
水谷豊氏、シネギアエキスポ会場に映画監督として足を運ぶ

富士フイルム新シネマカメラ「GFX ETERNA」発表の舞台裏
富士フイルムが発表した新しいシネマカメラ「GFX ETERNA」。この特別プレゼンテーションが、シネギアエキスポの開催直前、全米映画撮影監督協会(ASC)のClubhouseにて行われた。登壇者には俳優であり映画監督の水谷豊氏と、撮影監督の会田正裕氏の姿も。両氏はその後、シネギアエキスポ(Cine Gear Expo)の会場も視察され、多くの日本人関係者にとっては、思いがけないサプライズとなった。

水谷監督と会田撮影監督は、4Kフォーマットやドルビーシネマなど、常に最先端の技術を作品に積極的に取り入れてきたコンビ。ご存じのとおり、テレビドラマ「相棒」では20年以上にわたって主演俳優と撮影カメラマンとしてタッグを組み、2017年以降の水谷監督作品では全て、監督と撮影監督という形で"リアル相棒"の関係を築いている。
水谷豊監督デビュー作となった「TAP THE LAST SHOW」(2017)では、水谷氏が20代の頃から温めていたアイディアを映画化し、ステージシーンではプロジェクションマッピングを使った演出に挑戦。2作目の「轢き逃げ 最高の最悪な日」(2019)では脚本も手掛け、日本初のドルビーシネマ作品としてロサンゼルスで仕上げ作業を行った。
3作目の檀れい主演「太陽とボレロ」(2022)では、オーケストラを舞台にした作品として、世界的指揮者として活躍する西本智実が本人役で出演、技術的にもコロナ禍中での撮影で観客を入れられない中で、CG合成による演出や、劇場映画としては初の、東京・四谷の迎賓館でドローン撮影を実行するなど、毎回新たな挑戦で様々な話題を提供してきた。その作品の傍にはいつも撮影監督の会田正裕氏が関わってきた事実がある。
そんな二人が最新の技術と映像表現が集結するシネギアエキスポを視察したことは、今後の作品にもまた大きな影響を与えるに違いない。
自主映画「Piccola Felicità 〜小さな幸せ」に込めた想い

水谷豊監督の最新作「Piccola Felicità 〜小さな幸せ」では、制作会社として、水谷監督自身の会社であるTRYSOME BROS.が担当しており、初の自主制作映画とも言える。脚本は、水谷監督自身が2022年にたまたま書きためていたもので、2024年の5月に急遽、撮影が決定し、6月末にクランクインしたという。まさに奇跡的なスケジュールで作り上げたプロジェクトだそうだ。

ストーリーは登場人物が変わる4つのエピソードに分かれ、各エピソードが少しずつ絡み合い、ラストでは意外な結末を迎えるというこれまでにない展開で、水谷豊監督の新境地とも言える作品に仕上がっている。いつものように監督・脚本・出演はもちろんのこと、今回はプロデュースから編集、カラーグレーディングの立ち会いまで、監督自らが深く関わっている。
今年4月に、企画:水谷豊×撮影:会田正裕として開催された、富士フイルム企画の映画と同名の写真展で、まずは静止画から作品の一部は公開されている。「GFX100 II」で映画も全編撮影された経緯もあるが、これもこれまでの映画作品にはなかった新たなアプローチだろう。
2025年6月現在、作品の公開時期は未定。今後は海外の映画祭への出品も視野に入れているという。撮影にはGFX100 IIが使用され、レンズは会田氏が個人所有するCONTAX/ZEISSのオールドレンズが採用された。さらに撮影技術としても、LUT生成の元になるカラーパレットをAIで作成したり、バーチャルプロダクションでの撮影など、また新たな技術を取り入れた制作も行っている。
水谷豊監督、ハリウッドで"新たな一歩"を踏み出す

水谷監督:今回、富士フイルムのGFX100 IIで撮影できたこと、そして偶然が重なり、このタイミングでASCやユニバーサル・スタジオといった世界的な映画制作の中心地・ハリウッドを訪れることができたのは、本当に興奮しました。
撮影に関しては、技術的なことは詳しくないので、僕はイメージだけ伝えて、あとは"アイちゃん"(会田氏)に任せています。でも、これまでもドルビーシネマなど、先進的な技術を作品に取り入れることで、観客に新たな感動や発見を届けることができました。今作では、1日だけですがバーチャルプロダクションの撮影にも挑戦しています。
久しぶりにロサンゼルスを訪れ、多くの刺激を受けました。ユニバーサル・スタジオの圧倒的なスケールや技術を目の当たりにして、次回作への意欲がさらに高まりました。
僕は20代から俳優として、そして2017年の「TAP THE LAST SHOW」以降は映画監督としても活動しています。ただ、毎年作品を作っても、なぜか「やり切った」という達成感を感じることができなかったんです。だから毎年11月ごろになると「来年こそ本気出すよ!」なんて冗談交じりに言っていました。
でも今回の作品を編集している最中、人生で初めて「あ、来たな」という実感があったんです。公開の時期すら決まっていないのに、今ここから自分の映画人生が本当に始まるような、そんな気がしています。
今回で監督作品は4作目にはなりますが、毎回違ったことをやっているので、自身の映画作りが上手くなったというような実感はありませんが、ただいつも会田さんが隣にいる、そこだけが変わりませんね。
ただ今回は自主映画として制作したので、どこで予算がかかるのか?などお金の使い方は学びましたね。これは今後のためにも良かったと思います。
映画のタイトル「Piccola Felicità(ピッコラ・フェリチタ)」は、イタリア語で"小さな幸せ"という意味ですが、その響きに惹かれて決めました。日本人にはちょっと言いにくいし、日本の配給会社だったらたぶん選ばないタイトルかもしれません(笑)。
でも、この作品がこれから一人歩きして、いろんな旅をしてくれたらいいなと思っています。今回の作品は制作過程でもいろんなラッキーな奇跡があって、その一つとしてハリウッドの空気に触れられて、本当に貴重な体験になりました。

