2025コンセプト:銀幕の「国宝」に捧ぐ、技術の「花道」——PRONEWS AWARD 2025 開幕に寄せて
シネマカメラにとって「豊作」の年となった2025年。本稿ではアクションカメラやカムコーダーなどは割愛し、市場に大きなインパクトを与えたシネマカメラのみを総括する。
最大の焦点は、ソニー、キヤノン、ニコンによる「50万円台以下」の市場をめぐる三つ巴の展開だ。長らくソニー「FX3」の独壇場だったこの領域に他社が本格参入したことで、市場はかつてない活性化を見せている。まずは、ノミネート対象となるカメラをピックアップして紹介していこう。
エントリー価格帯の再編が示した、2025年シネマカメラ市場の転換点
ソニー「FX2」は、徹底したハイブリッド志向を特徴とするモデルである。動画機でありながらメカシャッターと可動式EVFを搭載し、静止画撮影にも配慮した設計がなされている。希望小売価格:税込416,900円という価格設定は、ドキュメンタリーなど写真と動画の両立を求められる現場の実情を的確に捉えたものと言えるだろう。
スチル撮影を主とするカメラマンが動画領域へ踏み出す際の現実的な選択肢となる一方で、「FX3A」の投入とあわせ、この価格帯におけるソニーの製品ラインアップの厚みを強く印象づけた。設計思想と価格戦略を高い次元で両立させた本機は、エントリークラスのシネマカメラ市場における再編を象徴する存在であった。
対するキヤノン「EOS C50」は、CINEMA EOSのエントリーモデルという位置付けながら、上位機譲りの撮影思想を随所に受け継いだモデルである。
中でも注目すべきは、ついに実装された7Kオープンゲート収録だ。センサー全域を読み出すことで、編集時の再フレーミング自由度を大きく高め、縦型動画を含む多様な出力要件に柔軟に対応できる点は、現代的な制作環境において大きな強みとなる。
また、小型軽量な筐体により、ジンバル運用やサブカメラ用途にも適しており、「EOS C80」や「EOS C400」といった上位機との併用を前提としたシステム構築にも無理がない。価格帯を踏まえたとき、撮影からポストプロダクションまでを見据えた実運用バランスの良さが際立つ一台と言えるだろう。
上位機の思想を無理なくエントリークラスに落とし込み、実制作に即した基準を提示した点で、本機は2025年のシネマカメラ市場を象徴する存在であった。
そして大きな話題を集めたのが、ニコン「ZR」である。IBC 2025に合わせた発表は、映像制作者の間で大きな関心を呼んだ。Z6III相当のセンサーや最新のAF性能をベースに、内部RAW収録や32bitフロート録音への対応など、これまで上位機に限られていた機能を取り込んだ構成で、公式ストア価格:税込299,200円を実現。この価格帯における設計の方向性を示している。
一方で、完成度や運用実績については今後の検証を待つ段階にある。しかし、現時点での完成形を示すのではなく、「今後のシネマカメラはどう進化していくのか」という視点を市場に提示した点において、本機は2025年のシネマカメラ市場を象徴する存在であった。
パナソニック「LUMIX S1II」シリーズは、新採用の部分積層型CMOSセンサーと最新エンジンにより、「動画と静止画のハイブリッド」として極めて高いバランスを実現したモデルだ。特筆すべきは、センサー全域を使った6K30P(3:2)と5.1K60P(3:2)動画記録である。これは編集時の自由度を重視する制作において、大きなアドバンテージとなる。また、ダイナミックレンジブーストON時に15ストップを確保できる点も、映像表現の幅を支える重要な要素だ。その突出した性能を通じて、編集の自由度を求めるクリエイターのニーズに明確に応えた一台と言える。
フォーマット拡張が切り拓く、新たな制作の選択肢
ボックスカメラの分野では、Blackmagic Design「PYXIS 12K」が存在感を放っていた。同社の上位機種「URSA Mini Pro 12K」と同等の12Kセンサーを搭載しつつ、税込832,800円という極めて戦略的な価格設定を実現した点が最大の評価点である。
オープンゲート的運用を可能とする広い読み出し機構により、制作現場で要求される多様な解像度・アスペクト比への柔軟な対応が可能となり、高解像度シネマ制作の入り口を大きく広げた製品として注目に値する。従来ハイエンド機でしか実現困難だった12Kワークフローを、コスト効率と運用性の両面で現実的な次元へ押し上げた意義は、2025年のシネマカメラ市場における明確な価値となった。
また、ついに発売した富士フイルム「GFX ETERNA 55」も忘れてはならない。中判センサーというフォーマット自体の魅力に加え、映画業界に貢献してきたフィルムメーカーとしての知見がシネマ市場でどう活かされるのか、今後の展開に期待が高まる。放送用ドキュメンタリーや特定のシネマティックな現場において、独自の地位を確立する可能性を感じさせる。本機は中判センサーならではの質感表現を武器に、既存のフルフレーム競争とは異なる価値軸を提示した象徴的な存在であった。
ハイエンドと特殊撮影領域に見る、表現力の深化
ハイエンド領域では、ARRI「ALEXA 35 Xtreme」が注目に値する。ARRIの主力ラインの伝統を継承しつつ、高フレームレート撮影領域での性能拡張を実現したモデルとして評価に値する。最大660fpsのハイスピード撮影といった高フレームレート性能は、モーション表現の幅を劇的に拡大し、広告・MV・アクション映像制作における創造力の拡張を可能にした。
