txt・構成:編集部
IMAGICA Lab.はフィルム事業をあと20~30年継続できる体制が整っている
IMAGICA Lab.は、1935年に極東現像所として設立。日本映画のフィルム現像を一手に引き受けてきた国内映画フィルム現像の草分け的な存在である。
しかし、フィルムからデジタルへの流れの加速で国内の映画用フィルムの現像サービスは減少し、現在はIMAGICA Lab.と東京現像所の2社になる。このような状況の中でもIMAGICA Lab.では、フィルムスキャナー「Scanity」の導入や「Cine Vivo」を自社開発し、フィルムとデジタル技術を融合したサービスなどを充実させている。IMAGICA Lab.の現場の技術者に、フィルム事業への取り組みについて伺ってみた。
左から松尾好洋氏、関口譲氏、井上大助氏、五郎丸弘二氏、伊藤諒司氏
――ラボの施設を先に見学させて頂きましたが、充実した施設には驚きました。
五郎丸氏:これだけ人と機材が揃っている現像所は世界的にも少ないと思います。フィルムのプリントが激減して東京映像センターの現像サービスを大阪プロダクションセンターに集約することになりましたが、「なんとしてもフィルム事業を残したい」という強い思いが社内にはありました。なので、できる範囲で少しずつですが、数年かけて現像機の新規導入や古くなった機材のメンテナンスを行ってまいりました。また、技術を継承していくために、新卒採用も行いました。
ようやく、IMAGICA Lab.ではフィルム事業をあと20年から30年は継続できる体制が整ったと思います。あとはフィルムが製造され続け、それに対応していくだけです。
ウェスト事業本部 副本部長 映像事業部長(取材時)。4月1日以降は管理本部副本部長・企画室長 五郎丸弘二氏
――フィルムビジネスを続ける動機とは何でしょうか?
五郎丸氏:IMAGICA Lab.にとってフィルムは創業の事業です。今でも多くのフィルムを愛するお客様がいらっしゃいます。私たちは、84年間に亘って培ってきた技術でその思いにお応えしたい。フィルムでの映像表現は、デジタル時代だからこそ、まだまだ広がる可能性があると思っています。それを新たに追求していくことが、映像業界の中での私たちの役割です。
現像機など自社開発していた経験はいまでも生きている
――現像所の施設のアピールポイントがあればご紹介をお願いします。
関口氏:Photomec社製の現像機を導入する前は、自社製の現像機でした。いろいろ精査した結果、Photomec社製にたどり着いたという感じですね。
五郎丸氏:短期ではなくて、長期的にサービスを提供できる機材は何かを考えました。
松尾氏:弊社の創業当時、ラボの機材を開発する花園工作部と呼ばれる部門がありまして、私達はその技術を受け継いでいます。現在、Photomec社製の現像機を導入していますが、電気構造などの外回りの部分は自社でカスタマイズして使っています。
関口氏:基本的に社内で作る技術もあるし、機材の品質を評価できるスタッフがいるのは弊社の強みです。一部、パーツを変えることで使える。それで最終的にPhotomec社製の導入という選択となりました。
ウェスト事業本部 映像事業部(取材時)。4月1日以降はフィルム・アーカイブ事業本部 プロダクション部 フィルムプロセスグループ 関口譲氏
フィルムは主人公の感情に入っていける。色彩の再現性がデジタルとは異なる
――現像所に持ちこまれるフィルムの量や16mmと35mmの比率はいかがでしょうか?
五郎丸氏:少しずつ減っています。
関口氏:16mmと35mmの比率でいったら、35mmのほうが多いです。CMを中心に映画を含めてもほとんど35mmです。ただ、映画は16mmで撮影されるものも多くあります。映画1本あれば相当な量の16mmが回ります。
五郎丸氏:あとは学生の撮影実習で、16mmが使われています。ライブやMVでも16mmが使われます。料金面での選択ということもあると思いますが、映像表現としてもフィルムの質感を強調したい場合、16mmは有効です。
――なぜ、映像制作にフィルムが選ばれるのか?フィルムの魅力はどこにあるのかを教えてください。
井上氏:撮影スタイルだと思います。デジタルで撮影するのと、フィルムでは現場の雰囲気が違います。フィルムで集中して撮る緊張感が好きだという方もいらっしゃいます。
また、CM等でフィルムレコーディングの技術を応用している方もいらっしゃいます。フィルムレコーディングは、デジタルデータをフィルムにレコーディングすることで、主にフィルムの上映や保存のために使用されていました。ここでの応用とは、レコーディングされたフィルムをスキャンし、再びデジタルに戻すことを指していて、このフローだと撮影がデジタルの場合でも、フィルムが持つルックや粒状性等の特徴を表現することができます。もちろんレコーディング作業をするのは必要なテイクのみなのでコストも削減できます。
ウェスト事業本部 映像事業部(取材時)。4月1日以降はフィルム・アーカイブ事業本部 プロダクション部 フィルムプロセスグループ 井上大助氏
松尾氏:カメラマンの中には、フィルムの化学的なプロセスや、デジタルから一度フィルムにしたものをスキャンしてデジタルで使うなど、フィルム独特の表現に興味を持っている方も多いと思います。そういう部分で、まだまだフィルムは使われると思います。
関口氏:私は、フィルムは映画、あるいは映画的なドラマの撮影で好まれていると感じています。映画でなぜフィルムが選ばれるかというと、色彩の再現性がデジタルと異なっていて、粒子感が人物の肌の再現に最も適しているメディアだからです。そのためワンシーン、ワンシーンに感情移入できるのでしょう。また、CMでフィルムが使われているのは、映画のようなシネマルックが好まれているからだと思います。
五郎丸氏:IMAGICA Lab.では、アーカイブ事業も行っています。そこで感じるのは、フィルムで残っているコンテンツは幸運だなと思います。フィルムでコンテンツが残っていれば、放送や上映の規格が変っても対応できる。フィルムは、情報量としてのポテンシャルが非常に高いメディアです。
松尾氏:ビデオテープで残っているものは、いまの4K時代などに対応できません。フィルムで残っていれば、フィルムに記録された情報を引き出すことで十分に対応することができます。
ウェスト事業本部 映像事業部(取材時)。4月1日以降はフィルム・アーカイブ事業本部 プロダクション部 フィルムプロセスグループ 松尾好洋氏
フィルム撮影でも、翌日にはスキャンしてオフラインメディアまで用意できる
――これから若い人たちがフィルム撮影をしようとする際に、何が課題になると考えられますか?
