製品にはすでに対応し、またこの際にヤズベレニー兄弟も来日を果たしている。さらにモジュール化されたソフトウエアのフレームワークで、最新のキヤノンC500やBlackmagic Cinema Cameraなどの新しいRAWデータ等にもすぐに対応できるという。
ちなみにオン・セットに対して、ニア・セット(Near Set)は、現場ではないがポストプロダクションとも違う中間位置のところで、RAW現像から仮編集、カラコレ等を行うことを指す。日本では撮影監督がプロダクション作業する場合に、いきなりポストプロダクションで作業する前に、そういったシステムを利用することも有効だと考えられる。
ポスロプロダクション・オリエンテッドの時代
レンタル機材ショップは、カメラシステムとDITシステムを同時レンタル(手配)するところも出現
これからのデジタルシネマのワークフローの中で、何が大きく変わるのか?この問いはその制作スタイルなど、そのケースに応じて些か状況が変わってくると思われる。制作ツールの進化によって今後、画像品質の設計の仕方が明らかに変わってくるからだ。
デジタル撮影においてもカラーグレーディングが前提とされる制作スタイルが強まってきた中で、その中でもとりわけオン・セット(撮影現場)などでのデータマネジメント、そしてオン・セット(現場)プロダクション的な作業は今後、必須となってくるだろう。
“OUT POST””LILY PAD”といったオンセットシステムのレンタルサービスを行う、LIGHT IRON
そこにはDIT(Digital Imaging Technician)といわれる人たちが必要である。PRONEWSでも時代に先んじて、すでに今年1月に山本久之氏によるコラムとセミナー「[Do it]今求められるDIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)とは?」で、DITの仕事内容とその必然性については述べられているので、詳細はこちらを参照頂くとして、DITはハリウッドでもまだまだ新しい職種であり、認知されていない部分も多いという。2、3年前の撮影現場におけるDITは、フィルムカメラの撮影時にフィルムのマガジンを交換する役目の「Loader(ローダー)」という人たちが、単にフィルムの代わりにメモリーカードやHDD/SSDを抜き差しするだけに変わっただけの場合も多かったようだ。ここ近年になってからようやく本来のDIT的な職種=データマネジメント&カラーマネジメントの専門家といった人が現れてきたという。
こうしたデータ管理、いわゆるデータマネジメントが重要になってくると、最終的な作品の仕上がりは、むしろポストプロダクションが重要な位置を占めることになる。信頼出来るDITがいるならば、DPとDITがデータと画質の主導権を取るべきであり、品質管理という点では、カメラの選別までその影響は及ぶ。近年、ポスプロの衰退が叫ばれて久しいが、フルデジタルになったこれからこそ、逆にポスプロ重視の時代になると予想する。ただしここには機材オペレーション&不動産業(箱貸し業)だけのプロは存在し得ない。DIT、データマネージャー、エディター、カラリスト、DIコーディネーターなど、これからのデジタルワークフローの専門性を活かすべく、各職種がプロのクリエイターとしてしっかり機能しなければ存在価値はないのである。
日本のこれまでの映画製作スタイルから、ここをどう創造/実現できるかは非常に興味深いが、デジタルワークフローを飲み込んだ今、映像製作はむしろこれから、”ポストプロダクション・オリエンテッド”な製作スタイルの時代に突入したといえる。
txt:石川幸宏 / 猪蔵 構成:編集部