さらに高画質・低データレートの新コーデック「ARRICORE」によってデータ効率を高めながらもARRIならではの高画質・高忠実度の表現力を維持している点は、プロ向けシネマカメラとしての完成度の高さを改めて証明した。本機は成熟したプラットフォームを基盤に表現領域を拡張し、ハイエンドシネマ制作の進化を象徴する存在であった。
さらにRED「V-RAPTOR XE」も注目の新製品だ。RED「V-RAPTOR XE」は、DSMC3プラットフォームにおけるバランスの良いスペックと運用性の刷新を象徴するモデルとして選出された。8K VVグローバルシャッターセンサーの搭載は、光学的な動態表現やポストワークでのリフレーミング自由度を高め、撮影・編集の両局面で高い柔軟性を提供する。軽量なボディ構造によりジンバルや空撮、移動撮影など多様な現場への適用範囲が広がったことは、REDのフラッグシップ機が持つ高性能をより現場の実務へ落とし込んだ成果といえる。
加えてキヤノンRFおよびニコンZマウント対応により、レンズ資産の活用という面でも汎用性が拡大し、2025年のプロダクション現場における選択肢の幅を大きく広げた存在として高評価に値する。本機はフラッグシップ性能を現場へと再定義し、機動力と高性能の両立を象徴する存在であった。
特殊撮影分野で話題のソニー「VENICEエクステンションシステムMini」は、シネマカメラ新製品ではなくカメラヘッドを大幅に軽量・コンパクト化したVENICE 2用カメラヘッド延長システムだが、VENICE 2の8Kセンサーを内蔵しつつ、従来比70%もの小型化に成功した技術力が光る。標準Eマウントならリンゴほどのサイズで、見た目は強化されたアクションカメラのようだ。現場視点で改良された着脱式ケーブルにより、狭小空間へのリギング自由度が格段に向上している。本機はVENICEの画質を極限まで現場に近づけ、特殊撮影領域における自由度の拡張を象徴する存在であった。
少々異色の存在として、PIXBOOM「Spark」も興味深い製品だった。従来は高価な専用機に依存してきたハイスピード撮影のワークフローを、より現実的でアクセスしやすい選択肢へと引き寄せた点が評価できる。最大4K 1,000fps、2K 1,800fpsの性能により、微細な動きや時間操作表現を、低コストかつ柔軟な運用で実現した。S35グローバルシャッターセンサーは歪みやローリングシャッターの影響を抑え、高速撮影時の画質の純度を高めている。
さらに、最大2.4TBの内蔵SSDを標準装備し、長時間・高フレームレート収録にも対応。ハイスピード撮影特有の運用やポスト処理の負担を軽減し、制作現場での実用性を高めた。Sparkは、演出上の重要性に対して導入障壁が高かったハイスピード撮影に、現実的な解を示した存在と言える。
総じて2025年は、エントリーからハイエンド、そして特殊機材にいたるまで、各社がユーザーのニーズを精緻に分析し、驚きのある製品を投入してきた一年であったと言えるだろう。
以上がカメラ部門のノミネート製品となる。
■PRONEWS AWARD 2025 シネマカメラ部門 ファイナリスト
- ソニー「FX2」
- キヤノン「EOS C50」
- ニコン「ZR」
- パナソニック「LUMIX S1II」
- Blackmagic Design「PYXIS 12K」
- 富士フイルム「GFX ETERNA 55」
- ARRI「ALEXA 35 Xtreme」
- RED「V-RAPTOR XE」
- ソニー「VENICEエクステンションシステムMini」
- PIXBOOM「Spark」
以上の製品はいずれも、2025年のシネマカメラ市場において明確な個性と役割を持ち、制作現場に新たな選択肢を提示した存在である。
本部門では、こうした多様な価値を前提とした上で、最終的な評価を行った。
PRONEWS AWARD 2025 シネマカメラ部門 ゴールド賞
キヤノン「EOS C50」

PRONEWS AWARD 2025 シネマカメラ部門 ゴールド賞に選定したのは、キヤノン「EOS C50」である。ノミネート製品はいずれも明確な個性と価値を備えており、最後まで判断は容易ではなかった。その中で、実制作の現場において最も安定して成果を出せる完成度を示した点が、最終的な決め手となった。
EOS C50は、7Kオープンゲート収録をはじめとする撮影機能を、小型軽量な筐体に無理なくまとめ上げ、ジンバル運用からメインカメラ用途まで幅広く対応する汎用性を備えている。先進性や尖った個性を打ち出した製品が並ぶ中で、本機は価格帯・性能・運用性のバランスを高い次元で成立させ、実運用における確実性が際立っていた。「現場での実効性」と「制作フロー全体への影響力」という本部門の評価基準を最も安定して満たした一台として、編集部としてゴールド賞に選定した。
PRONEWS AWARD 2025 シネマカメラ部門 シルバー賞
富士フイルム「GFX ETERNA 55」

一方で、完成度や汎用性という観点ではゴールド賞に一歩及ばないものの、独自の価値軸や将来性において強い印象を残した製品も存在する。
PRONEWS AWARD 2025 シネマカメラ部門 シルバー賞には、富士フイルム「GFX ETERNA 55」を選出した。
中判フォーマット特有のレンズ選択やシステム成熟度には今後の拡充が求められる部分もある。しかし、それを踏まえてもなお、中判ならではの描写力とトーン表現がもたらす映像価値は明確で、フルフレーム競争とは異なる次元の選択肢を示した点を高く評価した。
完成度や汎用性という観点ではゴールド賞に一歩譲るものの、表現そのものに新たな基準を持ち込んだ点は特筆に値する。効率よりも映像美を重視する現場において、代替の効かない価値を提示した挑戦として、シルバー賞にふさわしい一台である。