2025コンセプト:国宝
2025年のPRONEWS AWARD、その幕開けを飾るアイキャッチを目にして、息を呑んだ読者も多いのではないだろうか。 黄金に輝く背景、舞台を覆い尽くさんばかりに咲き誇る紫の藤の花。そして、静寂の中に浮かび上がる「PRONEWS AWARD 2025」の文字。
今年のモチーフは、2025年の映画界を席巻した映画『国宝』にインスパイアされたものだ。歌舞伎という伝統芸能の深淵を描き、芸に命を燃やす者たちの凄絶な美しさをスクリーンに焼き付けたあの傑作である。だが、なぜ「最新技術」を競うアワードに、古来の「伝統」を選んだのか。そこには、制作チームがこの一枚に込めた、ある“裏ストーリー”が存在する。

「藤」が意味する、技術者たちの執念
このビジュアル制作にあたり、アートディレクターが最初に掲げたコンセプトは「Update the Tradition(伝統の更新)」だった。
映画『国宝』の中で、主人公たちが血の滲むような修練の果てに「型」を習得し、やがてそれを突き破って独自の美に到達するように、映像技術の世界もまた、過去の積み重ねの上に成り立っている。今年のノミネート製品たちも、先代モデルという偉大な「型」を継承しつつ、それを破壊的なイノベーションで超えてきた“傾奇者(かぶきもの)”ばかりだ。
舞台上の「藤の花」は、単なる装飾ではない。 藤の蔦は複雑に絡み合いながら、上へ上へと伸びていく。それは、ハードウェアとソフトウェア、AIと人間の感性が複雑に融合し始めた現代の映像制作ワークフローそのものの隠喩だ。一本でも欠ければ成立しない、美しくも過酷なエコシステムがそこにある。
あえて選んだ「アナログ」という贅沢

そして、ここだけの制作秘話を明かそう。 実はこの絢爛な歌舞伎舞台のビジュアル、一見すると最新のレンダリングエンジンによる3DCGに見えるかもしれない。しかし実は、「実写」の書き割り(背景画)と、最新のライティング機材を組み合わせて撮影されている——という設定で語らせてほしい。
すべてをデジタルで生成できる時代に、あえて職人が筆で描いた「書き割り」を背景に置く。そこに、今年発売された最新のLEDライトや、色再現性に優れたシネマカメラを向ける。 「伝統的なアナログの美術」を「最新のデジタル技術」で撮る。
この被写体と機材の関係性が生むクラフトの世界こそが、映画『国宝』が描いた世界観への、PRONEWS流のアンサーなのだ。
デジタルの極致は、一周回ってフィジカル(肉体性)の感動に回帰する。その哲学が、この一枚の画像には込められている。
現代の「名優」たちが、板の上に揃う
舞台袖には、すでに今年の主役たち——カメラ、レンズ、スイッチャー、ソフトウェア——が控えている。 彼らは皆、開発者という名の「黒衣(くろご)」たちが、数年の歳月をかけて磨き上げた結晶だ。その姿は、厳しい稽古に耐え抜き、檜舞台に立つ役者そのものと言えるだろう。
さあ、拍子木の音が鳴り響く。 今年もまた、後世に語り継がれるべき「国宝」級の機材たちが、この花道を歩き始める。 PRONEWS AWARD 2025、いよいよ開幕。