2025コンセプト:銀幕の「国宝」に捧ぐ、技術の「花道」——PRONEWS AWARD 2025 開幕に寄せて
2025年のオーディオ新製品を俯瞰すると、従来の「高音質」競争から一段進み、現場で人が担ってきた判断や調整の負荷を減らす方向へと軸足が移り始めたことが見えてくる。32bitフロート録音の普及は、録音レベル管理という緊張を現場から切り離しつつある。ワイヤレスでは小型化が進む一方で、通信の安定性を最優先するためにUHFを選び直す動きも目立った。さらに、IFB(送り返し)という専門領域においても、小規模制作やワンマン運用が現実的に扱える水準まで運用前提が引き下げられつつある。
今年のトレンドは単一ではない。だが共通していたのは、機材の進化が単に音質を高めることに留まらず、制作現場で繰り返されてきた判断や確認の工程を減らし、クリエイターが撮影そのものに集中できる環境を整える方向へ向かっていた点である。
ワイヤレスマイク分野── 収録の作法を更新したノミネート製品
ワイヤレスマイクの領域で圧倒的な存在感を示したのがDJIの「DJI Mic 3」である。本機は、超小型という制約の中で「音割れ」や「設定ミス」といった収録時の不安を機材側で解消し、これまで人手で行ってきた細かなゲイン調整を不要とした点が画期的であった。32bitフロート内部レコーディング等の実装により、収録のリスクを機材が肩代わりすることで、撮影フローの劇的な軽量化を実現している。機材に判断を委ね、クリエイターが映像表現そのものに専念できる環境を構築したその設計思想を高く評価した。
一方で、同じ課題に対して"運用の幅"で答えを出したのがHollyland「Lark MAX 2」である。AIノイズ処理と複数同時運用を前提にした構成は、ワンマンから多人数収録までを一つのシステムで貫く発想を感じさせた。
そして、あえて市場の主流と逆方向へ舵を切ることで、別の答えを提示したのがSaramonic「K9」である。2.4GHz帯が主流となった現在にデジタルUHF帯を選び、通信の安定性を最優先する。その上で32bitフロート内部録音を"保険"として重ね、現場の信頼に寄せた設計を貫いた。
※画像をクリックして拡大
レコーダー分野── 映像と音声の関係を組み替えた提案
レコーダー領域では、TASCAM「FR-AV4」の提案が際立った。映像制作の現場に対し、HDMI一本で録画トリガーとタイムコードを一括して扱う設計思想を提示した。
ハンディレコーダーではZOOM「H6studio」をノミネートする。低ノイズ設計と32bitフロート録音を携帯性へ落とし込み、ポータブルという枠内で"完成形"に迫った一台である。
マイク/IFB分野── 信頼性と運用前提を問い直した選出
マイクでは、ソニー「ECM-778」とSennheiser「MKH 8018」が対照的な光を放った。ECM-778はハイレゾ領域までを視野に入れ、高画質化する映像に音で応える姿勢が明確だった。
対してMKH 8018は、帯域制御という実務的判断とMS、XYナロー、XYワイドの3つの切替の柔軟性を両立し、放送・映画の現場における運用上の事故を極力排する設計思想が一貫して貫かれていた。
最後に、IFB(送り返し)という専門性の高い領域において、テクノロジーの力で従来の運用体系を根本から見直す新たな選択肢を提示したのが、Deity Microphonesの「THEOS DIFB」である。
スマートフォンのGPS情報を活用した各国・地域のRF規制への自動追従や、受信チャンネルのID名を音声で読み上げる機能など、現場のストレスを劇的に軽減する工夫が、単なる付加価値を超えて実用的な機能として定着し始めたことを象徴する存在といえる。こうしたユーザーの利便性に直結する緻密な設計思想を高く評価し、本年度のノミネートにいたった。
※画像をクリックして拡大
PRONEWS AWARD 2025 オーディオ部門 ファイナリスト
- DJI「DJI Mic 3」
