txt:西村真里子 構成:編集部
CES2019の特徴の一つとして、昨年までのビジョンを語るフェーズから実行フェーズに移ったことがあげられるだろう。ポジティブに言うと有言実行、実現を多く見られたのがよかったが、ネガティブにいうと地味であり華が少なかった年かもしれない。ただ、昨年発表したLGのロール型OLEDディスプレイの商用版や、BYTONの巨大コックピットディスプレイ(タブレット7枚分!)も商用版に入れることを発表したり、地味とは言いつつも驚く発表が多かった。
また、昨年までの動きの反省として新たなアプローチをするところも多かった。例えばCES主催のCTA調査チームの話でも、CES2018で発表したFord×ドミノの自動運転ピザ配達車は話題にはなったが、市場でテストしたところ「自動運転車がピザを届けに来ても、結局家から道路に出てピザを受け取りに行くのが面倒くさい」という声が届いたことにより、自動運転時代には自動車だけではなく「ラストワンマイル」をケアすることが大事であると言うのを実際に市場テストしたことにより多くのプレイヤーが気づいたのである。
タイヤメーカーのContinentalは「カスケイド型」のアプローチを発表していた。Continental Urban Mobility Experience(CUbE)は自動運転で目的地の近くまで行き、その後は「ロボットデリバリー犬」が部屋の前まで配達してくれるのである。犬のように四つ足で歩き、そして腕を伸ばしてドアノブにもエレベーターボタンにもアクセスできるのだ。
ホテルでの「ラストワンマイル(ワンメーター)」をデモしていたのはLG CLOiだ。Servebot(給仕ロボット)としてチェックインからバッグの搬送、ホテルルームでの必要なものを届けてくれる。今回のCES期間もホテルのカウンターは行列だった。こちらは長距離飛行で疲れているのでシャワーまでの“ラストワンマイル”のところでチェックインで20分ほど待つことになった。その際に、CLOiのようなロボットがたくさんいてチェックインし、荷物を運んでくれたらどんなに楽だろうかとデモを見てて感じた。
HONDAはP.A.T.H. Botを発表していた。混在する空港などでもスムーズに人混みを掻き分け目的地に連れて行ってくれるのだ。訪日外国人が増えるこれからの時代のナビゲーターとして英語が苦手な日本では空港や観光地などでの活用を見込んで言うのだろう。私が行った時にはデモが終了していたので、動画で確認しただけだがなかなかスムーズな動きだ。ここにLG CLOiのように荷物も運んでくれるのであればCESのような大規模な会場で私の荷物を持ちながら目的地にナビゲートしてもらいたい。なにせCESは東京ドーム50個分、ラスベガスの町中で行われているので。余談になるが最新のテクノロジーを展示しておりつつもCES自体がアナログなところが多いので、積極的に実験の場として新しいモビリティを導入してもらいたいものである。
他にもSEGWAY ROBOTICSなどもパーソナルロボットを出していた。個人的にパーソナルロボットのお気に入りはイスラエルのスタートアップTemiのプロダクトだ。頭を撫でてあげて私を認識すると、可愛らしくついてきてくれるのだ。ロボットなのだがスムーズに反応してくれるのでまるでペットのように感じる。
CES2019では自動運転プラットフォームのオープン化の発表が行われたのも驚きのニュースだった。トヨタはレベル5時代実現に向けての自動運転車の安全運転を支えるプラットフォーム「ショーファー&ガーディアン」をオープン化すると発表した(詳細はまだ見えてこないが)。
また、今年はメイン会場ではなくスマートシティーエリアで出展していた中国BaiduはオープンソースのエッジコンピューティングプラットフォームOpenEdgeとLinuxベースの自動運転車向け記憶装置「Apollo 3.5」も発表。CESで開発者向けの発表をすること自体、製造業とプログラマーの垣根が薄れてきていることを肌で感じて面白い。Baiduは米国の大手スーパーマーケットチェーンのWalmartの配達を自動運転車で行う発表もしていた。自動運転時代の開発者コミュニケーションおよびパートナーシップではBaiduは一歩リードしている印象を受ける。
ロシアの検索大手Yandexも自動運転タクシーのデモを行うと発表していたのだが残念ながらのられなかった。また、CES期間中には今年もLyftが自動運転車を町中に走らせていた。こちらも残念ながら遭遇することができなかったのだが、唯一乗れたのはYAMAHAのPPM(パブリック・パーソナル・モビリティ)だ。
顔認識とジェスチャーでドライブできるヤマハのPPMは、運転のためのアクセルペダルやブレーキペダルは不要だ。顔認識で事前予約あるかどうかを確認した後に、親指を突き上げてオッケーポーズをすると運転をスタートさせ、障害物がある場合には自動ブレーキがかかり、搭乗者がブレーキをかけたい時には手のひらを前に突き出すとストップサインと認識して車が止まる。
顔認識で乗車許可された人だけが乗れ、予め地面に埋め込んだマーカーがあるエリア内をハンドジェスチャーで移動してみたが、シンプルだった。一般道路ではなく、例えば歩行者天国中とかプライベートエリアのみでの利用にはなるが、今後日本の地方都市でも実験を開始するようで、運転免許をすでに返還した高齢者などが利用するコミュニティモビリティとして可能性はありそうである。
さて、トヨタの「e-Palette構想」ではボックス型の自動運転車が町中を走り回るアニメーションが印象的だったが、今年はボックス型自動運転車がBOSCHやDENSO、ZFなどの部品メーカー含む多くの企業からデモンストレーションされており、自動運転時代のデファクトのスタイルとなることを予見させる。
地味かもしないが着実に自動運転時代、パーソナルモビリティが身近になる時代に近づいていることを感じるCES2019のモビリティニュースをお届けした。「かっこいい!」というよりは「安心」に振った地味な展示が多い中で、メルセデスベンツのような美的外観を意識し続ける企業により魅力を感じてしまうのも否めない。
txt:西村真里子 構成:編集部