五郎丸氏:フィルムは現像するまで画を確認することができません。ロールチェンジも必要です。生ものですから管理に手間がかかります。利便性ではフィルムはデジタルに勝てません。それらを差し引いたとしても余りある魅力がフィルムにはあると如何に感じてもらえるかが課題です。そのためには、フィルムでしか表現できない映像を追求し続けるのはもちろんのこと、フィルムを使用する際の物理的なハードルを少しでも下げ、フィルムに挑戦しやすい環境を整えていきたいと思います。
井上氏:フィルムの撮影は基本的に東京が中心ですが、IMAGICA Lab.の現像サービスは大阪にあることを問題と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、五反田にある東京映像センターに17時までにフィルムを持ち込んで頂ければ、次の日の朝に大阪プロダクションセンターに届くので、朝から現像を開始し、その日中にスキャンを終え、オフラインメディアまで作ることができます。
オフライン用のスキャニングデータは、HARBORと呼ばれる専用のネットワーク転送ソフトを経由し、同システムが導入されているポストプロダクションに送ることができるので、作業内容によっては五反田にネガを持ち込んだ翌日の夜には、東京で音戻しやオフライン編集をすることも可能です。
ラボの現場を一度見てほしい。もっと情報交換ができるようにしていきたい
――撮影現場のカメラマンや撮影部の方たちに知っていてほしい、伝えたいことがあればお願いします。
井上氏:一番お伝えしたいのは、ラボの現場を一度見て頂きたいと思っていることです。やはりラボ作業は、映画や映像の基本的なプロセスであり知っておくと強みになると思います。できれば現場に一度来て頂いて、作業工程や設備だけでなく、どんなスタッフがどういった思いで作業をしているのか…。ラボ作業を通して距離が縮まれば嬉しいです。
また、フィルムはコストがかかると思われがちです。例えば、ARRIのALEXAで撮ってフィルムルックを再現したい場合は、16mmフィルムで撮影することでよりコストを抑えられる可能性があります。気軽に相談できる存在になって、フィルムを身近に感じてもらい、映像制作に携わる皆さんと一緒にフィルムの可能性を追求していきたいと思っています。
松尾氏:フィルムでどのようなことが表現できるのかを、お客様に一番知ってほしいと思います。特殊処理として昔から映画で使われている銀残しなどを知っていれば、それが大変な武器にもなりますし、表現の幅が広がると思います。
伊藤氏:わからないことや、やってみたいことがあれば遠慮なく声をかけてもらって任せてもらえれば嬉しいです。お客様と一緒にフィルムを使っていろいろ挑戦してみたいです。
ウェスト事業本部 映像事業部(取材時)。4月1日以降はフィルム・アーカイブ事業本部 プロダクション部 フィルムプロセスグループ 伊藤諒司氏
フィルムでわからないことがあれば私達ラボに任せてほしい
――最後に、IMAGICA Lab.としてこれからどう事業を推進していくかをお願いします。
関口氏:先ほど五郎丸が言ったように、IMAGICA Lab.がフィルム事業から撤退するわけにはいかない、文化事業も含めてフィルム事業は継続すべきであるという、使命感をもってつねに取り組んでいます。
先ほども説明がありましたが、入り口のメディアでフィルム撮影ができなくても、後処理でフィルムに変換をして、同等なフィルムの効果を求める。それも1つの魅力で、今の若い人たちにフィルムの魅力を知って頂いて、使ってみたいという気持ちのきっかけになってほしいと思います。
フィルム制作はコストがかかる、手間暇がかかってよくわからない、などといった疑問点については、私達IMAGICA Lab.にお任せください。トレーニングも含め一緒に制作していけば難しいメディアではありません。今後もフィルムが撮影の際の一つの選択肢になるように、ほかの映像業界各社と共にIMAGICA Lab.も支えていければと思っています。
txt・構成:編集部