2025コンセプト:銀幕の「国宝」に捧ぐ、技術の「花道」——PRONEWS AWARD 2025 開幕に寄せて
2025年の配信機材を振り返ると、「配信」という言葉だけでは現場の進化を捉えきれなくなった一年だった。小型機は収録や編集までを内包し、大型機は現場全体を統括する存在へと役割を広げ、IP機材は安定運用を支えるインフラとして定着した。撮影もまた、リモートカメラの普及によって配信制作の工程の中へと組み込まれつつある。
今年のノミネートを貫いていたのは、単なる多機能化ではない。ライブとポスト、映像と音声、SDIとIP、個人とチーム、常設と移動──かつて分断されていた要素を、機材側が「ひとつの工程」として束ね直し始めた点にこそ、本質的な変化があった。比較すべき対象が、単体の性能ではなく、制作工程全体として立ち上がった一年である。
まずは、配信部門における「中核」から整理したい。本稿でいう中核とは、配信制作において上流から下流までの工程を束ね、その装置が停止すると制作全体が成立しなくなる、代替不能な中心装置を指す。単機能の優劣や新規性ではなく、「工程の重心をどこまで引き受けているか」を基準とした。
この定義に当てはまる装置は、2025年の配信機材全体を見渡しても決して多くはなかった。工程統合や効率化を志向する製品は数多く登場したが、その多くは特定工程の更新に留まり、制作全体の重心を引き受けるところまでは踏み込んでいない。結果として、「中核」と呼べる存在は自然と限られたものになった。
そうした文脈の中で、工程統合を語る際に比較の俎上に上がったのが、Blackmagic Design「ATEM Mini Extreme ISO G2」である。本機は、配信制作の工程が一体化していく流れを、具体的な形として示した存在だった。
続いて、圧倒的な規模の大きさという別の次元から中心的な役割を担ったのが、Blackmagic Design「ATEM 4 M/E Constellation 4K Plus」である。膨大な数の入出力を備え、現場の制約をスイッチャー本体側で受け止める設計が徹底されている。複雑な現場においても、事前準備や外部機材への依存を減らし、運用の負荷をスイッチャー側で吸収する思想は、配信と放送の境界がスペックではなく運用設計で語られる段階に入ったことを示していた。
今年のノミネートは、「工程の重心をどこまで引き受けるのか」という問いに対して、各社がどの位置から答えようとしたかを可視化した一年でもあった。
ここからは、制作工程全体の重心を一手に引き受ける装置とは異なる立場から、特定工程の更新や運用の補完によって配信制作の前提を押し広げた提案群を見ていく。
その筆頭として挙げたいのが、Osee「GoStream Duet 8 ISO」だ。この価格帯でHDMIとSDIを両立させ、さらに8入力のISO収録を実現した点は、市場に対する強烈な問いかけとなった。制作工程全体を根底から変える存在ではないが、既存の現場構成に対して新たな選択肢を突きつけ、次の競争を動かす提案として高く評価したい。
配信制作における映像と音声の分断を解消し、ひとつの操作体系としてまとめ上げたのがRØDE「RØDECaster Video S」である。スイッチングとオーディオ運用を同一システムで完結させる設計により、個人や少人数の現場でも安定した制作環境を構築できる点が印象的だった。配信機材の役割を「組み合わせ」から「統合」へと押し進めた提案といえる。
IP運用を「回し続ける」という現実的な課題に対して、冷静な答えを示したのがKiloview「Cradle Series RF02」である。台数が増えた瞬間に顕在化する電源、ネットワーク、冷却、保守といった問題に対し、モジュール収容と集中管理で応える設計は、IP化を継続的に成立させるための基盤として確かな存在感を示した。そして、運用を支えるという発想は、ハードの収容や管理に留まらず、制作環境そのものの設計へと広がっていった。
もう一段レイヤーの異なる更新として触れておきたいのが、Vizrt「TriCaster Vizion」である。ここまでの製品が工程や運用の一部を更新する提案だったのに対し、本機は制作環境そのものを再定義する方向へ踏み込んだ。AI、クラウド、リモート接続を例外的な手段ではなく通常運用として組み込み、少人数でも破綻しない進行を成立させるための「環境設計」を主眼に置いたアプローチは、「配信機材」という枠組みを超えた更新といえる。これは機材の進化というより、制作環境の標準像を一段引き上げる提案だった。
加えて、配信制作の「撮る」領域を押し上げた存在として、パナソニック「AW-UE150W」およびキヤノン「CR-N400/CR-N350」を挙げておきたい。継続運用で効く画質、ズーム、追尾、色合わせ、制御系といった要素を、現場の手触りで積み上げていく姿勢は、配信と放送の間にある現実的な隙間を着実に埋めていった。
