富士フイルムは4月3日、ラージフォーマットセンサー対応のシネマカメラ用ズームレンズPremistaを発表。ラスベガスで開催されたNAB2019では、Premista発表のプレスカンファレンスを開催した。発表会の会場で、同レンズの開発を担当した富士フイルムの野口卓弥氏に話を聞くことができたので紹介しよう。

Premistaの開発を担当した上野隆氏(左)と野口卓弥氏(右)

――新製品はPremista(プレミスタ)という名称です。どのようにして、この名称に決まったのでしょうか?

野口氏:2009年に弊社として初めてスーパー35対応シネマカメラ用ズームレンズ「HKシリーズ」の販売を開始しました。HKシリーズは、アメリカでは“Premier Series”の愛称で呼ばれています。

Premistaは、Premier Seriesと同等レベルのクオリティで、かつREDのMONSTRO 8Kビスタビジョンサイズなどのラージフォーマットイメージセンサーに対応します。そこで、「Premier」と「VistaVision」の頭文字をとりまして、Premistaという名称を主に米国の販社スタッフと一緒に考えて命名しました。

――Premistaはラインナップの中で、どのクラスに位置づけられるモデルになりますか?

野口氏:Premistaはラージフォーマットの最上位モデル、HKシリーズはスーパー35の最上位モデルです。PremistaとHKシリーズがそれぞれ最上位で、その下にZKシリーズやMKシリーズがラインアップされているクラス分けとなっております。

――Premistaの価格は、どの程度になる予定ですか?

野口氏:Premista28-100mmの価格は公表していまして、国内での標準ユーザー渡し価格は税別430万円です。最上位モデルでありながらHKシリーズの約半額以下の価格を実現しています。

――ラージフォーマットとスーパー35の2つのフォーマットについて、今後の流れはどのようにお考えですか?

野口氏:お客様の声を聞いていると、スーパー35が終息してフルフレームに移行していくというよりは、2つのフォーマットが共存して行くと思います。最終的にどこで落ち着くかはわからないのですが、ラージフォーマットとスーパー35は7:3などの比率になるのではないかと思います。いずれにせよ、今後もスーパー35は残り続けると考えています。

――Premistaの実物を見て驚いたのは、ビスタビジョンでありながら小型サイズを実現しているところです。なぜこのサイズを実現できたのでしょうか?

野口氏:一言で言ってしまうと、光学性能の技術の進歩です。HKシリーズを発売したのは約10年前にもなります。HKシリーズ発売から10年間、弊社ではさまざまなシネレンズを開発し、それ以外のレンズも数多く手がけてきました。その中で得てきた技術を、ふんだんに盛り込んでいます。例えば、非球面レンズは3枚使用していますし、詳細なお話をできないのですが、ズーム方式やフォーカス方式も今までとは違う技術を使っています。そういった技術の進歩が小型化の実現をもたらしています。

――標準ズームレンズと望遠ズームレンズの全長、質量、レンズ前枠径がまったく一緒です。そのあたりのこだわりを教えてください。

野口氏:Premistaは2機種同時の開発でしたので、両機種のサイズを一緒にすることができました。同じ大きさの方が、ハンドリングがよく、アクセサリー交換の手間も省けるリクエストを頂いていましたので、今回は同じサイズの仕様を実現できました。

――Premistaでも富士フイルムのこれまでのシネマカメラ用レンズとトーンは変わりませんか?

野口氏:トーンを変えるメーカーも増えてきていますが、我々は他社との違いを出すという意味でも、あえてうちの得意なトーンを貫く姿勢を出しています。言葉で表現するならば、クリーンでシャープな映像ですね。

――標準ズームレンズの焦点距離が28-100mmと若干競合製品よりも望遠側が幅広いです。このあたりは何か意識をされたのでしょうか?

野口氏:標準ズームレンズの望遠側で100mmを実現している製品はあまりありません。もし実現できればインパクトがあると考え、このスペックに決めました。

――望遠ズームレンズ焦点距離80-250mmは、ワイド側は80mmで、標準ズームレンズと20mmオーバーラップします。望遠ズームレンズのワイド端を100mmにしなかった理由を教えてください。

野口氏:標準ズームレンズと望遠ズームレンズの焦点距離はオーバーラップをしてほしいというご意見を多く頂いていました。レンズ交換のタイミングで「もうちょっとズームしたい」というシーンを考慮して、あえて少し焦点距離をかぶらせています。

――望遠ズームレンズ80-250mmのテレ端も250mmと幅広い焦点距離を実現していますが、このあたりの理由を教えてください。

野口氏:望遠ズームレンズは、70-200mmが一般的な焦点距離ですが、28-100mmと同様、何かクオリティだけではない違いを作り出せないか?と考えました。思考錯誤した結果、T値がランピングしてもズームレンズとして焦点距離が稼げるほうがいいというお声が多かったため、200mmから250mmへ50mm伸ばすことにしました。

――Premistaは絞り羽も13枚に変更されました。どのような理由で変更されたのでしょうか?

野口氏:弊社のシネレンズは絞り羽根9枚構成で自然なボケ味が表現を実現してきましたが、シネマトグラファーの方からの意見でもっと円形に近づけてほしいという意見を頂いていました。絞り羽根は、9枚、11枚、13枚など奇数の枚数で光芒が綺麗に写ります。奇数枚数でできるだけ円形に近づける限界の枚数見極めたところで、Premistaでは13枚に決定しました。

――最後に、光学性能の特徴についてアピールをお願いします。

野口氏:弊社のレンズのルックが硬いと言われる方もいらっしゃいます。しかし、ハリウッドのお客様にも色収差やフレア・ゴーストを極力抑えた弊社のレンズを好んで使ってくれる方が多くいらっしゃいます。

弊社の考え方としては、フレアやゴーストが映るということは何かしら情報を失っている。プラスの方向ではないので、なるべくレンズのありのままを捉えて、味付けはシネマトグラファーの方にアドオンしてもらう。シャープかつ、クリーンなルックというのが弊社の強みなので、そこを見て欲しいかなと思います。