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LGエレクトロニクスが描く「Affectionate Intelligence」の未来

LGエレクトロニクスは、CES 2024の基調講演で「Affectionate Intelligence(AI)」を中心に据えたビジョンを発表し、AI技術の新たな方向性を提示した。

2025年の基調講演では「Less Artificial, More Human」という理念を掲げ、AIが人間らしさを追求する未来像を明確に示している。この講演を通じて、「スマートホーム」から「AIホーム」への進化が加速していることを感じた。この流れはLGだけに留まらず、CESに出展する他の家電系プロダクトからも同様の傾向が見られる。

LGにおいてAIホーム実現の鍵を握るのが、同社独自のAIエンジン「FURON(フューロン)」である。この技術は、LGエレクトロニクスが開発した大規模言語モデル(LLM)を基盤としており、2024年初頭のCESで「LG AI Brain」として発表されたものを元にしている。FURONはこれまでの家電データを活用して構築されており、AIホームの実現に最適なソリューションであるとされている。

前回の記事で取り上げた「AI Everywhere」というトレンドにも通じるが、各企業が提示するAIには、それぞれ異なる解釈が含まれている。LGは「Affectionate Intelligence」、Appleは「Apple Intelligence」といった具合に、AIの活用方針やブランドの哲学が反映されているのが特徴だ。今後、AIを活用する企業に求められるのは、単なる技術力だけではなく、そのAIをどのように活用し、どのようなビジョンを描いているかという姿勢や方向性だろう。

さて、それではLGの基調講演ではどのような内容のものが語られていたのだろうか?

AIホーム:次世代のスマートホーム

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LGのAIエンジン「FURON(フューロン)」は、完全にパーソナライズされた体験を提供する。具体的に紹介されたのはAI洗濯機「LG WashTower」がユーザーのアレルギーや睡眠状態に基づいて洗濯設定を最適化するなど、AIホームの進化は「Home as an Experience(HaaE)」という新しい生活様式を提案している。

さらに、LGのオープンエコシステムは「Machine to Machine(M2M)」通信を強化し、家庭内のデバイス同士が相互に連携する。これにより、「Zero Labor Home」というビジョン、つまり人々は働かなくてもよい環境を作ることを目指している。テレビ分野では「VoiceID」技術により、声の特性に応じたパーソナライズが可能となり、AIが音声の聞きづらさを補正する機能なども紹介していた。

Space as a Service:空間の再定義

LGは基調講演の中で何度も「Space/空間」ごとにソリューションを考える、空間ごとのユーザーエクスペリエンスを考えていくと強調していた。個別の家電ではなく、空間単位で考えていく。家、モビリティ、商業空間、さらには仮想空間を含む「Space as a Service」というキーワードも登場した。これにより、空間が単なる場所ではなく、サービスを提供するプラットフォームへと進化する。

もちろん、繋がる上ではセキュリティとプライバシーも気にすべきところである。LGは、家庭内のデータを守るため、LGは「LG Shield」というセキュリティプラットフォームを使い、プライバシーを重視しながら、AIの利便性と安心感を両立させていくと発表する。

オープンイノベーションとパートナーシップ

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LGは、ヨーロッパのIoTソリューション企業「Athom」の買収を発表し、IoT分野での存在感をさらに強化。また、MicrosoftとのAIイノベーションパートナーシップを通じて、テイラードサービスを進化させていくという。MicrosoftとはAI分野だけではなく、LGテレビからXBOXクラウドゲーミングへのアクセスも可能になるという。

また、LGが元々持っているThinkQプラットフォームとオープンエコシステムで他者とのコラボレーションを可能にするオープンイノベーションのために、LG Smart Solution API developerサイトも公開したという。AIホームであり、オープンエコシステムであるというところを実際にどこまで実現していけるのか? 今後気になるところである。

例えばAIであれば、IBMがwatsonxをオープンソースとしてGitHubやHuggingFaceに挙げている。今後オープンエコシステムでAIホームを実現する企業には「オープンなAI」というものも求められるかもしれない。

オーディオ分野ではwill.i.amと組んだAIサウンド、AIラジオが搭載されているLG XBOOMも発表された。

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モビリティとビジネスの融合

空間単位でソリューションを考えるLGは車内体験の進化にも注力している。「Recollection of your memories」や「In-Cabin Productivity」といった新機能により、車内での会議や業務がスムーズに行える環境を提供。5Gのコネクティビティがこれを支えている。また、最後に、LGはAIを活用したスマートファクトリーとエネルギー効率の高いインフラの構築を進めている。これにより、持続可能性と技術革新を同時に達成する取り組みを発表した。

LGはB2CだけではなくB2Bにも力を入れていくという。これは日本のパナソニックもたどっている道であり、AI時代にはよりB2B2Cを考える企業が求められていくことだろう。

「Affectionate Intelligence」は、いかに人間の感情やライフスタイルに寄り添うか?がポイント

LGが示した「AIホーム」の未来は、生活全体のパーソナライズと効率化、そして空間そのものの価値を再定義する挑戦だ。これからのAI時代、LGの掲げる「Affectionate Intelligence」は、単なるデバイス間の連携に留まらず、人間の感情やライフスタイルに寄り添う体験をどこまで快適に提供できるかが勝負のポイントになるだろう。

また、オープンエコシステムという姿勢もとても重要であることを感じた。AIホームの進化は、私たちの日常をどう変えるのか─LGの基調講演をもとにLGブースや他企業も回ってみようと思う。

WRITER PROFILE

西村真里子

西村真里子

株式会社HEART CATCH代表取締役。“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。