- Hollyland「Lark MAX 2」
- Saramonic「K9」
- TASCAM「FR-AV4」
- ZOOM「H6studio」
- ソニー「ECM-778」
- Sennheiser「MKH 8018」
- Deity Microphones「THEOS DIFB」
ここまでに挙げた製品はいずれも、本年度のマイク・オーディオ領域を代表する候補として並べられた。編集部による評価と議論は、すでにここで収束している。
ノミネートは出揃った。ここから先は、受賞製品の発表となる。
PRONEWS AWARD 2025 オーディオ部門 ゴールド賞
―― 価値基準の転換点を示した一台 ――
本年度のゴールド賞は、単なる優秀作ではなく、マイク・オーディオ領域における価値基準そのものを転換点へ押し出した製品に贈られる。
その条件を満たした一台として選出したのが、DJIの「DJI Mic 3」である。
本機をゴールド賞とした理由は明確である。それは、本製品が単なる優秀作ではなく、マイク・オーディオ領域における価値基準そのものを転換点へ押し出した存在だからだ。
この製品を初めて目にした瞬間、驚きはスペックの豪華さではなく、設計判断の"潔さ"にあった。超小型化を突き詰めた結果として、従来のワイヤレスマイクの作法——外部入力や周辺アクセサリーによる拡張——に頼らず、収録の成功率を上げる方向へ舵を切っているからだ。わずか16gという送信機に、32bitフロート内部録音とタイムコード機能を詰め込み、録音レベルや同期の不安を機材側で吸収しようとする姿勢が明確だった。
もちろん、送信機から3.5mm入力を省き、ラベリアマイクの運用を切り捨てた判断は賛否を呼ぶ。プロの現場では"欠落"と映り得る仕様であることも理解できる。だが本機は、そこを取り繕うのではなく、現代の撮影スタイル——小型カメラ、スマホ、最小人数、短い準備時間——を前提に、「現場の判断を減らす」方向へ一気に振り切った。アダプティブゲインコントロールを含む自動化機能は、その思想を補強する。運用時の緊張を軽減し、後処理への依存を減らす点を、編集部は明確な進化として評価した。
DJI Mic 3は、機能の多さを競う製品ではない。現場で人が担ってきた判断や調整を機材側へ移し替え、ワイヤレスマイクに求められてきた役割そのものを更新した。その意味で本機は、2025年のマイク・オーディオ領域における明確な転換点を示した存在である。
PRONEWS AWARD 2025 オーディオ部門 シルバー賞
―― 次の運用像を提示した意欲作 ――
シルバー賞は、市場をすでに制した完成形ではなく、次の運用像を具体的に提示し、議論と更新を促した製品を評価する枠である。
その意欲的な提案として選出したのが、TASCAM「FR-AV4」だ。
本機をシルバー賞とした理由は、完成度の高さを前提としつつも、映像制作における音声運用の在り方に対して、明確な問いと具体的な提案を投げかけた点にある。
FR-AV4を評価した最大の理由は、音声レコーダーという枠を越え、映像制作の現場に対して「統合」の答えを提示した点にある。タイムコード同期は一般化した。しかし本機が示したのは、タイムコードの読み取りに留まらない。HDMI一本で録画トリガーとタイムコードを一括して扱い、映像と音声の同期を前提とした運用を、現場の接続を増やさずに成立させようとするアプローチを採っている。ケーブル一本で完結するという"スマートさ"は、そのまま現場の失敗要因を減らす。
32bitフロート対応のデュアルADC、定評あるマイクプリアンプなど、オーディオスペックに妥協がない点も重要だ。だがFR-AV4の本質は、スペック競争ではなく、映像と音声の距離を縮めるワークフロー設計にある。ワンマン、少人数、ミラーレス中心という現代の制作形態に対し、音声が"別系統の専門領域"であることをやめさせる。編集部は、この製品が提示した方向性と設計思想を高く評価した。