こうして並べると、2025年の配信部門を貫くキーワードは「統合」と「運用」である。機材はもはや「配信をする箱」ではなく、現場を回し、品質を維持し、工程をつなぎ、拡張に耐えるための設計思想そのものが問われる段階に入った。今回のノミネートは、配信制作がどの方向へ進みつつあるのか、その輪郭が見え始めた段階を示している。
- Blackmagic Design「ATEM Mini Extreme ISO G2」
- Blackmagic Design「ATEM 4 M/E Constellation 4K Plus」
- Osee「GoStream Duet 8 ISO」
- RØDE「RØDECaster Video S」
- Kiloview「Cradle Series RF02」
- Vizrt「TriCaster Vizion」
- パナソニック「AW-UE150W」
- キヤノン「CR-N400 / CR-N350」
こうした製品群が出揃ったことで、配信制作は「何ができるか」ではなく、「どこまで工程として成立しているか」が問われるフェーズに入った。では、その問いに最も明確な答えを示した製品はどれだったのか。ここから、編集部の評価結果を発表する。
PRONEWS AWARD 2025 配信部門 ゴールド賞
Blackmagic Design「ATEM Mini Extreme ISO G2」
PRONEWS AWARD 2025 配信部門において、編集部がゴールド賞に選出したのは、Blackmagic Design「ATEM Mini Extreme ISO G2」である。
本機をゴールド賞に選出した最大の理由は、機能の集約にとどまらず、制作の流れそのものを現実的に再設計できる完成度に到達していた点にある。他の製品も工程統合の方向性を示していたが、実運用として迷いなく成立させられる段階まで仕上げた点で、本機は一線を画していた。
特にISO収録の扱いにおいて、本機は他社従来の配信機材とは異なる立ち位置を明確にした。ISOを単なる保険ではなく、制作工程の起点として位置づけ、配信と同時に編集へ接続できる状態を前提化した点が決定打となった。
ハードウェアとしての完成度も高い。HDMI出力3系統の搭載は、長年指摘されてきた運用上の制約を解消する要素であり、マルチビューとプログラム出力を同時に成立させた意義は大きい。背面にCFexpressスロットを備えた設計も、外付けSSDに依存しない確実な収録を可能にし、現場の信頼性を高めた。
さらに、DaVinci Resolveとの連携によるリプレイ運用への対応は、放送局レベルのワークフローをコンパクトな環境で完結させる可能性を示した。ここには、配信機材が放送機器に近づいたという単純な話ではなく、「放送の思想」をいかに持ち運べるかというBlackmagic Designなりの現実的な回答がある。
操作系においても、物理フェーダーや調整ノブの復活により、現場での操作性は確実に向上した。コンパクトな筐体に制作の骨格を詰め込み、現場の手触りで運用を成立させた本機は、クライアントワークを主戦場とする制作者にとって、必然的な進化であったと評価した。
PRONEWS AWARD 2025 配信部門 シルバー賞
Osee「GoStream Duet 8 ISO」
PRONEWS AWARD 2025 配信部門において、編集部がシルバー賞に選出したのは、Osee「GoStream Duet 8 ISO」である。
本賞は、市場をすでに制した完成形ではなく、次の運用像を具体的に提示し、議論と更新を促した製品を評価する枠とした。
HDMI 4系統とSDI 4系統を標準で備えたI/O設計は、この価格帯における前提を大きく揺さぶった。コンバーターを噛ませることを前提としてきた従来の現場構成を、本体側の設計で崩してきた意義は大きい。トラブル要因を物理的に減らし、運用の確実性を高めるという点で、実務的な価値は高い。
8入力すべてのISO収録、NDI HXソースの取り込み、メディアプレーヤー、複数プラットフォームへの同時配信など、その機能構成は極めて野心的だ。特に、ISO収録チャンネルを任意に選択できる設計には、現場の声を丁寧に拾い上げようとする姿勢が表れている。
もちろん、筐体の質感やソフトウェアの成熟度といった点では課題も残る。しかし、それらを差し引いても、この価格帯でこれほどのI/Oと運用像を提示した提案力は、配信機材市場に確かな刺激を与えた。完成度よりも挑戦性を評価し、次の競争を動かす火種として、本機をシルバー賞に選出した。